Wonderwall片山正通が語るマッキントッシュの魅力
Wonderwall片山正通が語るマッキントッシュの魅力
インテリアデザイナー、片山正通さんがマッキントッシュについて語ってくれた。マッキントッシュというプロダクトのもつ魅力はもちろんのこと、彼の本業である“デザインする”という行為についてもはなしはおよんだ。
Photo by Jamandfix
──シャカシャカと音を立てる、身にまとう“ギア(道具)”
マッキントッシュについては、普遍的なブランドであると同時に、“機能性も兼ね備えた優れもの”というイメージがありました。
着たときのシャカシャカという、ゴム引き独特の感じが好きなんです。洋服でもプロダクトでも、 “軽い”ものではなく、“手応え”のあるものが好きです。マッキントッシュはただの服ではなく、“モノ”という感じがして好きですね。機能をもった道具とでもいうんでしょうか。 「ギアを着ている」ような感じがするんですよ。だからこそ、機能にコンテンポラリーというエッセンスがくわわったときの爆発力はすごいと思います。
伝統的なものでも時代に合わせて変わっていく柔軟性も大事だと思うんです。時代によってベーシックの価値観は進化していきますから。そういう意味では、マッキントッシュの柔軟性は必然ともいえるのかもしれません。
まったく変わっていないように思える白いシャツのようなベーシックなものほど、実際はほんの何ミリの修正をくわえて進化を遂げていたりしますよね。そういうものと一緒だと思うんです。そこで努力を怠るとただの古いものになってしまう。だからといって過剰な修正をくわえて、モード感を出そうという作為は感じられない。そこに好感がもてます。
今日着たコートでもそう。たぶん発表された当初のものからは相当進化していると思うのですが、「これはむかしからつづいている型なんだろうな」という風格を保っている。そういったところに、自分たちのブランド価値に対する真剣な姿勢を感じています。
──背筋が伸び、身も引き締まる“オトナ”なアイテム
マッキントッシュのコートなら、いまはシンプルなかたちのものをさらっと着たい気分です。乗馬で着用していたくらいだから、気をつかって着るというよりは日常的に着用して味をだしていきたい。 そういう意味では、“着倒す”服なんじゃないかと思うんです。
ゴムびきだからこそ、雨の日でも大丈夫ですから。機能が融合している利点です。こういう点が、僕がマッキントッシュを“ギア”と感じるゆえんなのかもしれません。
僕にとってコートっていうのは大人アイテム。コートに身を包むと凛とします。トレンチをスーツで着こなすというドレッシーなスタイリングも憧れるんですが、僕はカジュアルなスタイルで着るほうが合っている。だから、デニムと合わせることのほうが多いかな。どちらでも選択ができる懐の深さもいいですよね。
伝統を身にまとっていると思うと、自然と背筋が伸びてくる。だから、カジュアルなスタイリングでも、無意識のなかでいつもより立ち振る舞いがきれいになっているんでしょうね。
─スコットランドではレインコートといえばマッキントッシュ
ブランドをはじめたひとの理念や、それを継承するひとたちの意気が感じられてこそ、ありがたみを感じる気がします。マッキントッシュのように、たとえつねに名前のでてくるデザイナーという存在が介在していなくても、このブランドを継承しようとするすべてのひとがデザイナーで、当然そこにデザインというものはあるわけです。そういった意味でマッキントッシュにはなにか“太さ”を感じます。
スコットランドでは、レインコートといえばマッキントッシュというくらい生活に根づいているというのも、歴史のあるブランドならではですね。
最近はデザインという言葉の定義が曖昧になってきている気がします。僕は、目をひく“型”をつくることだけでなく、どう編集していくか、どうコミュニケーションしていくかということもデザインだと思うんです。マッキントッシュもおなじで、「デザイン」という言葉を、目の前のトレンドとしての言葉と捉えず、ブラドのコアを伝える手段として使っている気がします。
実際、マッキントッシュにしてみれば「デザインがどうした?」ってところがあるらしいんです。表層のデザインを追うのではないところが、英国ブランドらしいと思いました。いまでも、ひとつひとつ丁寧に職人の方が手づくりしている。良いところはそのままに、少しだけ手をくわえる。劇的な変化ではなく、進化を選択している。これもデザインだと僕は思っています。
マッキントッシュのデザインのありかたには憧れますね。僕はデザインというのは機能のひとつだと思うんです。デザインとはすぐれた性能のひとつとしてあるべきなのではないか。だからこそマッキントッシュは正しい進化を遂げてきているんだと思います。そういうブランドって意外と少ないんじゃないでしょうか。
僕はアーティストではなく、デザイナーです。ブティックだと、商品、客層、そしてブランドがどういう方向に進みたいのか、どういうメッセージを込めたいのかを、僕というフィルターを通して表現しているに過ぎない。だから、自分のカラーを出したいということはないんです。伝えたいメッセージや、フィロソフィーがしっかりしていればいるほど、デザインに強くにじみ出てくるものなんです。
──経年変化も味になるマッキントッシュ
コンセプトによっては最初から「何年もここに存在していた」という雰囲気を意図的に出すこともあります。僕自身、コンテンポラリーとおなじくらいヴィンテージやアンティークも好きですから、経年変化をデザインで表現するときには、実際に使われていた古材を使ったりエイジングの処理を細かく指定したりとかなり気をつかいます。ただし、最終的には全体のバランスが大事。森を想像しながら木を植えていくような作業なんですよ。
ヨーロッパの街並みは、何百年もかけて作り上げられた美しさがある。同時に、日本でもおなじように時間を超えてかっこいいものがたくさん存在します。
残っているものには、残っていくだけの理由があると思うんです。愛でるだけでなく、使い込まれることでうまれる美しさは、建築でも物でもおなじです。
本物になるには時間がかかる。やはり「継続は力なり」だと思います。マッキントッシュはまさにこの典型。僕の子どもの世代でも、きっと今とおなじように存在している。それがマッキントッシュのすごさですね。
──マッキントッシュの2009春夏の新作はこちら
KATAYAMA Masamichi
インテリアデザイナー、Wonderwall代表。
1966年岡山県出身。2000年に自身のオフィス、Wonderwall(ワンダーウォール)を設立。クライアントのコンセプトを具現する自由な発想、また伝統や様式に敬意を払いつつ現代的要素を取り入れるそのバランス感覚が、デザインが溢れる日本はもとより海外においても高く評価されている。現在では、建築デザインディレクション、プロダクトデザインにも活動の場を広げている。
2008年には2作目の作品集『Wonderwall Masamichi Katayama Projects No.2』(オランダ、フレーム社)が刊行。全面改装を手掛がけたパリ、コレットでの先行発売につづき、ヨーロッパ、アメリカなどで発売されている。
Wonderwall
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