三原康裕的日本モノづくり「第1回 テーラー&カッター」(3)
MIHARAYASUHIRO×Tailor&Cutter
第1回 テーラー&カッター(3)
ファッションブランド「ソスウ」のデザイナー三原康裕さんと、青山のビスポークテーラー「テーラー&カッター」のテーラー有田一成さんとのスペシャル対談。有田さんの最終的なコールとは?
構成=竹石安宏(シティライツ)Photo by Jamandfix
いつかはヨーロッパで評価されたい
三原康裕 話は変わりますが、現在受けつけているのはフルオーダーとパターンオーダーですか?
有田一成 そうです。フルオーダーの場合はウチで縫うので、ちょっとお時間をいただくようになってますけどね。出来上がるのはつぎのシーズンくらいに考えてもらってます。
タイムリーな流行りのものがほしいという方もいますが、ぼくはずっと着られるようなスタイリングを提案しているので、シーズンを越えても問題ないかなと。ぼくはお客さんがほしいというものをあんまりつくらないんですよね(笑)
三原 パターンオーダーの場合はなにがちがうんですか?
有田 パターンオーダーは工場で縫うんですが、システム的にはかなりいろんなディテールをオーダーできます。だからおなじシステムをフルオーダーとよぶ店もあるんですけどね。ただ、仮縫いはないんです。それと型紙はぼくが引いたものを使っているんですが、細かい部分ではやはり差が出ますね。でも、けっして悪いものではないので、パターンオーダーから入っていただくのがいいと思います。
三原 やはり工場は有田さんが見込んだところなんですか?
有田 そうですね。いろいろなところを見て決めたんですが、いまお願いしている工場はイギリスのスタイルが得意なんですよ。
三原 ぼくの結婚式の衣装を縫ってもらった工場ですよね。かなり上手いと感じましたよ。けっこう難しい素材をキレイに合わせてるなと思いました。
じつはきょうも一着、ジャケットをお願いしたいなと思っているんですよ。前回はタキシードでしたが、もうちょっと今回は肩のちからを抜いて着れるものがほしいなと。じつはここからが今日の本題なんですけどね(笑)。
有田 そうなんですか?(笑)
三原 それは冗談ですけど、この連載では“メイド・イン・ジャパン”について掘り下げていきたいと思っているんで、そのあたりを有田さんにもお訊きしたいんです。有田さんはイギリスと日本のスーツで、どんなところがいちばんちがうと感じましたか?
有田 やはりバランスだと思いますね。仕立てなどはいわれるほどは変わらないと思うんですよ。でも、バランスだけはセンスなんですよね。たとえば着丈を長くするとか、ゴージ位置を高くするとか、それこそがぼくはオリジナリティだと思うんです。
それに勉強したのはイギリスですが、ぼくじしんもメイド・イン・ジャパン。本場を見て知っているからこそ可能なじぶんなりのオリジナリティで、いつかはヨーロッパで評価されたいと思いますね。
ひとりひとりのための感性を表現するスーツ
三原 なるほど。海外で経験を積んだ人は帰国してもその経験だけを押し通そうとしがちですが、そうした経験を踏まえたうえでメイド・イン・ジャパンとしてオリジナリティを表現しようとする、有田さんの姿勢にはとても共感します。
ところで一生つづけていける仕事というのはいろいろあると思いますが、有田さんにとってテーラリングとは、そういう仕事ですか?
有田 そうですね。いまはやらなければならないことをやるときだし、段階を踏んでいるときだと思っています。それにいまテーラーでいるのは、お客さんの品の良さや佇まいを成長させたいし、それと一緒にぼくも成長したいからなんです。それがたまたまスーツだっただけで、いまはスーツをとおしてお客さんとコミュケーションをとり、たがいに成長してく時期なんだと思っています。
三原 では、まだ最終的なゴールはわからない段階ですか?
有田 いや、最終的にはオートクチュールのデザイナーのように、スーツだけではなくひとりひとりのお客さんのために服をデザインできるようになれれば、面白そうだしいいなと思いますね。スーツは大きなアクセサリーのようなもので、お客さんの一部を後押ししてくれる部分はありますが、すべてというわけではないですから。だからこそいまはスーツそのものよりも、スーツで表現できるお客さんの感性を大事にするようにしているんです。
三原 出来上がりが楽しみです。きょうはありがとうございました。
テーラー&カッター
東京都港区南青山6-3-11
Tel. 03-3499-7725
12:00~20:00
定休日|毎週火曜
http://www.tailorandcutter.jp/