『THE ドラえもん展 OSAKA 2019』開催記念。ドラえもんのこれからを教えてください!|MEDICOM TOY
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2019年7月12日

『THE ドラえもん展 OSAKA 2019』開催記念。ドラえもんのこれからを教えてください!|MEDICOM TOY

藤子・F・不二雄プロ代表取締役 伊藤善章社長に聞く(1)

2019年7月12日(金)より、大阪文化館・天保山にて開催される『THE ドラえもん展 OSAKA 2019』。2002年以来、実に17年ぶりに同会場(旧サントリーミュージアム)に日本を代表するアーティスト28組による「ドラえもん」の特別展が戻ってくるということで、楽しみにしている関西圏のファンはたくさんいらっしゃると思われます。
誰も見たことのない「ドラえもん」、世界にひとつだけの新しい「ドラえもん」。いずれもジャンルを超えた独創性豊かな現代アートであるとともに「ドラえもん」への想い溢れる作品ばかり。小さいお子さまにも現代アートへの入り口に最適なプログラムといえるでしょう。
今回は藤子・F・不二雄プロ代表取締役であり、川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム総館長を務める伊藤善章社長に『THE ドラえもん展』、そしてドラえもんの未来についてお話を伺いました。

Photograph by OHTAKI Kaku  TEXT by SHINNO Kunihiko

ドラえもんはこんなにも深く愛されている

――はじめに、『THE ドラえもん展』が開催されるようになった経緯から教えてください。
伊藤 第1回の『THE ドラえもん展』は2002年7月、大阪・天保山サントリーミュージアムからスタートしました。

きっかけは、とあるプロデューサーから「あなたのドラえもんをつくってください」 というテーマでいろんなアーティストを募って展覧会をやりませんかというお話をいただいたことです。ちょうど私も次の時代に向けてドラえもんをさらに面白い存在にするにはどうしたらいいか考えていたところでしたので、直感で「やりましょう」とお答えしました。

村上隆さん、奈良美智さんといった錚々たる方々にお願いしたところ、皆さんドラえもんが大好きということで快諾していただき、素晴らしい作品を用意してくださいました。
――なるほど、そういう経緯だったのですね。
伊藤 準備に2年近くかかりましたが、なにぶん初めての試みですのでこうした企画に対する批判的意見もあったんです。それでもオープン当日は猛暑にも関わらず長蛇の列で、とても嬉しかったことを覚えています。中には子供を連れて行ったけれども遊ばせるスペースがないじゃないかというクレームもありましたが、あくまで現代アートの展覧会ということで了承いただけたと思います。

藤子・F・不二雄先生──藤本弘先生の奥さまが美術に造詣が深く、世界中で芸術品を観ていらっしゃる方なので、2011年にオープンした川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムを作るときもいろいろなアドバイスをいただきました。

奥さまにも『THE ドラえもん展』は企画段階の当初から大変面白がっていただき、クロージングの際には「伊藤さん、いろいろと大変だったでしょうけど、こんな楽しい美術展はないですね。また10年後にもう一回やりましょうよ」とおっしゃってくださったんです。
――それは最上級の褒め言葉ですね。
伊藤 ええ。ただ、実際は少し遅れて15年後、2年前の2017年から2回目の『THE ドラえもん展』がスタートしました。

今回は美術史家・山下裕二先生(明治学院大学教授)の企画・監修のもと、村上隆さんをはじめ日本の現代美術を牽引する28組のアーティストの皆さんに再び“あなたのドラえもんをつくってください”というテーマで作品を製作していただきました。

新たにご参加いただいたアーティストの皆さんのご意見で印象的だったのが「やっと声がかかりました」という言葉でした。ドラえもんが好きだからこそ『THE ドラえもん展』に迎えられたことが本当にうれしいと言っていただけて、改めてドラえもんはこんなにも深く愛されているんだな、ということを強く感じました。
この『THE ドラえもん展』は東京・六本木にある森アーツセンターでこけら落としとなりました。

第1回のこけら落としが東京ではなく大阪だった背景には、おそらく東京のアート関係者の間ではそんなリスキーなことはできないという考えもあったと思います。

なので、ようやくドラえもんの凄さがアート界でも認められたんだという喜びもあります。
2018年1月まで開催された「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」が無事終わって、村上隆先生の作品の前で記念写真を撮るとき、やっぱりいい仕事したなと、みんな思ったはずです。利益を出す・出さない、人がいっぱい来る・来ないなんて心配する暇もなかった。エンターテイメントの仕事って、そうじゃなきゃダメなんだろうなということはどこか感じました。
――スタッフの皆様のご尽力、お察しいたします。
伊藤 藤子・F・不二雄プロ(以下、「藤子プロ」)の入り口にも村上先生の絵が飾ってありますが、『THE ドラえもん展』のために描いていただいた作品の版画やポスターは自由に販売してください、その利益は藤子ミュージアムのために使ってくださいとおっしゃっていただきました。芸術を愛し、美術界全体が底上げすることを目指している方なんだなと本当に頭が下がる思いで感動しました。

東京、名古屋、藤本先生のふるさと高岡と巡回し、7月12日(金)から大阪で開催します。今後も2017年の15年後、2032年の第3回「THE ドラえもん展」、その後も15年ごとに開催することを目指して頑張っていきたいと考えております。
――はい、とても楽しみにしています。
伊藤 これまで数々の「ドラえもん」商品を開発してきたメディコム・トイさんも、美術展にふさわしいスペシャルなアイテムを用意して『THE ドラえもん展 OSAKA 2019』会場にて先行販売します。「ドラえもん」ファンにはおなじみ、てんとう虫コミックス第17巻の扉絵に描かれた“彫刻家になったドラえもん”のスタチューです。
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彫刻家 ドラえもん
塗装済み完成品。全高約350mm。2019年7月12日(金)発売予定・4万8000円(税別)。
<購入方法について> 2019年7月12日(金)から9月23日(月・祝)まで大阪文化館・天保山にて行われる『THE ドラえもん展 OSAKA 2019』にて先行発売。イベント終了後、メディコム・トイ直営各店舗及びオンラインストア各店、他一部店舗にて発売予定。
※写真は開発中のサンプルにつき、実際の商品とは一部異なる場合があります。
©Fujiko-Pro
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伊藤 実はうちの藤子ミュージアムを建てるとき、入り口にこれと同じものを作って飾ろうという案があったんです。ただ、どこまで忠実に再現できるかという技術的な問題で実現しませんでした。今回メディコム・トイさんのフィギュアを見てやっぱり皆さん、あの絵がとても印象的だったんだなと思いました。自分で自分を彫刻するドラえもんというのは本当に面白いアイデアですし、クリエーターである藤本先生のすごいところですよね。

藤子・F・不二雄プロ代表取締役 伊藤善章社長に聞く(2)

ものを作るとき1人だけ才能ある人間がいれば何でもうまくいくもんですよ

――ところで、メディコム・トイとはどう経緯で接点を持たれたのですか?
伊藤 メディコム・トイさんと弊社は2002年頃からのお付き合いになります。マニアックな商品を作ることで有名なトイメーカーですということで紹介されて、代表の赤司竜彦さんとお会いしたことをいまでもよく覚えています。赤司さんご自身がとてもユニークな発想をされる方だけあって、フィギュアを作られる方たちも非常に熱心だなと感じております。
VCDドラえもん(初登場版)
©Fujiko-Pro
UDF きれいなジャイアン
©Fujiko-Pro
UDF ツチノコ
©Fujiko-Pro
UDF 耳付きドラえもん
©Fujiko-Pro
タケコプターヘアバンド
©Fujiko-Pro
連載初期のドラえもんのフィギュア(「ドラえもん(初登場版)」)を作ろうなんて、ビジネス的なことを考えたらなかなかできないことじゃないですか? 他にも「きれいなジャイアン」(藤子ミュージアム限定)「ツチノコ」「耳付きドラえもん」といったフィギュアを作ってしまえるのは、やっぱり作品に対する愛情の深さゆえなんでしょうね。藤子ミュージアムでもオープン時からお世話になっていて、館内のショップで現在販売している「タケコプターヘアバンド」も大ヒットしています。
メディコム・トイさんの面白さはマニアだけでなく一般の人にも興味を持って楽しんでいただけるもの作りをされているところにあるんじゃないでしょうか。この業界は、ある種マニアが頑張らないと元気にならない部分があります。「ドラえもん」のように50年の歴史ある作品は特にマニアに引っ張っていただきつつ、一般のお客さんも、マニアの方々が考えたことを見てすごいねと刺激を受けながら、共に成長していくということが大切だと思うんです。
私たち藤子プロには日本や世界経済を盛り上げるような大きな力はありません。それでも「ドラえもん」で救われるようなことって多々あると思うんです。辛いとき、悩みを抱えているときでも、漫画を読むことで逃げ込む場所ができる。経済を回していくことはもちろん重要ですが、心の平和や元気の源になる存在って、人間の成長にとってすごく大切なことじゃないですか? 本質的な楽しさを表現している漫画だからこそ老若男女、世代を超えて理屈抜きに魅了されてしまうんだなと思います。
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1970年に藤子・F・不二雄先生が連載を開始して以来、日本中にたくさんの夢を届けてくれたドラえもん。 テレビアニメも絶好調。映画には、映画プロデューサー・小説家の川村元気さん(2018年公開『のび太の宝島』の脚本を担当)、ミュージシャンの星野源さん(2018年公開『のび太の宝島』主題歌「ドラえもん」を担当)、直木賞作家の辻村深月さん(2019年公開『のび太の月面探査記』の脚本を担当)といった各界のドラえもんファンが毎回駆けつけてくれます。藤子・F・不二雄生誕80周年を記念して2014年にはシリーズ初の3DCG作品となる映画「STAND BY ME ドラえもん」も公開されました。
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――ドラえもん誕生50周年を迎え、これからどのような進化を遂げていくのでしょうか?
伊藤 連載50周年を目前に控え、これからの展望については日々思案しています。
ひとつには藤本先生が描かれた漫画そのもの──コミックス全45巻と長編漫画プラスα。この世界観はこれ以上増えないわけですから、原作の世界を頑なに守っているだけではいけない。大げさにいえばドラえもんの“色”を変えてしまうぐらい大胆な発想をしていかないと時代の波に乗り遅れるんじゃないかと。
先日、コピーライターの糸井重里さんとお会いする機会があって、藤子ミュージアムにいらしていただきました。そのとき「美しくて、いいミュージアムですね。マニアが本当に喜ぶそのままの世界を表現しています。ただ、どこも裏切ってないですね」とおっしゃるんです。
未来に発展させていくためには“えっ、こんなのでいいの?”って思うくらいの冒険をミュージアムの中に数カ所作ってもいいんじゃないですか、と。要は、マニアは絶対変えちゃダメ、ここは守ってほしいということを言い続けるけれども、その人たちは時代とともに減ってしまうわけです。代わって、増えていくのは一般の人たち。一般の方は面白い仕組みや表現に喜びを見い出すわけですから、どこか“そうきたか!”っていうことも必要じゃないですかというお話だったんです。
――なるほど、確かに!
伊藤 私たちは藤子ミュージアムは藤本先生の世界観をそのまま投影することをメインに作っていたものですから、びっくりしました。考えてみれば「ほぼ日手帳」(ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」が製作している手帳)ってネーミングからして“そうきたか!”ですよね!? 私は糸井さんという人はかっこいいことをやろうとするのではなく、人間の本質を見抜いたうえで敢えて普通の表現をして飽きさせないようにしているんだなと思い、大変勉強になりました。
この話はうちの社員全員にもしました。今までとは考え方を変えないとまずいかもしれないよ、ということで。来年、ドラえもん50周年を迎える我々は、守るべきことは守るけれども、新しい世界を作ることを諦めちゃダメだと思うんです。
漫画の世界はきちんと守りつつ、それ以外は思いっきり飛び跳ねていかないといけない。その判断ができるのは藤本先生のご家族、そしてうちの会社では私しかいないかなと思うんです。それを最後にやって、次の世代にバトンを渡したい。才能があって、情熱があって、時代が読める人に。
藤本先生はよくおっしゃっていたんです。「伊藤さん、ものを作るとき1人だけ才能ある人間がいれば何でもうまくいくもんですよ」って。
だから何の不安もありません。ドラえもんだって漫画の中で少しずつ成長していいフォームになっていったでしょう? 同じようにアニメでもドラえもん、のび太くん、しずかちゃんたちも少しずつ今の時代に合うキャラクターに変わっていくことが必要なのかもしれませんね。
かと言って50年を機に思い切って大胆に変えるなんてことはしませんが、次の50年──100周年を迎えるために本質的な部分は残しつつ、そこから新たに派生する世界をうまく作っていけたらいいなと思っています。
メディコム・トイさんとのコラボレーションも、これからどんな楽しい企画が生まれるのかワクワクしながら楽しみにしております。
<INFOMATION>
THE ドラえもん展 OSAKA 2019
会 期 : 2019年7月12日(金)~ 2019年9月23日(月・祝)
会 場 :大阪文化館・天保山
【参加アーティスト】
会田 誠、梅 佳代、小谷元彦、鴻池朋子、佐藤雅晴、しりあがり寿、奈良美智、 西尾康之、蜷川実花、福田美蘭、町田久美、Mr.、村上 隆、森村泰昌+コイケジュンコ、山口 晃、 渡邊 希、クワクボリョウタ、後藤映則、近藤智美、坂本友由、シシヤマザキ、篠原 愛、 中里勇太、中塚翠涛、増田セバスチャン、山口英紀+伊藤 航、山本竜基、れなれな (50音順・敬称略)
【展覧会概要】
開催日程:2019年7月12日(金)~9月23日(月・祝) ※会期中無休
会場:大阪文化館・天保山(〒552-0022 大阪府大阪市港区海岸通1丁目5-10)
開館時間:10:00〜17:00(予定)※入館は閉館の30分前まで
入館料(税込):一般1500円 前売1300円 中・高校生 1200円 前売1000円 4歳~小学生以下800円  前売 600円 ※団体割引あり(10名様以上前売り料金)
川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム
「ドラえもん50周年展」開催決定!
1970年1月号から学年誌で連載が始まった『ドラえもん』。今回の企画展では、登場から50年を迎える『ドラえもん』の魅力を全3期に渡ってたっぷりと紹介。
期間:2019年7月20日(土)~2021年1月31日(日)※予定
会場:川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム(〒214-0023 神奈川県川崎市多摩区長尾2丁目8-1)
開館時間:10:00~18:00
休館日:毎週火曜日、年末年始 ※臨時休館日は事前にホームページにてお知らせします。
入館料(税込):大人・大学生  1000円 高校・中学生  700円 子ども(4歳以上) 500円 ※日時指定による予約制。チケットは全国のローソン各店でご購入ください。ミュージアムでは入館チケットは販売しておりません。
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