世界の美術館はいま──ルーヴル美術館ディレクター、ヤン・ル・トゥエール氏インタビュー | MEDICOM TOY
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2021年3月30日

世界の美術館はいま──ルーヴル美術館ディレクター、ヤン・ル・トゥエール氏インタビュー | MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

ルーヴル美術館がパートナー企業とコラボレーションする理由

2021年3月に発売されると国内はもとより、ルーブル美術館のオンラインストアでも即時完売となった「BE@RBRICK LEONARD DE VINCI Mona Lisa 100% & 400% / 1000%」。この企画はどのように生まれたのか。昨今の美術館事情を踏まえながら、パートナー企業とコラボレーションする理由を訊いた。

Text by SHINNO Kunihiko|Edit by TOMIYAMA Eizaburo

アート界を襲ったパンデミック

世界各国の美術館が休館状態となり、展覧会やフェアも中止・延期されるなど、新型コロナウイルスの世界的流行の影響はアート界にも及んでいる。
昨年4月、世界85ヶ国の近現代美術館に関わる専門家560名以上により構成されている団体「国際美術館会議(CIMAM)」は、新型コロナウイルス感染症拡大下において美術館が備えるべき内容を示した20の項目を公開。来館者・スタッフの安全、施設管理、パブリックコミュニケーションにおける対策を共有しているが、このパンデミックの完全収束まではまだ少し時間がかかりそうだ。
フランス・パリ中心部のセーヌ川の右岸に位置する世界最大級の美術館のひとつ、ルーヴル美術館も、この未曾有の危機に真摯に対応している真っ最中だ。総面積6万600平方メートルに収蔵品38万点以上を展示し、年間約1000万人の入場者が訪れてきたアートスポットでは、運営に必要な資金を企業やブランドとのコラボレーションによる商品販売で補いながらアートの火を消さない努力を続けている。
先日発売されるや即日完売となったメディコム・トイとのコラボレーション第一弾「BE@RBRICK LEONARD DE VINCI Mona Lisa 100% & 400% / 1000%」もそのひとつ。ルーヴル美術館が所蔵し、日本でも抜群の知名度を誇るレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」を同館監修のもとボディに再現したアートトイだ。既に手にされた方はお分かりだろうが、このBE@RBRICKのパッケージ背面にはQRコードが配置され容易にルーヴル美術館の公式サイトへアクセスできるようになっている。物理的移動ができない状況下でも、アートファンと美術館をつなぐことは可能なのだ。
メディコム・トイはこれまでもアンディ・ウォーホル、ジャン=ミシェル・バスキア、キース・ヘリングといったアーティストのアイテムや、オランダ・アムステルダムのファン・ゴッホ美術館監修のもとゴッホの「ひまわり」などのBE@RBRICKを製作してきた。残念ながら「モナ・リザ」BE@RBRICKを手に入れられなかった方も、ルーヴル美術館とのコラボ第二弾となるBE@RBRICKが企画検討中につき続報を楽しみにしていただきたい。
今回は厳しい状況にありながらもアート界の未来のために奮闘している現場の声を、ルーヴル美術館メセナ担当ディレクター、ヤン・ル・トゥエール氏にうかがった。
Yann Le Touher(ヤン・ル・トゥエール)
2016年よりルーヴル美術館の開発、ブランドライセンス、コマーシャル パートナーシップ部門の責任者。以前は、RMNGP(2012 – 2016)、ポンピドゥーセンター(2009 – 2012)、 オルセー美術館(2007 – 2008)などフランス複数の美術館でスポンサーシップ部門を担当。

SNSのフォロワーは930万人、公式サイトへのアクセス数は2100万人に到達

──新型コロナウイルスの影響で、ルーヴル美術館を訪れることができない日本のアートファンは大変残念がっています。現在の開館状況はどのようになっていますか? 
ヤン パンデミックのため、ルーヴル美術館は2020年10月29日から休館となっています。ただ、現時点で一般のお客様をお迎えできずとも、オンラインで館内を360度見渡せるバーチャル見学、ライブ放送、ポッドキャストの配信などさまざまなデジタルサービスを通して一般のお客様との強い関係を維持することは非常に重要です。
現在、ルーヴル美術館公式SNSのフォロワーは930万人(2019年より102万人も増加)、公式サイトへの2020年のアクセス数は2100万人に到達し、これだけの数の一般のお客様がまさに美術館にいると言えると思います。世界中のパートナー企業とのコラボレーション商品を紹介することを目的に開設した新しいオンラインストアのおかげで、現時点では往来ができない幅広いオーディエンスにリーチすることができるようになりました。
──世界中のパートナー企業とコラボレーションをする理由について教えてください。
ヤン 主な理由のひとつは、ルーヴルが美術館外にもコレクションを広める画期的な方法を模索していることです。それまで絵画などの作品に興味を示さなかった新しい客層の興味をひくために、所蔵作品を広める手段となります。
もうひとつ重要な理由は、美術館をよりよく運営するための新たな財源を見出すことにあります。
主にこの2つの目的に取り組むため、ルーヴル美術館はより良いコラボレーションを追求し続けていきます。
──コラボレーションするかどうかの判断において何かルールは決めていらっしゃいますか?
ヤン ルールはたくさんあります。コラボレーションにあたっては細心の注意を払っていますが、主にブランドと話し合う際は、ブランドの熱意や理念、商品の品質について必ず調べます。
──先日、日本のメディコム・トイとのコラボレーションでBE@RBRICKが発売されました。どういう経緯で実現したのでしょうか? BE@RBRICKの印象についても合わせてお聞かせください。
ヤン このコラボレーションは、パリのコンセプトストア Colette(コレット)を自身の母親と共同で創設したSarah Andelman(サラ・アンデルマン)によってスタートしました。
私たちはルーヴル美術館として立ち上げることができるさまざまなコラボレーション企画についてサラに相談しました。彼女のトレンドと有名ブランドに関する優れた知識のおかげで、ルーヴル美術館とBE@RBRICKの出会いにつながりました。
特にBE@RBRICKとアート作品をどうコラボレーションできるかに着目していたのですが、提案されたデザインは本当に素晴らしいと思いました。

『モナ・リザ』の歴史は未だ謎に包まれている

──第一弾のモチーフは1974年に東京国立博物館で国内初公開され、日本でも人気の高いレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』です。この作品の背景について教えてください。
ヤン 『モナ・リザ』の歴史は未だ謎に包まれています。モデルの素性、誰が肖像画の制作を依頼したのか、レオナルドが製作にかけた時間、彼が作品を保有していた期間、そしてフランス王室コレクションに収蔵された経緯、これら全てが未だ明らかになっていない事柄です。
この肖像画はおそらくフィレンツェで1503年頃に製作が始まっています。作品はフィレンツェの織物商人フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻、リーザ・ゲラルディーニの肖像であると考えられており、それゆえ作品の別名は「ジョコンド」とされています。
しかしレオナルドは完成した肖像画を依頼主に引き渡さず、フランスへ持ち出したと見られています。彼の死後、その肖像画はフランソワ1世のコレクションとして引き取られました。
1974年、モナ・リザの作品は日本を訪れるために初めて、そしてこのとき唯一飛行機に搭乗しました(アメリカの時は船でした)。そして日本では、数秒間だけでもモナ・リザを見たいと、1日2万人が何時間も待ち行列を作ったのです。
──BE@RBRICKを監修する際、特にこだわった部分、修正した部分があれば教えてください。
ヤン 私たちが最初にこだわった点は、美術史の内容です。ルーヴル美術館や作品について更に深く知りたいと思ったとき、作品が正しくハイライトされ、必要な情報がすべて簡単に提供できることが各コラボレーションにとって極めて重要な点です。 そのために、すべてのコラボレーション商品にはルーヴル美術館およびそのコレクションの公式ウェブサイトへ直接アクセスできるQRコードをどこかしらに含めるようにしています。
それ以外でBE@RBRICKのデザインに関する修正点はあまりなく、メディコム・トイのクリエイティブチームが行った仕事をとても信頼していました。
──完成したBE@RBRICK LEONARD DE VINCI Mona Lisa 100% & 400% / 1000%の感想はいかがですか?
ヤン 大変感激しました。ブランドが我々のコレクションをどのように捉えているかを目にするのはどんな時でも素晴らしい瞬間です。 メディコム・トイの手際のよさを理解することができましたし、これは私たちにとっても大切なことでした。
BE@RBRICK LEONARD DE VINCI Mona Lisa 100% & 400% / 1000%
サイズ|各全高約70mm (100%) / 280mm (400%) / 700mm (1000%)
価格|[100% & 400%] 1万5000円(税別)/  [1000%] 6万8000円(税別)
※完売
La Joconde. Portrait of Lisa Gherardini,wife of Francesco del Giocondo,known as the Mona Lisa.
Leonardo di ser Piero da Vinci, known as Leonardo da Vinci (Vinci, 1452 - Amboise, 1519)c. 1503-19
Musee du Louvre, Italian Paintings
©️ RMN - Grand Palais (Musee du Louvre) / Michel Urtado
BE@RBRICK TM & ©️ 2001-2021 MEDICOM TOY CORPORATION. All rights reserved.
──どのような方が購入されたと思われますか? また、この商品はフランスでどのように販売されたのでしょうか。
ヤン ルネサンス絵画に興味を持っているアートトイ・ファンの方々が手に取ってくださったと思います。
この商品はパートナー企業とルーヴルとのコラボレーション商品を紹介することを目的として1月に開設した新しいオンラインストアにてフランス国内でも販売されました。オンラインストアは全世界への発送に対応していることもあり、さまざまな国の方にご提供できました。

アートトイはルーブル美術館のブランド開発戦略のひとつ

──ルーヴル美術館はこれまでも所蔵美術品を使った記念品を監修・展開されていますが、アートトイであるBE@RBRICKはどのような位置付けになると思われますか? アートトイの未来について何か展望をお持ちでしたらあわせてお聞かせください。
ヤン アートトイは当社のブランド開発戦略のひとつで、コレクションを美術館の外にも発信できるように努めています。BE@RBRICK LEONARD DE VINCI Mona Lisaはメディコム・トイとの初めてのコラボレーション商品で、ルーヴル美術館が所蔵する名作のひとつである《モナ・リザ》を再制作しているかのようです。我々のブランド開発において特別な意味を持っています。
──第2弾以降のBE@RBRICKの展開も楽しみにしています。今回ご一緒されたメディコム・トイの印象はいかがですか。
ヤン メディコム・トイは優れた才能に溢れ、クリエイティブな素晴らしい日本の企業です。
古代美術が集う世界で最も有名な美術館のひとつとなったフランスの旧王宮と、新しく注目を集める日本の企業、という二つの世界がこのコラボレーションを通して一緒になったと言えるでしょう。
──最近ではユニクロ UTとのコラボも話題になりましたが、現在、世界中でさまざまなコラボレーションを展開されていたりするのでしょうか?
ヤン 過去2年間で、ルーヴル美術館のスポンサーシップ、ブランド&パートナーシップ部門は大規模なブランド戦略を推進してきました。ユニクロ、スウォッチ®、メディコム・トイなどと世界規模でブランドの提携をしつつ、小規模でローカルなコラボレーションも手掛けています。2019年のレオナルド・ダ・ヴィンチ展示会ではLadurée(ラデュレ)と共同でイベントの限定マカロンボックスを作りました。
ルーヴル美術館の建築や作品に新しい視点を見出す過程で、さまざまなブランドと協力して、独自の専門知識と創造性を探求したいと考えています。
問い合わせ先

メディコム・トイ ユーザーサポート
Tel.03-3460-7555

                      
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