スケートカルチャーから飛び出したアーティストHAROSHI|MEDICOM TOY
DESIGN / FEATURES
2019年11月29日

スケートカルチャーから飛び出したアーティストHAROSHI|MEDICOM TOY

HAROSHI インタビュー

Photographs by ISHII Fumihito | Text by SHINNO Kunihiko | Edit By KAWASE Takuro

使い古されたスケートボードデッキを幾層にも積み重ねてブロック状にし、そこから削り出す彫刻作品で、世界中から注目を集めるアーティストのHAROSHI。自身もキャリアの長いスケーターだけに、ストリートで学んだ哲学に基づき生み出される唯一無二のアートピースは観る者を圧倒し、魅了していく。
そのHAROSHIがメディコム・トイ、カリモクとのコラボレーションで「BE@RBRICK カリモク HAROSHI 400%」をリリースすることになった。国内家具業界最大手であるカリモクの熟練した職人が、1品ずつハンドメイドで仕上げた究極の逸品。今回はアーティストとしての足跡、企画開始から発売まで3年にも及んだというBE@RBRICKの制作過程について語ってもらった。
取材場所は、現在のHAROSHIの制作拠点である、東京某所の工場跡を利用した「studio PMA」。聞けば、遊園地跡地にできたスケートパーク目当てに、約10年前、この地に引っ越してきたというからスケート愛は本物だ。スタジオ内には練習用のミニランプと山積みになったスケートボード。その一角にある工房ブースの外壁に掲げられた巨大なB.A.Dの文字は、彼のポリシーのひとつである「BUILD & DESTROY」を表したものである。
使用済みのデッキが積み重ねられたアトリエ1階には、さまざまな工具に加えて愛車のラビットも。アメリカでのエキシビション用に作った巨大な”BAD”の文字を掲げたHAROSHIの作業ブース。11月にLAのJeffery Deitchで開催されるNANZUKAキュレーションのグループ展用に「GUZO」の新作を製作中の作業机。

奥さんが古いデッキの山を指して「これで作れば?」って

HAROSHI うちのおじいさんがなんでも自作する人で、よく一緒にいろんなものを作っていました。小さい頃は体が弱くて入退院を繰り返していたこともあって、夏休みの自由研究で提出する工作が自分の見せどころ、みたいな感じで(笑)。中学生になるとすっかり元気になって、部活の軟式テニスを一生懸命頑張りました。スケボーを始めたのは中学2年か3年のとき。当時、駒沢公園の近所に住んでいたんですけど、友達の間ではストリートバスケの次にスケボーが流行ったんです。

90年代前半はBPSW(Big Pants Small Wheels)といって太いズボンに小さいウィールが主流の時代。僕にスケボーを教えてくれた人がSuicidal Tendencies(スーサイダル・テンデンシーズ *)が好きで、BRONZE AGE(ブロンズエイジ)のシャツにバンダナを深く巻いた不良ファッションとセットでやられた感じでした。ちなみに僕は、スポーツ推薦で高校進学したのにスケボーで足首を捻挫して、入学直後に松葉杖だったことが先生たちの間で問題になって、高校卒業までスケボーは泣く泣く封印しました(笑)。
*注釈
1980年代初頭から活動する米国西海岸出身のハードコアバンド、スケーターズロックの元祖とも呼ばれる。スケートチームZ-BOYSのオリジナルメンバーの実弟であるマイク・ミューアが中心となり結成。過激なバンド名、歌詞、ギャングファッションでも注目された。解散、活動休止を経ながら、現在も活動中。
いまやスケートボード歴20年以上のHAROSHI。プロスケーターになろうとまでは思わなかったが、部活のおかげで鍛えられた体力は大いに役立ったという。では、彫刻への興味はいつ頃から生まれたのだろう?
HAROSHI 高校の時に趣味でレザーの財布や小物を作っていたんです。というのも、すごく頑張って買ったgoro’s(ゴローズ)の財布を部活中に盗まれてしまって……。買えないなら自分で作ろうと思って、試しにやってみたら結構いい感じのものができたんですよ。それで部活の合間にショップやフリーマーケットで知り合ったレザークラフトの上手な人に教えてもらいながら、少しずつ技術を学んでいきました。ある程度のものが作れるようになると、今度はコンチョとか金具類を自分で作れたらもっといいコンビネーションができると思って、卒業後は彫金を勉強するためジュエリーの専門学校に通ったんです。
HAROSHI ジュエリーの会社を経て、自分で量産の仕事をとるようにしたんですけど、そもそも発注されるデザインが自分の好きなじゃないものがほとんどなんです。それを150個同じものを作れと言われると精神的にきつくて。しかも、全部一点の曇りもない状態に磨いて納品しても、検品のやつが素手で触るような現場だったので、だんだん病んできたんです。だったら最初から全部違うものを作ったほうがいい。木って同じ形でも木目が全部違うから、これでアクセサリーを作ったらかっこいいものができるんじゃないかと思って。
HAROSHI ただ、当時はいい木材を買うお金もなかったのでどうしようと考えていたら、奥さんが僕の使えなくなった古いデッキの山を指して「これで作ればいいんじゃない?」って提案してくれたんです。試しに作ってみたら、すごくいい感じのバングルができて。当時のコンセプトは木の傷や汚れをそのまま活かすことだったんです。そこ削っちゃったらユーズドでやる意味もなくなっちゃうじゃないですか。ちょうどFREITAG(フライターグ)というトラックの幌を再利用したバッグが出てきた頃で、傷や汚れを残したまま商品にしているのを見てやっぱり僕は間違ってなかったと思ったんですけど、まだまだ世間的には汚いと言われてなかなか受け入れてもらえない感じでした。
2003年、奥様と二人で使い古されたスケートボードを加工してプロダクトやアートピースを製作するユニット「Harvest by haroshi」として活動を開始。2010年2月、「Harvest by haroshi」は「haroshi」として、より作家性やアート性を強調した、初のエキシビション『SKATE & DESTROY』を東京・青山PLSMISで開催。海外で話題になり、Keith Hufnagel(キース・ハフナゲル)率いるブランド、HUFとのコラボレーションやBATB(プロスケーターによる大会)のトロフィー制作といった大きな仕事が次々と決まっていく。
左: Skateboarder’s Unity  右: Agony into beauty   Copyright by HAROSHI
HAROSHI この頃、やっぱり本場で認められないとダメなんじゃないかと思って、それで僕らの世界では、当時一番勢いのあったニューヨークのギャラリーで個展をやりたと考えました。その後いろいろあり、作品を見たオーナーから連絡が来て個展をすることになったんです。結局、そのギャラリーに所属し、2011年、13年、15年と3回個展をやりました。
2017年に国内では久々となる個展『GUZO』を、東京・渋谷のギャラリー「NANZUKA」で開催。そこで発表された20点以上に及ぶ彫像群はHAROSHIの新たな世界観を提示するとともに、現代アート界に大きな衝撃を与えた。
HAROSHI 南ちゃん(NANZUKAオーナーの南塚真史氏)は、僕がまだアクセサリーを作っていた頃からの知り合いなんです。技術的には大抵のものは彫れるようになっていたんですけど、これがオリジナルだって言える造形がなくて悩んでいた時期に、南ちゃんから「一緒にやらない?」と声がかかったのでこれは相談してみようと思ったんです。よくギャラリーとアーティストは共同作業っていうじゃないですか? それまで、相談したことがなかったんです。
GUZO, 2017 copyright by HAROSHI, courtesy of NANZUKA
HAROSHI それで南ちゃんに聞いたら「人の全身像を作ったらどう?」と提案されて。中には全然受け入れられない意見もあったんですけど、とりあえず聞くだけは聞いて、まずポートレートを彫ってみたんです。体のバランスはリアルにしたくなかったから、持っていたミラーマンのソフビ人形を参考にしました。僕、コレクターではないんですけど、ソフビがすごい好きで。妙に足が長くて手が短いんだけど、それまでずっと完璧じゃないといけないと思っていたから、逆に敢えて甘い造形を目標にしようと思って。それが想像以上にカッコよかったから、ちんちん付けて目をビヨーンと飛び出させるうちにどんどん楽しくなってきちゃって……。これだ!!と思って南ちゃんに見せたら、しばらく黙った後「新しいなあ」って(笑)。
HAROSHI 日本っぽい名前がいいから「RAKAN(羅漢)」はどうかという案もあったんですけど、最終的にGUZO(偶像)」にしました。ほとんどの造形物って偶像じゃないですか? 僕自身、作っているときにストリートの神様を彫っている気になっていたし。これ、全部両方の腕に穴が空いているんですけど、キリスト教でいうスティグマータ(stigmata/聖痕。十字架に磔にされたときのイエス・キリストの傷跡)なんです。僕らの身代わりにボロボロになってくれた、スケボーから生まれた神様なので。それまではいろんなことがあって、精神的にも経済的にもきつかったんですけど、「GUZO」を作ってから再び彫ることが楽しくなったんです。
ソフビ好きというHAROSHIのスタジオ内のオフィスには、ヴィンテージのスケートボードやBE@RBRICK1000% とともに、昔からコツコツ集めているというタイガーマスクの古いソフビ人形が飾られていた。『GUZO』と同時期に開催されたロンドンでの個展『RISE ABOVE』では、古いソフビ製キャラクター人形の欠けた顔や腕を彫刻で再現した作品群を展示。パスヘッドの紹介で仲良くなった廣田彩玩所の協力により、キングゴリラ獣とのコラボレーションというビッグ・サプライズも実現した。この頃からトイ・カルチャーにおいてもHAROSHIの名前は広く知られることになった。
個人的に集めたタイガーマスクのソフビ人形。最も古いものは1969年に中嶋製作所より発売
今回メディコム・トイから発売される「BE@RBRICK カリモク HAROSHI 400%」は、スケートボードデッキの積層を生かしたレインボーカラーが美しいデザイン。1品ずつ熟練した職人のハンドメイドで仕上げた至高の逸品だ。ただし、ワンオフのアートピースに対し、BE@RBRICKは生産数が少ないとはいえ量産品。同じクオリティのものを複数作るためには材料調達の段階から難航したという。
HAROSHI 4年くらい前にNEXUSVII.(ネクサスセブン)デザイナーの今野(智弘)さんがSync.(シンク/メディコム・トイが世界中のアーティストとアートワークやデザインを通じて、他にないアイテムを提案するブランド)というプロジェクトにディレクターで入ったとき、僕にコラボしない?と誘ってくれたことが始まりです。実はHUFを紹介してくれたのも今野さんだったんです。もちろんBE@RBRICKのことはよく知っていたので、ぜひやりたいと思いました。
HAROSHI 最初は実際のスケートボードでカリモクさんに作ってもらおうと思って、アメリカのスケボー工場で働いている、プロスケーターの友達に頼んでスケートボードの塊を送ってもらうことにしたんです。スケボーって7枚の薄い板を圧着して作るので、それをこちらが指定したカラーの順に積んで接着してって。ただ、全然言った通りにしてくれないんです。カラフルにしてほしいと頼んだのに、ほぼグリーンの塊が届いて(笑)。そのやりとりだけで1年ぐらいかかりました。
HAROSHI 今度はそのグリーンの塊からサンプルを一体作ってもらったんですけど、カリモクさんはその素材の経年変化や安全性を1年かけてテストするんです。それでようやく大丈夫です、スタートしましょうとなったら、アメリカの工場がもうやりたくないと言い出して。急遽別のアメリカの工場に作ってもらったら、材料がスカスカで削るとバラバラになったんです。全然進んでないのに、その時点で2年も経過していました。
HAROSHI このままだと一生やり続けることになるから、日本で独自に材料を作ろうということになったのです。そこでカリモクさんが提案してくれた、紙の染色工場でメイプルを染めてもらうことから始まったんです。自由に色が選べるならレインボーカラーにしてもらおうと思って。スケボーで作ろうとするとほぼ無理なんですけど、完璧な虹色が上がってきたんです。
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完璧に合わせているから、どうやって作ったんだろうと思って

サンプルが出来上がってきた時、HAROSHIはカリモクの優れた技術力に驚嘆したという。ハイテク&ハイタッチと呼ばれる、熟練した人の技とエレクトロニクスの先端技術を融合させた完成度の高い造形力は、想像をはるかに超えたものだった。
HAROSHI これ、ものすごくて、頭、胴体、両脚にかけて虹色のラインがビシッと揃っているだけでなく、両腕を前に出して手首を回してやると、そこも水平にビシッと揃うんです。ちなみに僕が、そこまでリクエストしたわけではないんです(笑)。これって技術的にめちゃめちゃ難しくて。ただ同じパターンを寄せても、木って微妙に違うから、同じブロックの平行線上からとらないと均一の並びにならないんです。それを完璧に合わせているから、どうやって作ったんだろうと思って。カリモクさんが気合い入れて作ってくれて、すごく嬉しいです。
HAROSHI 先日、カリモクさんのスタッフの方に誘われて名古屋の工場に見学に行ったんです。そしたらめちゃめちゃ歓迎してくれて。HAROSHIさんは作る人だから、我々のこだわりをわかってくれているだろうし、ぜひ工程を見て欲しかったって、ベッドのフレーム工場まで案内してくれて。いろんなスペシャリストがいて感動しました。「BE@RBRICK カリモク HAROSHI 400%」の製作現場を見ていた時に、ふとゴミ箱を見たらレインボーカラーのブロックがいっぱい捨ててあったんです。それで尋ねたら、これは工程的にもう使えないから廃棄しますって。もったいないので全部くださいって、もらってきたんです。メディコム・トイさんにも使用許可をもらったので、いつか何かで再利用しようと思っています。
廃材を使ったHAROSHIのアートは、世界各国で取り組みが進むサステナビリティ(Sustainability/人間・社会・地球環境の持続可能な発展)の観点からも賛同を集め、先日もPANGAIA(パンガイア)とのコラボレーションで、オーガニックコットンとシーウィードを使用したTシャツにアートワークを提供したばかり。これまで決して順風満帆でない道のりだったが、逆境を乗り切れたのは、ポジティブな思考と彼自身の人間的魅力ゆえに違いない。今後のさらなる活躍が楽しみな限りだ。
HAROSHI やっぱりスケーターなので、ヒップホップみたいに億万長者になったらBling-Bling(高級なジュエリーやアクセサリー)を着けたり、高級車を買う文化とは遠いんです。逆に清貧じゃないですけど、お金持ってる人がエコノミー乗ってたら超クール、みたいなところがあって。なので、この先も僕自身は変わらないと思います(笑)。
BE@RBRICK カリモク HAROSHI 400%

サイズ|全高約280mm
価格|36万円(税別)
発売日|2019年12月発売予定
取扱店舗|2G

※数量限定商品のため、在庫が無くなり次第販売は終了となります。

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メディコム・トイ ユーザーサポート
Tel.03-3460-7555

                      
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