FDMTLデザイナー 津吉 学氏インタビュー BE@RBRICK FDMTL 1000%|MEDICOM TOY
DESIGN / FEATURES
2020年5月25日

FDMTLデザイナー 津吉 学氏インタビュー BE@RBRICK FDMTL 1000%|MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

FDMTLデザイナー 津吉 学氏インタビュー
襤褸(ぼろ)のように愛され続けるプロダクトを目指して

“着用するほどに愛着の持てるプロダクト”をコンセプトに、2005年にスタートしたFDMTL(ファンダメンタル)。メイド・イン・ジャパンによるこだわりのクリエイションは、海外で高く評価されている。今回のBE@RBRICK×FDMTLの発売に合わせ、デザイナー津吉氏のメールインタビューをお届けする。

Text and Edit by KAWASE Takuro

これまでBE@RBRICKは、国内外のさまざまなファッションブランドとタッグを組んできたことは周知の通り。昨冬に発売されたBlackEyePatchや今春発売されたKIDILLのように、東京をベースに活躍する新鋭デザイナーによるブランドとも積極的に取り組んできた。そして、今回のタッグパートナーであるFDMTLも、独自のコンセプトを掲げ世界に挑戦している注目株のひとつである。
一般的に販売されているモノの価値は購入した時点を頂点として、使用するたびに価値が下がり、いずれ廃棄されてしまう。でも、FDMTLのプロダクトはむしろその逆であって欲しいのです。着る人それぞれの生活環境によって、色味や風合いなどさまざまな経年変化が楽しめるので、結果的にその人だけのかけがえのない服となり得るからです。実際、以前販売していたスニーカーも、“穴をふさぎたいから生地の端切れが欲しい”というお客様がいらっしゃいました。普通なら捨ててしまうスニーカーですが、こうやって使い続けてくださるのはとても嬉しいことです。
言わば、トレンドとして消費される服ではなく、時間をかけて着る人と一体化していく服。それではジャパンデニムを主軸にしたコレクションに至るまでには、どのような出来事や体験などがあったのだろうか。
ブランド設立当初からジーンズを製作していたのですが、どちらかというと、赤耳だとか、ボタンフライ、シンチバックといった、ヴィンテージ寄りの解釈のものがメインでした。であれば、本物のヴィンテージデニムや、レプリカデニムブランドの方が良いのではないかと思うようになりました。そこで「リペアやリメイクをしながら、時代を超えて5人の男に穿かれたデニム」というコンセプトで、リメイクデニムを製作してみたところ、そのアプローチがとても楽しかったというのが、デニムを主軸にしたきっかけとなります。
デニムは手作業による伝統工芸ではなく、大量生産を前提とした工業製品だと考えています。生地の生産から裁断、縫製まで、それぞれ専用の設備を用いて、とても機械的に作られています。私はコンピューター、建築、ファッションと3つの学校に通ったのですが、ジーンズの製作は、なんだか建築デザインをするような精密さを感じます。しかしながら水洗いすると色が落ちたり、乾燥機に入れるとサイズ感が急に変わったりと、生き物のような側面も見せます。そういった相反する要素が自分のデザイン観とうまく合致したのかなと思っています。
デニムに魅入られて、ヴィンテージの手法や藍染めにこだわる日本ブランドは、他にも数多く存在するし、決して目新しいものではない。そこで、FDMTLが他ブランドに負けない点、絶対的な差異について伺った。
オーセンティックなジーンズ作りのために、旧式のミシンにこだわっているブランドや、伝統的な藍染めを探求しているブランドなど、デニムや藍染にフォーカスしたブランドはとても多くて、FDMTLともよく比較されます。自分が考える大きな違いとは「振り幅の広さ」なのかなと。インディゴ、デニム、パッチワーク、刺し子といったFDMTLを構成する要素をベースに、電子ペーパーの技術を用いて刺し子の柄が浮かび上がるデジタルウォッチを製作したり、インディゴデニム素材をパッチワークしたスニーカーや家具を製作したりと、これまで接点のなかったものを組み合わせていくことに楽しさを感じています。
ジャパン・デニムを掲げて、海外に打って出るブランドの多くが淘汰されていく中にあって、FDMTLは着実に販路を広げ、北米やヨーロッパのメディアにも高く評価されている。これについてどのように分析しているのだろう。
海外ですとアメリカンラグシーのLA本店が一番初めにFDMTLを気に入ってくれて、7年経った今でもお取引があります。そこからバーニーズ ニューヨーク本店、パリのコレットなど、海外を中心にキーアカウントが増えていきました。海外では“インディゴ=日本”と認識している方、特にファッション感度の高い方が多い気がします。そういった中で、FDMTLの日本的な解釈でさまざまなものを組み合わせていく部分、しかしながらこれまでの和洋折衷とは異なったアプローチが、みなさんの目に面白く写るではないでしょうか。
BE@RBRICK TM & ©︎ 2001-2020 MEDICOM TOY CORPORATION. All rights reserved.
ランウェイショーで発表するブランドのような派手さはないが、地味ながらも着実に海外での評価を高める日本ブランドまで目を光らせているのが、メディコム・トイ代表取締役社長の赤司竜彦氏だ。今回のメディコム・トイとの取り組みにおいて、どのような印象を持ったのだろう。
遊び心を軸にしたプロフェッショナルな会社だと思います。コロナ禍においてもしっかりと段取りを組んでいただき、スケジュール通りに商品化できました。こういった時期だからこそ、FDMTLとメディコム・トイのファンのみなさんには魅力的な商品をお届けしたいと思っているので、このタイミングで発売できることはとても嬉しいです。
BE@RBRICKというひとつの形はそのままに、色柄だけでデザインを表現するというのは、FDMTLのリメイクデニムと通ずる部分がありました。FDMTLの刺し子柄をBE@RBRICKに転写したら面白いものができるのではないか、と思いメディコム・トイさんにお取り組みの打診をさせていただいたのが2018年でした。
そこでリリースしたのが100%と400%のセットで、これは私が所有している襤褸(ぼろ)と呼ばれる、約100年前の古布をスキャンして転写したデザインでした。布をモチーフにしながらも光沢感を持たせた仕上がりがとても気に入っているのですが、次は布地を用いたコスチュームバージョンも作ってみたいと思うようになりました。メディコム・トイさんにご相談したところ、それなら1000%はコスチュームバージョンで作りましょう、となりました。
BE@RBRICK FDMTL 100% & 400%(2018年4月発売)
BE@RBRICK TM & ©︎ 2001-2020 MEDICOM TOY CORPORATION. All rights reserved.
FDMTLを代表する素材のひとつである襤褸を纏った1000%には、どのような手法が使われているのだろう。また、製品化に至るまでの困難はなかったのだろうか?
1000%については、実際に生地をパッチワークする手法も考えましたが、スキャンした襤褸の柄を、ジャカード織機で織って表現することで、これまでに見たことのない質感に仕上がるのではないかと考え、生地の製作は米国のAVERY DENNISON社に依頼しました。同社には細かい柄を高精細に再現するComponent Weaveという技術があるからです。生産自体はイタリア支社に依頼したのですが、BE@RBRICKに着せこむためには適度なストレッチ性が必要ということもあり、開発はとても難航しました。素材の配合を工夫しながら日本・イタリア間を何度も生地サンプルを往復させて、ようやくメディコム・トイさんにお渡しすることができ、量産まで漕ぎつけました。
最後の質問として、ブランド設立から15年を経た今、どこまで自身の理想に近付けたのか、そして今後ブランドとしてどのような展開を考えられているのかを伺った。
幼少の頃から、将来は何かを創る仕事をすると決めていて、ブランド設立はその結果だったのです。15年経った今日もその仕事ができているので、理想には到達できているんじゃないかなと思います。もちろんやりたいことはまだたくさんあるので、これからひとつずつ具現化していきたいです。流行として多くの人の目に触れられるものも素敵ですが、FDMTLとしてはニッチな層に深く刺さるコレクションをもっと製作できれば良いなぁと考えています。
Profile
津吉 学(つよし がく)

1976年生まれ、大阪府出身。中学時代を台湾、卒業後は二十歳までオーストラリアで暮らす。コンピューター、建築、ファッションを学び、社会人生活を経て、2005年に前身となるブランド「Fundamental Agreement LUXURY」を設立。2015-16年秋冬シーズンよりブランド名を「FDMTL(ファンダメンタル)」に改名し現在に至る。
                      
Photo Gallery