ほしい、買いたいと思ってくれた人たちに純粋に報いたい|MEDICOM TOY
DESIGN / FEATURES
2019年4月25日

ほしい、買いたいと思ってくれた人たちに純粋に報いたい|MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

カリモク ☓ BE@RBRICK 取材リポート 後編(1)

「BE@RBRICK カリモク」の製造工程が分かり、BE@RBRICKへの愛着がさらに湧いたのではないだろうか? 天然木ならではのぬくもりと熟練した職人による匠の技が生み出すハンドメイドの芸術。取材リポートの最終章は、カリモク家具株式会社 マーケティングセンター 新規事業部の池田令和さんに、これまで大変だったこと、これからメディコム・トイとやってみたいことなどを質問させていただいた。

Photographs by OHTAKI Kaku Text by SHINNO Kunihiko

小さなものなのに価値がある

――見学して、池田さんがおっしゃった“引き算のデザイン”の意味がよく分かりました。樹脂製品とは根本的に作り方が異なるんですね。

池田 樹脂のことはそんなに詳しくないのですが、私の持っている知識でお話すると、樹脂素材は加熱溶融させた材料を金型内に射出注入して、冷却・固化させることで成形品が完成します。製品を連続的に生産できるので量産に向きますし、足りない部分は“足し算のデザイン”で後から補えます。材料の色が変わっても剥離するタイミングや厚みがほぼ変わらないのでコントロールしやすい利点もあります。

――レギュラーのABS樹脂製BE@RBRICKは、そういう作り方です。

池田 木製品は木材の塊をどんどん削って形にしていく“引き算のデザイン”で、どう形を取っていくかは何通りも考えられるんです。例えば、ペットボトルの形を木材で作ろうとすると、長方体で大まかな形を取ってから後加工する人もいれば、回転させて注ぎ口から削っていく人もいます。それらの中でどれが最も効率よく合理的に作れるかを考えるのが社内の設計の仕事です。私が先輩たちから教えてもらった中に「木製品はどこまで引くかの程度で価値が決まる」という言葉があるんですけれども、BE@RBRICKはまさにその通りですね。

――樹種によっても作り方は変わるんですか?

池田 はい。データは同じでも機械刃の回転速度を変えています。銘木シリーズの「パオロサ」という木材は、そのまま削ろうとすると硬すぎて刃がかけてしまうんです。あとは木目も毛並みのように方向があって、逆目だと刃が木の繊維に食い込んで滑らかにならない。材料選びも気を遣わないといけない作業です。

――BE@RBRICKのような複雑な3次元曲線の立体物って、家具とはちょっと違いますよね。

池田 違います。最初にKAWS さんのBE@RBRICKを量産するとき、現場に「今度BE@RBRICKというクマのフィギュアを作りたいんです」と説明しに行きました。そしたらみんな、難しい顔して「うちはカリモク家具だよ? フィギュア? クマ?」みたいな反応で(笑)。何度も通って「また来たの?」と言われながら、納得してもらうのにすごく時間がかかったんです。

――量産するためには現場の職人のみなさんに理解してもらう必要があったということでしょうか?

池田 当時の工場の関係者は、芸術や現代アートといった方面の知識が深くなかったのです。アートに関して無知に近かった彼らに、諦めずにこちらから何度も丁寧に説明を続け、話し合いの後に何とか発売までこぎつけたところ、「カリモク、何やってるの! KAWSじゃん、すごいじゃん!!」という声が社外から聴こえるようになって。そこからだんだんみんなの気持ちが乗ってきたわけですが、とにかく時間がかかりました。

――職人としてのプライドが刺激されたんですね。

池田 ただ職人気質からクオリティに命を燃やしているので、フィギュアになった場合どこまでやっていいか加減がわからず、当初はちょっとやり過ぎちゃうところがありまして。そうじゃない、ここを目指してほしいんだって何度も何度も説明して。はじめてのことなので、かなり手ごわかったんですけど、苦労しながら取り組んでいるうちに現場の職人もBE@RBRICKの愛らしさに癒やされて、次第に夢中になっていきました。現場の職人もちょっとずつ「クマ」から「BE@RBRICK」という言葉遣いに変わっていって。

いまは結構楽しんでやってくれてて、「次、何やるの?」とか聞いてくれるんです。大変な苦労をかけてるんですけど、「この前のあれ難しかったよ」とか「お前また変なの持ってくんだろ?」って苦笑いしながら、「しょうがねぇなぁ」みたいな感じでやってくれて。

――目に見える形で反響があったことがよかったんですね。

池田 それは本当にそうです。家具業界では形が大きくて手が掛かっていれば高く売れるという概念だったのが、これは小さなものなのに価値がある。自分たちは一切妥協しないものを作っているという意識もあり、職人たちのプライドも上がるわけです。

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

Page02. 木工でできないことはないというのがカリモクのスタンス

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

カリモク ☓ BE@RBRICK 取材リポート 後編(2)

木工でできないことはないというのがカリモクのスタンス

――これまでのラインナップの中で、作業内容的に難しかったものはどれでしょうか?

池田 いろいろあります。最初のKAWSさんのモデルはベースを作るのに手こずったのと、それから焼印ですね。目にバッテンを入れるため、何十万円もする3Dの焼印の金型を初めて作って使ってみました。KAWSさんに頼まれたからには使命としてやるしかないと思ったんです。

ただ3Dの焼印って木工加工の精度がきっちり出ていないと曲面に当たらないんです。最初のサンプルではうまくいったんですが、生産に入ったら加工データが若干違うのか焼印をすると目の焼印がうまく出ないんです。おかしいぞということで何度も頭をやり直したけれども、うまく当たらない。最終的には焼印をもう一回作り直してようやく目のバッテンが上手に入るようになったんですけれども、それがまず最初に現場の職人を泣かせたところです。

――それだけ細かい精度が求められるんですね。

池田 あと「チェス」や「レンガ」は小さい木材のブロックを並べて接着剤で貼り合わせた塊から削り出していくんですが、これは材料を貼り合わせる工程から手が掛かりました。当然ながら接着面が剥がれてはダメなので、接着剤を吟味するところからはじまり、接着剤は白いので乾いたときに目立たないようにちょっと茶色を入れる工夫をしたり。さらにパーツごとに異なる加工をしつつ、合わせたときになるべく柄が合うようにしないといけないので。これはもう材料の精度を出す職人や、接着の工夫をしてくれる職人泣かせなモデルでした。

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

BE@RBRICK 400% カリモク チェス
2010年6月発売

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

BE@RBRICK カリモク BRICK-STYLE TILES 400%
2014年6月発売

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

BE@RBRICK カリモク
fragmentdesign 400%

2017年7月発売

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

BE@RBRICK カリモク
コケブリック 400%

2018年12月発売

――fragmentdesignのポリゴンモデルはいかがですか?

池田 ポリゴンは別格に難しいです。これまでは手の感覚でできたんですけれども、このモデル専用の治具を作って一面一面ズレないように面で磨かないといけないので、通常のBE@RBRICKとは比較にならないくらい手がかかります。

こういう企画は、現場に説明しに行く途中から気が重くなるんです。「今回新しくお願いしたいのはこれです」っていうと、見た瞬間みんな「えっ……」みたいな(笑)。それを何週間もかけて説明して議論を重ねて、これをやるためには普通のチームじゃできないので3Dデータ担当、治具担当、塗装担当といった人たちに専門のプロジェクトチームを組んでもらいました。

――企画開始から発売されるまで時間がかかったものもありますか?

池田 昨年末に発売した「コケブリック」は実はものすごく開発の歴史が古くて、2008年にメディコム・トイさんからお話をいただいて2018年にようやく実現したんです。

――10年越しの企画だったんですね。

池田 もともと「コケブリック」はプラスチック製のものを

メディコム・トイさんで販売されていて、こけしの絵付けをプリントで表現していたんですけれども、これを木材で作れませんかという話になって。一度、デカールシートを貼って実験してみたんです。でもシートだと曲面にどうしてもシワが寄るので美しくない。これは手描きじゃないとできないだろうということで、そこから私のこけし職人探しの長い旅がはじまるんです。

――こけし職人さんは池田さんが探されたんですか?

池田 そうなんです。それでまず、こけし協会に電話をして「クマの形をしている手と脚のあるこけしを作っていただけませんか?」とお願いしたところ、「クマはこけしじゃないです」という至極真っ当な理由で断られまして(笑)。

そこから長い時間が流れて、たまたま知り合いから「あの人ならやってくれるかもしれないよ」という人を紹介してもらったんです。それが石巻市在住のこけし作家である林 貴俊さんです。早速連絡をとって趣旨説明をしたところ、林さんは毎月、雑誌『フィギュア王』を購読するくらいフィギュアに理解のある方でした。「ああ、BE@RBRICKですか。やりましょう」と言ってくださって。

――「コケブリック」で“石巻こけし”を初めて知りました。

池田 もともと石巻にはこけしの流派はなかったんですけれども、震災復興のタイミングからなにか地元に還元できることはないかと考えて、こけし作りを始められたそうです。

私たちがこけし作家さんにこだわった一番の理由は、筆遣いの丁寧さです。こけしは回転体に筆を入れるので一周すると直線が引けるんですけれども、BE@RBRICKは回転形状ではないので直線が引けない。なので「線の代わりにオリジナルの絵を描いていただけませんか」と。それで模様をつけてもらいました。

右脚の後ろに「石巻 林」と手書きの名前を入れてみませんかとお話したところ、御本人も非常に喜んでくださって。コケブリックはさまざまな方面で評価が高いんです。商品化に10年かかりましたけれども、結果的に関わったみんながハッピーになって本当に良かったと思います。

――改めて、カリモクさんの作られたBE@RBRICKは本当にいろいろなモデルがありますね。

池田 当初は1年に1モデル出る程度だったんですが、近年は種類が増えてきましたね。2018年度は12モデルですから、ほぼ月イチです。そのため各グループ会社連動で生産体制に臨んでいます。メディコム・トイさんから「こんなことできませんか?」と打診いただくだけではなく、こちらからも「こういうことができます」と提案することもあります。例えば、「樹種でこんな珍しい材料があるんですけど」という話をして、試作を作ってモデルが決まることもあります。カリモクは国内では最もたくさんの木材を扱っている会社だと思います。ほかに他社ともパートナーシップを組んでいるので、世界中の木材を安定して供給していただけるので、メディコム・トイさんにもアイデアを紹介しやすいんです。

――難しい要望に応えられるのもカリモクさんの技術力あってだと思います。

池田 「これ、カリモクさんできます?」って言われたら、できないって言いたくない。そこは職人魂といいますか、手間はかかったとしても、木工でできないことはないというのがカリモクのスタンスです。かつての工場長に「仕事は基本ノーはない。時間をかけてもできるものは、前向きに手を尽くして取り組め。物理的にできないものはないというポリシーでやれ」と言われたことがあるのですが、私も基本ノーはなく、取り組ませていただく内容が、カリモクのモノづくり全体のレベルの底上げにつながるかどうかを吟味したうえではじめています。

――今後も驚くようなものが控えているんじゃないでしょうか?

池田 手が掛かりそうなお話もたくさんいただいています(笑)。ただありがたいことに、難しい要求のものをやると職人の技術レベルもグンと上がるんです。自分たちのほうから「これダメだよね、こっちのほうがいいね」という積極性もどんどん出てきて。

――職人さんの注目度とレベルアップ、その両面から上がってくるでしょうね。

池田 彼らの意識はすごく上がりました。これまで家具づくりだけに向き合ってきた職人たちがBE@RBRICKの存在意義を実感しましたし、買ってくれる方たちの顔を見ると誇りに思うんです。なにしろ世界中にものすごいファンがいますから。

ウェブで数秒で完売したという報告を聞くと、すごいことをやらせていただいてるんだなと感じます。BE@RBRICKを通じてカリモクを知ってもらい、かつ、カリモクの木工にかける思いを感じ取っていただけるとありがたいと思っています。

――職人が手間をかけて作っているものですから、購入者は末長く大切にしたいと思うでしょうね。

池田 インスタグラムなどを拝見すると、たくさん集めている方がいらっしゃって、すごいなと思います。メンテナンスに関しても、木材はリペアが効くんです。例えば、もしうっかり落としてへこんでしまったという相談が来ると、まず塗料を剥いて水をつけて膨らまします。ギリギリまで大きくなったところでもう一回全体をきれいにならして塗装をかけると、たぶん皆さんが見てもわからないレベルまで修復できる。特殊な塗装をしたものでその塗料がもう手に入らない場合も、それに準じたかたちでやります。

例えば「インディゴ」の藍染めは酸化により変色していくものです。先日お客様から問い合わせがありましたが、同じ塗料は手に入らないので、いまの色に合わせた色差しでよければやります、と。もし修理が必要でお困りの場合はメディコム・トイさんに問い合わせていただければ有償対応いたしますので(※程度や内容によっては対応できない場合もあります)。

――これからの展開も楽しみにしております。最後に池田さんが今後、メディコム・トイとのコラボレーションでやってみたいことを教えてください。

池田 よりディープに「やられた!」と思っていただけるものを作りたいです。私はBE@RBRICKはアートだと考えていて、「欲しい人はたまらなくほしい」はず。アートにはゴールも正解もなく、際限がないからこそ、新たな着眼着想で、どこまでも木工加工を極めていけることが醍醐味。また、これまでの取り組みを高く評価してくださる方たちがメディコム・トイさんはもちろん、世界中に大勢いらっしゃることから、更に皆さんの期待を超えるような何かスペシャルなことにチャレンジしたい。

メディコム・トイ カリモク ☓ BE@RBRICK

「カリモク、そうきたか!」と。

メディコム・トイさんもまだまだ新しいことをやりたいと言ってくださいますし、私たちが持っている技術や工夫で実現できることもたくさんあると思います。ぜひとも私たちのチャレンジを楽しみにしていただきたいです。

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