彫刻を作るんじゃなく空間を作る意識でいると、形に対する考え方も変わります|MEDICOM TOY
DESIGN / FEATURES
2019年4月12日

彫刻を作るんじゃなく空間を作る意識でいると、形に対する考え方も変わります|MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

B-BOY彫刻家・TAKU OBATA氏に聞く(1)

“B-BOY(ブレイクダンサー)彫刻家”を名乗り、ヒップホップ4大要素のひとつであるブレイクダンスをモチーフとした作品を作り続けるアーティスト、TAKU OBATA。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了後、国内外で数々の作品を発表。昨年は現代美術家の梅沢和木と東京・外苑前のワタリウム美術館で展覧会「梅沢和木 × TAKU OBATA 超えてゆく風景」を開催。これを記念して彫刻作「B-GIRL Down Jacket NAGAME」を3Dスキャンし、スケールダウンした立体作品エディションが100体限定でメディコム・トイから発売されることになった。今回はOBATA氏のアトリエのある埼玉・所沢で、「彫刻家を目指すきっかけ」「自作に込めた思い」「これから彫刻で表現したいこと」についてお話をうかがった。

Photographs by OHTAKI KakuText by SHINNO Kunihiko

日本では、B-BOYはこういう見え方をしてる

――B-BOYをモチーフとした彫刻作品は世界でも珍しいですね。

TAKU OBATA そうですね。グラフィティは多いんですけれども。

――こうして実際に「B-GIRL Down Jacket NAGAME」を目の前にすると、圧倒的な存在感があります。

TAKU OBATA 人間に見えるけど、よく見たら人間じゃないという不思議さがありますよね。空間を生み出すために、なるべく人間と等身大かそれ以上にしないといけないという思いがあって。これより小さくなると、こっちが支配する側になるから。

ワタリウムで展示したもう1体は、もっとでかくて2m30cmあるんです。ただ立ってるだけでも動きを感じられるように、ダウンジャケットの水平ラインを前後でずらしたり、結構複雑なことをやってます。

――この作品は1本の木を彫ったものですか?

TAKU OBATA そうです。彫刻刀とノミで彫っただけで、研磨は一切しなくてもこれだけツルツルになるんです。あと、横から見ると分かるんですけど、ちゃんと人体の体幹と同じカーブになってるんです。そうしないと、これだけの大きさのものを人間と同じように立たせるのは難しい。

メディコム・トイ

木彫作品「B-GIRL Down Jacket NAGAME」

よく着ている服とかポーズが面白いと言われますけど、基礎があっての作品という感じはあります。

メディコム・トイ

メディコム・トイ

――いつ頃からブレイクダンスを始められたんですか?

TAKU OBATA 中学・高校はバスケ部だったんですけど、高校の時に兄貴がダンスを始めたことがきっかけです。それから地元の友達とUNITYSELECTIONSというダンスチームを作って、みんなで航空公園とか所沢の駅前にマットとラジカセを持っていって練習して、ショーをやったりバトルに出たり。

B BOY PARK(1997年から2017年まで毎年夏に東京・代々木公園野外ステージで行なわれていた日本最大規模のヒップホップのブロックパーティ)で育った感じですね。’80年代のオールドスクールスタイルを掘っていくと、映画『ワイルド・スタイル』(’82年)や『ビート・ストリート』(’84年)に出ているダンサーの格好がすごく細身なんです。LEEのジージャンにジーパンとか。その感じが衝撃的で。

ダンスもフットワーク重視でかっこいいし、これが本当のヒップホップの感じなんだって。なので彫刻はみんな細身です。

――バスケやダンスをやりながら東京藝術大学に進学するのは大変ではなかったですか?

TAKU OBATA 高校の頃は彫刻なんて全然考えてなかったんです。とりあえず大学に行きたくて。最初はダンスの実技で受けられるところを探して受けたんですけど、周りがバレエダンスの女の子ばかりで自分ひとり場違い。

それで一浪して立川美術学院という美術系予備校の映像科に入りました。その授業で見せられたヤン・シュヴァンクマイエル(チェコスロバキアの映像作家)のクレイアニメが衝撃的で、自分でもやりたいと思ってダンスがモチーフのクレイアニメを作ったんです。そこからデッサンと彫刻をはじめたらすごくハマって。

B-BOYの彫刻があったら面白いに違いないと思って、二浪目から彫刻科志望に変えたら藝大の一次に受かって。一次受かると特待生として予備校が半額になるから三浪して、ようやく合格したという。

――藝大でのなかでも、彫刻科は特に狭き門ですから。

TAKU OBATA 俺のときで倍率20倍くらいですね。彫刻科の受験はデッサンと塑像だけできればいいっていう一番シンプルなものだったので。結局、予備校の3年間がかなり濃厚だったんですよね。デッサンもめちゃくちゃやったし、塑像もやったし。

自分はすごく恵まれているなと思うんです。最初からB-BOYをモチーフにした彫刻作品を作りたいというのは決まっていたので、大学入ってから迷いなく作れる環境に行ったという感じです。

さらに木彫にすることで、他にやっている人がよりいなくなることもよかったし、あとは日本感ですね。初期はFRPでも作っていたんですけど、B-BOYはアメリカの文化だし、それをアメリカの素材で表現しても面白くない。木彫なら誰もやってないし“日本では、B-BOYはこういう見え方をしてる”っていうオリジナル表現になると思って。B-BOY彫刻家を名乗ってるのは、敢えて前に出すことで、そこから俺が逃げないように縛っているという感じです。

――ダンス経験があることも強みですよね。

TAKU OBATA どういう動きが好きか、どこがかっこいいかというのは、自分の中で分かっているので、理想のものを作っていくっていう感じです。実際に真似しようとしてもできないポーズもあるんですけれども、人体の構造的には、一応は合ってます。いまも遊び程度ですけど、UNITYSELECTIONSにMC仁義(GERU-C閣下)が加わった「HIPHOP戦隊B-BOYGER」というパフォーマンス集団をやってます。やっぱりダンスをやってなかったら彫刻もやってなかったし、作りたいものも決まっていなかったので。

Page02. フィギュアに関してはずっと渋ってきたんです

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

B-BOY彫刻家・TAKU OBATA氏に聞く(2)

フィギュアに関してはずっと渋ってきたんです

――2014年にはニューヨークのJonathan LeVine Galleryで個展を開催。グラミー賞を受賞した音楽プロデューサー、スウィズ・ビーツも作品を購入されたとか。

メディコム・トイ

TAKU OBATA DOZE(DOZE GREEN)というアーティストも同じギャラリーの違う空間で個展をやってて。彼はもともとB-BOYで、『ワイルド・スタイル』のポスターの左下でポーズしてる奴なんですけど、俺のちっちゃい作品を買って、いろんな人に自慢してくれたんです。そこからスウィズ・ビーツも作品を買ってくれて。

あと、ニューヨークではROSTARR(ブルックリンを拠点に活動するアーティスト)の家に10日間くらい泊めてもらって、かなりお世話になりましたね。

――日本でもライムスターの宇多丸さんが頻繁にメディアで紹介されています。

TAKU OBATA 俺の兄貴がライムスターのバックダンサーをずっとやってて、「B-BOYイズム」(’98年)のPVにも出てるんです。それでイベントで兄貴に紹介してもらって、B-BOY彫刻をやってますって言ったら『ヤバイ!』ってなって最初の個展に来てくれて。『小島慶子 キラ☆キラ』(2009年3月〜2012年3月 TBSラジオ)の第1週目で俺のことを紹介してくれたり、タマフル(『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』2007年4月〜2018年3月 TBSラジオ)に出させてもらったり。

――宇多丸さんも日本のB-BOYから才能溢れるアーティストが登場したことで嬉しかったんじゃないでしょうか。

TAKU OBATA ありがたいことに、そう言ってもらえてます。昨年のワタリウムのトークイベントにも来てくれて(『ライムスター宇多丸&TAKU OBATAのアフター7ジャンクション@ワタリウム美術館』 2018年10月27日開催)。

――その時のワタリウムの展覧会が今回のメディコム・トイとのプロジェクトにつながったそうですね。

TAKU OBATA ワタリウムさんのほうからメディコム・トイでフィギュアを作りたいと言われたのが最初です。メディコム・トイさんも僕のことを知ってくれていたみたいで。

――以前からメディコム・トイのことはご存知でしたか?

TAKU OBATA もちろん知ってました。フィギュアも好きだったので。

おもちゃとの出合いは幼稚園とか小学校の頃に流行ったキン消しなんですけど、高校生のときに200円のガシャポンが出始めて、それがやたらリアルで衝撃的だったんです。

すごい好きで山ほど買って家に並べてました。作品を知らなくても単純に造形としてかっこいいなと思って。そのあとアパレルブランドからおしゃれなフィギュアだったり、メディコム・トイさんからBE@RBRICKが出たりして、面白いなと思ってました。

――造型という意味では近いところもあります。

TAKU OBATA 彫刻科の学生って原型のバイトをやるやつが結構多いんです。藝大の先輩や後輩で原型師になったやつもいますし。俺も昔、マネキン屋の原型を作るバイトでいろんな会社のテイストに合わせてポリパテっていう造形材で既存のマネキンの髪の毛の感じをぬるくして新しい形にした時はけっこう褒められました。いまだにBEAMSのマネキンは俺がぬるくしたやつが使われてます(笑)。

単純化するのって結構難しいんですけど、そこは彫刻家のスキルが問われるところですね。……今回(『B-GIRL Down Jacket

メディコム・トイ

NAGAME』)みたいに自分の作品の原型製作をやることってあるんですか?

――アーティスト本人が手掛けることは滅多にないと思います。

TAKU OBATA 普通は二次元の絵を原型師が立体化しますよね。そこがたぶん新しいと思うんです。建築模型だと小さいものを作ってそれをでかくしていく感じですけど、これは元が大きい作品をスキャンしてスケールダウンした作品だから、ちゃんと彫刻になる。

フィギュアに関してはずっと渋ってきたんです。UNBOXという会社から作品をソフビのフィギュアにしたいとずっと言ってもらってて、これも3Dスキャンデータから作れると知って作ったんです。13パーツから出来てて可動式でかなりクオリティの高いものです。ただソフビは中空で熱に弱いので重心がどうしても前に来てしまう欠点がありました。

今回メディコム・トイから発売されるものはそれと差別化する意味もあって、ムクでまったく動かない状態にしたので“作品”ということにしたんです。

――製作にあたってメディコム・トイとはどういうお話をされましたか。

TAKU OBATA スキャンしたデータをそのまま出力して、なるべくオリジナルの色に近いようにしてもらいたいと伝えました。最初に3Dで出力したサンプルが中空だったので、これを原型にすると微妙に形が変わってしまうから、必ずムクのものでやってほしい、というやりとりをしたので、実際の彫刻そのままになるはずです。

――ちなみに『B-GIRL Down jacket NAGAME』というタイトルの由来は?

TAKU OBATA 単純にダウンジャケットが長めってだけです(笑)。他の作品も全部分かりやすい名前にしてるだけなんですよね。

――今後もこのシリーズは作り続けていく予定ですか?

TAKU OBATA もちろん続けます。フィギュアにするかは分からないですけど、彫刻に関しては他の素材でもやりたくて、もともと作っていたブロンズ、あとフランスの会社からずっとやりたいって言われているのでセラミックでもやろうと思ってます。

Page03. 俺の作品の場合は台座がないことが大事です

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

B-BOY彫刻家・TAKU OBATA氏に聞く(3)

俺の作品の場合は台座がないことが大事です

TAKU OBATA スキャンでデータ化したことでいろんなことができるようになったと思っています。彫刻と同時進行で物体シリーズと呼んでいる映像プロジェクトも進行していて。

――ワタリウムでも抽象的な物体がふわふわと浮かんでいる映像作品が展示されていましたね。

TAKU OBATA あれもダンスから派生した作品で、彫刻をめちゃくちゃ意識したものです。俺自身なぜダンスが好きなんだろうと考えたことがあって。彫刻とダンスでつながってるものは、まず『重力』なんです。重力って、ものを作る時点で自然と向き合わざるを得ないわけです。特に作品がでかくなればなるほど、どうすればちゃんと立つか、人間がどう立ってるかを考えなければいけない。

マイケル・ジャクソンが「ビリー・ジーン」で踊ったムーンウォークってあるじゃないですか。昔、『志村けんのだいじょうぶだぁ』で田代まさしがやってるのを見て、感動してできるようになるまでめちゃくちゃ練習したんですけど、それは重力がある中で無重力状態に見えるから面白いんだろうと思ったんです。

――なるほど。

TAKU OBATA 学生の頃から具象を作りながら抽象の作品もいつか作りたいと思っていて、ダウンジャケットや靴ひものラインをでかくした物体を具象の彫刻の隣に置いたら面白いだろうなと思っていたんです。ですが、それだと形が違うだけで重力に対しては置かれているという意味で一緒じゃないですか。だったら物体のほうは無重力にしなきゃと思ったんです。それで最初は小さい木彫の物体を上に投げて落ちてくる折り返し地点を写真で撮れば、無重力になる状態を保存できる。ワタリウムで展示したのはその写真と映像なんです。途中で物体が空間の中にとどまりだす映像は写真の進化版で、撮影用のセットを作ってそこに物体を投げ込んでファントムという4Kのハイスピードカメラで撮影したものです。あれは投げたと同時にセットを一緒に動かして物体を追いかけているから空間にとどまる。CGでも一時停止でもない、1秒400コマにしただけの映像。それを4Kのプロジェクターで壁に投影する。これは新しい彫刻の見せ方だと思います。

――確かに見ていてとても気持ちいい映像でした。

TAKU OBATA もうひとつは『空間』ですね。ダンスも結局空間なんです。まったく同じことをやっていてもクラブのなかでやるのか、屋外でやるのかによって、全然見え方が変わってくる。空間の認識力が他の人より強い意識は絶対彫刻につながってると思います。

――最初のお話にあったこの場を支配する、支配されるというのがまさにその空間のことですね。

TAKU OBATA そうです。空間を意識することが彫刻の面白いところ。彫刻を作るんじゃなく空間を作る意識でいると、形に対する考え方も変わってきます。

何か違和感あるな、と思わせるには、あそこまで面の方向とか複雑なことを考えなきゃいけない。例えば、目の前に壁があるとして、ちょっとでも面の角度が変われば光が分散して圧迫感が緩和された空間になる。彫刻を作ることは空間を考えるイメージです。

そして俺の作品の場合は台座がないことが大事です。台座がある彫刻だと、「ああ、作品か」って一回壁ができるけど、ないことで空間が共有されるわけです。ワタリウムの展示はあの2体でひとつの作品。もう1体、違う彫刻が来ても、ひとつの作品。そういうふうに意識して作品を作っていて、いろんなポーズをしていても顔はみんな垂直になっている。だから自分の作った彫刻が同じ空間にあると一体感が生まれるわけです。

――公園でダンスチームがブレイクダンスしているのを見る感覚と近いものがあります。

TAKU OBATA ステージがあるわけじゃないから。そういう意識とも繋がってるんです。ワタリウムに展示した彫刻の場合、空間は既存の建築ですけど、映像の場合はセットを作っている。それを建築だと考えれば、物体と空間両方とも作っていることになる。

メディコム・トイ

ダウンジャケットの各ブロックは、上向き、下向きとそれぞれ面取りされている。平面に線が描かれているのではない。

だから映像でありながら彫刻の作品なんです。ゆくゆくは8Kで映像を投影できるようになれば、壁一面を使ったさらにでかい彫刻の表現になると思うので面白いなと思って。

――B-BOY、そしてB-BOY彫刻の魅力は、重力と空間にある、と。

TAKU OBATA あとは『移動』ですね。箱の中で粘土をモデリングして大きくなると空間が狭くなる。これは空間をカービングしてるってことなんです。逆に言うと、同じ箱の中でカービングして物体が小さくなると空間はモデリングされていく。彫刻を作るときに出る木屑を毎回ゴミに出すのはもったいないなと思って、焼却炉で燃やし始めたんです。そうするとチリになって雨になって結局また自然に還ってくる。ゴミに出すのも一緒です。地球の質量はきっと変わらないと思うので、彫刻に限らず実は全ては物質の移動で出来ていると思っています。

結局、移動なんです。体の動きについて考えるのと一緒だなと思って。

さっき言ったムーンウォークが上手い人は、まず頭を固定するんです。身体の一部がとどまっているとかっこよく見えるから。空間の中にとどまる瞬間の不思議な感覚ともまたつながってくる作品です。

――ありがとうございます。これからも作品を楽しみにしております。


B-GIRL Down Jacket NAGAME


4月20日(土) メディコム・トイ 直営各店舗及びオンラインストア各店にて発売!
限定エディションナンバー入り!

TAKU OBATAの彫刻作品を3Dスキャンしてスケールダウンし、OBATA氏が細部まで調整して作成したマルチプルプロダクト。全高約350mm。原型製作/TAKU OBATA。素材/ポリストーン。メディコム・トイ直営店舗とワタリウム美術館内ショップオンサンデーズにて100体限定販売。5万4000円(税込)。

※数量限定商品のため、在庫が無くなり次第販売は終了となります。
※商品につきましては限定エディションナンバー入りになります。エディションナンバーを選択することはできませんので、予めご了承ください。

発売元:メディコム・トイ
販売元:メディコム・トイ
© TAKU OBATA

問い合わせ先

メディコム・トイ ユーザーサポート

Tel.03-3460-7555

           
Photo Gallery