この良き理解者がいたから、難しいコラボレーションも実現できた|MEDICOM TOY
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
版権管理のスペシャリスト
スティーブン・チアニーシさんに聞く(1)
メディコム・トイが他の玩具メーカーと圧倒的に異なるのは、時代のエッジとなる人物、キャラクターと、まさにベストなタイミングでコラボレーションしてきたことにある。その目のつけどころ、仕事の完成度の高さに、誰もが驚き、魅了されてきたのだ。その背景のなかで、メディコム・トイの社外にいながら、メディコム・トイの常に良き理解者であり、メディコム・トイとともに尽力してきた非常に重要な人物がいる。その人物が、この人。今回の連載は、満を持してスティーブン・チアニーシ氏の登場である。
Photographs by OHTAKI KakuText by SHINNNO Kunihiko
あのキャラクターも! このキャラクターも!!
――まずは現在のスティーブン・チアニーシさんの仕事内容について教えてください。
スティーブン ユニバーサルのインターナショナル商品開発部門の代表を務めています。ユニバーサルは3部門に分かれていて、今年公開される『ジュラシックワールド/炎の王国』(7月13日公開予定)を制作しているモーション・ピクチャーズ、『ミニオンズ』や『SING/シング』を制作しているイルミネーション・エンターテインメント、そして『ヒックとドラゴン』や『ボス・ベイビー』(3月21日公開予定)を制作しているドリームワークスという3部門に分かれています。
――忙しい毎日を過ごされていますね。
スティーブン ええ、とても。コンシューマプロダクツ部門が急成長しているので、今年はもっと忙しくなる予定です。特に「ミニオンズ」はアジアの全キャラクターランキングの1位に選ばれたんです。既にBE@RBRICKにもなっていますが、ミニオンズというキャラクターはファッションの観点やキャラクターのユニークさからもすごく面白いものなので、これからもメディコム・トイが面白い提案をしてくれることを期待しています。
――今日はメディコム・トイについてお話をうかがわせてください。
スティーブン 最初の出会いは「スター・ウォーズ」でした。当時私はルーカス・フィルムに在籍していて、KUBRICKのライセンスを許諾する際に関わったのが最初でした。忘れもしない1999年2月のニューヨーク トイフェア(世界最大の玩具見本市)での出来事です。あの日ニューヨーク は大雪に見舞われましたが、とても有意義なミーティングが出来たことを覚えています。
――「スター・ウォーズ」KUBRICK第1弾は、2003年1月に限定で通信販売されたルーク・スカイウォーカー、プリンセス・レイア・オーガナ、チューバッカ、R2-D2の4体セットでした。
スティーブン あれは「スター・ウォーズ」フィギュアのコレクターならご存知だと思いますが、1977年にケナーから発売された“アーリーバード”と呼ばれるセットを模したものです。そのときもうひとつ提案されたユニークなプロジェクトが、シリーズ1(2003年2月発売)のラインナップをすべて『エピソードV 帝国の逆襲』に登場した6人のバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)にしたことです。
――レギュラーシリーズのスタートがメインキャラクターではなく、敵側のバウンティ・ハンターだったことに驚きました。
スティーブン ボバ・フェット以外は本編の出番が多くないため商品化の機会も少なかったのですが、ダース・ベイダーに集められた腕利きの賞金稼ぎたちということで、コアなファンの間ではとても人気の高いキャラクターです。メディコム・トイの考えは、彼らをKUBRICKにすることで背後にあるストーリーまで語りたいということでした。当時ルーカスフィルムは玩具会社からそういうユニークなコンセプトの提案を受けたことがなかったので、とてもありがたいと思いました。
――時期的にはちょうど新三部作(エピソード1〜3)が盛り上がっていた頃ですね。
スティーブン ビジネスの観点からもスター・ウォーズと日本との関係「黒澤明監督作品からの影響など」についてはファンの間でも知られていたので、日本のメーカーから過去の作品の面白いストーリーを商品化してくれるパートナーが出てきてくれたことがすごく嬉しかったです。ただし、そこから社内の承認を得るのはすごく難しかったです。この商品を出すことの意味を理解してもらうためには1年以上かかりました。
Page02. なぜ、そこまで……
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スティーブン・チアニーシさんに聞く(2)
なぜ、そこまで……
――なぜ、そこまで協力してくださったんですか?
スティーブン 日本のものづくりへのこだわりに感銘を受けたからです。メディコム・トイとの打ち合わせの前にトイズ・マッコイの岡本博さんとインディ・ジョーンズの12インチフィギュア(1999年発売)でご一緒したことがありました。商品化に当たって一切妥協せず、何ひとつディテールを逃さない岡本さんのアプローチの仕方が本当に尊敬できたんです。その後、岡本さんやメディコム・トイの赤司竜彦さんたちとは家族のようなお付き合いをさせてもらっています。
――スティーブさんはルーカスフィルム以外にもディズニーやハズブロでもお仕事をされてきたそうですね。
スティーブン ハズブロ在籍時はメディコム・トイがタカラトミーとの共同開発で実際に変形するギミックを内蔵したトランスフォーマーのBE@RBRICKを作ったときに関わっています。そのタカラトミーの担当者もルーカスフィルム時代に直接やりとりをしていた時からの付き合いなので、すごく仲のいい友達です。
実際、トランスフォーマーのBE@RBRICKも、赤司さんたちとのホームパーティの席でこんなのがあったらいいねという話から始まりました。私にとって一番いい仕事は、本当に自分が好きな人たちとご一緒することだと思っていますし、実際にいいものができました。
――幼い頃から玩具には興味があったんですか?
スティーブン もちろん! まずはなんといっても「スター・ウォーズ」。それからオリジナルの「G.I.ジョー」(1964年に販売開始したハズブロ社のミリタリー12インチ・アクションフィギュア)、「イーブル・クニーブル」(1970年代に活躍した不死身のスタントライダー)、「ビッグ・トラックス」(プログラムで走行するトラックの玩具)が好きでよく遊んでました。
――それで将来は玩具関係の仕事に就きたいと思われたんですね。
スティーブン 大学ではトイ・デザインを専攻して、卒業後はレゴの「マインドストーム」というプログラムで動作する商品を開発していました。
――日本でも熱狂的なファンの多いシリーズです。
スティーブン あの第一世代を手掛けたのが、私のプロジェクトチームです。ちなみに「ビッグ・トラックス」を手掛けたデザイナーが偶然にも私の上司でした。前後左右に車輪を動かすプログラムは基本的にほぼ一緒ですからね。ただ、子供が遊ぶには「マインドストーム」はちょっと複雑だったかもしれません。個人的に玩具は楽しくなければ意味がないと思っているので、テクニカルな部分とのバランスが難しかったです。でも、すごくいい経験でした。
――これまでのメディコム・トイとの仕事の中で特に印象に残っているアイテムをいくつか教えていただけますか。
スティーブン 私が手掛けたすべてのプロジェクトの中で一番気に入っているのは、SUPREMEとコラボレーションした「カーミット(Kermit the Frog)」のKUBRICK(2008年4月発売)です。
――マペット作家のジム・ヘンソンが生み出したカエルのキャラクターですね。
スティーブン 私がディズニー・ジャパン在籍時に手掛けたものですが、アメリカのディズニー本社に承認してもらおうとしたところ誰ひとりSUPREMEのことを知らなかったんです。当時からとてもいいものを作っていたのですが、10年前はまだ知る人ぞ知るアンダーグラウンドな存在だったので、許可をいただくのは非常に難しかったです。
最初にメディコム・トイからその企画をいただいた時も、通す自信はありませんでした。でも、これはやる価値のあるプロジェクトなんだということを何度も何度も説明して、実現させることができました。
いいパートナーとの仕事は一度承認されると、そこからは早いんです。
――いまやSUPREMEのコラボレーションは LOUIS VUITTONにまで及び、発表のたびに世界的に話題になってます。
スティーブン これまでSUPREMEはいろいろな会社とコラボレーションしていますが、すごいプロジェクトだったと改めて思います。私もPCのスクリーンセーバーの写真にしていますし、実物は自宅に大事に飾っています。
――手に入れられた方がうらやましいです(笑)。
Page03. 2番目のお気に入り
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スティーブン・チアニーシさんに聞く(3)
2番目のお気に入り
スティーブン それから2番目のお気に入りは、スター・ウォーズ KUBRICKシリーズ2(2003年11月発売)のシークレットで「インディ・ジョーンズ」が入っていたでしょう?
――あれはびっくりしました! ハン・ソロと同じハリソン・フォードが演じているとはいえ、別の作品ですから。
スティーブン 「インディ・ジョーンズ」シリーズもルーカス・フィルム作品だったことから実現できた企画です。
当時は『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』と『エピソード3/シスの復讐』公開のはざまで新作に注目が集まっていましたが、私としてはルーカス・フィルムの旧作にも焦点を当てたいという思いがあったので、このプロジェクトをなんとか実現させたいと思って頑張りました。
クリエイティブの観点からすると、ルール(慣例)は嫌いです。ルールさえなければクリエイティブな試みは制限されないですし、ファンも喜ぶ、驚くようなプロジェクトも実現できると思っています。
――他にも。これは大変だったなと思うプロジェクトはありますか?
スティーブン ほぼ通すことができたと思いますが、KAWSとディズニー作品やスター・ウォーズとのコラボレーションは結構てこずりましたね。KAWSはアーティストなので、彼が納得のいくものができるまで時間がかかりました。
――これまで数々のメディコム・トイからの提案をスティーブンさんが実現できるよう尽力されてきたと思います。一緒に仕事をして感じたことを教えてください。
スティーブン まずひとつは商品の精度の高さです。もとになる作品の魅力を最大限に表現しようという情熱をすごく感じました。ブランディングの観点からもとてもユニークなことをしているので、すごいなと思います。アメリカの玩具業界でもメディコム・トイみたいなことをしたい会社はたくさんありますが、同じクオリティのものができていないのが現状です。
日本以外でもアート、ミュージック、ファッションなど、さまざまな業界がクロスオーバーしていますが、そうしたカルチャーに関わっている人は必ずメディコム・トイに辿り着いて意識することになると思います。赤司さんは、ひと言でいうと“ヴィジョンを持っている人”。決断をするときにきちんとした戦略を持っている素晴らしいリスクテイカーですね。私も個人的に赤司さんから学んだことがたくさんあります。
――従来の“玩具は子供が遊ぶもの”という概念を越えたアイテムをメディコム・トイは提示していると思います。
スティーブン いまは大人になっても少年・少女の心を持って玩具を集めているファンは全世界にたくさんいますからね。そのトップにいるのがメディコム・トイではないかと思います。玩具となるとどうしても価格帯は絞られますが、メディコム・トイの商品はそういう枠に当てはまらないですからね。そういう意味ではメディコム・トイはSUPREME、GUCCI、MONCLERと同じようなファッション・ブランドの枠に入るんじゃないかと思います。
――逆にスティーブンさんの方からメディコム・トイにこんなものを作ってほしいというリクエストはありますか?
スティーブン いま自分が仕事で関わっている『ジュラシック・パーク』シリーズで何かご一緒できたらいいですね。
新作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』はもちろん、今年は第1作目公開から25周年のアニバーサリー・イヤーですから、いろいろと盛り上げていきたいです。
あとは長い歴史のあるユニバーサルには映画やテ
レビ番組の名作がたくさんあるので、そこから未来に遺すべきコレクションとして商品化してもらえたら嬉しいです。例えば、’70年代のテレビドラマ『600万ドルの男』(73年〜78年放送)。私も子供の頃、主人公スティーブ・オースティン大佐の玩具で遊んでいたので、メディコム・トイが現代的センスで解釈したものを商品化してくれたらいいなと思います。
――夢が膨らみます。
スティーブン もっとびっくりするようなプロジェクトが今後あるかもしれません・・・ご期待ください。