特集 インテリア・デコレーションの祭典〜メゾン・エ・オブジェ パリ
MAISON & OBJET PARIS|メゾン・エ・オブジェ パリ
日本のプロダクトデザイン、世界を行く(1)
世界最大級のインテリア・デコレーションの国際見本市、メゾン・エ・オブジェ。メイン会場入口を入ってすぐ特別展示されていたのが、有田焼のブースだった。そのほか会場全体には、日本のプロダクトデザインが目立つ。今回は、世界に発信する日本プロダクトをご紹介しよう。
Text by KAWADA Akinori
未来のライフスタイルが体感できる見本市
「イタリアで開催されるミラノ・サローネがほぼ家具に特化した見本市に対して、メゾン・エ・オブジェはあらゆる生活用品を集めた感があります。10年先の生活の姿が見えてくるんじゃないかと思えるくらいです」と語るのは、日本を代表するプロダクト・デザイナー奥山清行氏。「フェラーリを日本人で初めてデザインしたデザイナー」として有名であり、クルマなどのデザインはもちろんのこと、現在はさまざまなイベントのプロデュースにも腕を振るう。
メゾン・エ・オブジェは、1月と9月にフランス、3月にアジア、5月にアメリカで開催されるインテリア・デコレーションの国際見本市だ。出展される商品は、多岐にわたる。家具、キッチンウェア、テーブルウェア、ギフト雑貨、ファッション雑貨、電化製品、フレグランスなどだ。。
今回訪れたメゾン・エ・オブジェ パリは、パリの北部にあるノール・ヴィルパントで1月22〜26日に開催された。広大な見本市会場には8つのホールがあり、世界から数多くのプロダクトメーカーが参加。まさに欧州最大のインテリア・デザイン見本市と言ってよい。ほかの展示会と違うのは、事前に出展審査があること。その出展審査にパスしたプロダクトだけが展示されるのだ。そうした会場には一般客ではなく、トレンドを重視するバイヤーが数多く訪れる。
4人がプロデュースする特別な有田焼
有田焼は佐賀県有田市を中心に発達した、日本古来よりの磁器である。最初の窯が創業して、2016年が400年に当たり、「有田焼400年プロジェクト」と題して、数年がかりで、さまざまな事業を展開している。メゾン・エ・オブジェへの出展も、この400年プロジェクトの一環として行っており、その真摯な姿勢に共鳴した運営委員会の理解もあって、特別展示が行われることになったのだ。
奥山清行氏は、この出展および特別展示のプロデューサーとして、会場に来場していたのである。
「メゾン・エ・オブジェへの出展は、本当に大変なことで、出展希望者は、運営委員会でプレゼンを行い、そこで認められて初めて出展が許可されます。評価基準で最も大切なのはオリジナリティで、コピーを作って満足しているような企業は、ひとつとしてパスしません。コネも通用しません。これだけ大規模な展示が認められたのは、有田焼のプロダクトとしての創造性の高さを物語っているんですね」(前出・奥山氏)
特別展示は、【ARITA ✕ 4CREATER】(有田焼と4人の日本人クリエーター)と題して行われた。奥山氏に加え、ビートたけし氏、隈研吾氏、佐藤可士和氏の4人が創意を凝らしてデザインし、協力する窯元が形にした有田焼が、4つの専用ブースに展示されたのだ。
同じ有田焼でも、制作されたモノは、それぞれの個性がにじみ出る。
奥山氏の作品は、機能性と造形が表裏一体である。例えばこのコーヒーカップは、まったく無駄のない樽型で、把手もその樽型のフォルムを崩さないように一体化されている。それでいて、そこには人の指が入るスペースがあり、持ちやすい形になっている。白磁の美しさも生きている。
2020年の東京オリンピックに向けた新国立競技場のデザインに採用されたことも記憶に新しい、日本を代表する建築家、隈研吾氏の作品は、こうした器も建築的な造形となっている。例えば、この器は細い曲線と直線と鋭角的な角が複雑に絡みあい、遠目には籐製の籠にも見える。しかし近づいて見ると、それは白磁であり、紛れもなく有田焼だ。緻密な計算に基づく造形が秀逸である。
4人の中で、もっともフランス人に有名なのは、映画監督としてのビートたけし氏かもしれない。彼が用意した作品には、ユーモラスなものが多い。このコーヒーカップは、どれも表情が豊かなグラフィックが描かれる。思わず笑みがこぼれるようにコミカルにしてユーモアが効いている。それだけに日常的に使うカップとして欲しくなってしまう。
国立新美術館のシンボルマークのデザインや、ユニクロのほか企業のブランド戦略を手掛けるクリエイティブディレクター/アートディレクターの佐藤可士和氏の作品は、「対比」をコンセプトにした大皿だった。有田焼らしいピュアなホワイトが、鮮やかなブルーで、まさに弾けるように彩られ、さらに作品によっては金色などの差し色が配される。色のコントラストの見事な作品群ができあがっている。
1月22日には、奥山氏、佐藤氏、さらにプロジェクトの最高責任者である佐賀県知事・山口祥義氏も出席し、オープニングセレモニーも行われた。その賑わいは、さながら、7月に同地で行われるジャパン・エキスポが1月になったのかと思わせるほどの賑わいだった。
Page02. 海外で戦い続ける有田焼
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日本のプロダクトデザイン、世界を行く(2)
海外で戦い続ける有田焼
有田焼とフランスの縁は、大変に深い。1900年のパリで開催された万国博覧会に、日本からも数少ない出展があり、その1つが有田焼だったのだ。ヨーロッパと和のプロダクトの出会いの始まりは有田焼にあり、と言っても過言ではない。
1616年以来の歴史があり、ヨーロッパとの縁も深い有田焼が、和のデザインに魅入られているヨーロッパにおいて、話題にならないはずがない。実際、デザインモノやインテリアを手広く扱うホール7にある「有田焼400年プロジェクト」のブースは盛況だったのである。
このブースには、2世紀半の歴史を持つ老舗から、新進気鋭と呼ぶに相応しいブランドまで8社が出展していた。日本人の文化イベントは現地の日本人がお付き合いで来てお終いということも多いのだが、ここは何か新しいものを探して鵜の目鷹の目のバイヤーが集う見本市である。世界中からやってきた人々が、真剣な眼差しで、製品を見て、担当者に質問を畳み掛けていく。そんななかでの今回の盛況は、優れた和のデザインに対するヨーロパからの関心の高さを裏付けている。
「ブースのデザインは茶室をコンセプトにしました。本格的な庵の茶室は、戸口を狭く低くし、かがんで入るのが基本です。フードをかぶせたようなブースは、そんなイメージを持たせたものなんです。これはエントランスの特別展でも、同様です。有田焼は当然、茶道でも用いられ、茶の湯というのは、ヨーロッパ人にも理解されている日本の伝統文化です。日本らしい、もてなしの心の象徴です。そんな複合的な意味を持たせているわけです」と総合プロデュースを行ったケン・オクヤマ・デザインの代表奥山清行氏は、ブースのデザインについて語る。