連載|the rumored “CHALIE VICE” 第3回 黒いアルパカの夢を受け継ぐ
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2015年12月11日

連載|the rumored “CHALIE VICE” 第3回 黒いアルパカの夢を受け継ぐ

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス

ニットに込められた受け継がれる夢

壮大なプロジェクトが育んだナチュラルブラック

伊勢丹新宿店・メンズ館8階レジデンス「THE GALLERY by CHALIE VICE」では、今冬あらたに “The Natural Black Alpaca Collection”を紹介している。この上質のアルパカニットを手がけたのは、「THE INOUE BROTHERS(ザ・イノウエブラザーズ)」だ。素材は、彼らがチャーリーと出会うきっかけにもなったブラックアルパカ。ギャラリーを訪れたおふたりと、彼らの“師”であるペルー・パコマルカのアルパカ研究所のアロンゾさんに、チャーリも惚れ込んだという、“これまでのどんな黒よりもやさしい色”の魅力をうかがった。

Text by OPENERS

ブラックアルパカとの出会い

いまから約30年前、世界をめぐる旅の途中でペルーの高原都市、クスコに立ち寄ったチャーリー・ヴァイスは、小さなバーでアロンゾ・ブルゴスさんと出逢った。アンデスに入り、本格的にアルパカの調査研究をはじめたばかりのアロンゾさんは、アルパカのすばらしさ、アルパカと暮らす住人たちの生きざまへの傾倒を語り、チャーリーをアルパに引き合わせた。

さまざまな毛色のアルパカを紹介するなかで、ブラックアルパカをチャーリーに見せたアロンソさんは、いっそう熱を込めて「このナチュラルブラックそのままの毛色を活かしたニットをつくって、ユーザーに届けるのが夢なんだ」と語ったという。

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

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――なぜ黒いアルパカが「夢」だったんですか?

アロンゾ 1950年代以降のアンデスでは、白やオフホワイトのアルパカが珍重されてきました。アルパカの主要マーケットだった1950年代の北米で、人気の映画俳優が劇中でパステルカラーのアルパカのゴルフウェアを着ていたことがきっかけで、染色されたアルパカニットが主力商品になりました。アンデスでは白いアルパカが高く売れるという評判がひろがり、染色しやすい毛色のアルパカを増やしていきました。

チャーリーと出逢ったころには、アルパカの毛色のパターン数が減っていて、黒い毛色はアルパカの生息数全体の0.01パーセントにも満たない希少な存在になっていたんです。くわえて毛色ごとにきっちり選別されていなかったため、黒いアルパカだけを集めてニットにすることは、「夢」だったんですよ。

兄弟の生きざまを変えたアルパカ

「ザ・イノウエブラザーズ」は、兄・聡(さとる)さん、弟・清史(きよし)さんという、日本人を両親にもつデンマーク生まれの兄弟が手をたずさえ、ニットウェアを中心に手がけている。彼らのウェアの素材となるシュプリームロイヤルアルパカは、ペルーのパコマルカにあるアロンゾさんの研究所とアンデスの人びとの協力と調和のもとにつくりだされている。

――ご兄弟でブランドを立ち上げる前から、ずっといっしょにお仕事をされているんですか?

清史 2004年に「ザ・イノウエブラザーズ」をスタートしましたが、私は学生時代からロンドンに移り、兄はコペンハーゲンにずっと住んでいて、それぞれ仕事をもっていました。いまでも私は週に4日、美容師としてロンドンの店に出ています。最初は兄がひと月に1、2回ロンドンまで来てくれましたし、いまではスカイプやフェースタイムが使えるので、いつもいっしょにいるような感覚で仕事をしています。

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

――おふたりとも、ほかのお仕事もされているということですが、なぜアルパカにかかわったのでしょうか?

じつは「ザ・イノウエブラザーズ」は、デザインオフィスとして設立したんです。弟は美容、私は広告関係のグラフィックデザインをやっていたので、美容関連のコンセプチャルデザインや、イベントでのグラフィックのスタイリングなど、いろんなことを兄弟が協力してできないかとかんがえてつくりました。

でもオフィスを設立して2年後、アルパカと南米住民の暮らしの論文を書いている知人に誘われて南米を訪れたことをきっかけに、「ザ・イノウエブラザーズ」のコンセプトを大きく変えました。南米でアンデスのひとたちと触れ合い、彼らをすぐ好きになった。いっぽうで彼らが置かれている困難な状況、大変な暮らしを目のあたりにして、彼らに尽くしたいという強い気持ちが湧いてきたんです。

当時、ヨーロッパのデザインシーンでは、ソーシャルデザインというムーブメントがありました。デザインのいいものをつくりながら、生産する場所や商品自体を通して、社会貢献していく潮流です。アンデスのひとたちにとってもっとも身近な存在であるアルパカを使って彼らに尽くすには、じゃあニットブランドをはじめようという気になったんです。

その後、アルパカをもっと知ろう、上質のアルパカをもっと魅力的なものにしようというおもいで、南米を歩きまわって、パコマルカに行き着いたんです。

――パコマルカの研究所のどんなところを気に入ったんですか?

清史 アルパカとともに暮らす人びとの生活向上に繋げようという取り組み、それから素材がもっている本来の価値を紹介しようというプロジェクトの方針です。

私たち兄弟は、移民の少なかった時代のデンマークで育ち、幼いころにさまざまな困難を経験しました。偏見をもつひともいて、いじめにも合いました。それに父が早く亡くなったこともあって、あまり裕福ではなかった。

兄といっしょにTシャツをつくって、修学旅行の資金にしたこともありました。兄がイラストを描いて、私が工場にかけあってTシャツにして、クラスメイトたちに売っていたんです。困難ななかにあって、ものづくりの喜びも経験しました。

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

だから公平ではない社会のなかで、困難な立場に置かれた人びとの気持ちがよくわかる。アンデスのひとたちが、深いところで求めている“なにか”を感じることができるんですね。

いまもアンデスの人びとといっしょに仕事をしていると、自分は貧しいからといってちっぽけな人間ではないと彼らがおもえることが大事なんだとつねに感じています。暮らしに息づいたアルパカを最高の品質に仕上げて世界一のアルパカニットをつくるというパコマルカの取り組みが、お金以上に彼らのモチベーションに繋がっているようにおもいます。

――ザ・イノウエブラザーズのおふたりが訪ねてきたとき、アロンゾさんはどう感じましたか?

アロンゾ 驚きと喜びがありました。30年にわたって、ずっとアルパカビジネスの中心にいましたが、商業目的でアルパカにかかわりたいという話ばかりだった。

研究所を設立する前、私はアメリカの大学でアルパカやアンデスの先住民の暮らしを研究しており、アルパカ繊維の質の低下に危機感をもっていました。同時に厳しい自然環境を生活基盤とし、5000年以上にわたってアルパカとともに暮らし、アルパカから糧を得てきた先住民の文化と生活様式が、危機にさらされているとも――

でもパコマルカの研究所で、アルパカの品質向上と並行して30年以上にわたっておこなってきた、アルパカと暮らすアンデスの人びとに希望をあたえ、勇気づけ、彼らのすばらしい文化を生活向上に繋げようという取り組みには、だれも興味を示してくれなかった。どれだけ安くアルパカが買えて、どれだけ大量にアルパカを売ることができるか、そういう話ばかりでした。

でも突然やってきた彼らは、まったく商業的な話には興味がなくて、アンデスでアルパカと暮らすひとたちを支援してきたプロジェクトにはじめて興味をもってくれた。聡と清史は生徒のような感覚で、全部教えよう、伝えようという気持ちになりました。

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

30年以上にわたる夢がかたちになったニット

――当時のおふたりはファッションにかんしては素人だったとおもいますが、不安はありませんでしたか?

アロンゾ かえって素人だったことを、チャンスだとおもったんです。それは研究所とのかかわりで得られるシュプリームロイヤルアルパカは、本当に希少で小さなロットのニットしかつくることができないからです。歴史があり、経験豊かなファッションハウスだったら、小さなロットでは満足できないでしょう。

研究所で生まれた、効率のよい毛刈りの技術や繊維選別のハウツーを活かして、いままでにないクオリティのニットをつくり、先住民たちに還元することが願いだったので、一生懸命に技術を学び、アンデスの人びとに寄り添う彼らこそが適任だとおもったんです。

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

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それに、彼らのパッションに共感できて力を貸してくれそうな、男のことをおもいだしたんです。そう、チャーリーです。彼らの熱意に、パコマルカの技術と経験、そしてチャーリーのモノを見る目がくわわれば、きっと素敵なニットができるにちがいないと確信していました。

とくにこのブラックアルパカは、研究所を立ち上げてからおもい描いていた夢のひとつですから、彼の力も借りられればとかんがえて、ふたりを紹介したんですよ。

――チャーリーは、ブラックアルパカのどんなところを気に入ったのでしょうか?

やっぱりアロンゾさんの夢を覚えていて、ブラックアルパカを待っていた。どんなニットになるのか、きっと30年以上にわたって期待していたとおもうんです。だから紹介されたときは緊張しましたよ。

まずチャーリーには、手触りを感じてほしかった。ほかのアルパカとちがう最上の手触りは、パコマルカのアルパカだけのものです。丁寧に刈られ、選別されたアルパカは、あとで染めるとわかっているアルパカよりも厳選されているものです。チャーリーはこの手触りに惚れ込んでくれたのかもしれません。

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

それとデザインも気にってくれていたら嬉しいですね。ほかにない深いブラックは、繊細さとシンプリティが映えるとおもって、私たちのアイデンティにもつながるパターンによってつくられています。日本的な繊細さと、シンプルで潔い北欧デザインを基調とする、「Scandinasian(スカンジナジアン)」デザインと私たちが呼ぶものです。

もし、チャーリーがこのデザインも気に入ってくれたのなら、チャーリーとアロンゾさんがおもい描いた「夢」に、少しだけ貢献できたのかなとおもいます。

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス×ザ・イノウエブラザーズ001ss_right

ザ・イノウエブラザーズ|THE INOUE BROTHERS
デンマーク・コペンハーゲン生まれの日本人の両親をもつ、井上聡(さとる)と清史(きよし)の兄弟が2004年に設立。「“Scandinasian”デザイン」と彼らが呼ぶ、ふたつの文化――日本の繊細さと北欧のシンプルさ――への愛を体現したアイテムを手がける。理想のクオリティを追ういっぽうで、徹底的にオープンな視点からものづくりに取り組み、さまざまな地域で土着の文化、手工業に長けたコミュニティと強い絆を築く。洗練された品質とデザインを通して、責任ある生産方法にたいする関心をムーブメントにすることを目標に掲げている。
http://www.theinouebrothers.net/

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Alonso Burgos|アロンゾ・ブルゴス
「Inca Alpaca Fiber Purchasing Company of Peru(インカ アルパカ繊維購買会社)」の創始者。アルパカ繊維の適正な流通と品質の向上を追い求め、調査と研究に取り組む。30年以上にわたって、パコマルカに根を下ろし、アルパカ産業にたずさわるペルーの人びとの生活向上にも貢献している。

CHALIE VICE|チャーリー・ヴァイス
年齢・職業・出身地などは不明だが、旅行好きでさまざまな国へ行っては、文化や風習に感銘を受けてセンスを磨き、音楽、写真、料理など多彩な分野に通じた“粋な遊びの達人”。旅先で築いてきた人脈は多岐にわたり、各分野の第一線で活躍するアーティストやクリエイターとも深く繋がっている。伊勢丹新宿店メンズ館8Fの「THE GALLERY by CHALIE VICE」では彼が世界中で出合った、人生を豊かにするモノ・コトがシェアされている。
http://chalievice.com/

           
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