アヴェンタドール SVJの進化をサーキットで試す|Lamborghini
CAR / IMPRESSION
2018年10月16日

アヴェンタドール SVJの進化をサーキットで試す|Lamborghini

Lamborghini Aventador SVJ|ランボルギーニ アヴェンタドール SVJ

ランボルギーニの最新フラッグシップ

アヴェンタドール SVJの進化をサーキットで試す

2018年8月に発表された、ランボルギーニの新フラッグシップモデル「アヴェンタドール SVJ」。限定モデル「アヴェンタドール SV(スーパーヴェローチェ)」を上回る、パワフルなV12エンジンと最新のアクティブエアロダイナミクスシステムを採用し、ニュルブルクリンク北コースにおいて市販車最高記録も樹立している。そんなアヴェンタドールファミリーの最高峰をサーキットで試す機会を得た大谷達也氏が、その進化を確かめた。

Text by OTANI Tatsuya

パワーだけが見どころではない高性能モデル

「アヴェンタドール SVJ」はランボルギーニの新しいフラッグシップモデルだ。排気量6.5リッターの自然吸気V12エンジンはランボルギーニの量産V12エンジンとしては史上最強の770hp/8,500rpmと720Nm/6,750rpmを生み出し、350km/h以上の最高速度と0-100km/h加速 2.8秒、0-200km/h加速 8.6秒、0-300km/h加速 24.0秒という途方もないパフォーマンスを達成。さらに驚くべきは、ニュルブルクリンク ノルドシュライフェで量産モデル最速の6分44秒97をマークしたことにある。つまり、アヴェンタドールSVJはただパワフルなだけでなくハンドリングも傑出して優れているのだ。

ランボルギーニはいかにしてこのSVJを作り出したのか?

まずエンジンは、テールパイプの位置をリアディフューザー内の低い位置からテールライトと並ぶ高い位置に移設してエグゾースト系の全長を短縮させることで背圧を低下。吸気系もインテークマニフォールドの形状を見直して吸気抵抗を低減しているが、なんといっても注目されるのは吸気バルブを従来のスチール製からチタン製に改めた点。これによって吸気バルブが軽くなり、カムシャフトの動きに素早く追従させることが可能になった。ランボルギーニの技術者たちはチタン製バルブのこの特性を活用して、吸気行程でバルブが開いている時間をできる限り長くとり、より多くの空気を燃焼室内に取り込むことに成功したのだ。

327-lamborghini-aventador-svj-22

327-lamborghini-aventador-svj-16

サスペンション関連では、スプリングレートはアヴェンタドールSV(SVJが登場するまではアヴェンタドール シリーズ最強だった限定モデル)と同一ながら、ダンパーの減衰率を平均で15パーセントほど引き上げたほか、アンチロールバーを50パーセント強化。タイヤの銘柄はアヴェンタドールSVと同じピレリPゼロ コルサながら、構造とコンパウンドを見直してグリップレベルを向上させたほか、限界域のコントロール性も改善したという。

しかし、アヴェンタドールSVJの最大の見どころはそのエアロダイナミクスにある。ランボルギーニが“ALA 2.0”と名付けたそのシステムは、あの「ウラカン ペルフォルマンテ」で登場した可変式空力システム“ALA”の改良版なのである。

Lamborghini Aventador SVJ|ランボルギーニ アヴェンタドール SVJ

ランボルギーニの最新フラッグシップ

アヴェンタドール SVJの進化をサーキットで試す(2)

空気の流れでボディをコントロールするALA

ALAの特徴がどこにあるかといえば、一般的な可変式空力システムで見られるウィング全体の角度を変更したり、フロントスポイラーの形状を改める方法ではなく、コンパクトなフラップ(整流板)を動かすことで空気の流れをコントロールし、これによってダウンフォースを増やしたり、ドラッグを低減したりすることにある。

たとえばリアウィングでは下面の後端付近に細いスリットを多数設置。このスリットに気流を導く過程に電子制御式のフラップを置くことで、スリットから空気を排出したり、逆に止めたりすることができる。ここでフラップを閉じてスリットから気流を排出しなければ、翼断面形状によってウィング下面の気流がウィング上面より速くなることでウィング下面の気圧が低下。つまりウィングの下面側がより真空に近づくことで下向きに吸い付けられる格好となってより大きなダウンフォースを生み出す。

いっぽう、フラップを開けてスリットから空気を排出すればウィング下面の気圧低下が抑えられてウィング全体に働く下向きの力は減少。つまりダウンフォースが減ると同時に空気抵抗も小さくなり、最高速度をより高めることが可能になるのだ。

327-lamborghini-aventador-svj-20

327-lamborghini-aventador-svj-14

ALAのもうひとつの特徴は、ウィング全体を動かすのではなくコンパクトなフラップの開閉によって空力特性を制御するため、ダウンフォースを左右で差がつけられる点にある。この結果、たとえばブルドーザーが左右キャタピラーの速度差で右に曲がったり左に曲がったりするように、ALAは空気の力で右に曲がったり左に曲がったりする力を生み出すことが可能になり、これによってコーナリング時のステアリング操作量を減少させ、タイヤの転がり抵抗を最小化してさらなる速度の伸びに結びつけている。

なお、ウラカン ペルフォルマンテのALA(ランボルギーニではこれをALA 1.0と呼ぶ)に対してALA 2.0ではスリットから吐き出される空気量がより平均化され、ALAの効果がさらに高まったという。

以上のように全身に最新テクノロジーをまとったアヴェンタドールSVJの走りはどうだったのか? 今回はかつてF1ポルトガルGPの舞台ともなったエストリルサーキットでそのステアリングを握った。

Lamborghini Aventador SVJ|ランボルギーニ アヴェンタドール SVJ

ランボルギーニの最新フラッグシップ

アヴェンタドール SVJの進化をサーキットで試す(3)

770psの猛牛を御す喜び

コースを走り始めると、ステアリングを通じて得られるフィーリングが従来よりも豊かになったことにまず驚かされた。最高回転数8,700rpmのV12エンジンが生み出すエグゾーストノイズはさらに刺激的になり、回せば文字どおり泣き叫ぶようなサウンドを周囲にまき散らす。エンジントルクは全域で力強くなり、吹き上がりもよりシャープになったように感じられる。

ずっしりと重い手応えのステアリングをコーナーに向かって切り込めば、ノーズはスムーズにイン側を向くものの、その動きは決して過敏なものではなく、リアタイヤの強固なグリップと相まって安心感は極めて強い。

そこからさらにコーナリングスピードを高めてもステアリング特性がいきなりリバースしてオーバーステアに転じることはなく、安定した弱アンダーステアを保つ。もっとも、タイヤのグリップが限界に近い状態ではスタビリティコントロールが介入してこの弱アンダーステアを守っているらしく、スロットルペダルをさらに強く踏み込んでもその安定した姿勢は正確に維持される。この辺は、ドライビングスキルの点で明らかにプロのレーシングドライバーに劣る私にはむしろ扱い易い特性と感じた。

327-lamborghini-aventador-svj-06

327-lamborghini-aventador-svj-24

とはいえ、アヴェンタドールSVJはただ管理されたコーナリングフォームを守るだけではない。たとえばドライビングモードを“スポルト”に切り替えればスタビリティコントロールはテールスライドをいくぶん許容してくれるようになるが、この設定で限界的なコーナリングを試しつつ、コーナー出口が近づいたところでスロットルペダルをすっと戻せば、リア荷重が減少することで後輪がアウト側に軽く流れ出してニュートラルステアからオーバーステアに近い姿勢を作り出すこともできる。こうしてスロットルペダルでコーナリングフォームをコントロールすれば、770hpの猛牛を御した満足感に天にも昇るような喜びを味わえるはずだ。

このような操縦性は、これまでのアヴェンタドールではあまり味わえなかったものだが、ランボルギーニのエンジニアリングを統括するマウリツィオ・レッジャーニ氏は、「アヴェンタドールSでデビューした4WSシステムとALA 2.0により基本的な安定性がさらに向上したことでスタビリティコントロールの制御性が高まり、このような制御が可能になりました」とその理由を説明してくれた。

V12エンジンの官能性と傑出したシャシー性能を味わえるアヴェンタドールSVJ。その価格は5,154万8,373円だが、生産台数は全世界で900台に限定されており、残念ながらすでに完売に近い状態だそうだ。

080507_eac_spec
Lamborghini Aventador SVJ|ランボルギーニ アヴェンタドール SVJ
ボディサイズ|全長 4,943 × 全幅 2,098 × 全高 1,136 mm
ホイールベース|2,700 mm
トレッド 前/後|1,720 / 1,680 mm
最低地上高|115 ±2 mm
重量|1,525 kg
重量配分 前:後|43 : 57
エンジン|6,498 cc 60°V型12気筒 DOHC 48バルブ
圧縮比|11.8±0.2 : 1
ボア×ストローク|95 × 76.4 mm
最高出力| 566 kW(770 ps)/ 8,500 rpm
最大トルク|720 Nm/ 6,750 rpm
最高エンジン回転数|8,700 rpm
トランスミッション|7段ISR
駆動方式|4WD
サスペンション 前|プッシュロッド システム付きホリゾンタル磁性流体ダンパー
サスペンション 後|プッシュロッド システム付きホリゾンタル磁性流体ダンパー
ブレーキ 前|φ400×38mm カーボンセラミック ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|φ380×38mm カーボンセラミック ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前/後|255/30ZR20 / 355/25R21(ピレリPゼロ コルサ)
最高速度|350 km/h以上
0-100km/h加速|2.8 秒
0-200km/h加速|8.6 秒
0-300km/h加速|24.0 秒
100-0km/h減速|30 メートル
前後重量配分|43 : 57
最小回転半径|5.75 メートル
燃費(NEDC値)|19.6 ℓ/100km(およそ5.1km/ℓ)
CO2排出量|452 g/km
燃料タンク容量|85 リットル

           
Photo Gallery