ゼニアが仕立てたマセラティのためのシルクシート|Maserati
Maserati Quattroporte|マセラティ クアトロポルテ
Maserati Ghibli|マセラティ ギブリ
ゼニアが仕立てたマセラティのためのシルクシート
マセラティとエルメネジルド・ゼニア。イタリアが世界に誇る、ふたつのラグジュアリー ブランドがふたたび手を組んだ。あらたに仕立てたのは、特製のシルク地シート。クアトロポルテとギブリの2台に乗り、北イタリアはマッジョーレ湖畔から小川フミオ氏がレポートをお届けする。その座り心地はいかに。
Text by OGAWA Fumio
スーツ2.5着ぶんのシルク
高級車のシートといえばレザー。でもそれは本当だろうか? 歴史をさかのぼると、戦前の高級セダンでは、シルクやベロアが主流だった。レザーは運転手が乗る席のもの。耐候性はいいけれど、ごわごわしてつるつるして肌触りが敬遠されたからだ。そんな高級車のオリジンが復活したようなシルクシートをマセラティが実現させた。
マセラティが、高級紳士服地などで知られるエルメネジルド・ゼニア社と共同開発したシルクシート。「この話がゼニア社のエルメネジルド・ゼニアCEOから持ち込まれたとき、この男、頭がどうかしている、とおもいました」。そう笑うのは、マセラティ社のハラルド・ウェスターCEOだ。2人の経営責任者が、北イタリアはマッジョーレ湖畔の高級リゾートホテルに顔を揃えたのは、両社が「画期的」と胸を張るシルクシートのプレゼンテーションのためだった。
「シルクシートは、かつて我が社が買収したシルク服地のメーカーが持つ技術を磨いて作りあげたものです。シルクはいい素材です、手ざわりもいいし、光沢にも高級感があります。服地以外にも使えないかと考えて開発を進めました。シートにはスーツ2.5着ぶんのシルクが必要です。もちろん普通のシルクとはちがいます」
ゼニアCEOが背景を説明する。それを受けて、ウェスターCEOが、シート地は現代の基準をクリアするものだと補足する。かつて高級車のシルクシートは耐久性に乏しく、使っているうちに裂けてしまった。それゆえ贅沢なのだけれど。さすがに現代のクルマでそこまで蕩尽を求めるわけにはいかない。
くわえて、日光への耐久社、マイナス30度から50度を超える高温でも傷まず、乗員のからだを支える安全性も重要な要素だ。それはすべてクリアした、とウェスターCEO。「かつレザーより汚れに強いのです」とつけくわえた。
では実際の座り心地はいかなるものだろう。マセラティは、マッジョーラ湖畔からミラノ郊外へ、ハイウェイと山岳路を組み合わせたテストコースのために、「クアトロポルテ」と「ギブリ」を用意してくれた。
Maserati Quattroporte|マセラティ クアトロポルテ
Maserati Ghibli|マセラティ ギブリ
ゼニアが仕立てたマセラティのためのシルクシート (2)
ヘリンボーン模様のシルク地
マセラティとゼニア社が共同開発したシルクシートが用意されるのは、ギブリとクアトロポルテという、2台の高級セダンである。現在、この2台には、通常のレザーと、その上にポルトロナフラウ社のソフトなタッチのレザーが用意されている。シルクシートはその上に位置するオプションになるという。
302kWの3リッターV6を、4.9メートルの車体に搭載したギブリ Sは、1,000万円を超える価格にふさわしく、余裕あるサイズと高級感あるインテリアを特徴とする。シルクシートは、レザーと組み合わされ、前席と後席に備わる。レザーは3色用意されていて、シルクはバックレストと座面の中央部に使われ、こちらはダークのみ。
マセラティが限定発売して人気を呼んだマセラティ クアトロポルテ エルメネジルド ゼニア リミテッド・エディションでは、手触りのよい専用ファブリックがレザーと組み合わされていたが、その時のファブリックがシルクに置き換わったとイメージしてほしい。
シルク地は「服地とおなじではいけない」とゼニアCEOが言うように、ネクタイやスカーフのなめらかなシルクとはちがう。もっと硬くて、繊維のかんじがある。シルクの中央部分が縦方向にヘリンボーン模様となっているのは「強度を保つため。ヘリンボーンは通常の3倍の密度で織るので耐久性が高いのです」とゼニアCEOが説明してくれた。
ギブリ Sは、静止から100km/hまで5秒しかかからない、スポーツカーなみの加速性能を有する。快適で安逸な雰囲気が室内にはあるけれど、そのじつ速い。ちょっと昔の表現を使うと、羊の皮を被った狼である。高速道路では周囲のクルマが停止しているような速度で疾走できるし、カーブが連続する山道では、ひらりひらりと気持ちよく曲がれる。それゆえ、ベストな場所は後席でなく運転席だと知れる。
ちなみに、全長でギブリより約30cmも長いクアトロポルテでも、ドライビングを楽しむ人のためのクルマという個性は共通している。ギブリ Sのスポーティなキャラクターを堪能するために、シルクシートはぴったり合ったのである。
Maserati Quattroporte|マセラティ クアトロポルテ
Maserati Ghibli|マセラティ ギブリ
ゼニアが仕立てたマセラティのためのシルクシート (3)
永遠の課題
シルクシートは、最初はイメージが先行してエルメスのスカーフのようなものを期待していたが、実際は、さきに触れたように、ダークな色合いで、手触りも粗いかんじだった。しかしそれゆえ、スポーツドライビングによく向いていると、走り出してすぐわかった。
シルク部分は、座面がしなやかにたわみ、バックレストも同様に、乗員の背中を支えてくれる。かつ粗いかんじゆえ、乗員のからだを滑らせないでホールドする機能を果たす。ワインディングロードでも、やさしく、しかししっかりと、身体を支えてくれる感覚はレザーと明らかにちがう。
座っているあいだは、からだに覆われて、シルクシートの存在を忘れるかもしれないけれど、体験してみれば、日本では100万円ほどのオプションになるともいわれるこのシルクシートの真の価値が理解できるはずだ。しかも「シルクシートだ」と言えることは、マセラティのオーナーにとって大いなる喜びになるはずだ。
マセラティではこのシルクシートを秋に発売。日本市場にも年内に導入されるといわれている。同時に、これから発表されるSUVのレバンテにも同様のシルクシートのオプションが用意されるという。性能を考えると、スポーティなモデルにぴったりなので、不思議ではない。ひょっとしたらこれから、高級車の世界の主流になるかもしれない。
他社の状況はご存知ですか? ゼニアCEOはその質問に対して「技術レベルでは同様のメーカーがあるかもしれません」と認めた。
ただし言葉を継いで「これをコピーすることはできないでしょう。マセラティとの組み合わせがあるからこそ、天才的なアイディアとして実現したのです」と述べた。
他社との差別性。これはあらゆる自動車メーカーにとって永遠の課題だ。マセラティはシルクシートでもって、ひとつ大きくリードしたといえる。2015年で101周年を迎えたマセラティと、1910年創業のゼニア社というふたつのイタリア老舗企業が、あたらしいものを作りあげた。伝統とは革新の連続の上に成り立つ、という言葉があるが、まさにぴったりではないか。
Maserati Ghibli S│マセラティ ギブリ S
ボディサイズ│全長 4,970 × 全幅 1,945 × 全高 1,485 mm
ホイールベース│3,000 mm
トレッド前/後│1,635 / 1,655mm
重量│1,950 kg
エンジン│2,979cc V型6気筒ツインターボ
圧縮比│9.7:1
最高出力│302 kW(410 ps)/5,500rpm
最大トルク│550 Nm/1,650 rpm
オーバーブースト時|500 Nm/1,750-5,000rpm
トランスミッション│8段オートマチック
駆動方式│後輪駆動
タイヤ 前/後|235/50 R18 / 275/45 R18
トランク容量|500 リットル
燃料タンク容量│80リットル
0-100km/h加速│5.0 秒
最高速度|285 km/h
燃費(JC08モード)│7.3 km/ℓ
Maserati Quattroporte GT S|マセラティ クアトロポルテ GT S
ボディサイズ|全長5,270 × 全幅1,950 × 全高1,470 mm
ホイールベース|3,170 mm
トレッド 前/後|1,635 / 1,645 mm
重量│2,030 kg
エンジン│3,799cc V型8気筒ツインターボ
圧縮比│9.5:1
最高出力│390 kW(530 ps)/6,700rpm
最大トルク│710 Nm(72.4 kgm)/2,000 rpm(オーバーブースト時)
トランスミッション│8段オートマチック
駆動方式│後輪駆動
タイヤ 前/後|245/40 ZR20 / 285/35 ZR20
トランク容量|530 リットル
燃料タンク容量│80リットル
0-100km/h加速│4.7 秒
最高速度|307 km/h
燃費(JC08モード)│11.8 km/ℓ