Nicolai Bergmann×Chico Shigeta対談(後篇)|自然をツールとして“表現”するということ
Nicolai Bergmann×Chico Shigeta エキサイティング対談
自分らしく、リアルに生きるという提案(後篇)
一番のプライドは、仕事をつづけてきたなかでの成長 (1)
フランス発のオーガニックブランド「SHIGETA」を主宰するChico Shigeta(チコ・シゲタ)さんと、デンマーク出身のフラワーアーティストNicolai Bergmann(ニコライ・バーグマン)さん。マッサージからはじまった対談では、Nicolaiさんの作品づくりへの思いにChicoさんは深く納得。後篇では、Nicolaiさんの作品の根底にある美意識についてのトークが繰り広げられた。
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Photographs by JAMANDFIXText by YOSHIDA Kei
「自然のままだとサプライズがない──僕の仕事は自然をツールとして“表現”をすること」
Chico インスタレーションのように、作品を通して伝えたいテーマはありますか?
Nicolai ケースバイケースですね。展示会なのか、ホテルのロビーに飾られるのか。僕はクライアントの希望に合わせて“花を作る”ことが好きなんです。フラワーボックスも、もとはクライアントにプレゼンしたものだし。
Chico なるほど。では作品のなかにある、変わらない本質的なものとは?
Nicolai 本質とは変わっていくものだと思っています。ブーケを作る基本は変わらないけれど、そこに組み合わせる自分の感覚は20代、30代、40代と歳を重ねるにつれ変わっていくでしょう?
Chico そうですね。でも、たしかにNicolaiさんらしさを作品から感じます。
Nicolai デンマークで生まれて22年過ごし、日本で14年暮らしていますから、自分らしさという意味では、そのふたつの文化のコンビネーションは僕しかもっていないものだと思います。
Chico たとえば、どんなところがデンマーク人らしいなと思いますか?
Nicolai 日本の生け花では、花そのものの美しさを愛でます。たとえばシンプルに1本だけ生けたり。デンマークというよりヨーロッパでは、自然のままの花が愛されます。たとえば葉っぱを少しとって、そのまま生けたりとか。
Chico でも、Nicolaiさんは自然のままの状態よりも、花をさらに美しく見せている。
Nicolai 自然のままだと誰も驚かない。サプライズがないでしょう? 僕の仕事は自然をツールとして“表現”をすること。だから、たとえば目の前にある花を、頭の部分だけ残して切っちゃうようなこともします。長い茎はいらないから。日本人にとっては「もったいない」ことかもしれないけれど、僕にとっては花のもっとも美しい部分を扱っているだけのことなんです。
Chico じゃあ、あまり枝っぷりが良くないコがいたら? その枝を生かす、それとも切る? むしろ使わない?
Nicolai 良くない部分を切ったりして、見栄えの良いように直して使います。それに、単体だとあんまり良くなくても、集合で見せれば美しくなることもあるし。
Chico おもしろいですね。それでは、なにをどう表現するかというアイデアはどこから出てくるんですか?
Nicolai やはり自然を眺めるうちに……でしょうか。あとはインテリアデザインや建築からもインスパイアされることもあります。隈 研吾さんとか、日本の建築家の作品からも影響を受けていますね。それは現代建築でも伝統建築でも。
Chico そういったものの蓄積が、いざ表現するときに引き出されてくるのでしょうか?
Nicolai そうなんだと思います。素材と向き合ったときに、自然と湧いてきたデザインがすごく好き。デザインは絞り出すものではないと思うから。
Chico ということは、良い意味でのハプニングで作品ができあがっているということ?
Nicolai はい。花のかたちや色を見てピンときて、作るだけ。
Chico すごい。素材同士の最良の出合いを、最高のかたちで活かしている感じですね。
Nicolai あまり意識はしていないですけどね(笑)。
「どんなときも基本が重要。基礎工事をしっかりしないと、家だって倒れてしまう」
Chico Nicolaiさんの作品って、つくづくサプライズに満ちているなって思います。花の選びかたと組み合わせ、花と枝のあいだにある空気まで作品の一部。ほかのひとがやらない手法や素材の組み合わせがまた、美しい。それって、あらたな“美しさ”を生み出していることでもあると思います。
Nicolai でも、やっぱり一番大切なのは基本だと思うんです。いま現在も、立ち止まることなく作品を作りつづけていられるのは、基本をしっかり学んだから。花のことを熟知しているから、素材選びも早いですし、その特徴も活かせるんです。
Chico その基本のうえにNicolaiさんらしさが積み重なっていく。
Nicolai そう。少しずつ少しずつね。自分のスタイルっていうのは、すぐに確立されるものではないですから。
Chico ピカソみたいですね。基本をしっかり学んだうえで、あんな斬新なクリエイションが生まれる。ある意味アカデミックな気もします。ところで、Nicolaiさんが“美しい”と感じるものってなんですか?
Nicolai 花でもひとでも、自分にとって“良い気”を感じさせてくれるものは好きです。
Chico あ、わかります! 自分が“良いな”“美しいな”と思うものに囲まれた生活って心地よいですから。
Nicolai それはインテリアにも言えることですね。
Chico おうちも素敵でしょうね!
Nicolai こだわってますよ。部屋の家具はすべてデンマークのものです。しかもアルネ・ヤコブセンのエッグチェアとか、1960年以前のデザイン。僕は流行りのものではなく、いつまでも色褪せないデザインが好きなんです。
Chico デンマークの友人が、「ここでは冬が長くて家にいる時間が長いから、空間づくりにはこだわるんだ」と言ってたのを思い出しました。そうなんですか?
Nicolai そうですね。冬が長いだけでなく、太陽が出ている時間自体が短いから。
Chico カルチャーと気候がつながっているんですね。そういった好きなものや美しいものに囲まれて暮らすことが、Nicolaiさんの美意識とインスピレーションを維持しているんでしょうね。
Nicolai そうだと思います。
Chico 今日はお話させていただいて、お仕事ぶりも拝見して、作品を見ていただけではうかがえなかったNicolaiさんの生き方が見えた気がしました。なんというか、人生の土台みたいなものも。
Nicolai 土台は大切ですからね(笑)。基礎工事をしっかりしないと、家だって倒れてしまうでしょう。どんなときも基本が重要なんです。スタッフにもいつも言っています。「ここでいくら美しい状態でもダメ。お客さまが袋に入れて、食事をしてから家に帰って、袋から出したときにもおなじ状態で美しくなくちゃいけない」と。
Chico 美しいものに対するオブセッション。
Nicolai 自然のオブセッションかな。
Chico なるほど。あ、そうだ。Nicolaiさん、“我慢という言葉が好き”ってなにかのインタビューで仰ってましたけど。
Nicolai 言っていましたね。でも、きっとそれは20代の頃を言っていたんじゃないかな。そのときは、まさに我慢して山を登っていた感じ。
Chico ただ、ただ耐えてがんばっていた?
Nicolai そう。本当に自分のなかでプライドをもっているのは、いままでの成長なんです。この1年や2年でできたものじゃない。花の仕事を志したときからの積み重ねなんです。それが、僕の一番のプライドです。
Chico 納得です。今日のお話、おなじ自然のものを扱う者同士ということで、すごく刺激になりました。まだまだ自分は甘いな(笑)。今日からまた、気合い入れ直してがんばります!
Nicolai がんばりましょう(笑)。ありがとうございました。
──自然を相手とするふたりが植物のもつパワーについて語った
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