永富千晴インタビュー|この秋のフレグランストレンド
フレグランス特集|永富千晴インタビュー
この秋のフレグランストレンド(1)
例年にないフレグランスの豊作シーズンとなった2010年秋。ウィメンズは、カルバン クライン、エミリオ・プッチ、クロエなどファッションブランドのフレグランスがぞくぞくと登場し、メンズでは、シャネルから11年ぶりとなる新作や、ブルガリ初のアンバサダーを起用したフレグランスなど大型の新作が出揃った。また今春、日本フレグランス協会が10月1日を「香水の日」と制定。「第1回 日本フレグランス大賞」の発表を控えますますフレグランスへの関心が高まっている。そんな2010年秋のフレグランスのトレンドとはどのようなものなのか──。自他共に認めるフレグランスマニアである美容家の永富千晴さんに話を聞いた。
文=OPENERS
写真=鈴木健太
香りのトレンドはその時の時代性とリンク
――こうやってズラッと並べてみると、本当に充実していますね。ひととおり試してみて、いかがですか?
どのブランドもすごく個性的というか、それぞれに癖がある気がします。ウィメンズは去年、どこに行ってもローズ系のフレグランスばかりでしたけど、そこからは抜け出しましたよね。たとえば、おなじフローラルノートでも、どんなフローラルなのか細分化されています。それって、女性の生き方にリンクしていると思うんです。似たり寄ったりの流行だったのが、みんな全然ちがう個性をもっている時代になってきたというか。
――香りのトレンドはその時代の女性像とリンクしていると。
そう、生き方に反映しますよね。だから、今年の香りはどれも個性的。今は媚びる時代じゃないから、女性は好きな香りを身にまとって自己主張しなさいと言われている気がします。たとえば、今ってタイプのちがうひとたちが一緒にいることって当たり前になってきたじゃないですか。おなじカテゴリーに属していなくても生き方に共感できて、お互いに認め合える関係というか。最近までまわりを見渡したらみんなクロエのフレグランスをつけていましたというような現象がつづいていましたけど、そういうのはもうおしまいにしましょうっていうブランド側からのメッセージという気がしますよね。
フレグランス特集|永富千晴インタビュー
この秋のフレグランストレンド(2)
自由に個性を主張するウィメンズフレグランス
――けれど、個性的なものばかりだと選ぶのが大変なのではないでしょうか?
確かに「私はこういう雰囲気」とか「こういうふうになりたい」とか「こういうスタイルだからこういうものが似合う」とか、自分のイメージやテーマが決まっているひとは、それにハマるものをひとつ選べばいいけれど、それがないひとは選びにくいかもしれないですね。でも、スタイルの分ぶんだけフレグランスがラインナップしているので、何個かピックアップして比べてみたりしても楽しいと思います。
――たとえば、タイプ分けをしてみると……?
「ビューティ」(カルバン クライン)は白シャツが似合いそうなシンプルエレガントな女性、「ミス プッチ」(エミリオ・プッチ)は男性ウケもいい女性らしいひと、「フォーハー」(ナルシソ・ロドリゲス)は男性に媚びなくて女性ウケするタイプ、「シャリマー」(ゲラン)は神秘的な女性、「キサスキサスキサス」(ロエベ)は、ピンヒールが似合うイイ女系のひととか(笑)。
――たしかに、いろんな女性像ですね(笑)。では別の視点で、今年らしいと思ったものってありました?
今年っぽさで言ったらダントツで「プレイフォーハー」(ジバンシイ)ですね。これまでの香水でこの形状はありえなかったですよね。持ち歩くときには絶対にアトマイザーを使っていたのに、携帯電話みたいに鞄に入てれ持ち歩けるし、クルマにポンと置いていても絵になるし、フレグランスの概念を変えたと言っていいと思います。それと、メンズの「ブルー ドゥ シャネル」(シャネル)。これは香りの使い方がとても今年らしいですね。いままでだったら後ろのノートに使用していた香りをあえて前に出してきているんです。実際につけてみると、つけたての印象と時間をおいてからの印象がかなりちがって、二面性がありますよね。そして、メンズだけど女性がつけてもかっこいいという点。それも時代をあらわしている気がします。
フレグランス特集|永富千晴インタビュー
この秋のフレグランストレンド(3)
メンズフレグランスは香りの中性化が進行
――たしかに、メンズのフレグランスはどれも女性がつけてもおかしくない香りという印象です。
そうでしょう。「No11」(D&G)は、トゲがなくて高感度の高い香りですし、「MAN」(ブルガリ)は清涼感のあるオリエンタル系で、どちらも軽やか。メンズのフレグランスって、昔はすごく男くさくて、香りでメンズ商品ってわかったけれど、どんどん中性化している気がします。そういう意味では、男女の境界線がないというのがメンズフレグランスの今年っぽさなのかもしれないですね。
――それも時代をあらわしていると思います?
そう思います。草食ブームもそうですけど、いままでいい意味で男性らしかった層が、特別に頑張っている感じに見えてしまう時代というか。個人的には、それには大反対なんですけど(笑)。高級車に乗って、高い時計して……というのが男性のステイタスにならなくなってしまったら、極論、フレグランスはつけないほうがかっこいいってなってしまうでしょう。絶対にそんなの駄目! と声を大にして言いたいですね。でも、メンズアイテムを普通につけられる女性が増えたのも時代性だと思います。いまの女性って、男のひとより生き生きしているし、強いし、自由ですよね。だから、「ブルー ドゥ シャネル」が“自由”って言っているのもなんとなくわかるんです。いまは女性が自由すぎるから、男性陣もっと頑張れ的な(笑)。
――ということは、自由になりすぎてしまって、結果バラけたのが今年のウィメンズのフレグランストレンド?
あはは! たしかに。でも選ぶ楽しさがあるのは良いことだ思いますよ。香りって、その時に選ぶものによって姿勢までも変えてくれるじゃないですか。香りで気持を落ち着かせるとか、集中力を高めるとか、気持ちを奮い立たせるとか……。たとえば私は、トゲトゲした香りはつけないようにしているんですよ。強くなりすぎてしまうので(笑)。
――そんな永富さんは何を使っているんですか?
ナルシソ・ロドリゲスの「フォーハー」です。私はムスク好きなので、これはドハマりでした。じつは、去年の暮れにおなじ香りのフレグランスオイルを使ってすごく気に入って、「これでフレグランスはないですか?」って聞いたら、そのときは日本には上陸していないと言われてしまったんです。それでやっとこの秋日本上陸。待ち遠しかったー! フレグランスって、いろいろと試すうちに「MY香水」みたいなのもでてくるかもしれないけれど、私にとっては経過していく自分のようすを楽しんでいくための1本なんです。とくに今年は個性派揃いなので、みなんさんにもそういう視点で楽しんでほしいですね。今の気持ちでこれを選んだら、このときはこうだったっていう自分が、きっと鮮明に思い出せると思うんです。