Truefitt and Hill|トゥルフィット&ヒル|モニターレポート|名畑政治(時計ライター)_Vol.2
トゥルフィット&ヒル モニターレポート
名畑政治(時計ライター)_Vol.2
堕落紳士、“究極の快楽”に出会う(2)
トゥルフィット&ヒルのグルーミング・グッズを使っていて、ふと思い出したのは、数年前に手に入れた一冊のメンズ・ファッション本だった。そのぶ厚い一冊の本は、なんとグルーミングからメンズ・ファッションの心得が説き起こされていた。
写真と文=名畑政治
身だしなみこそ紳士の条件
ここに350ページ以上にも及ぶ一冊のぶ厚い本がある。それが『Gentleman Fashion 紳士へのガイド』(ベルンハルト・レッツェル著 飯泉恵美子訳 クーネマン刊)。1999年にまずドイツで出版され、2001年に日本語版が登場したこの本の最初の章(序文等を除く)が「ひげの手入れ」。次が「ヘア」。そして「下着」、「ドレスシャツ」、「ネクタイ」と順次、服飾品に論を進めるという体裁を取っている。
この本を手にしたとき、なによりも驚いたのは「ひげの手入れ」が冒頭に紹介されていることだった。しかも、「家庭でのひげの手入れ」、「理容店にて」、「上手なウェットシェービング」というように、紳士にとってのヒゲのあり方と手入れ方法を懇切丁寧に解説し、章の最後を有名ブランドのフレグランスとパフュームの基礎知識で締めくくっているのにも仰天した。
つまり著者であるレッツェル氏(ドイツの服飾ジャーナリスト)は、紳士は、まずその土台から整えなければならない、と説くのである。
これまでにも、紳士の服飾についての名著は数多い。たとえばワタシが尊敬するアメリカの服飾デザイナー(というよりスタイリストか?)、アラン・フラッサー氏の著書に『CLOTHES AND THE MAN』(1988年刊。邦題は『アラン・フラッサーの正統服装論』だが絶版)があるが、その最初の章はメンズ・ファッションがエレガンスを極めた1930年代スタイルの解説となっており、ヒゲやヘアの手入れについては、とりたてて章は設けられてはいない。
ま、これは見解の相違というものであろうが、ワタシとしてはレッツェル氏のセンスに最大級の讃辞を贈りたい。なにしろワタシは前回でもご紹介したとおり、大学時代からクラシカルなシェービングマグとT字レザーでウェットシェービングに凝っていた者。
また、その後は神保町の古書店で「KOKEN BARBER'S SUPPLY COMPANY」という米国セントルイスの理容用品メーカーが19世紀末に発行したカタログの復刻版を手に入れ、そこに紹介されたクラシカルな理容椅子や美しく彩色されたシェービングマグなどを眺めてうっとりしていた床屋グッズ・マニアであるからして、ヒゲやヘアの手入れを重視するファッション本は、まさに我が意を得たりの一冊なのである。
したがってトゥルフィット&ヒルのグルーミング・グッズを手にしたとき、英国の伝統を継承するシェービングマグやシェービングブラシの存在感に、たまらない魅力を感じたことは言うまでもない。
アイテムに息づく英国の伝統
そんなトゥルフィット&ヒルのアイテムの中で、特に心を捕らえたのは、同社を代表する香りのひとつである「トラファルガー」のコロンだった。そのブルーの液体は、しっとりとした感触のスモークガラスの小瓶に入れられ、大海原を思わせる爽やかな青のトーンと、ラベルとキャップにあしらわれたゴールドのマッチングに魅了された。
この「トラファルガー」という香りは、その名の通りイギリスがフランス・スペインの連合艦隊に大勝利を収めた「トラファルガーの海戦」にちなむという。「トラファルガーの海戦」とは、1805年10月21日にスペインのトラファルガー岬の沖で繰り広げられた海戦のこと。
そして、この歴史的海戦の大勝利と共にロンドンに誕生したのが“世界最古の理容店”と呼ばれるトゥルフィット&ヒルであり、この運命的な符号にちなんで生み出されたのがフレグランス「トラファルガー」だったのである。
“勝利”をイメージした爽やかな香り
このコロンを吹きかけて、最初に立ち上るのはスパイシーなシトラス(柑橘系)の香りである。それが時間の経過と共に和らぎ、やがてやや甘みを感ずるラベンダーなどのハーブ系に変化。さらにそれを過ぎるとサンダルウッド(白檀)を主体とした落ち着きと清潔感に溢れた香りへと移っていく。
これは気に入った! 男の香りというと動物系のくどい香りを連想される場合が多いようだが、ワタシには「トラファルガー」のようにサッパリしているほうがいいし、気分が落ち着く。かといって、この香りは決して印象が弱いわけでもなく、車の芳香剤のような安っぽさは微塵もないので、大人の男のフレグランスとしてもってこい。
そして、これは前回の繰り返しになるが、コロンだけでなくアフターシェーブバームなども同じ香りが用意されている点を高く評価したい。
統一感がパフィームの命?
これならコロンだのクリームだのローションだのを付けるたびに香りが変わってしまってゲンナリする、なんてことがない。
よく「男のファッションは色を絞り、最大3色に納めるべし」なんてことを言う人がいる。ワタシは決してこの論に与しない。好きな色を好きなだけ取り入れ、それを着こなすことこそが男の気概だと思っているが、こと香りに関しては可能な限り統一感を持たせたいと思う。その意味でもトゥルフィット&ヒルのスタイルを断然支持するわけで、これからも長くつきあい続けていきたいと考えているのである。