モニターレポート|松尾健太郎(世界文化社『MEN’S EX』編集長)_Vol.1
Beauty
2015年3月10日

モニターレポート|松尾健太郎(世界文化社『MEN’S EX』編集長)_Vol.1

トゥルフィット&ヒル モニターレポート

松尾健太郎 世界文化社『MEN’S EX』編集長_Vol.1

ウェットシェービングにチャレンジしてみる

あまりのカッコよさに、勝手に“人生の師”と仰いでいる山野エミールさんが、イタリアのサンタ・マリア・ノヴェッラに続いて、またもやヨーロッパ屈指の老舗を日本に紹介するというので、楽しみにしていた。今度は英国ロンドンのセントジェームズストリートに位置する、世界最古の理髪店。その名をトゥルフィット&ヒルという。まったく聞き覚えがないけれど、山野さんセレクトなら間違いはない。きっとグッドセンスで、ワクワクするような店に違いない。

文=松尾健太郎写真=関 夏子

春4月、願ってもない話が舞い込んできた

しばらくして送られてきたプレスリリースには、1805年から続くという同店の輝かしい歴史が紹介されていた。世界最古の看板は伊達ではなく、歴代の顧客リストにはチャーチルやオスカー・ワイルドも名を連ねている。かのタイタニック号の乗船客にも愛用者は多く、タイタニックがサルベージされた際には、同店の商品もごっそり引き揚げられたという。
リリースにはトゥルフィット&ヒルが現在展開している様々なグルーミングアイテムも載っていた。オーデコロン、アフターシェーブ、シェービング・クリームなど、ちょっとクラシックな意匠が施された、煌びやかなボトルが並んでいる。

「こんなの使ってみたいなー、でも高いんだろうなー」と涎を垂らしているところへ、願ってもない話が舞い込んできた。ウェットシェービングのセット一式を提供するから、使った感想を聞かせて欲しいというのだ。これぞ棚からボタ餅。「はい、喜んで!」とふたつ返事で引き受けてしまった(で、コレを書いているんですね……)
とはいうものの、ウェットシェービングという行為自体、実はほとんどしたことがない。

ウェットシェービングは床屋でしてもらうものであり、自分でするものではなかった。私の世代(現在42歳)から下は、自宅ではほとんどが電気カミソリなのではないだろうか。数少ないウェット派も、スプレー式のシェービングフォームを使っているはずだ。ところがトゥルフィット&ヒルの製品は、昔ながらの泡立て式である。

選んだのは「1805」というシリーズ

一抹の不安を抱えつつ、セットの到着を待っていると、大きなダンボールいっぱいのグルーミング・グッズが送られてきた。T字カミソリやシェービング・ブラシ、専用クリーム、ソープなどがぎっしり詰まっている。いずれも自ら所有するのは初めてだ。カミソリもブラシも、手にしてみるとずっしりと重い。いかにも「高級」な感じで、ミーハー編集者は嬉々としてしまう。
そしてあたりに広がる麗しき香り。トゥルフィット&ヒルには4種類の香りが基本となっていて、そのそれぞれに様々なアイテムが揃っている。

今回私があらかじめ選んでおいたのは「1805」というシリーズ。最もオリジナルに近い香りだというが、とても複雑でモダンな感じがする。トップノートはちょっとロードゥイッセイに似ている。聞けば、時代に合わせて少しずつレシピを変えているのだという。
新しいモノを手に入れたら、試さずにはいられないのが編集者の性(さが)。さっそくウェットシェービングにチャレンジしてみる。まず肝心なのはヒゲを柔らかくすること。ヒゲというのは非常に硬いもので、乾燥した状態だと銅線と同じくらいの硬度があるそうだ。そこでヒゲに水分を含ませ、できるだけ柔らかくして、剃りやすくしなくてはならない。そのために蒸しタオルをあてるのだ。

ところがこの蒸しタオルというヤツを、家庭で作ろうとするとなかなか厄介だ。蒸し器に湯を沸かし、タオルを入れて蒸すのはいかにも手間がかかるし、熱湯を用意するのも面倒くさい。迷った末に、蒸タオルは無視することにした(山野さん、スミマセン……)。その代わりシャワーを浴びた。私は毎朝必ずシャワーを浴びるので、その直後にシェービングするようにすれば、ヒゲも柔らかくなっているはずだ。

泡立てるのが、なかなか難しい

次にブラシを使ってシェービング・クリームを泡立ててみる。シェービング・クリームとシェービング・ソープがあるが、クリームのほうが肌に優しいそうだ。(しかしスタイリッシュさでは、木製のケースに入ったソープが勝る。いずれこっちにシフトしたい)。
ボウルがないので、手のひらに少量のクリームを取り、ブラシの先に蛇口から出るお湯をつけて、シャコシャコやってみる。粘りのあったクリームはすぐにびしゃびしゃになり、あたりに一面に白い泡沫が飛び散ってしまう。水分が多すぎたらしい。

今度はお湯の量を減らしてもう一度トライ。細かい泡は立つものの、ふわりとしたクリーム状には程遠い。闇雲にまわすだけでなく、斜めにして空気を含ませるようにホイップしてみるが、あまり変わらない。延々やっていたがそのうち手首が痛くなってきたので、途中で諦めることにした。

ブラシは肌に直角に当てて、円を描くように塗りたくる。ブラシの毛はアナグマ製が最高で、コシがある上に先が細く、毛穴の中の汚れをかき出すのだそうだ。独特の肌触りがくすぐったくも心地よい。ブラシの毛が細かいからか、塗りつけるとややクリーム状になり、それなりの感じに仕上がる。

シェービングの大きな楽しみを実感する

顔中に塗り終えたら、いよいよT字カミソリの出番だ。ハンドル部分はトゥルフィット&ヒルのオリジナルだが、ブレード部分はジレット製となっている。だから替え刃はどこででも手に入る。三枚刃タイプでいかにも切れ味鋭そうだ。

一度目はカミソリを毛並みと同じ方向に動かし剃る。また剃る際、空いたほうの手で皮膚を引っ張るようにする。そうしないと肌を痛めるそうだ。私の場合、右のモミアゲ→左のモミアゲ→下あご→上あご→鼻の下の順番だ。何かで読んだのだけれど、こういった時の人の所作というのは、無意識に決まっているらしい。風呂で体を洗う順番とか、人それぞれ決まっており、いつも同じだそうだ。

二度目はより深く剃るために、毛並みと逆に動かす。慣れてくると指先でハンドル部分をくるりと回転させて、順目と逆目を一気に剃ることができるようになる。シェービングの大きな楽しみのひとつとして、上達を実感できるということがある。

一度洗顔した後、剃り残しをチェックする。つい剃り残してしまうのは、鼻の穴のすぐ下の部分。鼻の下を思い切り伸ばして、慎重に剃る。ついでに頬の上部分や眉毛の間も剃る、私は放っておくと眉が繋がりフリーダ・カーロのようになってしまう。

再度洗顔したら、タオルドライして、仕上げにアフターシェーブ・ローションをつける。多めに手にとって、頬にパンパン叩きつける。強めの刺激が心地よい。アフターシェーブのひりひりとした刺激を楽しめるのは、男性の特権だ。アレは含まれているアルコール度数が高いからだそうだ。

シャワーを浴びてから、ここまでの所要時間は、私の場合きっかり4分30秒。予想していたよりずっと短い。使い終わった用具の手入れも簡単だ。カミソリもブラシも水で洗って、吊るしておくだけでOK。これなら毎朝の習慣として続けられそうだ。

何より、終わった後の爽快感が違う。頬の感触もツルツルで、電気カミソリと比べると明らかに深剃りが効いている。思わず顎に手を当てて「ウーン、○○ダム」とやってしまいそうだ。

今日現在で、ウェットシェービングを始めてから、二週間ほど経った。シェービングは私の生活のなかに、習慣としてすっかり根付いた。面倒くさがりやの私が、こうも病み付きになってしまうとは、トゥルフィット&ヒルの魅力恐るべし。次回はトゥルフィット&ヒルを使ったシェービングを続けるなかで気づいた、様々ないいこと=「シェービングの○(マル)」についてお伝えします。

松尾健太郎さんのブログ
BEST DRESSER’S RECON
MEN’S EX編集長が出会ったベストドレッサーたち

http://blogs.yahoo.co.jp/mens_ex_sekaibunkasha

トゥルフィット&ヒル

           
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