トレッキング特集|KIKIインタビュー 「トレッキングは私にとってのリセットボタン」
トレッキング特集|KIKIインタビュー
「トレッキングは私にとってのリセットボタン」 (1)
小さなころから自然が大好きで、トレッキングにもすぐに魅了されたというモデル・女優のKIKIさん。最近も、忙しい仕事の合間を縫っては山に登っているそうです。その理由は、フラットな自分にもどれるから──。今回、カリフォルニア州にある「セコイア国立公園」と「ヨセミテ国立公園」から帰ってきたばかりの彼女に、自然の魅力、そしてトレッキングの楽しさについて語ってもらいました。
Text by OPENERS
Photo by JAMANDFIX
登るたびに、行きたい山がどんどん増えていく
――トレッキングをはじめたきっかけを教えてください。
4年前くらいに、友人に誘われて八ヶ岳に登ったのが最初です。ちょうどトレッキングが流行りはじめていたころですね。そのときは1泊2日の山小屋泊で八ヶ岳を縦走しました。
――はじめての山で、一番印象深かったのは?
一緒に行った友達との出来事とか、山小屋で過ごした時間とか全部なんですけど、一番感動したのは景色ですね。八ヶ岳っていくつかの山が連なっているんですけど、そのなかに「赤岳」という山があって、そこからの眺めが本当にすばらしかった。東京から特別に遠いわけでもなく、数時間で麓に到着して、そこから自分の足で歩いて……それでこんなにもすばらしい景色に出会えるんだということに驚いたのを覚えています。そこまで自分の足で歩いてきたっていう達成感も大きかった。エレベーターやエスカレーターで簡単に行けてしまったら、印象に残らなかったと思います。
――また行きたいという気持ちにさせたのは何だったと思いますか?
うーん、山に限らずに言えることなんですけど、たとえばその先につづく道だったり、そこから見える別の山だったり、登るたびに、行きたいところがどんどん増えていくんです。いまでもそう。山に行けば行くほど、一度行った山に季節を変えて行ってみたかったり、もっとその先に行きたかったり。キリがないんです(笑)。
――どのくらいの頻度で登っているのですか?
今年はちょっとおかしくて(笑)、日本、海外ふくめて月2~3本は登ってるんじゃないかな。取材や撮影もふくめてですけれど、それでも、2回に1回はプライベートで行っています。
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「トレッキングは私にとってのリセットボタン」 (2)
山に登ると、心がフラットにもどれる
――山選びのポイントは?
いまは、行ったことのないところのほうが多いので、いろんなところに行きたい。
けれど、あえてポイントを言うなら“長く楽しめるところ”でしょうか。先日、カリフォルニアの「セコイア国立公園」と「ヨセミテ国立公園」に行ってきたんです。樹齢何千年っていう巨木が残る“原始の森”があるところで、自然の迫力が本当にすごかった。観光地にもなっているのですぐ歩ける距離にあるんですけど、とにかく国立公園自体が端から端まで何時間ってかかるような広いところで、森のなかを1日かけて歩いたりもできるんです。最近、木や森にすごく惹かれていて、そういう意味では、屋久島もすごく好き。森がとっても豊かですよね。日本人って、すごく頂上志向が強いように感じるんですけど、私はどちらかというと、頂上を踏んで満足するタイプではなくて、ずっとずっと歩いていたいと思うんです。
――具体的にお薦めの山はありますか?
うーん……、日本の山って登山道が頂上を通っている場合が多いんですよね。しいて言うなら、北海道の礼文島。そこは、そんなに高い山はなくて、細長い島をずっと海沿いを歩いていくような感じです。端から端まで歩いたら丸二日くらいかかると思います。個人的には、北海道の景色自体が本州とは全然ちがうし、海を見ながら歩くっていうことが普段のトレッキングとはちがうシチュエーションですごく楽しかった。
――トレッキングをはじめて、ご自身に変化はありました?
以前よりも丈夫になったし、体力もついていると思います。でも、逆に出かけすぎて疲れていることも(笑)。精神面で最近実感しているのは、自然と繋がっている時間が増えたことで、余計なことに惑わされないフラットな自分でいられることでしょうか。
――フラットな自分?
なんでも受け入れられる気持ちというか……。たとえば、自然のなかにいくと、雨が降ったり、虫がいたり、それには抗えないじゃないですか。でも、普段の生活だと何かしら解決方法があるはずと思って諦められない、いろんなことに対して、すごく無理をしてしまう自分がいたんです。でも最近は、無理をしなくなったし、そういう自分を受け入れられるようになった。それと、時間の使い方も上手になった気がします。何かをするべき時間と、何もしない時間のメリハリ。それまでの自分って、けっこういっぱいいっぱい動いていて、暇な時間が嫌いだったんです。何かをしてないと時間がもったいないと思ってしまうというか。でも、山に行くと、雨が降って動けないときって待つしかないんですよね。できないときはしない、寝るなら寝る、休み時間は休むっていう山での思考が、普段の生活にも活きている気がします。
――KIKIさんが山に登りたくなる瞬間は?
仕事がつづいたりすると、それだけで「あ~どこか行きたい」という気持ちになりますね(笑)。山に登ると、心がフラットにもどれるんです。それによって、また街での時間も充実したものになる。
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「トレッキングは私にとってのリセットボタン」 (3)
“シャツ登山”にハマっています
――ウェアや小物にこだわりは?
ウェアは毎回すごく悩むんですよね。いま、ハイテクなものがたくさんあってすばらしいんですけど、最近、逆に不便なものでもいいんじゃないかって思う自分もいます。たとえば、冬にフリースじゃなくてセーターを着ちゃうみたいな。昔のひとはそれで登っていたわけだから、昔ながらのスタイルって自然に合っていると思うし。
――では、今日のコーディネートにいて教えてください。
じつは最近“シャツ登山”にハマっているんです。シャツだと長袖でも涼しいし、日焼け対策にもなるので便利なんですよ。薄手の素材ならすぐに乾きますし。それでも万が一というときのためにハイテクなアウターを1枚持って行けば充分です。みんなには、山に行くときのスタイル意外と地味だよねって言われるんですけど、最近カラフルなものを着ているひとが多いので、小さな抵抗(笑)。もちろんカラフルなウェアもそれはそれでかわいいけれど、私はちがう方向でいこうかなって思って。
――お薦めの小物も持ってきていただきましたが、見せていただけますか?
まずは、手ぬぐい。日本アルプスを世界に紹介したウォルター・ウェストン氏を偲ぶ祭り「ウェストン祭」というイベントが毎年、上高地で開かれてまして、その記念手ぬぐいです。最近手に入れました。そしてこれも最近アメリカで仕入れたカップ。カップと水筒はつい欲しくなってしまって、行った場所で買ってしまうので、いっぱいあるんです(笑)。そしてナイフ。これは「オピネル」というフランスのナイフなんですけど、なにかと便利で持ち歩いています。財布はかわいくてひと目惚れして買いました。それとお気に入りなのが、カメラのストラップ。ここには名前入りで「天と地のあいだ」って書いてあるんです。山には必ずカメラを持って行くのですが、いつもストラップに困っていたんですよね。これはメッセンジャーバッグのストラップとおなじ機能なので、キュッと締めて背負ったり、カチッと取り外しもできるので便利なんですよ。
――そういえば、写真も撮られるんでしたね。
もともと好きで撮っていたんですけど、山に行くようになってから撮る機会が増えました。すごく印象的なトレッキングだったりすると、自分で撮った写真で写真集を作るんです。1枚の写真がどうだってことではなくて、その時の時間を1冊に込めたいって気持ちがあって作っています。
――最後に、KIKIさんにとってトレッキングとは?
フラットな自分にもどることのできる「リセットボタン」。
――ありがとうございました。
KIKI|キキ
モデル・女優。武蔵野美術大学建築学科在学中からモデル活動を開始。雑誌やTVCMなどの広告、連載などの執筆、ラジオのパーソナリティやアートイベントの審査員など多方面で活動中。著書に『LOVE ARCHITECTURE』(TOTO出版)。