MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル インタビュー
MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル
INTERVIEW with MARGARET HOWELL
シンプルな服を着ることに自信があるひとが着ています
2010-11秋冬コレクションの展示会が終わって、恒例となっているスタッフミーティングのために来日したマーガレット・ハウエルさん。「日本には1年に2回来ています。日本とロンドンのデザインチームはお互いを行き来したり、コミュニケーションも良好なので、毎回来日が楽しいですよ」という彼女に、多忙ななか、メンズ服をつくる理由についてうかがった。
文=オウプナーズ写真=原恵美子
マーガレットさんが男の服に感じる魅力とは
──今回は主にメンズについてうかがいますが、マーガレットさんは男の服のどこに魅力を感じていますか?
私は、メンズにかんしては、「どのようにつくられているのか」という実用性からスタートしています。デコラティブ性より実用性に興味をもっていたんですね。スカートをつくるにしてもメンズの服を参考にしていました。スーツもトレンチーコートもシャツも、クラシックなものから現代的なものに仕上げていくという点もメンズに惹かれる理由です。アイデアが膨らんでいくんです。
──ものづくりのときに描く男性像などはありますか?
父は、スーツを着てロンドンへ出勤し、帰ってくるとシャツを着崩したり、ガーデニングシャツを着ていたり、カジュアルな服装もよく見ていたので影響を受けているかもしれません。また、自分が通っていたアートスクールでは、ペンキがついても平気で、動きやすい服を着ていたイメージがあります。1970年代にロンドンで流行っていたトラディショナルな感じが好きですが、それは伝統的すぎて硬いイメージなので、それに実用性をもたせるのが私のスタイルです。
──さきほどから実用性という言葉が出てきますが、マーガレット・ハウエルのメンズをより深く理解するための「キーワード」をいくつか教えてください。
難しい質問ですね。私は自分の好きなことや刺激を受けることをカタチにしていくスタイリストであり、デザイナーであり、メーカーでもあります。まず、自分が欲しいデザインを実現するために、いい素材を選ぶこと。
そして──そうですね、究極を言ってしまえば、クオリティの高い素材で、カジュアルで動きやすいことがキーワードです。それを突き詰めていくと、シンプルな服を着ることに自信があるひとが着ているブランド、服ともいえるでしょう。でもシンプルだけじゃなくて、ディテールやスタイリングに遊び心をくわえるのもキーワードのひとつ。メンズは、ちょっとしたギミックをくわえることでフレッシュなスタイルになるのです。
MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル
INTERVIEW with MARGARET HOWELL
シンプルな服を着ることに自信があるひとが着ています
シンプリシティとは、すべての過程を経た結果に純粋に生み出された生産物
──マーガレット・ハウエルは“シャツ”のイメージがありますが、マーガレットさんが好きなアイテムは?
シャツもジーンズもカシミヤも大好きです。真剣だからこそひとつには決められません。「マーガレット・ハウエル」は、私がフリーマーケットでステッチの効いたキレイなストライプで自然な風合いの良さのあるコットンシャツと出合ったことが原点ともいえるし、父親のガーデニングシャツも、私が学校へ着ていったコットンのシャツやメンズ用の丈の長いカーディガンもいまでも大好きです。
──さらにブランドには“シンプル”というイメージもありますね。
家具も雑貨も、もちろん服も、シンプルなモノはそのデザインに辿り着くまでに試行錯誤があり、ときにまちがいもあります。シンプリシティとは、すべての過程を経た結果に純粋に生み出された生産物なのです。
──「長く着られる」というのもキーワードのひとつでしょうか?
そうですね。素材を重視してつくっているので、捨ててしまうのはもったいないこと。コレクションでは、メンズもウィメンズも、前のシーズンと今のシーズンのモノを合わせて着こなせるように考えています。私は、本当に必要なものだけに囲まれて暮らしたい。本当に少ないワードローブしかもっていないんです。コマーシャル的じゃないんですよ(笑)。
MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル
INTERVIEW with MARGARET HOWELL
シンプルな服を着ることに自信があるひとが着ています
1年にひとりとコラボレーションする「マーガレット・ハウエル プラス」
──マーガレットさんは、おなじ英国人のポール・スミスさんやナイジェル・ケーボンさんと交流もあるとお聞きしていますが、彼らの服やデザイン哲学と共感・共鳴する部分はありますか?
3人ともタイプはぜんぜんちがうし、哲学について話し合うことはありませんが、ひとつ言えることは、デザインに情熱をもっているし、ハードワーカーです(笑)。それぞれに難しい過程があって、生産に行き着くまでにすごい労力をつかっていることを自覚しているのが共通点でしょう。ポール・スミスのノッティンガムのショップにはシャツを置いてもらっているんですよ。
──3人とも英国の工場をとても大事にしていますね。
工場で働くひとが好きだし、工場で働くことが好きなひとと組むことも大切なんです。
──今シーズンから「マーガレット・ハウエル プラス」というあたらしいコラボレーション・レーベルをスタートさせますが、このレーベルをはじめるきっかけは? そして第1回にケネス・グランジを選んだ理由は?
ケネス・グランジは、世界的な工業デザイナーで、じつにたくさんの製品を世に送り出したイギリス人です。マーガレット・ハウエルの海外のショップでも彼がデザインした「アングルポイズ TYPE3」というライトを販売しています。実際に彼に会う機会が増えていくなかで、彼は80歳なんですが、製品は広く知られているけれど、名前はあまり知られていないことから、今回のコラボレーションを考えました。
コラボレーションから生まれたシャツは、彼に「どんなシャツが着たい?」と聞いて生まれたスタンドカラーのミニマムなタイプで、そのままだとマーガレット・ハウエルらしさが足りないので、ペンポケットを付けたりして完成しました。
──1年にひとりとコラボレーションしていくんですね?
そうですね。その予定です。2011年? まだ誰にも内緒です(笑)。
──それでは最後に、マーガレットさんにとってモノをクリエイトすることはどういうことでしょうか?
小さなころから手でなにかをつくる、絵を描くことも大好きでした。私にとってのモノづくりとは、既存の精神を壊していってあたらしいものを創り出していくことです。
──ありがとうございました。
Margaret Howell|マーガレット・ハウエル
1946年イギリス・サリー州生まれ。69年にロンドンのゴールドスミス・カレッジを卒業後、ペーパーマッシュのハンドペインティッドビーズやハンドニットのベレー帽などのアクセサリーの制作を開始。その後、フリーマーケットで出合ったシャツにインスパイアされたメンズシャツを発表。70年から主にメンズの服づくりをスタートさせ、77年にはロンドンにショップをオープンしウィメンズコレクションを発表。99年、渋谷区神南に初のライフスタイルショップをオープンし、2009年3月にリニューアルオープン。
アングローバル
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