2015 ミラノサローネ 最新リポート|Molteni&C
Molteni&C|モルテーニ
特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2015
ミラノに歴史を刻むモルテーニの80年と現在、そして未来へ(1)
今年度のミラノサローネでもっとも話題性に富んでいたのが「Molteni&C(モルテーニ)」だ。80周年の節目を迎え、ミラノ市内3ヶ所で大々的にプレゼンテーションがおこなわれた。1200平方メートルに広がるブースを構えた見本市会場、市内のショールームにくわえ、19〜20世紀のアートコレクションを集めるミラノ市近代美術館内に、モルテーニの歴史的なコレクション48点が並んだ。ミラノのデザイン史に名を刻むモルテーニの価値を改めて示すとともに、“メイド イン イタリー”をけん引する企業としての力強いメッセージを発信した。
Photographs by Daniele DAINELLIText by KATSURA Kumi(TOL STUDIO INC.)
革新的なアイデアを世界に発信してきた80年
ミラノサローネ開幕の前日、ミラノ市近代美術館(GAM)でプレス発表会がおこなわれた。会場となった美術館は、春の訪れに緑がそよぐ公園の敷地内に建つ、18世紀末の由緒ある建物にある。その館の厳かな中庭に、突如巨大なふたつの真っ赤なシンボルがあらわれる。「モルテーニ」を世界的に有名にした、アルド・ロッシの名作であるロングセラーチェアー「ミラノ」と、モルテーニの80周年を驚きと賞賛をもってあらわすシンボルとなった“!”マークのオブジェだ。
ミラノ市近代美術館は、単にブランドとしてではなく、歴史的、記録的な意味をもつこのプロジェクトに同意し、館内にモルテーニコレクションを招き入れるかたちで、今回はじめてサローネプログラムへの参加を決めた。19〜20世紀の絵画を中心としたグラッシ・ヴィズマラ・コレクションが290点が並ぶ10の展示室に、ミラノのデザイン史を象徴する史料ともいえる、モルテーニの歴史的作品が対話するかたちで展示されている。
モルテーニは、この80周年の展示プロジェクトをプロダクトデザイナーのジャスパー・モリソン氏に一任。イタリアの建築・デザインの父と称されるジオ・ポンティの本棚のディテールをかたどったという純粋かつ本質的な形状の展示台に、厳選されたモルテーニグループの名作が、常設の展示空間と作品のバランスを崩すことのないよう並ぶ。長い歴史をつなぐだけでなく、モルテーニの産業的ノウハウを継続していくという目的で「正確に選定をサポートできる第三者が必要だった」と、モリソン氏にプログラムを任せた背景について、3代目フランチェスカ・モルテーニ氏は説明する。
展示は、ジオ・ポンティのコレクションと、同時代に描かれたパブロ・ピカソの作品の対比にはじまり、イタリアの建築家、アルド・ロッシやジャン・ヌーベルなどの名作が時代を追ってあらわれる。過去のアートの変遷を紐解きながら、“時代”というフレームで進化を表現するイタリア的なアプローチが見えてくる。
1934年、ミラノの北に位置し、“メイド イン イタリー”が誇る木材家具産業の一大集積地であるブリアンツァのジュッサーノ市にモルテーニは誕生した。もうひとりの三代目のジュリア・モルテーニ氏は「ブリアンツァという場所にモルテーニの成功の秘訣があった。大工であった祖父がおこなってきた生産にかんする調査を進めるなかで、私たちのDNAを再発見することになった」と語る。
モルテーニは、創業者のアンジェロ・モルテーニが職人工房を立ち上げた後、40年代には、いち早くシリーズ生産体制を整え、50年代になると従業員200人を抱えるヨーロッパのリーダー企業に躍進した。60年代には、一大家具メーカーに成長し、70年代にはすでにデザイン製品に特化し、コントラクトをスタートさせている。モルテーニの歴史を振り返ると、その製品のみならず、イタリア企業としての戦略的なビジョンと、革新的なアイデアを世界に発信し続けてきたことがわかる。
ミラノ市近代美術館でのこの展示会は、2015年6月30日まで開催される。展示会終了後は、ジュッサーノ市にあるモルテーニ本社内ギャラリーに移され、企業ミュージアムとして公開される。
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特集|ミラノサローネ国際家具見本市 2015
ミラノに歴史を刻むモルテーニの80年と現在、そして未来へ(2)
歴史に刻まれた名品と今日的解釈の先に
ミラノサローネ見本市本会場での展示も、80周年のアニバーサリーイヤーにふさわしい豪華なものになった。1200平方メートルを超える大きな会場のブースには、“今日的に住まう”をテーマにした数々の新作が発表され、同時に建築・デザインの巨匠の名作にもスポットが当てられた。
入口では、宇宙に浮かぶ彫刻のようなインスタレーションが出迎える。球体という意味をもつ「SFERA(スフェラ)」という名のロン・ジラッド氏デザインのテーブルだ。音楽的でありながら止まっているかのような、ダイナミックでありながらコントロールされているかのような、フォルムに目を奪われる。相反する要素が共存させながら、すべてはあらかじめ決められていたかのような調和の取れた作品は、四次元の世界を想起させる。
大きなサロンを占めるのは、スタジオ・ハンス・ウェッツスタインによる「REVERSI XL(リバーシ XL)」。2014年度のサローネで人気を博した「REVERSI ‘14」に比べ、奥行きが112cmにまで広げられた。アームもゆったりとして、クッションにも最高峰の技巧が息づき、空間にラグジュアリー感をもたらす品格がある。モジュール構成になっており、素材によるパーソナライズをくわえながら、さまざまな空間のニーズに応えることができる。
また、展示ブースには新作と同時に、イタリアデザインの巨匠による名作が並んだ。ジオ・ポンティ氏のローテーブル「D552.2」やアームチェア「D154.2」、ジャン・ヌーベル氏の本棚「Graduate」などが共存し、時代を超えて継承されるモルテーニの技術力を感じさせる優美な空間が生まれていた。
さらに、モルテーニとインテリアデザイナーのパトリシア・ウルキオラ氏の継続的なコラボレーションから、あたらしいラグコレクションが誕生した。スペイン人のデザイナーによって、モルテーニの全商品に特徴づけられた価値が、クリエイティブに解釈されたあたらしいラインナップで、天然素材を手編みすることで生まれた3種のラグは、ブランドのもつ洗練されたシンプルさとエレガンスさとのハーモニーを生み出している。
これらの新作をはじめ、時代を超えて共存するモルテーニの揺るぎない技術力の高さが生む品格と、デザイン史を飾るデザイナーとの歩みによって創造されたモルテーニ製品の今日性を感じることができた。プレゼンテーションを通して、過去から今日、そして未来をつなぐ揺るぎないメッセージが込められていた。
こうしたモルテーニのスピリットは意外に身近な場所でも感じることができる。精力的に海外展開を進めるモルテーニは、今年1月29日にはシンガポール、3月14日には東京・南青山に旗艦店をオープン。内装をパトリシア・ウルキオラ氏が手がけた南青山の旗艦店では、ジオ・ポンティの幾何学模様を取り入れたガラスの間仕切り「Gio Ponti Screen(ジオ ポンティ スクリーン)」や、京都の光明院の丸窓から見た美しい景色に着想を得たという高さ7mにも及ぶ壮大な「Wooden Wall(ウッド ウォール)」を目にすることができる。オリジナルのモルテーニのスピリットが、日本のコンテクストに反映された、あたらしい魅力をもつ空間が生まれている。
MOLTENI&C TOKYO|モルテーニ 東京
営業時間|11:00~19:00
定休日|水曜・祝日
東京都港区南青山6-4-6 Almost Blue B棟 1F
Tel. 03-3400-3322
http://www.molteni.jp/