新作「ラナ」開発秘話インタビュー|STOWA
STOWA|ストーヴァ
孤高のウォッチビルダーとデザインの巨匠のコラボが実現
ドイツの老舗ブランド、ストーヴァの新作「ラナ」(1)
ドイツの老舗ブランド「STOWA(ストーヴァ)」から新作がリリースされた。この新作「ラナ」は、プロダクトデザインの巨匠ハルトムット・エスリンガー氏とのコラボレーションで実現したモデル。エスリンガー氏といえば、1980年代のアップル創生期のデザインを担当したことでも知られるデザイン界の重鎮だ。その夢のコラボレーション実現までの経緯と商品の開発秘話を緊急来日したストーヴァCEOのヨルク・シャウアー氏にうかがった。
Text by KAKIHARA Takayoshi(OPENERS)Photographs by KISHIDA Katsunori
未知なるウォッチデザインへの挑戦
――時計ファンには、なじみの深いストーヴァですが、あらためてどんなブランドかをご説明ください。
ストーヴァは、ドイツで1927年に誕生した時計ブランドです。第二次世界大戦時には、A.ランゲ&ゾーネ、グラスヒュッテ・オリジナルとともにドイツ軍に正式採用されていました。しかし、スイスと同様にドイツの時計産業も1980年代のクォーツショックの影響を受けて、ストーヴァは休眠することになります。
――2004年、そのストーヴァをCEOであるシャウアーさんが復興させたわけですが、そのきっかけとなった経緯は何だったのでしょうか。
私が生まれたのは、スイスの国境に近いドイツ西南部の都市フォルツハイムでした。実はストーヴァは、この街で誕生した時計ブランドだったのです。私は、バウハウスのデザインに強く影響を受けていましたし、ストーヴァにもそんな共通項を見いだしていました。そんなとき、偶然に知り合いを通じてブランドを譲り受ける機会を得たのです。
――ブランド再興に関して、苦労したことは、どんなことですか。
まず、ブランドのDNAを検証することからはじめました。古い傑作モデルをとにかく手に入れました。そうすることでストーヴァの体系や哲学を学ぶことができました。
――ストーヴァの新作「ラナ」のデザインを務めたエスリンガーさんとは、いつごろからコンタクトが始まったのですか?
エスリンガーさんと連絡を取りはじめたのは、3年前の2012年のことでした。当初は、お仕事をお願いするというよりは、実際にお会いしてみたいというおもいが大きかったですね。
まずアメリカにあるフロッグデザインのエスリンガー氏に手紙を出しました。実は私の父はドイツの家具のデザインをしていて、かつてエスリンガーさんとお仕事をしていました。私もエスリンガーさんが主宰するデザイン・コンサルティング会社「フロッグデザイン」の前を幼い頃、通学したことを思い出しました(笑)。その後、Eメールを何度もして、お互いにドイツのフォルツハイムのことやデザインの話などで盛り上がっていきました。
――はじめてお会いしたときの感想は、どうでしたか。
エスリンガー氏がドイツにお見えになったときに2~3時間、私の工房ではじめてお会いすることができました。とても貴重なお話ができて、学ぶことが多かったですね。そこで、「誰も作ったことのない腕時計を作ろう」と意気投合したわけです。
STOWA|ストーヴァ
孤高のウォッチビルダーとデザインの巨匠のコラボが実現
ドイツの老舗ブランド、ストーヴァの新作「ラナ」(2)
――商品名の「ラナ」とは、どんな意味があるのでしょうか。
「rana(ラナ)」は、ラテン語で蛙という意味です。もうおわかりですね。フロッグデザインの社名にちなんで名付けられました。お互いに意見を出し合ってデザイン案を検討。プロトタイプをいくつもドイツからアメリカに送りました。そうしていくうちに、デザイン案は集約されていったのです。
――「ラナ」の特徴的なポイントをいくつか教えてください。
文字盤のインデックスを見てください。5分おきに配置されたアワーマーカーが時計回りに少しずつ大きくなっていくのは、おわかりでしょうか。時間の流れを文字盤で表現しました。「ダイナドット」と名付けたインデックスは、ダイアルのドット部分をレーザーで抜いて表現しています。
――なるほど、文字盤上に数字がないにもかかわらず、時間がひと目でわかるんですね。
そうなんです。次世代のバウハウスデザインにもチャレンジしました。もっとも苦労したところは、ケースでしょうね。デザイン案をもとにケースのサンプルを作った結果、二層構造にすることでこれまでにない均整のとれたデザインにすることができました。
――しかし、これは制作にとても手間のかかるケース構造だったのではないでしょうか。
そうですね(笑)。世の中にない時計を作るわけですから、とてもチャレンジングな試みでした。とてもシンプルなデザインに見えるのですが、いままで見たことのないデザインやディテールを発見していただけるとおもいます。
――ところで、裏蓋がシースルーになっていますが、とても変わったムーブメントが搭載されていますね。
今回特別にドイツのマニュファクチュールブランド「ミューレ・グラスヒュッテ」からムーブメントを供給してもらいました。ウッドペッカー緩急針を持つ独特のメカは、ずっと眺めていたくなるほどです。
――今回デザイン界の巨匠、エスリンガー氏とタッグを組んでみていかがでしたか。
さまざまな制約を回避し、これまでにないアイデアと情熱に膨大な時間を費やしましたが、多くのみなさんに楽しんでいただけるあたらしいデザインに仕上がったとおもいます。おなじブラックでも、世の中には本当に数多くの黒があります。そうしたなかから厳選に厳選を重ねた色、形をチョイスして完成したのが、この「ラナ」なのです。この質感を実際に多くのみなさんに体感してほしいですね。
ラナ
ケース|ステンレススチール
サイズ|H43×W37mm
ムーブメント|ETA-2824 クロノメーター認定 自動巻きムーブメント
パワーリザーブ|40時間
ストラップ|ラバー
防水性|10気圧
価格|62万6400円
Jörg Schauer|ヨルク・シャウアー
1968年生まれ。ドイツのフォルツハイムの学校で彫金師の専門教育を受け、宝飾加工と時計組み立ての技術を習得。その後、27歳で自らの名を冠した時計ブランド「シャウアー」を設立。現在に至る。
Hartmut Esslingen|ハルトムット・エスリンガー
1944年生まれ。フロッグデザイン創始者。1980年代から90年代初頭にかけて初期のアップル製品のデザイン「スノーホワイトプロジェクト」を支えたプロダクトデザイナーのひとり。そのほかソニー、ルフトハンザ、ルイ・ヴィトンなど多くの企業のデザインに貢献。
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