Twiggy(ツイギー)|Vol.7 髪とデトックス(後篇)
Beauty
2015年3月13日

Twiggy(ツイギー)|Vol.7 髪とデトックス(後篇)

Twiggy|ツイギー

Vol.7 髪とデトックス(後篇)

1990年から主宰するヘアサロン『ツイギー』で、各誌ファッション誌で、つねにモードの先端を提案しつづける人気ヘアスタイリスト・松浦美穂さん。そんな彼女が数年来抱いてきたプロジェクトが、実現しました。それは、自社で展開する“オーガニック系のシャンプー&トリートメント”。日々科学的な飛躍が目覚ましいコスメ業界において、モードの先端を行くひとが、なぜ「オーガニック」に注目しつづけてきたのか……この連載で、その秘密を紐解いていきます。

語り=松浦美穂まとめ=小林由佳

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ヘアスタイル、お米、シャンプー……松浦さんは今、さまざまなものを作り、生み出しています。それと同時に、音楽から伝統芸能まで日本の国内生産物に注目し、促進することにも力を注いでいるそうです。そして、これらに共通する生産、継承、再生に欠かせないのが、解毒=デトックス。今、これはモードに限らずあらゆるものに必要なことであり、時流そのものともいえます。

Q.前回お話しいただいたモデルたちのヘアチェンジは、従来のモデル業界にはなかった現象だったんですよね。

今はもう、“誰かがやってよかったから真似する”という時代ではないんですね。もちろん、TAOさんのあのヘアスタイルだって60年代や80年代に誰かがやっていた気もするのですが、ショートカットになったTAOさんの存在は世界中から注目を集め、外国人モデルもつぎつぎと髪を切りはじめました。今、ランウェイはショートカットのモデルが続出しているようです……ああいう決心をするモデルさんたちには勢いを感じますね。そして、モデルは社会に直結した被写体であり媒体であるわけですから、彼女たちがデトックスしはじめていることは、世界中がファッション業界を通じてデトックスしようとしているようにも見える……と言っても過言ではない気がするんです。

私たちがからだを作るためにお米を作るのも画期的なことではなく、こういう発想が生まれる時代になってきているんだと思います……政治も変わってきましたからね。去年は「チェンジ」という言葉がキーワードで、今年にかけていろいろとあたらしくなりましたよね? でも、まだ変わらなければいけない課題を残しているんじゃないか……私は、ヘアスタイルを見ていてもそう感じるんです。「何か」を変える。ヘアカラー、パーマ、前髪カット、いろいろな方法はありますが、「解毒」を目的とするのであればショートカット。「このままじゃいけない」をかたちにして「そこから何かをはじめる」と原点にもどって……私たちの“にわか農業”もそんなところのような気がします。

Q.でも……切るとなったらショート、なんですか?

ええ。デトックスが目的であればショート。ミディアムを選んだひとは、今年そんなに変わりたくなかったんでしょう。ショートにするっていうことは、何かをやめたいのにやめられない自分とか、切れたいけど切れない自分とか、そういうものに対して“自分で”ハサミを入れたんだと思います……へその緒を切るような感覚でしょうか。逆に「切りたくない」というひとは、今まだ何かを構築している最中なんじゃないでしょうか? 今現在とても流れが良いとか、この流れに乗っていたいとか……。それでほんの少し「エイッ」と思ったひとは前髪だけ切る、とかミディアムにするとか……。そんな風に感じました。

私がショートにしたひとたちのなかには、迷いながら切ったひとはひとりもいませんでした。何かが変わることを期待して髪を切りに来るひともいましたが、そういうひとたちも、やはり何かしら変わってきてるのではないでしょうか。切った後はみなさんスッキリしてますよ。ちゃんと「解毒」しているようですね(笑)。仕事で活躍しているひともいるし、切ったことを機会に自分の居場所を考え直したひとたちもいる。でも、自分の意思表示であり、自分の未来を見ているということは確実に感じています。

photo 宮原夢画 model SACHI

Q.松浦さん自身は、この時代になってファッションや流行のとらえ方が変わりましたか?

私はいつも髪の毛を通してファッションを読んでいます。ファッションというものは単発のパッションだと思います。パッションがなくなったら時代はつづかないし、パッションなくしてあたらしい時代は来ないから。ファッションはパッションにつながり、パッションはあたらしい時代をつくっていく源だと思ってます。数年前までは、「ファッションなんてくだらない」とか、「本当に欲しい服がない」とか、「世の中全体が不景気になりそうだから洋服買わない」と私自身感じたこともありましたが、それはさらに時代を悪くするものだと思いました。本当に不景気になったりファッションに行き詰まりを感じたときこそ、本当に「良いもの」を探すのです。「本物」を!
そしてそこに「お金」を落とさなくてはいけないのだと思います。また、作り手側ももう一度「真実」を見つめて生み出していかなければいけないのだと思います。「出産=デトックス」と解釈して、私も「シャンプー作り」に3年間もの年月をかけていました。そして「妊娠」から3年後の今年9月、「出産」しました。ひとりひとりが本気で考えてもう一度取り組めば、まちがいなくあたらしい媒体は出てくるし、あたらしい動きが見えてくるはずだと思います。あたらしいファッションの動きが必ず見えてくるはずです。

もうひとつ私が力を入れていることは、国内の自給自足をあげること。日本人のデザイナーの作品や歌、伝統……この数年間は、なるべく日本人が作っているものに注目しています。日本人の文化や作品は外国でももっと評価されるべき。そのためのアイデアも、ひとりひとりが考えていきたいですよね。

Q.デトックスというキーワードが、すべてに関わっているようですね。

そうかもしれません。今はデトックスを終えて何かをはじめている時代。お米づくりでいうなら田んぼを作り直すための土壌の見直し。髪の毛でいうなら、今生えている髪のデザインより、大事なのはこれから生えてくる毛。最後にデザインを完成させるためには、まず生えてくる毛を大事に育てる必要がありますから。食べ物もおなじ。農業をスタイルだけではじめて栄養価も考えず農薬を使って作っても、それを食べたところで体作りにはつながりません。「とりあえず農業が発展すればいいや」というのではなく、良い食べ物を作るということは、自分を作り子孫を残し、日本という小さな国が支えてきた文化を未来に継いでいくということ。――もちろん普段からそんな重っ苦しい考え方はしていませんが、それを考え方の延長線上において髪を切りたいという理想はあります。私にとってのお米作りは、自分たちのからだづくりです。そしてからだをつくるということは、その末端までも育てるということ。末端にある髪にまで気を配らなくちゃ美しいヘアスタイルは作れないし、そのヘアスタイルが完成しなければ、個性も生まれない、ということなんです。


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