特集|インド洋に浮かぶ理想郷|第3章「リゾートタイムに身を委ねる」
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2015年6月20日

特集|インド洋に浮かぶ理想郷|第3章「リゾートタイムに身を委ねる」

特集|もう一度リゾートを楽しみませんか?
あらゆる望みを叶えてくれる洋上の理想郷

第3章「リゾートタイムに身を委ねる」(1)

世界中のセレブリティを魅了する、究極の隠れ家リゾート「ジュメイラ・デヴァナフシ」。ここまでお伝えしてきたのは主に“ハード面”の話。だが、目的地がそのままホテルになるモルディブでは、“ソフト面”の話を抜きにして、ホテルの全容を語ることはできない。特に5ツ星ホテルでありながら「どこでも裸足でOK」というユニークなコンセプトを掲げるジュメイラ・デヴァナフシでの滞在は、私たちがイメージするリゾートの過ごし方を再定義するほど画期的なものだった。

Photographs by JAMANDFIXText by TANAKA Junko (OPENERS)

1時間のボーナスタイムが違いを生む

「もし時計をお持ちでしたら、針を(マーレ時間から)1時間前に進めてください。ジュメイラ・デヴァナフシでは、日照時間を少しでも長く楽しんでいただくために、リゾートタイムを採用しているのです」

カーデッドゥ空港で迎えてくれたスタッフは、開口一番そんな言葉を口にした。リゾートタイム(南の島時間)とは、モルディブの一部のホテルが採用しているシステム。太陽の光を求めてやってくるゲスト(主にヨーロッパからのゲスト)の希望に応えようと、ホテリエたちが思考を凝らして編み出した1時間のボーナスタイムである。

仮にマーレの日の出が朝6時、日の入りが夜6時だとすれば、朝10時に目覚めたゲストが太陽のもとで活動できる時間は8時間。これがジュメイラ・デヴァナフシのようにリゾートタイムを採用しているホテルでは、日の出が朝7時、日の入りが夜7時になり、朝10時に目覚めたゲストに残された日照時間は1時間延びて9時間になるという仕組みだ。

「たった1時間」とあなどることなかれ。1つの島にすべてが詰まった「1島1リゾート」スタイルのモルディブでは、車や交通機関を使って移動する必要がないため、このボーナスタイムを使ってできることは山ほどある。

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この桟橋を越えた先にスパ施設「タリサ・スパ」がある。ヨガスタジオのほか、トレーニングマシンを備えたスタジオ(1回60分の個人レッスンも)や、ジュメイラのシグネチャー・スパ(1回30分から)が私たちを迎えてくれる

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レッスンを率いるのは、フィリピン出身のインストラクター、エルマー・ムナーさん。ピラティスやフィットネスなど、スパ以外のプログラムをすべて一任されている凄腕だ

なかでもおすすめは、海を見ながらおこなうヨガ。いまや日本でもすっかり市民権を得ているため、定期的にレッスンを受けているという人もいるだろう。残念なのはその多くが大人数制で、自然から程遠い場所でおこなわれていること。そうすると、ヨガ本来の目的である「自然のリズムと一体になる」感覚を味わうことは難しい。うまくポーズを取ることに気を取られてしまいがちだ。

一方、ジュメイラ・デヴァナフシが提案するのは、体内時間をリゾートモードに切り替えるための、いわば「誘い水」としてのヨガ。舞台は洋上に建つスパ施設「タリサ・スパ」の一角。美しいインド洋を眼前に臨むスタジオだ。さらに、ゲストが希望すれば、砂浜や桟橋などもっと海に近い場所で屋外ヨガを体験することもできる。島一帯がスタジオに早変わりするというわけだ。

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ジュメイラのシグネチャー・スパ「タリサ・スパ」には、リンパの流れをよくする効果があるとされる「スウェーデン式マッサージ」から、アクロバディックな動きで凝り固まった心と体を解きほぐす「タイ式マッサージ」まで、普段の疲れをデトックスするのにぴったりのコースが用意されている。水上で「自然のリズムと一体になる」感覚を味わってみてはいかがだろうか

自分をニュートラルにするためのトレーニング

受付をすませて、甘酸っぱいオレンジの香り漂うスタジオに到着すると、15分間のオリエンテーションがはじまった。主に時間が割かれるのは呼吸法について。「鼻からたっぷり空気を吸い込んで、体全体に行き渡らせたら、腹筋を使って一気に口から吐き出す。この一連の動作を繰り返しながら、体を動かしていきましょう。ポイントは焦らないこと。そして周りと比べないことです。60分間、じっくり自分の体の声に耳を傾けてみてください」とは、インストラクターのエルマー・ムナーさん。

少人数制のヨガは、ムナーさんいわく「心地よいところを一緒に見つける作業」。そのためには「無理をしないことが大事」だという。オリエンテーションでも「体に痛みや不調はありませんか?」との問いかけに、右肩を痛めているメンバーがいることを伝えると「少しでも違和感を感じたらすぐに動きを止めてください。決して無理はしないでくださいね」と答えが返ってきた。レッスンがはじまったあとも「次のポーズは右肩に負担がかかるかもしれませんから、こんな風に変えてみましょう」と、別のポーズを提案してくれる。

インストラクターの目が行き届いている。それだけで安心感が何倍にも増すということを実感した。ほかの人の動きについていくこと、うまくポーズを取ることに気を取られていると、心地よさは二の次になってしまう。だが、ここでは無理をしないこと、自分のペースで体を動かすことがなによりも重視される。もちろん自分流にポーズを取っていたら、ムナーさんがそっと正しい方向に導いてくれるが、うまくポーズが取れているかどうかは二の次なのだ。

レッスンを終えたとき、まるで深く長い眠りから覚めたような心地よさを感じた。背中に羽が生えたような感覚とはこのことかと思ったほど。レッスンを受けたのはホテルに到着した日の午後。すっかりデトックスされた取材班の足取りが、そのあと驚くほど軽くなったことは言うまでもない。素直に感想を口にすると、ムナーさんはシャーマン(神の申し子)のような面持ちでこんな話を聞かせてくれた。

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フロントマネージャーのウォーリー・フェルナンデスさん。「普段は忙しくて自分のための時間が取れないという方にも、ジュメイラ・デヴァナフシでは、自分の心の赴くままに過ごしてもらいたい。そのためにあらゆる手を尽くすのがバトラーとわたしの仕事です」

「人間の頭は1日に約6万個という単位で、いろいろな考えが浮かんでは消えていきます。そんな頭をリラックスさせるための第一歩は、自分の呼吸にじっくり耳をすませること。頭にばかり集中しがちなエネルギーを、呼吸に耳をすませることや、体を動かすことに注いでみることです。そういう意味で、ヨガは自分をニュートラルにするためのトレーニングとして最適なんですね。普段の生活に戻ってからも、“忙しい頭”になってきたり、心がザワザワしてきたら、さっきの呼吸法を試してみてください。心にスーッと平穏が訪れるのを感じられると思いますよ」

ゲストはもとより、スタッフも虜にしているというムナーさんのレッスンは1回60分。嬉しいことに、2回分はコンプリメンタリー、つまり宿泊料に含まれている。体をすっきり目覚めさせる朝ヨガ「ライズ&シャイン」から、心身をリラックスさせて快眠へ導く夜ヨガ「リラックス&レジュベネイト」まで、さまざまなレッスンが用意されているので、体調や気分に合わせて選びたい。

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第3章「リゾートタイムに身を委ねる」(2)

“天然の水族館”で超巨大な海亀との出会い

そして「体内時間をリゾートモードに切り替える」という意味で、もうひとつおすすめなのがシュノーケリングだ。先述のヨガと同様、シュノーケリングも1回分(60分)のレッスンは宿泊料に含まれている。まだ体験したことがない人も、気軽に試してみる絶好の機会ではないだろうか。

バトラーに相談すると、毎週月曜と水曜、金曜の朝10時からレッスンが開かれているという。さっそく予約を取ってもらう。翌朝、朝食をすませた私たちは、その足で「ベスト・ダイビング・センター」に向かった。ここにはプロのダイバーが常時3〜4人駐在していて、ゲストのレベルに応じて指導してくれる。

ラッシュガード(日焼け防止や、ケガを防止するために身につけるマリンスポーツ用のウェア)を身につけ海へ。例のごとく、レッスンはオリエンテーションからスタートする。ヨガのときと異なるのは、シュノーケリングでは口だけで呼吸をすること。いわゆる“口呼吸”と“耳抜き”(水圧で中に押し込まれた鼓膜を、鼻をつまみながら呼吸をして元の位置に戻すこと)をマスターしなければならない。マスクとシュノーケル(水中で呼吸ができるようにするための用具)を装着し、浅瀬で何度かその練習を繰り返したあと、フィンをつけて体を水に浮かせながら口呼吸と耳抜きをするのが第二ステップだ。

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今回指導に当たってくれたのは、海の男という言葉がぴったりのモルディビアン、アーマッド・ゴーシムさん。取材班のなかにはこれが初体験というメンバーもいたため、長老の彼がガイド役を務めてくれるのは心強い限りだ

次のステップは、少しずつその移動距離を伸ばしていくこと。そうして砂浜から50メートルほど進んだころだろうか。海の色がラムネ色から突如、濃い青色に変わった。と同時に、マスクの先に見える魚の種類と数が一気に増加。その様子はまるで天然の水族館だ。そこからさらに、今回指導に当たってくれたダイバー、アーマッド・ゴーシムさんの先導で沖合に移動。そこで彼が左の方角を熱心に指差している。指先をたどってみると、なんとそこにいたのは亀。しかも超巨大な海亀だ。

「ラッキーだったね」とゴーシムさん。毎日海に出ている彼でさえ、頻繁に出会えるわけではないそうだ。ときにはイルカやメジロザメ、クジラが顔を見せることも。こればっかりは運にまかせるしかないが、島中のシュノーケリングスポットを知り尽くしたガイドについていけば、きっとどんな形であれ一生忘れられない景色に出会えることだろう。

個人的な話で恐縮だが、筆者は過去に二度波に飲み込まれた経験があり、ここ10年ほど海に足を踏み入れることはなかった。それが今回は、どうしたことか恐怖感を感じずに海に入れただけでなく、沖合にも果敢に進んでいくことができた。ガイドについていけば大丈夫という安心感が背中を押したのだろう。10年間つづいたトラウマが1日にして晴れたのだ。プロのすごさを目の当たりにした瞬間だった。

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ジュメイラ・デヴァナフシに流れる心地よい空気の正体

青空、海、島人の温かい笑顔……。リゾートらしい要素はきちんと網羅しながら、その他大勢のリゾートとは明らかにちがう空気がジュメイラ・デヴァナフシには流れている。それは35室の客室に対して専属バトラーも含めたスタッフの数が約200人という、圧倒的なホスピタリティの手厚さがなせる技ではないだろうか。

忙しい日々のなかでは確保しづらい「自分のための時間」。だがこの島に滞在しているあいだ、周りにいるのはホテルのスタッフとゲストだけ。騒音とは無縁の生活だ。それにくわえて、200平米以上のスペースを自由に使える解放感。そんな環境に身を置いていれば、自然と「こうしなければ」という就縛(しゅうばく)から解き放たれ、自分の心に正直になっていく。

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ジュメイラ・デヴァナフシの魅力。それは5ツ星でありながら「どこでも裸足でOK」というユニークなコンセプトだ。ラグジュアリーホテルの場合、ビーチリゾートであってもレストランにドレスコードが設けられているところがほとんどだが、ここでは朝食からディナーまで、基本的に裸でなければどんな格好で出かけても問題ない

ここでは波の音がBGMになり、プールサイドも砂浜もどこでもベッドに早変わり。食事だってどこでとってもOKだ。隠れ家的な雰囲気に身をゆだね、穏やかな紺碧の海、夜空を覆い尽くす星、壮麗な朝日を眺めているうち、大自然のなかに心と体が溶けていくような錯覚を覚える。仏教でいうところの「禅」に限りなく近い感覚である。

ジュメイラ・デヴァナフシが提案する、真にストレスフリーなリゾートの過ごし方。大自然と一体になった心と体は、きっと普段の生活に戻ってからも、その感覚を忘れていないはずだ。

Jumeirah Dhevanafushi|ジュメイラ・デヴァナフシ
Meradhoo Island, Gaafu Alifu Atoll, Republic of Maldives
Tel. +960-682-8800
http://www.jumeirah.com/en/hotels-resorts/maldives/jumeirah-dhevanafushi/

           
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