三原康裕的日本モノづくり「第3回 ル・モンドの靴下」(3)
MIHARAYASUHIRO×Le Monde
第3回 ル・モンドの靴下(3)
ファッションデザイナー三原康裕さんが、日本の誇る工場や職人を訪ね、日本でしかつくれない新しいモノを生み出す画期的な連載企画「MEANING MADE IN JAPAN MIHARAYASUHIRO(MMM)」。
日本有数の靴下の産地である奈良県広陵町にある靴下工場を訪れた三原康裕さん。イズル靴下の松本猛さん、ミナミ靴下工場の南六郎さんらとの対談。貴重な靴下編み機が稼働する現場を目にし、職人と言葉を交わすことで靴下づくりの奥深さを知りました。
靴下づくりに情熱を傾ける人びとの、技術とこだわりが詰まったオリジナルソックスがついに完成した。
写真=溝部 薫(ホークアイ ヴィジュアルワークス)構成・文=竹石安宏(シティライツ)協力=萩野 宏
貴重な編み機を稼働させつづける職人との出会い
松本 三原さんのこだわりはよくわかりました。60本の編み機なら杢糸やニット用など、さまざまな糸が使えるので、感性も表現しやすいし、とても面白いと思いますよ。では、現在編み機を実際に稼働させている工場がありますのでご案内しましょう。
──ここで三原さんが案内されたのは、イズル靴下と共同で靴下を製造する1977年創業のミナミ靴下工場。靴下製造に携わって40年以上というベテラン、南六郎さんが切り盛りする靴下工場だ。
日産80本ほどと規模は小さいながらも、すべて25年以上前のものだという貴重な針数60本の編み機がいまも稼働している。南さんに編み機の構造や製造工程を説明してもらいながら、三原さんははじめて見る編み機に見入っていた。
南 現在の一般的な靴下は針数が170本から180本ですが、この編み機はその3分の1である60本です。古いものなので日本国内にはほとんど残っていませんが、ザックリとした編み目はこれでしか再現できないんです。
三原 古いといってもかなり構造は複雑ですね。メンテナンスしてくれるメーカーなどは残っているんですか?
南 もうないですね。この機械にさわることのできる職人すらもうほとんどいないですから。メンテナンスや調整もすべて自分でやっているんですよ。
三原 調整することで編み目の大きさや径の太さを変えられるんですよね。それをすべてご自分でやられているんですか?
南 そうですね。靴下は素材の混紡率や厚さ、それに編み目の大きさなどを変えることで、機能性を高めることができるんです。この編み機でも、現代に通用する高品質な靴下はまだまだつくれると思っています。
──今回の訪問で日本の靴下づくりの現場をあじめて目にし、その奥深さを知った三原さんは、広陵町で出会った3人の技術を最大限に活かす靴下をオーダーした。
素材は機能性と天然素材にこだわり、吸湿性と速乾性を兼備させるためにコットンにヘンプを混紡したものをチョイス。多彩な色糸とネップが不均一に混ざった杢糸を使用し、スタイルのアクセントになるように独自のカラー調整と本連載のブランドロゴをかかとに刺繍した。そして針数60本の編み機によって、ザックリとした足なじみのいい靴下に編み立ててもらう。
こうして完成した靴下は、日本でしかつくれないハイクオリティな靴下にこだわりつづける人びとの、情熱とこだわりが集約された逸品となったのだ。
なお、web shopping「ルモアズ」のみで販売されるこのソックスは、三原さんとオウプナーズの意向により、売り上げの一部を東京都社会福祉協議会が運営する東京善意銀行を介し、東京都内の福祉施設に寄付される。