ato|デザイナー 松本 与 インタビュー(後編)
ato|アトウ
デザイナー 松本 与 インタビュー (後編)
これからのファッションをつくっていくデザイナーの話を聞きたい」。
表参道や銀座がインターナショナルブランドの聖地になる一方で、なかなか日本人デザイナーの声が聞こえてこない今こそ、そのタイミングだと思う。 おなじ時代の空気を吸っているファッションデザイナーが、なにを考え、なにを提示し、なにを越えていこうとするのか。
FASHION DESIGNER'S FILEの第1回は、東京コレクションに参加し国内外のバイヤーから高い評価を得、また今シーズンからワールドの基幹レディースブランド「INDIVI」のディレクターにも就任した「ato」の松本 与さん。ご本人の希望で顔写真はないが、顔の見えるインタビューとなった。
TEXT by KAJII Makoto(OPENERS)
the other side fashion vol.1
interview with MATSUMOTO ato
松本 与 「ato」デザイナー
トレンドも、気持ちも、強い女性にシフトしていく
──それでは、2007-08秋冬コレクションのテーマをお伺いします。
メンズのテーマは「機能美」です。たとえば防寒用のフードのカタチが面白いとか、デタッチャブルのポケットの機能がユニークだとか、ディテールの機能性に注目しつつ、フォーマルとカジュアルとか、ハードとフェミニンなどの相反する匂いをミックスしています。
──コレクションの写真を見ると、レイヤードもミリ単位という感じで隙がないですね。
それは僕のクセみたいなものですね。たとえば折り紙でも大まかに折る人と、寸分違わず折る人がいますよね。僕は普段はだらしないんですが(笑)、ものづくりに関しては1ミリ、2ミリが見えてしまう。そしてそこは突き詰めて考えてしまいます。
──ウィメンズのテーマは?
テーマは「She wants to be harder」です。今回は、女性の力強さを表現したかった。ライダースジャケットやミリタリー、スウェットなど、男っぽいアイテムを女性に変換して強さを表現しています。先シーズンまではもう少しフェミニンな感じが時代の気分でしたが、これからは、気持ちも世の中も強い女性にシフトしていくと思います。
──では、今回のコレクションの“ベストルック”を紹介してください。
メンズのベストルックは、インナーとアウターを留められるように工夫したブルゾンのマスクのようにせり上がっている感じが機能的にカッコイイなと思うコーディネートですね。下はスパッツで、ナード的な着こなしが新鮮に感じます。これも僕の中での新しさへのアプローチです。
──靴のボリューム感にも目が引かれますね。
海外の庭園はほぼ左右対称で造られているのに、日本の庭園は非対称が多い。左右対称は人間ぽくないと思います。やはりどっかではずしたい。格好つけすぎると照れるんです。ですから意識的にはずしていますね。他のブランドに比べると少ないと思いますが。
──ウィメンズのベストルックは?
レザーのショート丈ライダースのルックですね。ハードな革を使いながら、デザインで丸みをもたせて、強さと女性らしさをバランスで見せています。
ポイントに色が欲しかったので、スパッツで色を差しました。インナーはニットとブラウスを組み合わせたものです。
──素材感にも皮革の緊張感と布帛の柔らかさが共存していますね。
ファッションの面白味は、たとえば硬いものと柔らかいもの、人工的なものとナチュラルなものを合わせることです。音楽でもカウンターパンチ的なものがないと面白くない。ある種の違和感なりがないと新しさが成立しにくいですね。
──ウィメンズでは「INDIVI」のディレクターに就任されたのが話題になりましたね。
2007春夏からですが、仕事は去年の夏頃から始めています。
──なぜ松本さんに声がかかったと思われますか?
そうですね、「ato」でやっていることと、「INDIVI」の目指しているものの匂いが近いところがあったんじゃないでしょうか。シャープなメンズライクなものを求めていたと思っています。
──100億円を超えるスーパーブランドですが、気負いはないですか?
確かにマスの人のための服で、スタッフも多く、仮縫いでも10数人で行います(笑)。お互いにいい刺激になっていると思いたいですね。ある種セギュメントの違う服をつくるということは、自分の新しい引き出しをつくることになるので、僕自身、いろんなことが発見できて新鮮です。きっと「ato」のウィメンズも影響を受けて変わっていくと思いますね。
どうして若者たちはあんなに小さいサイズの古着を着たいのか
──今の東京を松本さんはどのように捉えていますか?
洋服のマーケットとしては素晴らしいなぁと思います。ひとつの都市にこれだけの数のショップがあって、アヴァンギャルドなデザインを買ってくれる店がこんなにあるところは他にありません。「ato」は毎シーズン、パリで展示会を行っていますが、扱ってくれる店はパリでも数えるほどしかない。ファッションビジネスという視点からは、日本のこの消費がなかったら、海外ブランドは困るでしょう。
──ただ、情報のスピードがものすごく速くて、本当に消費者に伝わってるのかなと思いませんか?
今は、クリエーションとプレゼンテーションの時代です。僕は嫌なんですが、情報の方が強くて、見せ方ひとつでモノが売れる。僕の信条から言うと、そこはあまりやりたくない。
──話題のニュースポットのショップなど、まさにプレゼンですよね。
本当は、ハンガーにかかっていて、どこのブランドなのかわからないけど、「この服カッコイイじゃん!」と言わせたいし、そういうところに力を注ぎたい。
でも現実は真逆の方向に行っていますけどね。だけどそれもビジネスのひとつのカタチとして成立してきているから無視もできません。
──なるほど。では、今回のインタビューの一番聞きたかったことですが、松本さんは川久保玲さんや山本耀司さん、三宅一生さんなどのクリエーションをどう捉えていますか。
まず、日本に偉大な先輩がいて、同じ土俵で戦っていると思います。ただ、彼らは、日本人の体型的コンプレックスから始まっていると僕は思っています。
肩が大きくて、身体を隠すようなシルエットは着物の文化に近くて、どうしても自分たちの弱点を隠す方向に感じる。平板な印象の日本画と、陰影があって立体的な洋画の違い、差だと思う。
──そうですね。先日都知事選に出た黒川紀章さんの着こなしなどを見ているとそう感じますね。
では、日本人を格好良く見せるにはどうしたらいいのか。僕なりの解釈ですが、僕たちの世代は、身体のシルエットもきれいになってきて、日本人であることがカッコイイという始まりだと思います。そして、最初からハンバーガーを食べて、洋楽を聴いている。インターネットを通じて同じ空気を吸っている。
──確かに、情報や知識は変わりません。
そこで、こだわりをもつのなら、身体を出したい。肉体に個性があると思ったわけです。川久保さんの服を着るとコムデギャルソンになるし、耀司さんのを着るとヨージヤマモトになります。そこで僕は、タイトな服のほうが、その人の個性がでると思った。どうして若者たちが競ってあんなに小さなサイズの古着を着たいのか。それは自分の個性をサイジングで出したいからでしょう。
──松本さん自身もそうですね。
そうですね。川久保さんや耀司さんはクリエーションとして尊敬できますが、出発点が違います。だから、違うところに立っているんじゃないかと思いますね。僕らは、着ている人が主役の時代にいるのですから。
──よく理解できます。では最後にインターネットについてどう思われていますか?
僕も本やCDはよく買いますし、これからファッションとインターネットはもっと親和性が増して、ショッピングする機会は増えるのは間違いありません。そうするとショップは、ファッションを体験できるショールーム化していくのでしょう。そういう場所は絶対必要ですが、ネットで買って、翌日着ているようなスピード感も大事になるでしょうね。「ato」もチャレンジしてみたいですね。
──ありがとうございました。その時はまたぜひお話を。