TRAVEL|週末、縄文杉に会いに行く
LOUNGE / TRAVEL
2015年2月26日

TRAVEL|週末、縄文杉に会いに行く

世界自然遺産20年目の屋久島

週末、縄文杉に会いに行く(1)

鹿児島から南へ約135km。九州最高峰の宮之浦岳(1936m)を中心にいくつもの高い山が聳つ、別名「洋上のアルプス」とも謳われる屋久島。周囲わずか100km、ハートの形をしたこの島には、豊かな生態系が何千年という時とともに営まれている。ひと足先に初夏を迎えた屋久島に、週末、東京から旅に出る。

Photographs by MATSUI Hiro
Text & Photographs by AKIZUKI Shinichiro(OPENERS)

日本ではじめての世界自然遺産

羽田を朝一便の飛行機に飛び乗り、鹿児島から高速フェリーで約2時間。ちょうど正午に差し掛かった頃、私は屋久島に着いた。港から吹くあたたかい風が、20年ぶりの大雪に見舞われた旅発つ前の東京とはまったく違う世界へ来たことを実感させてくれる。それでもまだ2月。シャツに短パンという組み合わせはさずがに早かったようだ。

鹿児島市から南方約135km先の海上に位置する屋久島。飛行機で上陸すればよく分かるのだが、その形状は円錐に近い5角形の形をしていて、面積は東京23区(約621km²)より少し小さい約約541km²。日本全国では9番目に大きい島だ。ユネスコの世界遺産に登録されたのは、その約21%にあたる約107km²で、1993年に「姫路城」「法隆寺」「白神山地」とともに日本初の世界遺産に認定された。

屋久島

屋久島

今回の旅の目的はふたつある。ひとつは、屋久島の大自然を思い切り堪能すること。そしてもうひとつは開業当時から気になっていた「sankara hotel&spa 屋久島」に泊まり、疲れ切った心と身体をリフレッシュさせることだ。

いまの時刻は午後1時半。チェックインするまでには、まだ余裕がある。到着した安房港にあった観光案内所に立ち寄ってみたところ、レンタカーを借りれば約2時間半で島を一周できるという。ならば、ということで早速レンタカーを借り、繰り出すことにした。

世界自然遺産20年目の屋久島

週末、縄文杉に会いに行く(2)

屋久シカと出会う

島内一周はおよそ100km。安房港から県道77号線を反時計回りに海岸線に沿って走り出す。道は綺麗に整備され、交通量も少なく走りやすい。やさしい太陽の日差しが車内に差し込み、ローカルラジオの番組から流れてくる音楽が気分をさらに盛り上げてくれる。

飛行場の側を通り抜けしばらく走ると、右手から大海原が現れた。手前側北西に見える島は、口永良部島(くちのえらぶじま)。その先、北北西に勢いよく噴煙を出しているのが硫黄島だ。クルマを降り、海へと向かう。

屋久島

屋久島

「永田いなか浜」と呼ばれるこの場所は、アカウミガメの上陸密度が日本一高い砂浜で、花崗岩が砕けた黄色い砂浜が約1kmに渡って続く。5月から7月にかけてウミガメが産卵の為に上陸し、最盛期には一晩で20頭以上やってくることもあるというが、残念ながら訪ねた季節は観光のオフシーズン。誰もいない砂浜に、波の音だけが響き渡る。ずっと眺めていたくなるほど美しい自然は、時の流れを忘れさせてくれる。

だが、人が全くいないというのもなんとも寂しものだ。私は先へと進むことにした。県道77号線から78号線へ入ると、急に道幅が狭くなり片側1車線になった。勾配は少しずつきつくなり鬱蒼とした木々が辺りを覆う。ブラインドコーナーをゆっくりとした速度で抜けながら、ここが亜熱帯であることを実感する。

と、突如、目の前に姿を見せたのは鹿だ。屋久島にはニホンジカの亜種である「屋久シカ」が生息する。仔鹿とそのお母さんだろうか。クルマに警戒することなく、ゆっくりと歩を進める親子がじつに愛らしい。

峠を越えると、再び海が広がった。今にも落ちそうな夕日が海原を黄金色に照らしている。360度、大自然に囲まれた屋久島。今日の宿までは残り15kmほど。到着までもうすぐだ。

屋久島

世界自然遺産20年目の屋久島

週末、縄文杉に会いに行く(3)

屋久島と共存するサンカラ

サンスクリット語で“天からの恵み(sankara)”という意味を持つ「サンカラ ホテル&スパ屋久島」。天然のロケーションを生かし、自然と一体化した地に建つこのオーベルジュ型リゾートホテルは、世界自然遺産である屋久島の大自然に敬意を表し、その名が付けられた。

まずはロビーを抜け奥のライブラリーラウンジへ。ウェルカムドリンクとして、屋久島の特産「たんかん」とシャンパンをベースにしたミモザをいただく。ソファーにゆったりと腰をかけ、遊び疲れた身体にアルコールがほどよく回っていく。窓越しには手前にプール、奥には海が広がる。陽は沈み、今日も島に夜がやってきた。

屋久島

屋久島

サンカラは、約3万㎡という広大な敷地にヴィラタイプを中心に、29の客室が用意される。ヴィラは1棟ずつそれぞれ独立して建ち、12棟24室のヴィラ(各53㎡)とサンカラ ヴィラスイート(104㎡)1棟、そして本館にはスイートルームが2タイプ(126㎡と71㎡)の4室がある。どの部屋も樹の暖かみに溢れ、落ち着いた色彩のインテリアがくつろぎの空間を与えてくれる。

荷解きを済ませ、汗を流した後は、待望のディナーだ。サンカラには、カジュアルな「ayana(アヤナ)」と、フレンチフルコースを堪能できる「okas(オーカス)」のふたつがあり、それぞれの料理を楽しむことができる。良質な食材を求め、屋久島はもちろんのこと、鹿児島や九州など生産者のもとを訪問し、丹念に食材探しをおこない、地産地消をコンセプトにsankaraでしか味わえない逸品を堪能するとこができる。

屋久島

屋久島

「凝りすぎてお客様が何を食べてるかわからない、それは作り手にとっても楽しくありません。見て美しい料理であること。そして、難しくない料理であること。そんなバランスのとれた双方向感覚も、サンカラの目指すおもてなしです」とは、エグゼクティブシェフの武井智春氏からのメッセージ。

今宵用意されたメニューには、島で取れた野菜を贅沢に使った「なかやま黒牛肩ロースのカルパッチョ」をはじめ、「亀の手のコンソメ」、メインには有精卵のポーチドエッグが添えられた「鹿児島産鶏もも肉の赤ワイン煮込み」が振る舞われた。なかでも印象深かったのが「亀の手」と呼ばれる珍味だ。

見た目はその名の通り、は虫類の亀の手に似た姿で若干グロテスクなのだが、実は甲殻類の一種。ほのかな磯の香りと歯ごたえある食感で、これが屋久島の地焼酎「三岳」によく合う。ラグジュアリー指向の一点張りではなく、地元に根ざした食の文化も味わえる宿。これもサンカラの魅力のひとつではないだろうか。

sankara hotel&spa 屋久島

所在地|鹿児島県熊毛郡屋久島町麦生字萩野上553
Tel. 0997-47-3488(24時間受付)
Fax. 0997-47-3489
http://www.sankarahotel-spa.com

世界自然遺産20年目の屋久島

週末、縄文杉に会いに行く(4)

心と身をリセットする

サンカラで宿泊する楽しみは、まだまだたくさんある。「アジアハーブアソシエイション」は日本初上陸となるタイの高級スパで、約2500年の歴史を持つタイの伝承医学に基づき考案されたハーブ温熱トリートメントが受けられる。

屋久島の自然を散策したり縄文杉のトレッキングなどを楽しむ方が多いサンカラでは、その準備とアフターケアを兼ねた2日間に渡るコースがお勧め。明日は私も縄文杉を拝みにトレッキングに出掛ける予定ということもあり、さっそくそのコースを試してみることにした。

屋久島

屋久島

ハーブの香りが立ちこめ、ウッドを基調にした落ち着いた空間が広がるトリートメントルーム。ゆっくりと目を閉じ、気持ちを無にし、身体を解放させ、日常の生活で怠けた肉体をストレッチで伸ばしていく。ピーンと張った首筋、背中、肩。自分の身体の衰えを実感する瞬間だ。

タイの伝統療法には、全身のエネルギーが流れる「セン」と呼ばれる経路があり、オイルや指先でゆっくりと沿うようにそこを刺激していく。さらに自家栽培のオーガニックハーブを約18種類もブレンドし、木綿の布に包んで蒸したハーバルボールを押し当てることで、身体の疲れが抜け、自己免疫力が高まっていく。

ルームタイプはスパスイートを含むシングルとツインがご用意され、母娘や、カップルでの利用も人気が高いそうだ。

世界自然遺産20年目の屋久島

週末、縄文杉に会いに行く(5)

写真では伝えきれない自然の雄大さ

次の日、私は待望の縄文杉を目指しトレッキングに出掛けることにした。起床時間は朝4時。街灯も何もない山道をクルマで2時間ほど走り、ようやく荒川登山口へ到着。天候は晴れ。空には一面の星空が輝く。昨日のスパのおかげもあって、身体は快調そのものである。登山口はトロッコ列車のヤードがあり、山道は軌道上をひたすら歩く。トンネルを抜け、橋を渡り、気分はさながら映画「スタンドバイミー」のよう。

屋久島

屋久島""

次第に夜が明け、朝日が屋久島の森の奥にまで届くようになる。3時間ほど歩いて行くと、ひとつのチェックポイント「ウィルソン株」に到着。切り株になってしまったのは、安土桃山時代に、資材としてその多くが伐採された為だから(一説には豊臣秀吉による大坂城築城の為に切られたといわれる)で、もし残っていれば縄文杉よりも樹齢は古かったという話も……。なかは空洞で、空を見上げるとハート型に見える場所があり、登山者には見逃せないポイントとなっている。

ウィルソン株を過ぎると、傾斜はさらにきつく、アップダウンの繰り返しと長い階段が続く。あと2km、1.8km……。その距離はなかなか縮まないが、いたるところに湧き出る天然水が喉を潤し、至福の瞬間を登山者に与えてくれる。

長い最後の階段を登り切ると、舞台はいよいよクライマックス。樹齢3000年とも4000年とも言われる縄文杉。その大木は、威風堂々たる姿で高く聳えていた。その全景と感動を一枚の写真におさめることは難しいが、これも訪れたものだけが体感できる喜びである。

屋久島

昨年、世界自然遺産に登録されて20年を迎えた屋久島。樹齢千年を超える木々が多数生育する深い原生林、多様な植物に動物、そして昆虫類。壮大で幻想的な大自然がこの島の最大の魅力であることに違いない。だが、リゾート地として乱開発されることなく残った屋久島の素朴な街並みもまた、世界遺産同様、旅人の楽しませてくれる貴重な財産だ。

           
Photo Gallery