アストンマーティン ヴァンキッシュ&DB9に試乗|Aston Martin
Aston Martin Vanquish & DB9|アストンマーティン ヴァンキッシュ & DB9
100周年をつげる2台のアストンマーティンに試乗
アストンマーティン100周年をつげる、あらたなるフラッグシップとして、「DBS V12」にかわって登場した「ヴァンキッシュ」。そして、パリモーターショーにて新型に生まれ変わった、アストンマーティンの中核「DB9」。イギリス伝統のクラフツマンシップあふれる2台の美しいGTスポーツを、OPENERSは今尾直樹氏とともにテストした。
Text by IMAO Naoki
Photographs by ABE Masaya
なんたる野蛮!
センターコンソールのエンジン始動スロットに、長方形のキイを決然と押し込む。スターターモーターがキュルキュルッとまわる。ヴァオッ! 雷鳴のごときうなり。573psの6リッターV12、AM11ユニットが目覚めたのだ。
野獣の咆哮。ガソリンの爆裂音に、言葉にならぬ声を内心あげる。大砲の音にも似ている。身体の芯が揺さぶれる、一瞬の振動つきだ。
ステアリングコラムのパドルを引いてギアをローに入れ、軽くアクセルを踏み込む。ありあまる大トルクを後輪が持て余し、瞬時空転する。タイヤが冷えきっていたとはいえ、なんたる野蛮!
ニュー・ヴァンキッシュは、昨年6月、『007』の新作映画の公開に合わせて発表されたアストンマーティンのあたらしいフラッグシップである。
DBSの後継だけれど、メイン車種であるDB9とのちがいを強調するためもあってだろう、新生アストンの象徴的存在として2000年に発表され、2007年まで生産されたヴァンキッシュの名称が与えられた。ヴァンキッシュ(vanquish)とは、「征服する」という意味の英語動詞である。
いっぽう、同時に上陸したばかりの新型DB9も一緒に連れ出した。昨年9月のパリサロンでデビューしたアストンの最新作である。
ヴァンキッシュとDB9の豪華競演!
かたやおよそ3,000万円、こなたおよそ2,000万円のグランドツーリングカーである。基本的な骨格はおなじだ。ともにVH(ヴァーティカル・ホリゾンタル)プラットフォームと呼ばれる基本骨格を持ち、フロントミドに6リッターV12を搭載するトランスアクスルの後輪駆動である。
Aston Martin Vanquish & DB9|アストンマーティン ヴァンキッシュ & DB9
100周年をつげる2台のアストンマーティンに試乗(2)
英国男前サラブレッド
旗艦ヴァンキッシュはボディスキンがカーボンファイバー製となっている。カーボンの採用が、より自由な成型を可能にし、DB9以上にアスリート然としたエクステリアを可能にした。減量に成功した試合直前の現役格闘家的凄みがヴァンキッシュには漂っている。
アストンマーティンは現代のイギリスを代表するサラブレッドスポーツカーである。DB9にせよ、その発展進化形のヴァンキッシュにせよ、現代のアストンマーティンはデイヴィッド・ベッカム、デイヴィッド・ボウイといった現代のイギリス人の男前の系譜に連なっている、と私はおもう。
余談ながら、このふたり、顔が似ているだけではなくて、イニシャルはともにDBだ。DVはいけませんが、DBは心ときめく。
クルマの世界でDBといえば、デイヴィッド・ブラウン! 第2次大戦後にアストンマーティンを買収し、こんにちに連なる豪華グランツーリズモに仕立てあげた起業家にして自動車エンスージアスト(熱狂家)。ジェイムズ・ボンドの愛車として有名な「DB5」、現代のDB9のDBは、トラクターの製造で富を得、のちにナイトに叙せられたこの英国紳士を指しているのである。ま、自分でつけたわけですけど。
サー・デイヴィッドは、ポロプレイヤーでもあり、クルマやバイクのレースに出場するいっぽう、パイロットのライセンスも持っていたという。
書いていて思い出したので書きますが、TVRの社長をつとめた故ピーター・ウィーラーは、夏は自動車レース、冬は鳥撃ちをして過ごした。数年前、私はイングランド北部にある彼の広大な敷地で、バードシューティングを体験した。2連発式のショットガンに弾を込めて待ち構える。勢子に追われて、薮からキジがハンターめがけて飛んでくる。引き金を引く。轟音が轟く。キジがきりもみしながら落ちていったときの達成感ときたら! 少々の罪悪感もあった。拾い上げたとき、まだ温かくて、重かった。命の重さだ。
おもうに、英国紳士はこのような生と死、勝利と敗北、を常日頃から嗜んでいるのである。だからこそ、イギリス車はイギリス車独特の、じつはドイツ人が最近はつくっていたりするにもかかわらず、イギリス伝統の味というかなんというか、言葉に出してしまうとつまらない、好きな人は好き、とおもえるイギリス的なものを感じさせるのではあるまいか。
Aston Martin Vanquish & DB9|アストンマーティン ヴァンキッシュ & DB9
100周年をつげる2台のアストンマーティンに試乗(3)
ジェントルマン かくあるべし
新型ヴァンキッシュは、走り出してしまうと、現代のDB、デイヴィッド・ベッカムやデイヴィッド・ボウイがおそらくそうであるように、物腰がソフトでエレガントであった。
アストンのV12はもともとウルトラスムーズだったけれど、可変バルブタイミングを得たAM11ユニットは低中速トルクがいっそう分厚くなり、自然吸気大排気量エンジンならでのトルクをいともたやすく供給してくれる。
ところが、アクセルペダルを深々と踏み込むと、6段オートマチックがドカンと過激なショックを伴いながらダウンシフトし、ロケットエンジン点火! とばかりにアスファルトを完膚なきまでに蹴りまくり、しびれんばかりに加速する。なんたる獰猛! なんたる野蛮! 雷鳴を轟かせながら、ヴァンキッシュは路上を征服する。英国紳士はかくあらねばならない。
電子制御のドライブモードは3段階あり、エンジンのレスポンスと可変ダンパーのプログラムを変えることができる。
とはいえ、大雑把にいえば、それほどは変わらない。ひとつにはエンジンが、レスポンス鋭く回転でパワーを紡ぎ出す、というよりは大きなお釜にあふれんばかりの大トルクを、源泉掛け流しの温泉のように惜しみなく味わわせるタイプだからである。
メカニカルノイズやエグゾーストノートは管弦楽オーケストラではなく、遠雷というほかない。
乗り心地はそうとう堅い。ときにガツンと来る。それが気にならないのは、改良されたVH構造とカーボンファイバーのアウタースキンがボディ剛性を高めていることもあるだろう。堅いことが快感なのだ。堅いから気持ちイイ。男は堅くなくてはいかん。しかも、この堅さは持続する。さすがデイヴィッド・ベッカムである。知らないけど。
Aston Martin Vanquish & DB9|アストンマーティン ヴァンキッシュ & DB9
100周年をつげる2台のアストンマーティンに試乗(4)
おれがそんなことにこだわるような男に見えるか?
新型DB9の評価は、おそらくその日、ヴァンキッシュとどちらに先に乗ったかによって変わってくる。
先に乗れば、これで私は十分、とおもうにちがいない。アンダーステイトであることも魅力なのだ。あくまで比較の問題だけれど。
なお、新型DB9は、これまで「ヴィラージュ」と呼ばれていたモデルの改名版と考えて差し支えない。
そのヴィラージュはDB9の改良版で、DB9が世に現れたのが2003年だから、はや10年の歳月が流れている。歳月は人を待たない。けれど、アストンマーティンは不老不死であるがごとくである。いや、じつは何度も倒産の憂き目にあいながら、そのたびに蘇り、今年創立100周年を迎えた。
イギリスの不屈の精神が宿ったサラブレッドスポーツカーに乾杯! やっぱりウォッカマティーニでしょうか。ステアではなく、シェイクで? おれがそんなことにこだわるような男に見えるか? といったのはダニエル・クレイグのボンドである。
Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ
ボディサイズ|全長4,720×全幅2,067(ミラー含む)×全高1,294 mm
ホイールベース|2,740 mm
重量|1,739 kg
エンジン|5,935 cc V型12気筒
最高出力| 573 ps / 6,750 rpm
最大トルク|620 Nm / 5,500 rpm
トランスミッション|6段オートマチック(タッチトロニック2)
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後|255/35R20 / 305/30R20
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドカーボンセラミックディスク / ベンチレーテッドカーボンセラミックディスク
0-100km/h加速|4.1 秒
最高速度|295km/h
燃料タンク容量|78 ℓ
価格|3,149万円
Aston Martin DB9|アストンマーティン DB9
ボディサイズ|全長4,720×全幅2,061(ミラー含む)×全高1,282 mm
ホイールベース|2,740 mm
重量|1,785 kg
エンジン|5,935 cc V型12気筒
最高出力| 517 ps / 6,500 rpm
最大トルク|620 Nm / 5,500 rpm
トランスミッション|6段オートマチック(タッチトロニック2)
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後|245/35R20 / 295/30R20
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドカーボンセラミックディスク / ベンチレーテッドカーボンセラミックディスク
0-100km/h加速|4.6 秒
最高速度|295km/h
燃料タンク容量|78 ℓ
価格|2,199万円