松浦俊夫|未来の音を紡ぎ出すピアニスト、ロバート・グラスパー独占インタビュー
Lounge
2014年12月9日

松浦俊夫|未来の音を紡ぎ出すピアニスト、ロバート・グラスパー独占インタビュー

松浦俊夫|from TOKYO MOON 2月10日 オンエア

未来の音を紡ぎ出すピアニスト、ロバート・グラスパー独占インタビュー(1)

日曜の夜、上質な音楽とともにゆったりと流れる自分だけの時間は、おとなたちの至福のとき。そんな時間をさらに豊かにするのが、DJ松浦俊夫によるラジオプログラム『TOKYO MOON』──。彼が世界中から選りすぐったすばらしい音楽や知的好奇心を刺激するおとなのためのトピックスを、毎週日曜日Inter FM 76.1MHzにて24時からオンエア。ここでは、毎週放送されたばかりのプログラムを振り返ります。今週は、現在進行形のジャズを体現するアーティスト、ロバート・グラスパーを迎えて話をうかがいます。

Text by MATSUURA Toshio

オンエアにはなかった日本語訳を公開!

このページが公開されるタイミング(2月11日)で発表となる今年のグラミー賞ですが、今回紹介する現在進行形のジャズを体現するアーティスト、ロバート・グラスパーは、アルバムが2作品連続でノミネートされている注目の人物です。昨年発表された『ブラック・レディオ』は、さまざまなメディアで2012年のベスト・アルバムとして挙げられていました。1月にビルボード東京・大阪で来日公演をおこなった彼を、ライヴ前の楽屋でキャッチ。グラミー賞のことから、幼少期の音楽体験、彼のルーツ、そしてジャズの未来まで、たっぷりと語ってくれました。放送にはなかった日本語訳とともにお楽しみ下さい。OPENERS独占掲載です。

BADBADNOTGOOD 『BBNG2』

BADBADNOTGOOD 『BBNG2』

Robert Glasper Experiment
『Black Radio Recovered
The Remix EP』

Robert Glasper Experiment
『Black Radio』

Robert Glasper 『In My Element』

REVIEW|TRACK LIST

01. BADBADNOTGOOD / UWM (BADBADNOTGOOD)

02. Robert Glasper Experiment / Dillalude #2 (Blue Note / EMI)

03. Robert Glasper Experiment / Gonna Be Alright (F.T.B.) (Blue Note / EMI)

04. Robert Glasper / Maiden Voyage / Everything in Its Right Place (Blue Note / EMI)

05. Robert Glasper Experiment / Move Love (Blue Note / EMI)

06. Michael Jackson / I Can't Help It (Epic)

Robert Glasper|ロバート・グラスパー

1978年4月6日、テキサス州ヒューストン生まれ。ピアニスト、作編曲家。母親の影響で、一家が住む教会でピアノを弾き、ゴスペルやジャズ、ブルースといった音楽に触れる。マンハッタンのニュー・スクール・ユニヴァーシティに在学中、クリスチャン・マクブライド、ラッセル・マローンなどとギグを行う。その後、ニコラス・ペイトン、ビラル、Qティップ、モス・デフなど、ジャズ~ヒップ・ホップまで幅広い分野の面々と共演する。 2003年、デビュー・アルバム『モード』(フレッシュ・サウンド・ニュー・タレント)をリリース。 2005年、ブルーノートと契約。2007年、ジャズとヒップホップを結びつける究極のピアノ・トリオ作『イン・マイ・エレメント』を発表し、ブルーノートの新世代ピアニストとして注目を浴びる。2009年、よりアコースティック志向の“トリオ”とよりヒップホップ志向の“エクスペリメント”の自身が推進する2つのバンドを1枚に集約した、グラスパー本来の姿を投影した話題作『ダブル・ブックド』を発表し、グラミー賞にもノミネートされた。2012年、初の“エクスペリメント”のみで構成された『ブラック・レディオ』を発表。本作もグラミー賞2部門にノミネート。

松浦俊夫|from TOKYO MOON 2月10日 オンエア

未来の音を紡ぎ出すピアニスト、ロバート・グラスパー独占インタビュー(2)

境界線を取っ払っていきたい

──番組へようこそ。来日は今回で何回目になりますか?

もう何回目か思い出せないほどに(笑)。2005年からは、ソロ・プロジェクトであるロバート・グラスパーとして、年に1回のペースで来ていますし、それ以前にも、Qティップやビラルと一緒に来日していました。

──昨日、ブルーノートライブ東京でおこなわれたライブを見に行ったのですが、観客の層が幅広くて驚きました。ソウルだったり、ヒップホップだったり、ジャズだったり……普段は別べつのジャンルを聴いている人たちが、客席に入り乱れている感じがして、すごく楽しかったんですね。ステージから見ても、そうした客席の雰囲気というのは感じられましたか?

ええ、最高でしたよ! ある人はヒップホップ寄りだし、もうすこしジャズ寄りという人も、ソウル寄りという人もいる。そうした別べつのバックグラウンドを持つ人たちが、おなじ客席に座ってぼくの音楽を楽しんでくれている。そこには“境界線”など存在しません。音楽が彼らをひとつにしている、そうおもうと嬉しくてたまらなかったですね。スティービー・ワンダーがかつてそうしてきたように、ぼくも音楽の力で境界線を取っ払っていきたいとおもっています。

── ジャンルを超えて観客を魅了するグラスパーさんだからこそ、と言えるとおもうのですが、2月11日(月)に発表される第55回グラミー賞では、「最優秀R&Bアルバム(『ブラック・レディオ』)」、「最優秀R&Bパフォーマンス(「ゴナ・ビー・オーライト feat. レディシ」)」の2部門にノミネートされています。ノミネートされたとき、どういった心境でしたか?

「これこそ、究極のクロス・オーバー(=境界線を越えること)だ!」とおもいました。最初に『ブラック・レディオ』がヒップホップ・R&Bと、ジャズのチャートに同時にランクインしたとき、「境界線をひとつ越えたぞ!」と大喜びしていたんです。ですが、グラミー賞のR&B部門、しかも最優秀と名のつく賞にノミネートされるとは、まったく予期していなかったので、身に余る栄誉だとおもいました。いまだにショック状態がつづいています(笑)。

──“クロス・オーバー”という意味では、すでにグラスパーさんの作品自体がクロス・オーバーしているとおもうんです。ファースト・アルバム『モード』でカバーした、ハービー・ハンコックの「処女航海(原題:Maiden Voyage)」を、サード・アルバム『イン・マイ・エレメント』でレディオヘッドの「エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス」と一緒にひとつの楽曲にまとめあげたり、最新作の『ブラック・レディオ』では、デヴィッド・ボウイの「ヘルミオーネへの手紙(原題:Letter to Hermione)」やモンゴ・サンタマリアの「アフロ・ブルー」を、いままでにない形で表現したりといった具合に。

Robert Glasper Experiment 「Ah Yeah」

それが作為的というよりは、むしろ自然に感じるんです。「ロックやヒップホップの楽曲をジャズにアレンジしました」というよりは、本当に思い入れの強い楽曲を、自分なりに消化した上で、改めて編曲しているような。そのあたり、グラスパーさん自身はどう感じていらっしゃいますか?

そうですね。楽曲をリメイクするときには、やりすぎないように気を付けています。その楽曲に宿るスピリット(=魂)みたいなものが、損なわれないような形でリメイクするようにしているんです。できるだけ自然の流れに沿って、あまり頑張りすぎないというか、手を入れすぎないように、というのは心がけていますね。

──4枚目のアルバム『ダブル・ブックド』で、(アコースティック志向の)“トリオ”と(よりヒップホップ志向の)“エキスペリメント”という、自身の2つのバンドの作品を同時に収録。それからエキスペリメントとしてライブをおこなったあと、エキスペリメント名義で『ブラック・レディオ』を完成させたという経緯があります。ですが、昨日のライブを聴いたとき、前回エキスペリメントで来日したときのライブとは、演奏も雰囲気もガラッと変わったなという印象を受けたんですね。エキスペリメントからさらに一歩進んだ音になっていると。それは意図的に前進して、進化しているという風に捉えていいのでしょうか? またそうした変化が、次のアルバムにつながっていくのでしょうか?

おそらくそれは、自然な流れのなかでの進化だとおもうんです。バンドとしてすこしずつ成長してきたということだとおもいます。実際、演奏すればするほど、自分たちらしい音が出せるようになったり、もっと実験的な要素を取り入れたりと、どんどん楽しくなってきています。ぼく自身は、「こういったことをやる」というのを、事前に決めて進んでいくタイプではないので、いまやっていることがこれからどんな風に進化していくのか、いまからとても楽しみにしています。

松浦俊夫|from TOKYO MOON 2月10日 オンエア

未来の音を紡ぎ出すピアニスト、ロバート・グラスパー独占インタビュー(3)

家にはいつもジャズが流れていた

──音楽をはじめたとき、なぜピアノだったのですか?

母の影響が大きいとおもいます。いつもピアノを弾きながら歌っているのを聞いていました。家にはアップライト・ピアノも、グランド・ピアノも、それにキーボードもあって、ただそこにピアノがあったからはじめたという感じですね(笑)。そして弾いているうちに、だんだん夢中になっていったんです。

──そのときにお母さんが弾いていた、もしくは歌っていたのは、だれのなんという曲だったのでしょう? 家にはどんな音楽が流れていましたか?

母のお気に入りは、ジョニー・グリーンの「ボディ・アンド・ソウル」、ハリー・ウォーレンの「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」、ハリー・ウッズの「月光のいたずら(原題:What a Little Moonlight Can Do)」といったジャズのスタンダード。ぼくがピアノを弾いて、母が歌うというシチュエーションがよくありましたね。

──小さいころから、そうやってお母さんと一緒にジャズに親しんでいたんですね。のちのちジャズの道を志すようになったのも、やはりそのころの体験がベースになっているとおもいますか?

そうですね。その経験がなければ、ジャズの道に進むことはなかったとおもいます。

──いまも昔も、ジャズという言葉がなにを指すのか、はっきり答えられる人はすくないとおもいます。ぼく自身、あらゆる音楽を飲み込んで先に進んでいくもの=ジャズだと捉えてきたので、世間一般に考えられているジャズとはすこしズレがあるんです。DJをするときもおなじで、それがジャズであっても、ヒップホップであっても、ラテンであっても、テクノであっても、自分が“ジャズ”を感じる楽曲にかんしては一緒にプレイするんですね。

グラスパーさんの奏でる音楽というのは、そのミュージシャン版じゃないかなとおもっているんです。ジャズに寄りかかりすぎていない、そのアプローチこそが“いまのジャズ”らしいなと。グラスパーさん自身、これからジャズはどうなっていくとおもわれますか?

これからのジャズは、おそらくいろいろな影響を取り入れたあたらしい音楽になっていくのではないかとおもいます。まさに松浦さんやぼくがやっていることですよね。いままでのジャズがこうだったから、これからもおなじ形式にのっとって音楽を作らなきゃいけない、演奏しなきゃいけない、なんてルールはいっさいないですから。いま出てきている若いジャズミュージシャンたちは、みんなヒップホップやソウルの影響を受けています。彼らがシーンを引っ張っていくころには、またジャズの音というのは変化しているでしょうね。そして、それこそがジャズの進むべき道だとおもうんです。

もしヒップホップやソウルが1960年代にあったなら、マイルス(・デイビス)は間違いなく飛びついていたでしょうね(笑)。彼は変化を恐れない人でしたから。時代の流れとともに、常にあたらしいことにチャレンジしていました。ジャズも本来そうあるべきだとおもうんです。どこかで立ち止まってじーっとしているなんて、そんなものはジャズでもなんでもありません。ジャズとは即興性であり、変化であり、そして進化でもある。そんなことをハービー(・ハンコック)も言っていましたが、ぼく自身もジャズというのは、常に変化していくものだとおもっています。

──それでは、グラスパーさんにとって音楽とはなんでしょう? 一言でお願いします。

ぼくにとっては、人生そのもの“ライフ”ですね。

──では最後に、人生で一番影響を受けた音楽をひとつだけ選ぶとしたら、それはだれのなんという楽曲でしょう?

ひとつだけですか……難しいですね。あえて言うなら、マイケル・ジャクソンの「I Can’t Help It」かな。歌い手はマイケルですが、スティービー・ワンダーが作った1曲です。この曲が入ったアルバム『オフ・ザ・ウォール』は、いまでも毎日のように聴いています。なかでも「I Can’t Help It」は、ぼくが大好きな2人のミュージシャンがかかわっている曲ということもあって、特に思い入れが深いですね。

──ジャズシーンしかり、音楽シーンしかり、グラスパーさんの果たす役割というのは、これからもっともっと重要になってくるとおもいます。いちファンとして、ずっと応援していますので、あたらしい道を切り開いていってください。

(日本語で)ありがとうございます!

協力: ビルボードライブ東京

松浦俊夫『TOKYO MOON』

毎週日曜日24:00~24:30 ON AIR

   月曜日24:30~25:00(再放送) ON AIR

Inter FM 76.1MHz

『TOKYO MOON』へのメッセージはこちらまで

moon@interfm.jp

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www.interfm.co.jp

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