ルノーメガーヌ エステート GTライン に試乗|Renault
Renault Megane Estate GT Line|ルノー メガーヌ エステートGTライン
メガーヌ エステート GTラインに試乗
3代目「メガーヌ」のマイナーチェンジにあわせて、ワゴンモデル、「メガーヌ エステート」がついに国内に導入された。それもルノーのモータースポーツ部門、「ルノー スポール」が特別に仕立てあげた「GTライン」での展開である。レースの、ラリーの現場で鍛え上げた、職人たちの経験とワザが投入された、この「メガーヌ エステート GTライン」。はたして大谷達也氏の判定は?
Text by OTANI Tatsuya
Photographs by ARAKAWA Masayuki
部品がおなじ=おなじクルマ、ではない
「日産もルノーもおなじパーツを使っているんだから、わざわざルノーなんか買う必要ない」とおもっているアナタは、もしかすると大損をしているかもしれない。
日産とルノーがアライアンスを結んだのは1999年だから、もう13年も前のこと。この種の提携にしては珍しく、両メーカーの主戦場となる車格が比較的近かったことも手伝い、ふたつのメーカーは部品の共用化をこれまで積極的に推し進めてきた。
たとえば、「メガーヌ」に用いられている「Cプラットフォーム(シャシーの基盤をなす部分)」は日産とルノーが共同開発したものだし、メガーヌが積む「M4R」エンジンもおなじく日産との共同開発品(日産では「MR20DE」)。そして6段マニュアルモードつきCVTは、日産の関連会社である「JATCO」から供給されるものだ。だから「部品がおなじ」というのは、ある程度まで正しい。
では、「部品がおなじ」だと「クルマもおなじ」になるのか? こたえは絶対に「ノー」だ。たとえば、現行型のルノー「トゥインゴ」は先代の日産「マーチ」とおなじシャシーを使っているけれど、乗り心地はトゥインゴのほうがストローク感があってあきらかに快適。
また、サスペション性能がすぐれているため、コーナーリング中にタイヤが音を上げることは滅多にない。いずれも、先代マーチとは次元が異なるといっていいくらい、トゥインゴのパフォーマンスは高く感じられる。ウソだとおもうなら、乗りくらべてみるといい。あっという間にそのちがいに気づくはずだ。
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メガーヌ エステート GTラインに試乗(2)
新技術を派手に宣伝しない
では、先日マイナーチェンジがおこなわれたばかりの3代目メガーヌの場合はどうなのか?
プラットフォームは前述のとおり一応Cプラットフォームをつかったことになっている。けれども、オリジナルのCプラットフォームを用いているのはフロントバルクヘッド付近のごく一部で、それ以外の大半は専用設計されたようだ。
しかも、サイズにあわせてささっと作り直しただけのものとは、ワケがちがう。
フロントのサブフレームとサイドメンバーのあいだは、驚くべきことに減衰力を発生させるダンパーで結ばれているのだ。もっとも、これは4つある結合部のうちのふたつだけで、残る2ヵ所はオイル封入のゴムブッシュを介して固定されているが、それにしても、サブフレームとボディの結合にダンパーをもちいている例は寡聞にして聞いたことがない。
唯一、ボディの補強材にダンパーを用いている例としては、ヤマハ発動機が製造している「パフォーマンスダンパー」が知られている。
これはボディに発生する微振動を吸収する効果があるものだが、自分のクルマに装着すると、10メートル走っただけでちがいに気づくほど劇的な効果があるという。
けれども、ルノーが面白いのは、そうした新技術を派手に宣伝しない点にある。
じつは、前述のダンパーにしても、プレスリリースにはさらっと触れられている程度で、それがダンパーであるとも書いてなければ、世界初の新技術とも謳っていない。よくよく注意して読まなければ、その意味に気づくものはいないくらい、扱いは小さいのだ。
正直、私もこのダンパーの“ある/なし”を試したわけではないので、その効果のほどを評価することはできない。けれども、これだけは声を大にしていえる。新型ルノー「メガーヌ エステート GTライン」の足まわりは、このクラスでは比べるものがないほど完成度が高い。特に、そのロードホールディング性は、メガーヌよりはるかに高額なモデルを凌駕するほどだと断言できる。
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メガーヌ エステート GTラインに試乗(3)
ルノーの美点
もう、これはルノーの伝統でもあるのだけれど、多少のうねりがあろうが継ぎ目があろうが、サスペンションは執拗に路面を追従して離さない。ダンッと路面の突起物に乗りあげた直後でもタイヤが空中に浮くことはなく、反対にそれを包み込むようにしてサスペンションは上下する。この足回りのしなやかさこそ、ライバルを圧倒するルノーの美点である。
このように、タイヤを路面に追従させ、どのような状況でも安定したグリップを生み出す性能のことを「ロードホールディング性」という。
では、ロードホールディング性が高いとどのようなメリットがあるのか? あたらしいメガーヌ エステートに乗ってワインディングロードを走れば、いや、そこまでしなくても首都高速道路の環状線をひとまわり走れば、その意味はたちどころにしてわかる。
みなさんも、コーナーの途中で路面がうねっている場所に遭遇したことがあるだろう。ある程度以上のスピードで、そうした箇所を通過すると、タイヤが瞬間的に浮き上がってグリップ力が低下し、キュッとスキール音が響くはず。さらにペースを上げていけば、そこでクルマは横っ飛びするかもしれないし、極端な場合にはコントロールを失ってスピンをするというケースだってありうる。
もっとも、それはかなりスピードを上げた領域の話だけれども、かりに雨が降っていれば、そこまでスピードが高くなくても怖いおもいをする恐れがあるし、たとえドライでも、ロードホールディングのいいクルマは乗り心地が滑らかで快適に感じられるもの。あまり話題にされることはないけれど、ロードホールディング性はクルマにとってとても大切な性能なのだ。
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メガーヌ エステート GTラインに試乗(4)
限界に到達できない
そんなメガーヌ エステートで箱根の山々を半日ほど走りまわったが、正直に言うと、私はとうとうメガーヌに勝てなかった。つまり、どんなに攻めても、このクルマの限界を引き出せなかったのである。
その理由のひとつに、4気筒2.0リッターエンジンの最高出力が140psと、さほどパワフルではなかったことがあげられる。けれども、これはあくまでも相対論だ。市街地や高速道路を走って、このクルマが遅いと感じることはほとんどないだろうし、反対にこれほどシャシー性能が高くなかったら、このエンジンでも充分に限界を引き出すことはできたはず。
けれども、シャシー性能があまりに高かったうえ、エンジンが抜群にパワフルというレベルでもなかったために、ついにタイヤが音をあげるレベルまで追い込みきれなかったのである。
今回のマイナーチェンジではじめて登場したワゴンボディのエステートも実用性が高い。ハッチバックよりホイールベースを60mm伸ばしたことで後席の居住性はさらに向上。身長171cmの私が前後に腰掛けても、後席に座る私の膝と前席のシートバックとの間には10cmほどの空間が残っていたし、ヘッドルームはそれ以上に余裕がある。しかも、ハッチバックより全長を240mmも長くした恩恵で荷室は広く、リアシートを倒さなくとも486リットル、倒せば1,600リットルの容量を確保できるという。
これほど傑出したシャシー性能のクルマが278万円という価格で手に入ることは驚き以外の何物でもない。もうちょっと高そうに見えるお化粧をして、少しだけパワフルなエンジンを積めば、500万円でも簡単に売れる価値があるだろう。でも、その控えめな姿勢というか、ものすごいことをさらっとやってしまう心意気が、いかにもルノーらしいといえばルノーらしい。本物の価値を知るエンスージアストにこそお勧めしたい1台だ。
Renault Megane Estate GT Line|
ルノー メガーヌ エステート GT ライン
ボディサイズ|全長4,565×全幅1,810×全高1,490 mm
ホイールベース|2,700 mm
トレッド|1,545 mm
トランク容量|486-1,600 リットル
重量|1,380 kg
エンジン|1,997 cc 直列4気筒 DOHC
最高出力| 103 kW(140 ps)/ 6,350 rpm
最大トルク|195 Nm(19.9 kgm)/ 4,650 rpm
トランスミッション|6段マニュアルモード付きCVT
駆動方式|FF
タイヤ|205/50R17
ブレーキ 前/後 |ベンチレーテッドディスク/ディスク
価格|278万円