角田陽太|東京の酒場を案内する新連載「東京浪漫酒場」第一回 三軒茶屋「久仁」
Design
2015年2月4日

角田陽太|東京の酒場を案内する新連載「東京浪漫酒場」第一回 三軒茶屋「久仁」

東京の酒場をデザイン目線で語る

第一回 三軒茶屋「久仁」

「店の雰囲気をつくるのに重要な役割を果たしている備品にも注目して、うまい酒を飲み、店のたたずまいを楽しむ」――プロダクトデザイナーとして各界から注目される角田陽太氏の新連載は、単なる酒場紹介ではなく、ファサード、インテリア、椅子、テーブル、皿などにも目を届かせて、いかにその店がいい味を出しているかを、ライブ感ある写真とともに楽しむ。第一回は、三軒茶屋のもつ焼きの名店、「久仁(くに)」を訪れた。

Text by KAKUDA YotaPhotographs by OTA Takumi

うまいつまみに熱燗がすすむ。酒がすすむと話もすすむ

三軒茶屋から茶沢通りを下北沢方面に10分ほど歩いていくと、その酒場がある。ライトグレーのファサードに店名が書かれていない無地の暖簾と小ぶりな赤提灯という、気づかずに通り過ぎてしまいそうな外観の店である。

夕方5時の開店時間にはなぜかもう常連さんが12名も入っていて、地元にとても愛されている店だということがわかる。何気ないパイプスツールが飾らない雰囲気をつくり、カウンター、テーブル、小上がり座敷がそれぞれ12席程度でバランスがいい。

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おしんことみそ焼きで名物のサワーを飲む。とても美しく盛りつけられたおしんこはぬか漬けで、あっさりとした酸味がとてもおいしい。やはり自家製のおしんこがおいしい店は何でもおいしい。

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久仁のみそ焼きはあまり甘くないみそを使用しているので、とても酒に合う。とくにしろ(大腸)は肉厚でぷりぷりしている。ほかのもつ焼きもカシラや子袋など絶品揃い。

備品もこの店の雰囲気をつくるのに重要な役割を果たしている。しょうゆ差しがとてもいい。壁面と蓋部の曲面が優しく、成形された細かい縦線があるのでまったくべたつかない。

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予約札という酒場では嫌われそうなプロダクトも、嫌味のないクラシックなフォントで書かれている。ケースを90°倒しただけの焼酎と日本酒のボトルラックも、瓶の胴の長さを活かすという自然な考え方によるインテリアプロダクトだ。

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銀杏やいかくちに使われている串は極細で、食材を綺麗に見せる。その後も、厚揚げ、きぬかつぎ、にんにく焼きなどをつまみに熱燗がすすむ。酒がすすむと話もすすむ。

久仁
東京都世田谷区太子堂3-18-2
Tel. 03-3410-7806
営業時間|17:00~23:00
定休日|日曜日・祝日

角田陽太|KAKUDA Yota
デザイナー。1979年宮城県仙台市生まれ。2003年渡英し、さまざまな事務所で経験を積む。2007年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)を修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年、YOTA KAKUDA DESIGNを設立。http://www.yotakakuda.com/

太田拓実|OTA Takumi
写真家。1978年愛知県名古屋市生まれ、高校卒業まで宮城県仙台市に育つ。建築・空間・プロダクトなどを対象にフリーランスフォトグラファーとして活動中。http://www.phota.jp/

           
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