「ライバルはキティちゃん」と思ってました(笑)|MEDICOM TOY
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
写真家・映像監督の蜷川実花さんに聞く(1)
蜷川実花さんがメディコム・トイとはじめてコラボレートしたのが、2011年。それ以来、計4体のBE@RBRICKに加え、2017年12月にはテクスチャーにフォトプリントを載せたファブリックアイテムの展開もスタートした。そんな蜷川さんが切り取るメディコム・トイとは? 多忙極まるスケジュールのなか、インタビューを快諾していただいた実花さんの本心に迫まった。
Text by SHINNNO Kunihiko
ファーストコラボは、2011年12月リリースのBE@RBRICK
――中国・上海で「蜷川実花展」(会期:2017年11月11日〜2018年1月10日)が開催中ですが、オープニングセレモニーも大盛況だったそうですね。
蜷川 いままでで一番大きな規模の個展なので結構ハードだったんですけど、あれもやってみたい、これもやってみたいということを実現することができたのでよかったです。
スペースがあればあるだけ派手にして詰め込みたくなるのですが、それができるぐらいお金をかけられる機会が、日本だとなかなかないので。中国だからできないこともある一方で、中国だからこそできることもたくさんあって面白い幕開けになったと思います。
――会場の雰囲気はいかがでした?
蜷川 日本だと女の子が多いですけど、男女比が半々ぐらいで、しかも若い人たちばかりでした。
中国のスタッフは皆さん若いし、決定権がある人も若いんです。おじさんたちはどこにいるんだろうと思うくらい。そういう若い人たちが私のクリエイションを好きでいてくれているんだと思います。
個展会場でトークイベントをしたとき、客席に私のBE@RBRICKを3体も持ってアピールしている男の子がいたんです。しかも、1体は6年前に初めて作った白いボディのモデルで。日本で買うのも結構大変だったのに、いったいどうやって手に入れてくれたんだろうと思って嬉しかったです。
――2011年12月に開催された「BE@RBRICK WORLD WIDE TOUR 2」記念限定モデルですね。
蜷川 もともとBE@RBRICKファンで、私の写真も好きでいてくれてるんだと思うんですが、さすがに3体も持っている人には会ったことない(笑)。しかも、中国であの白いモデルを持っている子は相当珍しいと思います。なので、基本的にサインはお断りしていたんですけど、その子のBE@RBRICKには思わずサインしちゃいました。
――あのBE@RBRICKから蜷川さんとメディコム・トイのコラボレーションが始まりましたが、それ以前からメディコム・トイのことはご存知でしたか?
蜷川 もちろん知ってましたし、父(故・蜷川幸雄氏)がBE@RBRICKをいっぱい持っていたんです。父はちっちゃいものが好きで。マグリットとかボッシュとか絵画のフィギュアをいっぱい持っていて、BE@RBRICKもいくつか飾っていたんです。よくシアターコクーンで公演をしていたので、その合間にお店(メディコム・トイ直営店「1/6計画」)に寄っていたみたいです。近いから。
――これまでフィギュアをコレクションされたことはありますか?
蜷川 大学生のとき『スポーン』が大好きで集めてました。
私、女の子とイケメンのキャラクターが出るたびに買って、取り出して遊んでいたんです。でも、あれって、みんな開けないじゃないですか? 私は全部開けて遊びまくっていたから、集めている男の子たちが「あいつんちのは開いてるらしい」ってことで、しょっちゅううちに遊びに来ては「ちょっと見せてもらっていい? やべー、ここ、こうなっているんだ!」って(笑)。
――当時、コレクターはみんな透明なブリスターのまま壁に飾っていましたね。
蜷川 その状態もおしゃれでかわいかったから、裏側だけ切って出入り自由な感じにしてました(笑)。集めているものはいろいろありますけど、男性みたいに全部完璧には揃えないですね。たとえば全12種でも、かわいいもの9個だけでいい。そこが男性とは違う。この部分の色が違うのが激レアだから何万円とか言われても、全然普通のでいいですって(笑)。
Page02. 撮ったものをどう見せるか。そして写真が立体物を飾るまで
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
写真家・映像監督の蜷川実花さんに聞く(2)
撮ったものをどう見せるか。そして写真が立体物を飾るまで
――BE@RBRICKを最初にデザインしたときのお話を聞かせてください。
蜷川 当時はまだ今みたいに全面に写真をプリントすることが技術的にできなかったので、ずいぶん悩みました。写真家の事務所だから、立体物に対応できるスタッフがいなくて。ソフトもPhotoshopとIllustratorがちょっと使えるぐらい。苦肉の策で写真をカラーコピーしてハサミで切って、両面テープで貼りながら試行錯誤したのを覚えてます。
――アナログ的手法で生まれたものだったんですね。
蜷川 でも、かわいいですよね。後にこの考えをベースにしたワンピースや水着の柄ができたり、飛行機のラッピングにもなる予定です。思い返せばこれが写真を解体してもう一度自分のイメージを作った最初のグッズです。そういう意味でも思い出深い作品のひとつですね。
なので、中国でこれを持って男の子が立っていた姿を見たとき、ちょっと感動してしまって(笑)。
――その後、BE@RBRICKの全面に写真がプリントできるようウォータープリント(水転写)という技術も使われるようになり、「Anemone」「SAKURA」「Rose」が誕生しました。
蜷川 どんどん進化してますよね。たぶん、写真がこれだけいろんなアイテムになった前例がなかったんだと思うんです。だからいろんなところで技術が革新されていて。
印刷所でも「蜷川さんのこの色を出すために新しいインクを開発しました」みたいなのがいっぱいあって。いつも「濃度限界」って判を押されていたんですけど、私用に「彩度限界」ってハンコを新たに作ってくれたところもあります。皆さまのおかげでいろんなことができるようになりました(笑)。
――さらに2016年から蜷川さんのディレクションブランド「M / mika ninagawa」とメディコム・トイのコラボレーションで、写真を布地にプリントしたバッグ、クッションカバー、カメラストラップなども販売されています。
蜷川 どれもすごくかわいいですね。バッグもかわいいし、名刺入れもかわいい。
うちは来客が多いのでスリッパがほしくて、ぜひ作ってくださいってリクエストしたんです。カメラストラップもそう。次はカーテンもいいですね。寝室のカーテンをそろそろ変えたいし(笑)。
――こうした幅広い展開は写真家を志した頃から考えていたんですか?
蜷川 20代の頃は「ライバルはキティちゃん」と思ってました(笑)。キティちゃん
と同じ物量で世界を埋め尽くしたいなって。アートピースとして買いたい方は本物の一枚を買ってほしいし、買えないけど身の回りに置きたい方には100円のボールペンでもあるといいなって。
「写真家だから、これやっちゃいけない」っていうのが、私の場合なくて。生活の中にアートピースが入ってくるのはすごくいいことだし、そこから写真に辿り着いてくれたらなお嬉しい。あるところまでは増殖していっても大丈夫なぐらいのクリエイションの強さを持てばいい。それでダメにな
るようなクリエイションはすべきではないと思いながらやっています。
――それはアングラから大衆芸術まで広く手掛けられたお父様の影響もありますか?
蜷川 少ない人だけに観てもらえるものが高尚ではない、商業的に成功することは悪いことではないという考えは引き継いでいると思いますし、そこがより過剰になっている感じですね。
アートの世界ではコマーシャルな仕事はしない方がいい、とにかくアートピースだけやっていた方が高く見られるのは知っているんですけど、そんなことで己を高く見せてもしょうがない。
世界中にいろんなことが広がっていく方が面白いし、それをやっても大丈夫な強度を持つように日々努力する方が自分には合っている気がして。
なので、ついついいろんなものをやっちゃうんですけど。
――大学でグラフィックデザインを専攻されていたことも大きそうですね。
蜷川当時は撮ったものをどう見せるかということを、そこまで考える人があまりいなかったんです。みんなもっと実直に写真を撮る感じだったので、公募展とか出す時はずいぶんそれが強みだった気がします。逆に芯がないのに、そこばかりできても写真家としてはしょうがないんですけど。
――蜷川さんにとってメディコム・トイはどんな存在でしょう。
蜷川 うちのスタッフもみんなメディコム・トイとお仕事するのが大好きなんです。愛があるから絶対にいいものに仕上げてくれるんですよね。クオリティチェックの基準ってそれぞれ違いますけど、圧倒的な信頼感があるから「えっ、かわいいじゃん!」でだいたい終わります(笑)。いい意味で楽だし、楽しみしかないです。
サンプルが届く日はみんなワクワクして「来たよー、キャー!」って。パッケージもかわいいし。
――ちなみにご自身のアイテム以外でお好きなものは?
蜷川 私、『ドラえもん』のツチノコが大好きなんです。うちの下の子にちょっと似てないですか?(笑) なんでツチノコ作るんだろうってところも好きだったし、このこだわりのフォルム。何回見ても魂が入ってると思うし、愛を感じます。おさんぽできるように紐が付いてるところも素晴らしいです。
――今後も末永く関係性が続きそうですね。
蜷川 まだまだ柄はたくさんあるので、ずっとやりたいです。ひたすらBE@RBRICKの柄が増えていくのは楽しいですね。