現代化した6シリーズの最高性能モデル BMW M6に試乗|BMW
BMW M6|ビー・エム・ダブリュー M6
現代化した6シリーズの最高性能モデル
BMW M6に試乗
BMWのラグジュアリークーペ、6シリーズに、M社がチューンナップをほどこした「M6」。ジュネーブ国際モーターショーで公開され、日本でも4月に販売が開始しているこのモデルの国際試乗会が先日、スペインで開催された。現在のMモデルのフラッグシップは、はたしてどんな性格に仕上がっているのか。島下泰久氏によるインプレッション。
Text by SHIMASHITA Yasuhisa
5シリーズのクーペ? いやいや!
BMW Mモデルのフラッグシップと言うべき存在である「M6クーペ&カブリオレ」がフルモデルチェンジを果たした。その基本的な成り立ちはこれまでと変わらず、「6シリーズ」と「5シリーズ」のちがいにほぼ準じる。要するに「M5」のクーペ版と言って、おおよそ間違いはないわけだが、実際にスペインはマラガ近郊にておこなわれた試乗会にてステアリングを握ってみると、意外や受ける印象には結構な差があったのだった。
もちろんスペックを見比べるだけでも、ちがうんだろうなという想像はつく。
すでに発表されている日本仕様の数値で見ると、M6クーペのサイズは全長4,905×全幅1,900×全高1,375mmで、M5セダンに較べると15mm短く、10mm広く、95mm低くなっている。2,850mmのホイールベースは115mmの短縮だ。
そして車両重量は1,910kgと、M5より70kg軽い。先代につづいて採用されたCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)製のルーフも、軽量化に貢献している、M6ならではのポイント。実際、ルーフパネル単体の重量は3.7kgと、スチール製とした場合の半分以下。車体のもっとも高い位置につくルーフだけに、重心高を下げることも繋がっている。
なお、このCFRP自体も進化していて、先代M6に較べると厚みが薄くなり、また中央部分が一段凹んでいる。これも剛性アップ、そしてさらなる重心高の低下に繋がっているのは間違いない。それでいて生産所用時間も2割ほど短縮されているという。CFRP採用に積極的なBMWは、自社工場でこれらを生産しているのだ。
エクステリアではほかにも、お約束である前後バンパーやエグゾーストのみならず、熱可塑性プラスチック製のフロントフェンダーが専用品とされている。これは30mm拡大されたフロントトレッドに合わせるためである。タイヤサイズは19インチが標準。オプションで20インチを選択できる。細かいところでは、リアコンビネーションランプのすぐ下にリフレクターが配されている。なんのことはないディテールなのだが、これだけでワイド感がグッと際立っているのが面白い。
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BMW M6に試乗(2)
扱いやすさが目立つエンジン
まずはM6クーペの室内に乗り込み、専用のスポーツシートに身を沈めると、目の前のステアリングホイールが、コンパクトな丸形のセンターパッドに細身のスポークを備えたあたらしい形状にあらためられていることに気付く。ベース車とちがうデザインは気分をたかぶらせるポイントだし、大型化されたステアリングシフトパドルともども操作感も上々と言える。
6シリーズの電動ではなく油圧アシストとされるパワーステアリングの重さ、ダンパー減衰力、スロットル特性やDSCの介入度合いなど、操作系や制御系のセットアップをさまざまに変更できるのは先代と同様。個別にも調整できるし、好みのセットを2パターン記憶させて、ステアリングホイール上のボタンで呼び出すこともできる。
エンジンはM5と同様、従来のV型10気筒5リッター自然吸気から、V型8気筒4.4リッター直噴ツインターボにあらためられた。560psの最高出力もさることながら、69.3kgm(680Nm)もの最大トルクを1,500-5,750rpmという幅広い回転域で発生するのが、その特徴である。トランスミッションも、おなじ7段ながらシングルクラッチATの「SMG」からデュアルクラッチATの「M DCT」へとあらためられている。
まずは、すべてを一番大人しいモードにしてスタートする。すなわちエンジンは「EFFICIENT」、ステアリングとダンパーは「COMFORT」である。
凄まじく精緻で、それでいてもっと回せとドライバーを常に焚き付けてきた従来のV型10気筒ユニットとはちがって、野太く迫力あるサウンドを聞かせるエンジンは、スペックの通り低回転域からトルクが分厚く、またスロットル操作にたいするタイムラグもほぼ皆無。まずは扱いやすさの方が強い印象をもたらす。乗り心地もしなやか。いや、速度が上がるにつれて、むしろ上下にあおられすぎとすら感じられて、おもわず「SPORT」に切り換えたくなる。
一般道での不満と言えばそれぐらい……と言いたいところだが、これはM6である。あまりにゾクゾクさせられないというのは、やはり不満と言うべきだろう。ステアリングやダンパーの設定を変えても、その意味では大きなちがいはない。贅沢な悩みかもしれないけれど。
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BMW M6に試乗(3)
いざ、サーキットへ
本領が発揮されるのは、やはりサーキットということになる。すべてのモードを「Sport+」にして、DSCは介入限界を引き上げた「Mダイナミック」モードに入れ、いざコースへ。
なにより刺激してくるのは、やはりエンジンだ。車内にサウンドモジュールによって電子的にもたらされるサウンドはボリュームを増し、低速域でのトルクは、まさに路面を掻きむしるほど。驚異的なトラクションの高さゆえにクルマは力強く前に進む。迫力は十分だ。回せば回すほどパワーは高まり、1速や2速ではレヴリミットの7,200rpmまで一気に達してみせる。高回転域でM5以上の突き抜け感を覚えたのは、やはり車重が軽いおかげだろう。
最初のコーナーに向けてステアリングを切り込むと、想像より大きめのロールを伴いながら、なかなか軽快にノーズがインに向かっていく。というより、少し度が過ぎただけで簡単にテールがスライドしてしまうほど、曲がりたがる。この日は車内温度計が38度を指す暑さで、時折ギアボックスがオーバーヒート気味にむずがるほどだったから、タイヤも相当発熱していたと想像はできるが、それにしても驚いた。結構なアングルがついた上に、DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール 横滑り防止装置)が介入してスロットルが絞られ、クルマを前に進ませられない。腕利きがサーキットを攻めるなら、DSCはいっそオフの方が扱いやすいにちがいない。
エンジンを「SPORT+」に設定すると、反応が過敏で動きがギクシャクしてしまうのも気になった。右足の繊細な、とても繊細な操作が求められる。
しかしながら、じつは昨秋におなじサーキットでM5を走らせた時の記憶を紐解いてみれば、M6は圧倒的に走らせやすいと感じたのも事実だ。いかにも重心が低く、外側前輪に荷重が一気に乗ってつんのめるような感覚とは無縁だし、ホイールベースが短いこともあって曲がり出しもスムーズ。コーナリング中も体感的な慣性質量が全然ちがっていて、手の内感が強い。
加速も心なしか鋭く感じられるが、それ以上にブレーキがよく効く。じつは試乗車にはこのM6からオプション設定された「Mカーボン・セラミック・ブレーキ」が装備されていたから、その効果も大きいにちがいない。車重2トン級のクルマだけに、これは必須の装備と言っても良さそうだ。
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BMW M6に試乗(4)
カブリオレがベストバイか?
快適で、飛ばせば刺激もあり、絶対的にも速い。完成度はきわめて高いクルマにはちがいないM6だが、サーキットでも一般道で感じたのとおなじように、今ひとつゾクゾクとした感じは薄い印象だった。先代の、より繊細なクルマとの対話感をおもうと、シャシーにしてもパワートレインにしても、どうも大味に感じられてしまう。
いまや、このカテゴリーのユーザーでも、そういう部分にこだわるのは少数派だとM社のスタッフは言うのだが、そこへのこだわりをなくしたら極端な話、Mモデルの存在意義は曖昧になってしまう気がする。
そんな引っ掛かりを持ちつつ、翌日にはM6カブリオレに試乗したのだが、これが望外に気持ち良かった。ボディはなにひとつ不満を感じさせないほど強靭で、こちらは標準の19インチタイヤとの組み合わせだったということもあって、快適性は抜群。それでいてワインディングロードを走らせたぐらいでは、フットワークに物足りなさを覚えるようなことはなく、大いに楽しむことができた。
4座オープンだけに風の巻き込みは小さくないが、それもまた良し。ステアリングを握っていて、今度のM6のベストバイは、こちらなのかもとおもった。
新型M6は、要するにやはりそういうクルマなのかもしれない。Mの名を戴くモデルの誇りとして、サーキットに持ち込んでも驚くほどのパフォーマンスを発揮するとはいえ、そうした場面で切れ味を満喫するというよりは、もう少し余裕のスポーツ性を味わう方が合っている。ちょっと寂しい気持ちはあるが、ターゲット層には間違いなく支持されるはず。先代より速く、扱いやすく、それでいて燃費は3割ほども良いとなればなおのことである。
とはいえ、願わくばもう少し軽くエッジの立った、歯応えのあるモデルも設定してほしいというおもいも拭うことはできない。エンスージアスティックなファンの期待にこたえるのも、こうしたブランドの使命のはずだ。
BMW M6|ビー・エム・ダブリュー M6
ボディサイズ|4,898×1,899×1,374mm
ホイールベース|2,851mm
トレッド (前/後)|1,631 / 1,612mm
最低地上高|106mm [107mm]
重量|1,850kg [1,980kg]
Cd値|0.32
エンジン|4,395ccV型8気筒ツインスクロールツインターボ
(VALVETRONIC、Double-Vanos、高精度燃料直接噴射技術搭載)
ボア×ストローク|88.3×89.0mm
圧縮比|10:1
最高出力|412kW(560ps)/6,000-7,000rpm
最大トルク|680Nm/1,500-5,750rpm
サスペンション (前/後)|ダブル・ウィッシュボーン式、コイル・スプリング、スタビライザー /
マルチリンク式、コイル・スプリング、スタビライザー
ステアリング|油圧ラックランドピニオン式パワーステアリング
ブレーキ|ベンチレーテッド・ドリルド・コンパウンド・ディスク(前直径400×36/後直径396×24)
タイヤ 前/後|265/40 R19 102Y / 295/35 R19 104Y
最高速度|250km/h (M Driver's Package 設定時 305km/h)
0-100km/h加速|4.2秒 [4.3秒]
燃費|9.9ℓ/100km [10.3ℓ/100km]
CO2排出量|232g/km [239g/km]
価格|1,695万円 [1,760万円]
※[]内はカブリオレの数値