kolor|デザイナー 阿部潤一インタビュー
kolor|カラー
デザイナー 阿部潤一インタビュー(1)
パリのランウェイショーを終えて
今年1月18日からはじまった2012-13年秋冬パリメンズコレクションの期間中、ブランド設立から8年目にしてはじめてランウェイ形式のショーを発表したkolor(カラー)。会場となったパリ・ESPACE COMMINESは、kolor南青山のショップをイメージしたブルーの絨毯が敷きつめられ、ピラミッド型の客席から招待客が熱いまなざしを送った。阿部さんへのインタビューは、2009年春夏シーズン以来となる。
Text by KAJII Makoto (OPENERS)Interview Photographs by SUZUKI KentaCollection Photographs by TAKAGI Masaya
カラーをよりわかりやすく伝えるためにショーがある
――やはりまずランウェイショーの手応えからうかがいます。
正直、本当の評価はわからないですね。反省点はもちろんありますが、僕らなりに、仕事としてやるべきことはやったという感じです。
――ショーを開催したきっかけは?
僕たちはランウェイショーをやっていないことにとくに不満はありませんでした。毎シーズンおこなっているパリの展示会場のギャラリーも気に入っていて、その空間もふくめてカラーのイメージを伝えているとおもっていました。
2シーズン前からインターナショナルのプレスを、パリのPRオフィスにお願いしているのですが、そのプレスオフィスから「ランウェイショーはやらないの? 阿部さんとカラーのやりたいことがもっと大勢に伝わるとおもうけど」と言われたんですね。それがきっかけで、自分の考え方を見直してみたんです。
――ショー形式が嫌いというわけでは……
もちろん、洋服は人が着て歩いた方が素材の柔らかさやバランスがよくわかるし、商品を見せる方法としてもハンガーに吊ってあるよりいいとおもっています。ただ、ランウェイショーに対して違和感を感じていたのも事実です。
――その違和感はなんですか?
ショーは、ひとつのシステムに入っていく、枠組みにはめ込まれるように感じていました。
――これまでずっとですか?
そうですね、でもそういう考えをなくしてしまえばショーはとても素直な表現方法だし、シンプルでわかってもらいやすい。
――たしかに取材するメディア側も、あるいは消費者も、無意識ですが、ショーをやるブランド、やらないブランドという線引きはもっていますね。
僕もそういう無意識な線引きはどこからでてくるのだろうということをずっと考えていました。ショーをやってシステムに入っていく違和感とか、カラーを好きな人って、アウト・オブ・ファッションな存在が好きでいてくれるのかなと感じていたので、ランウェイをやってファッションになっていくことをナンセンスと感じるんじゃないかという思いはありました。
――そう感じていて、今回はよく決断されましたね。
もちろんショーをするからといって服のつくり方は変わらないし、スタンスも変わっていないし、おなじテンション、おなじ姿勢で、カラーのやりたいことを見てもらおうと。いままでのカラーをよりわかりやすく伝えるためにショーがあると考えました。
――でも一度おこなうと、つぎも期待されます。
1回だけやってみてもわからないし、これがベストなのかもわからないし、この方法論でしばらくやっていこうと思っていますが、僕らも変わっていくので、やっぱりちがう方法がいいかもとおもうかもしれない。ショーに対してまだ答えを出す時期じゃないですね。
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デザイナー 阿部潤一インタビュー(2)
男の服のあたらしい感覚
クラシックなムードをもっているモノをどれだけモダンに見せられるか
――ところで、NHKの朝のドラマ『カーネーション』は見ていましたか?
いや、見てないです。(ドラマの内容を説明する)。僕の母がコシノジュンコさんと服飾学校時代が一緒だったようです。当時は服装学校は花嫁修業という意味合いが強かったようで、でもコシノさんは別格だったと聞いたことがありますね。母は卒業後、呉服屋の父に嫁いで、家業を手伝っていましたが。
――阿部さんは呉服屋の生まれなんですか。
そうです。呉服屋ですが母は洋服が大好きで、シャネルのコンビの靴を履いて営業をおこなっていました。僕にVAN BOYSのジャケットとかモヘアのタートルネックとかを買ってきて、小学校でちょっと浮くんですよね(笑)。それから中学生の僕にグッチのベルトを買ってきたりするんです。「G」のバックルの(笑)。何これ? と思ってました。僕が高校生になってDCブームがあってファッションに興味をもつようになったんですが、ファッションに対して人よりちょっと興味が強かったのは母の影響だったかもしれません。
――いまは春夏がショップの店頭に出ています。その解説を。
カラーは毎回そうですが、クラシックなムードをもっているモノをどれだけモダンに見せられるかです。たとえば、ウィンドウペーンの生地は100%テンセル素材を使って、皆さんが知っているウールとちがうドレープ感を出しています。そのことで着て動きがちがうし、触感もちがってきます。そうやってあたらしさを出しています。ほかには、ブリティッシュなチェック柄にスポーツ的なタッチを混ぜたり、デニムのパイピングを切りっぱなしにすることでクラフト感を出したり。そうしてあたらしいニュアンスを感じてもらおうと。
――メンズはトレンドの変化が緩やかで、あたらしいものを生み出すのは難しいと思いますが。
たとえば、トラディショナルなダブルのジャケットやステンカラーコート、ボタンダウンシャツなど伝統と歴史あるモノは、人の意識のなかに“こうあるべき”というものが確固としてありますよね。それをうまく利用した方があたらしい感覚をつかんでもらいやすい。意識下にあるものを利用しながらあたらしい雰囲気を伝えていくというか。
――なるほど、そこでアテンションが生まれるわけですね。パリで発表した2012-13年秋冬の日本での展示会の反響はいかがでしたか?
気に入っていただいているようでした。「阿部さんが考えるエレガントはこうなんですね」とか「いつものカラーのままショーをやったんですね」とか「カラーらしさ全開ですね」という声をいただきました。
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デザイナー 阿部潤一インタビュー(3)
洋服の不思議
ぼんやりしたイメージがみんなの頭のなかに浮かんでくる
――カラーのものづくりのスタートを教えてください。
コレクションをつくりはじめるときは、まず、自分はなぜこの仕事をはじめたのか? ということから毎回はじめて、つぎはどんなイメージをつくるべきかと考えはじめますが、明確なテーマは決めないんです。
――具体的なインスピレーションはどこから?
よく、「インスピレーションになるものはなんですか?」と聞かれますが、もちろん、映画や音楽、本なども接しますが、日々の普通の生活のなかでの小さな積み重ねから“こんな感じ”という、自分の感情がつくられます。
――それをどうやって服に落とし込んでいくのですか?
具体的なテーマではなくてニュアンスですね。重くて暗い感じとか、軽くてケミカルな感じとか。たとえば“きちんとしている”という言葉があったとして、モノが整理整頓されているということなのか? 人間的にウソをつかないというニュアンスなのか? ということを整理していきます。こういうことはやりたくないとか。そういういろんな細かい断片をスタッフと話していって、とくに脈絡もないんですが、いろいろ話すことで、ぼんやりしたイメージが浮かんでくる。
――スタッフと考え方のズレはないんですか?
毎日一緒に仕事しているので、修正しながらですね。はっきりしたものさしがないので、つくっていきながら、こういう感じだよねと。
――やはり、できあがりでは100点を目指されている?
そうですね。なにが100点なのかはわかりませんが。ものづくりの満足感は自分がイメージしているものがマッチングして、おおよそうまくできたとき。素材、シェイプ、縫製仕様、ディテールがいい感じで思いついたとき。
それのパート2、パート3をつくっていくときにおなじニュアンスを表現する別の手法はないかと探っていきます。それがシェイプなのか、ディテールなのか、触った感じなのか……、おなじニュアンスを感じてもらえる表現はないのかと模索しますね。
――会心作は?
ありますよ。でも洋服って不思議なもので、僕も自分がつくったものを着ますが、あまり着なくなっちゃうもの、着なくなっちゃうけど捨てられないもの、着る頻度は高いけど、それとこれを比べたら、こっちのほうがじつは大事とか。モノの価値って、使う頻度が高いから愛しているってことでもないのかなと思いますね。それに思い出があるということではなくて、その存在が好きで捨てられないとか。
――クローゼットはそんな服ばかりですね(笑)。
ある女性がおもしろいことを言っていて、「洋服は長持ちするけど、一年経ったらアイスクリームのように溶けちゃえばいいのに」って。そうすればつぎにあたらしいモノを買うときに罪悪感がないそうです(笑)。僕らだって、たとえばオールデンのチャッカブーツをもっていても、ちがう形をもう一足欲しくなりますよね。道具として使うならひとつでいいけど、道具以外の魅力があるから惹かれてしまう。機能性と丈夫さだけでは買わないんじゃないかとおもいますね、感情を動かすものがないと。
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デザイナー 阿部潤一インタビュー(4)
僕らのアティチュードやスタンス
具体的に言葉にできない気分とかニュアンス
――今回パリでランウェイショーを開催されましたが、セールスなど気にされますか?
もちろん気になります。大事な評価のひとつですから。
――カラーのプレゼンテーションで新鮮だったことのひとつに、ルックブックがあります。着こなしがわかりやすくて、メッセージがストレートに入ってくるようで。
そう言っていただけるとうれしいです。ルックブックの役目ってプロダクション(商品)の説明的なことが一番だと思うんですが、ショーをやってなかったので、ルックブックのなかでも“気分”というようなぼんやりしたものも伝えようとはしていました。
――ぼんやりとしたものですか?
服はいろんなものの積み重ねでできています。素材、パターン、縫製仕様、ボタン、芯、加工などすべて具体的な判断の積み重ねでつくられていますが、じゃあそれでなにが表現したいのかといえば、具体的に言葉にできない気分とかニュアンスといったぼんやりしたものなんです。
――なるほど。それはウィメンズも共通ですか?
おなじですね。
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デザイナー 阿部潤一インタビュー(5)
僕のインとアウトの仕分け方
“自分はいまこういう気分なんだ”ということ
――メンズのトレンドには、ミリタリーやワークなど普遍的ともいっていい傾向がありますが、そういうものは意識されますか?
そうですね。それらは男性のワードローブのなかに必要なものですが、シーズンによってはまったく入れない、または感じさせないようにします。とにかくミリタリーやワークテイストなどを入れれば男性が望むものになるというのは安易に感じるので。
――なるほど、禁じ手ですか。
そういうわけではありませんが、そのシーズンに伝えたいものとちがうのであれば、セールス的には良いのかもしれませんが使わないようにします。
――阿部さんがこれからつくりたい服は?
その時代に必要とされる気分やニュアンスをもっている服ですね。
――現在は来年の春夏コレクションの企画中ですね。方向性は見えていますか?
まだイメージを少しずつかためながら素材の打ち合わせをしたりという段階です。僕はひとつの方向性を見つけるとき、インとアウトに分けていくんです。
――インとアウトですか?
自分でストックしている生地スワッチ(見本)があって、毎シーズン、企画がはじまるときに必ず全部見直すんです。その生地見本を見ながら、これは今年はインかな? アウトかな? と仕分けしていくんですね。そうすると、毎シーズンノミネートはされるけど最終的に使われなかった生地とか、突然エントリーされる生地とかが出てくるんです。
――面白いですね。
自分が気に入った写真をスクラップしているものも、おなじようにインとアウトに分けていくんですが、そうすることで客観的に“自分はいまこういう気分なんだ”ということがつかめる。素材や写真から自分のおもっていることを掘り起こす、見つけていくんです。
――秋冬シーズンも期待しています。ありがとうございました。