新生ジュリエッタに試乗! アルファ ロメオ ジュリエッタ|Alfa Romeo Giulietta
Alfa Romeo Giulietta|アルファ ロメオ ジュリエッタ
ミラノの名門による“伝統”と“革新”の融合
新生ジュリエッタに試乗!
昨年3月のジュネーブモーターショーでデビューし、先ごろ日本上陸を果たした新型ジュリエッタ。3代目として名車の名を受け継いだ同車に、モータージャーナリスト、大谷達也氏が試乗した。
Text & Photo by OHTANI Tatsuya
アルファ ロメオの実力
伝統と革新……。アルファロメオのように長いヘリテッジを持つブランドでは、ニューモデルが登場するたびにこのことが話題になる。古くからのファンは、ニューモデルにも当然のように伝統の味を期待する。しかし、前作と代わり映えのしないニューモデルを出しつづければ、ビジネスは確実に尻すぼまりになる。
いっぽう、マーケットにはつぎつぎと新型車が登場し、そのたびに品質やパフォーマンスの水準は高まっていく。そうした市場からのニーズに応えつつ、伝統の味をいかに残していくのか。長い歴史を誇るアルファロメオにとっては、ここが最大の腕の見せどころといえる。そしてこのジュリエッタで、アルファロメオは伝統と革新を絶妙にバランスさせるセンスと、それを現実の製品に反映させる技術力があることを、あらためて世に知らしめたのである。
新世代アルファ・デザインの完成形
まずはスタイリングから見てみよう。ボディサイドの造形は、フロントからリアに向かって徐々に上昇するウェッジシェイプを基調としながら、そこに微妙な抑揚をもつキャラクターラインを組み合わせることで、機械的な冷たさだけに陥ることのないある種の情感と、動物の分厚い筋肉を思わせる力強さを表現している。
8Cコンペティツィオーネで提示され、ミトでも踏襲された“丸い目”がモチーフのフロントデザインは、ジュリエッタにもほぼそのままの形で受け継がれたが、ジュリエッタではヘッドライト内側のやや低い位置にLEDデイランプを内蔵しているため、“丸い目”というよりもやや引き延ばされた“おむすび状”の形で、逆三角形の楯型グリルにしっくりなじんだ造形となっている。
総じて、新世代のアルファ・デザインは、このジュリエッタをもって完成したといってもいいのではないか。ミトではやや寸足らずで、8Cコンペティツィオーネでは微妙に間延びしていたプロポーションも、ジュリエッタでは適度な緊張感を保ちながら美しくまとまっているように思う。
Alfa Romeo Giulietta|アルファ ロメオ ジュリエッタ
ミラノの名門による“伝統”と“革新”の融合
新生ジュリエッタに試乗!(2)
トラディショナルかつあたらしい、アルファらしいインテリア
インテリアでは、ダッシュボードに貼り付けられた横長のパネルが目を引く。この部分、Sprintと呼ばれるエントリーグレードではボディカラーとあわせて3色に塗り分けられるが、それ以外のCompetizioneとQuadrifoglio Verdeではヘアライン仕上げのアルミパネル(カラーはグレー)となる。水平基調のダッシュボードは、これまでスポーティモデルではあまり見かけたことのない意匠だが、おもしろい試みだ。全体的な質感も向上しており、トラディショナルな味わいのなかにあたらしさも表現したアルファらしいインテリアだといえる。
グレードは前述のとおり3つ。SprintとCompetizioneはミトのQuadrifoglio Verdeとおなじ直列4気筒SOHC マルチエア 16バルブ インタークーラー付きターボの1.4リッター・エンジン(170ps/5500rpm、25.5kgm/2500rpm)を搭載し、これに6段乾式デュアルクラッチオートマチックトランスミッションのAlfa TCTを組み合わせている。いっぽう、トップグレードのQuadrifoglio Verdeは直列4気筒DOHC 16バルブ インタークーラー付き直噴ターボの1.75リッター・エンジン(235ps/5500rpm、34.7kgm/1900rpm)を積み、ギアボックスは6段マニュアルトランスミッションとなる。前者は環境対応型、後者はハイパフォーマンスタイプと分類できる。
じつに魅力的なエンジン
アルファ ロメオのエンジンといえば、高性能なのはもちろんのこと、それと同時に独特のビートを響かせることで古くからファンに愛されてきた。では、ジュリエッタはどうか? 最新のアルファ・パワーユニットはとびきりスムーズでノイズも低く抑えられており、このためかつてのような個性を見いだすことは難しい。もっとも、これは159やミトでも感じられたこと。なにしろ、エンジンのノイズとバイブレーションを限りなくゼロに近づけることが自動車界全体の流れなのだから、これはこれでやむえないことだろう。
いやいや、それはあまりに消極的な評価というものだ。率直にいって、1.4リッターも1.75リッターも、スポーティモデルのパワーユニットとしてじつに魅力的なエンジンである。まず、1.75リッターはストレスフリーに回転を上昇させていくだけでなく、3,000rpm、4,000rpm、そして5,000rpmと、回せば回すほどパワーが沸き上がっていき、そのなかでドライバーは深いエクスタシーを味わうことができる。この官能性は電気仕掛けの薄っぺらなエンジンでは見いだすことのできない、もっと本質的で、人間の本能に強く訴えかけるものだ。
Alfa Romeo Giulietta|アルファ ロメオ ジュリエッタ
ミラノの名門による“伝統”と“革新”の融合
新生ジュリエッタに試乗!(3)
やや不自然なペダルレイアウト
Quadrifoglio Verdeの印象をこのままつづけると、6段MTの操作感は軽くスムーズで、ゲートの感触も良好。これでもう少しダイレクト感があればいうことなしだ。いっぽう、ブレーキはペダルフィーリングこそ良好だったが、減速Gの立ち上がりがやや唐突で、スムーズなブレーキングをおこなうには慣れが必要だった。
また、ペダルレイアウトには少し気になるところがあった。スロットルペダルがやや手前で、これを基準に着座位置を決めるとステアリングが身体から遠ざかってしまう。スロットルペダルはもう少し奥にあったほうが、全体として自然なドライビングポジションがとれそうだ。
文句のつけどころがない足回り
ハンドリングと乗り心地のバランスは文句のつけどころがなかった。ステアリングを切り込んでいくと、フロントはほとんどロールすることなく、ノーズがすっと内側を向く。といっても、カートのコーナリングのように不自然にコーナリングフォースが立ち上がるわけではない。動きとしては軽快かつ俊敏だが、そのプロセスが人間の自然な感覚とよくマッチしているのだ。その意味ではじつに扱いやすく、そしてスポーティなハンドリングだといえる。
それらを支えるサスペンションはスプリングもダンパーも適度に引き締められているが、微少ストローク域の動きがスムーズで、ぎこちなさを感じさせない。300万円台のスポーティモデルとしては傑出した仕上がりだと思う。
Alfa Romeo Giulietta|アルファ ロメオ ジュリエッタ
ミラノの名門による“伝統”と“革新”の融合
新生ジュリエッタに試乗!(4)
軽快によく走るマルチエア
では、1.4リッターエンジンの印象はどうだったのか? 1,400kg(SprintもCompetizioneも車重はおなじ)に対して1.4リッターと聞くとモノ足りないのではないかと心配になるが、フィアット・パワートレーン・テクノロジーズが開発したマルチエアは2,000rpm前後の低回転域から有効なトルクを生み出し、発進直後から軽快によく走る。おまけにTCTの“クラッチワーク”が絶妙で、ガクガクすることなくスムーズに発進し、そして俊敏にシフトしていく。Quadrifoglio Verdeで気になった足もとの違和感も、2ペダル仕様のTCTではまったく感じられない。しかも、クラッチペダルの代わりに大型のフットレストが装備されているので、左足の置き場にも困らなかった。
とはいえ、乗り心地はQuadrifoglio Verdeのほうが快適に思われた。サスペンション全体の手触りは1.4リッターモデルのほうがソフトで、このため走行中はボディの動きがやや多めとなるが、さりとてハーシュネスの処理が手際いいとはいえず、コツコツと小さなショックを拾う傾向が見られたのだ。
ベストチョイスはCompetizione
ここまで書いてハタと気がついた。Quadrifoglio Verdeの足回りに1.4リッターのパワートレーンが組み合わされれば、まさに鬼に金棒。完全無欠なジュリエッタが完成する、と。ただし、これは現実的な選択肢ではない。では、3グレードのなかでどれを選ぶかと訊ねられれば、個人的にはCompetizioneをベストとしたい。動力性能としては実用上十分な1.4リッターエンジン、そして俊敏・快適なTCTを備え、足回りの印象はフラット感でもハーシュネスの処理でもSprintを上回っているからだ。Sprintにはないパドルシフトを備えていることもCompetizioneの美点といえる。
最新のトレンドをきちんと受け止めながら、アルファらしいテイストはしっかりと残す。美しく存在感溢れるスタイリングは健在で、環境対策にも抜かりはない。ミラノの名門は、“いま”という時代にぴったりマッチしたジュリエッタを作り上げた。アルフィスタにとって、これほどうれしいことはないだろう。