Diary-T 169 「モン・シェリ」
Lounge
2015年5月8日

Diary-T 169 「モン・シェリ」

Diary-T

Diary-T 169 「モン・シェリ」

文・アートワーク=桑原茂一

黒のレクサスのラグジェアリーな皮のシートに座った男四人は、その街で最高の河豚を食わせると評判の店
「モン・シェリ」を目指して高速をブッ飛していた。
ところが車中は男四人昨夜の深酒の所為で吐く息が全員臭い。昔飼っていたメス犬が発情期になると必ずと言っていいほど鼻が曲がる程臭い匂いを体に染み込ませて帰ってくる。
そんな郷愁にすがりつきたくなるほど臭いのだ。で、
生臭い。という言葉にもそれぞれの体質が加味されているから
その気になれば四種類の生臭い匂いを選ぶことも出来なくはない。それは高価な香水も同じで、使う人のそれぞれの体臭を加味されて辺に匂いを振りまくことになるから、
英国の高級品メーカー「クライブ・クリスチャン」の約23万円の香水であれ、生のままの匂いはもちろん悪くはないかもしれないが、使う人の体臭によっては悪臭に転落する運命に出会うこともないわけではない。
ここで使う人の自覚を再度強く要請したい。
君臭いんだよ。

で話は車中だ。そうだ、勘違いされては困るが、
この話はあくまでも架空の設定だから、
ま、落語のネタってことでね。
だから運転手はビートルズ好きの社長さん、
助手席は自称デジタル系カメラマン。
後ろには某有名発明家とインテリアデザイナーのこの四人。
しかも、初対面が二人に、二三回が二人で、二十回以上が一人に、五十回以上が一人なんだものだから、
間がてんでバラバラで、話が持たないから、
携帯を作動させながら話す方ももちろん存在する。
つまり突発的に話は始まり、ぷっつん。瞬時に話は終わる、
この、ぷっつん、の間が臭いのだ。
それでも高速で走っている間は走る高揚感が漂うのか多少なんとか誤摩化せても、これが渋滞に巻き込まれたらもう臭い。

発明家:なんで、河豚の店の名前が「モン・シェリ」なの?

インテリアデザイナー:元、喫茶店なんですよ。

社長:八時頃には着くやろ。(携帯電話で)

自称デジタル系カメラマン:あっ、あの看板なんだろ!
それにしても地方都市はどこもネオンの洪水だなぁ~
アメリカの影響かなぁーははは……

プシュ~、プシュ~(助手席の窓が開いて閉まる音)

沈黙

発明家:モン・シェリって、誰かがママに言ったんだろうね。

インテリアデザイナー:元喫茶店が次にスナックになってですね。

社長:もうすぐ着きますから……(携帯を必死に探している)

沈黙。

……もう早く着いてビールで乾杯
のイメージを浮かべる方々からは、

“なんで混んでんの?”

その何気ないストレスで、それまで黙っていた加齢臭も、
ここぞとばかり拡散されるから臭い堪らない。
鼻の利く人には金輪際ごめん堪りもうさん。

自称デジタル系カメラマン:あっ、あれ? あの看板……、

といって一瞬、車の窓を開ける。さりげなく、

自称デジタル系カメラマン:なんだただ丸い看板か~意味ないよね~ははは、

と笑いながら急いで閉める。

寒いのである。外は冬ですからね。

臭い or 寒い

人生はままならないものなのだ。

ps.「モン・シェリ」のママが用意してくれた河豚は生まれて初めての美味しさでした&ここまでデカイ椎茸もまた美味でした。生きてることに感謝。友情に感謝。

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