アストンマーティン ラピード Sに試乗|Aston Martin
CAR / IMPRESSION
2015年12月28日

アストンマーティン ラピード Sに試乗|Aston Martin

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピード S

くわえられた「S」の称号

アストンマーティン ラピード Sに試乗

2010年のデビューから3年。アストンマーティンの4ドアフラッグシップ、「ラピード」の第2世代となるモデル、「ラピード S」が登場した。「ラピード S」はいったいどんな進化を果たしたのだろうか。そして、ポルシェ「パナメーラ」やメルセデス・ベンツ「CLS」、BMW「6シリーズ グランクーペ」など、パーソナルユースを意識したラグジュアリーセグメントの4ドアクーペモデルが相次いで登場する人気のカテゴリーで、どんな個性を魅せてくれるのか。日常を意識した試乗をおこない、チェックしてみたいと思う。

Text by SAKURAI KenichiPhotographs by ARAKAWA Masayuki

アストン史上もっともエレガントな4ドアサルーン

アストンマーティン「ラピード」は、遡ること2006年のデトロイト モーターショーにおいて、4ドアのラグジュアリースポーツカーというあたらしいカテゴリーを提案したモデルだ。それまでの「V8 ヴァンテージ」や「DB9」といったアストンマーティンのラインナップがもつデザインを巧みに使用しながら、見事に4ドア化したコンセプトカーは、大きなインパクトをもって会場に詰めかけた報道陣に公開された。

斜め上方に14度の角度で開く「スワンウィング」と呼ばれるアストンマーティンならではのドアも健在で、エレガントでスポーティなフォルムは、誰がどう見ても、アストンマーティンそのもの。プロダクションモデルの登場に、多くの期待がもたれたのを今も昨日のように記憶している。それほどまでに、ラピードの登場は強烈なインパクトだったのだ。

生産車が正式発表されたのは、それから3年後となる2009年のフランクフルト モーターショーデリバリーは翌年となる2010年からスタートした

ラピードの登場以降、ポルシェ「パナメーラ」やBMW「6シリーズ グランクーペ」などの魅力的な4ドアクーペが続々と発表され、一気にこのカテゴリーはメジャー化してゆく。ありきたりなラグジュアリーセダンでは飽き足らない“スタイル”をもったユーザーに、スポーティでクーペライクなフォルムがフィットしたのだろう。“いかにも”な2ドアクーペにはないエレガントなフォルムと、+2のドアが魅力的に映っても不思議はない。

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピード S

くわえられた「S」の称号

アストンマーティン ラピード Sに試乗 (2)

4ドア化してもクーペにこだわる

そんななか、ラピードも2010年の発売から3年が経ち、第2世代に進化を遂げた。進化版はあらたに「S」の称号がくわわり、先のモデルと区別する意味で「ラピード S」と呼ばれる。主な変更点はスタイリングと、エンジン、サスペンションで、4ドアクーペというコンセプトや、V12エンジンをフロントミッドシップしたFRというパワートレーン構造、アストンマーティンが開発したVHプラットフォームは基本的にキャリーオーバーされている。

外観の目立った変更点は、フロントグリルが大きくなり、存在感がさらに増したアピアランスだろう。いっぽうリアセクションでは、トランクリッドにスポイラーが追加されている。

ボディサイズは先代ラピードとほぼおなじで、全長5,020×全幅2,140×全高1,350mm、ホイールベースが2,989mmというディメンションに、1,990kgの車両重量。ほかのアストンマーティンのモデル同様、エッジの効いたボディデザインからコンパクトに見えるが、なかなかの体躯の持ち主である。

インテリアは、見慣れたアストンマーティン流のデザインで統一されている。乗り慣れたユーザーなら、何の迷いもなくそのUI(ユーザー インターフェース)を理解できるはずだ。シートはフロント、リアともに本革のセミバケットシートタイプを採用した。

リアシートはやや高めの着座位置を確保し、左右にきっちりとわけられたセパレートデザインである。正直ボディサイズを考えるとレッグスペースは最小で、背もたれの角度は起きすぎているが、V12をフロントミッド搭載したトランスアクスルのスポーツカーと考えれば、我慢できるはずだ。そもそも恒常的にリアシートを使用する目的で、ラピード Sを購入しようと思うユーザーはいないはずなので、こうした割り切りは潔い。リアのシートバックは前方に倒れ、荷室をほぼフラットにし(といってもシートバックの形状がバケットタイプなので凹凸は出てしまうが)、容量を拡大することもできる。

“長距離を快適に……”とはいえないが、通常はクーペのように2人乗りを想定し、必要に応じて短い距離を4人で移動するという使い方にはラピード Sはじゅうぶんマッチする。そもそも、ラピード Sを持とうとするユーザーは、ほかにも何台か愛車があるはずなので、リアの居住性は大きなビハインドとはいえないだろう。コンセプトはあくまでも、ドアが4枚あるクーペなのだから。

ただし、フロントシートのシートバックにはリア用のモニターが左右個別に内蔵され、ワイヤレスヘッドフォンとリモートコントロールで映像や音楽といった車内エンターテイメントシステムを楽しむこともできる。オーディオシステムは1,000Wのバング&オルフセンのBeoサウンドオーディオシステムを標準装備。ラグジュアリーモデルとしての環境は整っている。

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピード S

くわえられた「S」の称号

アストンマーティン ラピード Sに試乗 (3)

スポーツカー以外の何者でもない

注目されるエンジンは、自然吸気の6リッターV12。最高出力はこれまでの350kW(477ps)/6,000rpmから60kW(81ps)アップの410kW(558ps)/6,750rpmへ、最大トルクも600Nm(61.2kgm)から20Nm(2.0kgm)向上した620Nm(63.2kgm)/5,500rpmにアップグレードされている。これにマニュアル操作が可能な6段ATを組みあせた。

操作はアストンマーティンではお馴染みの、センターコンソール上にあるプッシュスイッチでDレンジを選択するというもの。ギアチェンジは、ステアリング左右奥ににあるパドルで操作する。

ボディウエイトが2トンにも迫ろうかという数値なのに、軽快感ある走りが味わえるのがラピード Sの魅力だ。4ドア化による、ボディ剛性の低下も見られず。まるで「DB9」をドライブしているようなステアリングレスポンスの良さを感じながら走ることができる。たとえ、大型化してもアストンマーティンのテイストはいささかも衰えてはいない。スポーツカー然としたステアリングフィール、そしてクイックでダイナミックなアクセルへの反応は、よく知るアストンマーティンのそれである。

4ドアをもつラグジュアリーモデルとして考えれば、乗り心地は決していいとはいえないが、スポーツカーとして考えれば、上等な部類だ。

速度を上げてゆくにつれフラットになる乗り心地と、路面の状況を惜しみなく伝えるステアリングインフォメーションは、このクルマが紛れもなくスポーツカーであることをドライバーに意識させる。フロント245/40ZR20、リア295/35ZR20という超大径サイズのタイヤを装着していることを前提にすれば、よくもここまでタイヤによるロードノイズを抑え、乗り心地とスポーツカーとしてのハンドリングを両立させたと感心する。アストンマーティンの開発部隊の仕事は、いつも丁寧で洗練されているのだ。

そうしたサスペンションの「標準モード」から、今度は、「スポーツモード」に切り替えてみる。すると走りはDB9然としたものから、「V8 ヴァンテージ」を彷彿とさせるテイストに変化する。もちろん、V8 ヴァンテージのような軽快感は望むべくもないが、ステアリングのダイレクト感は一層高まり、ピッチングを抑えた、ドライバーとクルマの一体感が一層高まる。

それには、エンジンマウントを19mm下げたという設計変更も大いに貢献しているのだろう。ボディ形状を忘れてさえしまえば、それはスポーツカー以外の何者でもない。アストンマーティンが、改めて綿々とスポーツカーだけをつくりつづけてきたブランドであることを理解させてくれるのである。

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くわえられた「S」の称号

アストンマーティン ラピード Sに試乗 (4)

変わらぬアストンならではの味

じつは今回、初めてリアシートで長距離走行も体験してみた。シートバックは立ち気味だが想像以上に収まりは良く、足下の狭さをのぞけば、東京-御殿場間ぐらいであれば、じゅうぶんに移動できることを確認できた。

だがそうした居住空間よりも感心したのが、リアシートで聞くエグゾーストサウンドである。アストンマーティンの開発部隊にはエグゾーストサウンドの専門チューニング担当がいて(しかも日本人なのだ)、官能的なアストンマーティン流のサウンドのセッティングに腐心している。

ギアを落とし、高速道路を加速するシーンなどでは、適度なボリュームでリアシートに甲高い乾いたエグゾーストサウンドがはいり込む。クルマ好きにとってこれは、じつに心地よいものだ。ドライバーズシートで聞くそれとはちがったボリュームと音質がもたらされ、運転していなくとも、五感に染み渡るスポーツカーのドライビングプレジャーを感じ取ることができる。

もちろん運転してはいないので“ドライビング”プレジャーとはいえないが、クルマの楽しさとダイナミックなパフォーマンスをドライバーとともに(クルマ好きならば)共有できるのだ。

ドアの枚数が多くても、ボディが大型しようとも、そこに表現されるのはアストンマーティンが長年こだわりつづけてきたスポーツカーへのおもいだ。ドアが4枚あっても、うっとりするようなクーペ然としたフォルム、官能的なサウンド、そしてステアリングを握れば誰もが感じるはずのスポーティな走り。それはメルセデス、BMW、アウディのドイツ御三家とも、もちろんポルシェやおなじ英国のラグジュアリーブランドであるベントレーとも明確にちがう「アストンマーティン」ならではの味であり、唯一無二の個性なのである。

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Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピード S
ボディサイズ|全長5,020×全幅1,930×全高1,350mm
ホイールベース|2,990 mm
トレッド 前/後|1,590 / 1,615 mm
最低地上高|14.5cm
最小回転半径|6.23 メートル
重量|2,040 kg
エンジン|5,935cc V型12気筒 DOHC
圧縮比|10.9:1
最高出力| 410kW(558ps)/ 6,750 rpm
最大トルク|620Nm / 5,500 rpm
トランスミッション|6段オートマチック(タッチトロニック2)
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後|245/40ZR20 / 295/35ZR20
0-100km/h加速|4.9 秒
最高速度|296 km/h
燃費(NEDC値)|19.9 !/100km
CO2排出量|332 g/km
価格(消費税込)|2,371万7,270円

           
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