初のメジャーアップデート ポルシェ パナメーラに試乗|Porsche
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2015年4月7日

初のメジャーアップデート ポルシェ パナメーラに試乗|Porsche

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S
Porsche Panamera Turbo Exective|ポルシェ パナメーラ ターボ エクゼクティブ
Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

初のメジャーアップデートを受けた

ポルシェ パナメーラに試乗

2009年に登場したポルシェ初のフル4シーター4ドアセダン「パナメーラ」が、今年、はじめての大きな変更を受け、上海でデビューを飾った。4.8リッターV8自然吸気エンジンを搭載していた、「パナメーラ S」および「4S」は、3.0リッターV6ツインターボへと大幅なダウンサイジングを果たし、排気量だけでみれば、従来同様、3.6リッターV6自然吸気エンジンを搭載する通常の「パナメーラ」および「4」よりも小さなエンジンに。さらにハイブリッドモデルは、エンジンこそキャリーオーバーだが、電動部分を大幅に強化した。今回は、この新世代パナメーラを、同車のワークショップからのリポートを担当した河村康彦氏が、ドライブ。

Text by KAWAMURA Yasuhiko

パナメーラに至るポルシェの夢

ゆったりと、4人が乗れるスポーツカー──それは、実はポルシェにとっての“積年の夢”でもあったパッケージング デザインだ。

かつての「928」をベースとした4ドアモデルの「989」が、プロトタイプまでを完成させながら「開発資金の不足」によって計画のキャンセルに追い込まれたというのは、知る人ぞ知る“逸話”。

また、そもそも初代「911」が、まだ“901”という名称で開発されていた半世紀以上の昔には、後席居住性を高めるために後に世に現れた姿よりも「より水平で長いルーフを備えたノッチバックデザインが想定されていた」という事実は、今もポルシェ博物館に展示をされる「T7」というモデルで確認をする事ができる。さらに、前述の989とはまた別の、928をベースとした4ドア ワゴンがワンオフながら製作されたという過去もある。

Porsche Typ 754 T7

F.A.ポルシェデザインのT7(1956年) 911の原型だが、セダンのようなノッチバック型だ

Porsche 928

1991年に登場した928ベースの4ドアコンワゴン。989とよばれるモデルの外観はこれよりもずっと911に近い

ことほどさように、ポルシェは“スポーツカーメーカー”と言われつつも、古くからフル4シーター カテゴリーへの進出の機会をうかがいつづけて来たブランドでもあるのだ。

そんなバックグラウンドを持つこのメーカーが、「カイエン」の成功に背中を押されるようにしてついに2009年に登場させたのが、「パナメーラ」というブランニューモデル。ここに紹介するのは、その誕生後はじめて大幅なリファインを受けた、最新バージョンだ。

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S
Porsche Panamera Turbo Exective|ポルシェ パナメーラ ターボ エクゼクティブ
Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

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ポルシェ パナメーラに試乗 (2)

見どころはハードウェア

いわゆるマイナーチェンジを受けたパナメーラの「主な見どころ」は、主に次の3点に絞られる。

まずは「今や世界でもっとも多くのパナメーラが販売される」(!)という中国市場を最大のターゲットとした、ホイールベースを15cm延長したロングボディ仕様“エグゼクティブ”の設定。

従来型の4.8リッター自然吸気8気筒エンジンの代替となる、新開発の3リッター6気筒ツインターボ付きエンジン車のリリース。

そして、駆動用バッテリーを従来のニッケル水素からリチウムイオン式に換えて、その容量も5倍以上とし、モーター出力も2倍以上に引き上げたうえで、外部充電にも初対応と、ハイブリッド モデルのシステム内容を大幅にリファインさせた事だ。

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S

Porsche Panamera S

Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

Porsche Panamera S E-Hybrid

もちろん、ライト周りを中心としたデザイン変更や、新造形のテールゲートの採用など、見た目部分の変更点も少なくはない。

が、前述ハードウェア関係のリファインを踏まえると、今回のパナメーラのマイナーチェンジは、「やはりポルシェらしく“中身”の進化を重視したもの」と、そんな第一印象が感じられるもの。

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S
Porsche Panamera Turbo Exective|ポルシェ パナメーラ ターボ エクゼクティブ
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ポルシェ パナメーラに試乗 (3)

ダウンサイジングエンジンでパナメーラ Sはどう変わった?

ドイツはミュンヘン郊外で開催された国際試乗会で最初に乗ったのは、8気筒ユニットをベースに新開発された、前出の6気筒エンジンを搭載した「S」グレード。

従来の8気筒ユニットよりも排気量は1.8リッター以上も“ダウンサイズ”をさせるいっぽうで、420psと520Nmという最高出力・最大トルク値はそれぞれ「20psと20Nmの向上」というのが従来型との比較。また、最大トルクは1,750rpmからの発生と、そのポイントが8気筒ユニットよりも1,750rpmも下がった点も注目に値する。

実際、そんなエンジンがあたらしいSグレードに与えた動力性能は、十二分にパワフルで味わい深いものだった。

確かに、失われた“V8サウンド”を懐かしむ声も理解できなくはない。が、いっぽうでこのエンジンが発するサウンドも、世に数多あるV6ユニットのなかではもっともスポーティで、大いに魅力的である事は間違いない。

くわえて好印象が得られたのが、実はその乗り味全般がより上質なものへと進化をしていた点。まるで「各部の関節がより滑らかに動くようになった」かのようなそのフットワークの仕上がりぶりは、何とも色濃い“人とクルマの一体感”と、実際よりもボディがコンパクトに感じられるという、まさに「ポルシェ車らしい感覚」を強くくわえる事になっていた。

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S

そんなテスト車には、実はトルクベクタリング機構“PTVプラス”とセットのアクティブスタビライザー“PDCC”や、標準比で2インチアップの20インチシューズがオプション装着されていた。

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S

が、それにもかかわらずロードノイズは予想以上に小さく、ばね下の動きに過大な重さを伴わない点などには、今度は“高級セダン”としての振る舞いも感じさせられる事に。

ちなみに、舵の正確性などを含めたこうした走りの好印象ぶりには、装着されていたミシュランの最新タイヤ「パイロット スーパースポーツ」の仕上がりの良さも貢献していた可能性は高そうだ。

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S
Porsche Panamera Turbo Exective|ポルシェ パナメーラ ターボ エクゼクティブ
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ポルシェ パナメーラに試乗 (4)

ロングホイールベースのちがい

そんなSグレードから、先に紹介のロングボディを採用した「ターボ エグゼクティブ」グレードへと乗り換えると、走りの好感度は率直なところ、少しだけダウンする事を余儀なくされた。

なるほど後席での足元スペースの余裕は、標準仕様とはケタちがいだ。見るからに“長さ”を意識させられるルックスは個人的には必ずしも美形とはおもえないが、オリジナルモデルのデビュー後に、中国市場からの強い要望で開発をスタートという割には「よくまとまっている」と、そう受け取れそうなものでもある。

Porsche Panamera Turbo Exective|ポルシェ パナメーラ ターボ エクゼクティブ

Porsche Panamera Turbo Exective|ポルシェ パナメーラ ターボ エクゼクティブ

いっぽう、「数値上は剛性値に変わりはない」とエンジニアは語るものの、やはり全般に剛性”感”が多少落ちた印象は否めないものだった。ボディに入った微振動が減衰されるまでの時間は、標準ボディの場合よりも長く感じられる。率直にいえば、標準ボディよりも多少”緩い”感を伴うのがこちらであるという事だ。

ただし、最高520psものV8ツインターボ パワーがもたらす動力性能そのものは、標準ボディ車にたいし100kg増という重量を「全くものともしない」ものだ。

4.1秒という超一級スポーツカーレベルの0-100km/h加速データがしめすように、フルアクセル時の加速感は「後席に乗っていたら、きっとちょっと気分が悪くなりそうなほど」に強力そのもの。

空いたアウトバーン上で前車に追いつくまでのあいだにスピードメーターに表示した“297”(!)なる数字も、そのスピード性能の高さを証明している。

さすがに、“270”を超えた辺りからその伸びの勢いはめっきり落ちるものの、305km/hというカタログの最高速データが「掛け値ナシ」であるのに疑いない。

リアウインドウ下で大きく“翼”を広げるスポイラーの威力もあってか、そんな超高速シーンでの安定感がしっかり高いのも「さすがはポルシェの作品」だ。

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S
Porsche Panamera Turbo Exective|ポルシェ パナメーラ ターボ エクゼクティブ
Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

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ポルシェ パナメーラに試乗 (5)

ついにハイブリッドのステアリングを握る

日本ではまるで“金看板”のように受け取られるハイブリッドを名乗るバージョンも、当然ながらポルシェの場合には単にエコ性能を謳うだけには留まらない。

実際、従来の「S ハイブリッド」から「S E-ハイブリッド」へとグレード名を換えた新型では、欧州測定モード“NEDC”でのCO2排出量が159g/kmから71g/kmへと大幅に減少。いっぽうで、0-100km/h加速タイムは6.0秒から5.5秒へと短縮させるなど、まさに“二兎を追うこと”に成功しているのだ。

前述のようにモーター出力が従来の2倍以上にアップした事で、混雑気味の市街地のような状況下であればエンジンを始動させる事なく十分実用的な発進加速がおこなえる。

さらに、バッテリー充電量に余裕があれば、そんな“EV状態”のまま100km/h超までのクルージングが無理なく可能。ちなみに、EV走行時の最高速は135km/hで、「構造上は150km/hも可能だが、そこまで引っ張ると逆に効率が落ちる」のが、その時点でエンジン始動をおこなう理由であるという。

Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

従来型と同様にグループ内のアウディから供給を受けるメカニカルスーパーチャージャー付きの3リッターV6ユニットが発するパワーが“上乗せ”されると、パワフルさは一気に増す。エンジンの始動と停止はもちろん完全自動でおこなわれるが、「タコメーターの針の動きを目にしていない限り、そんな動作は自覚できない」というスムーズさも確認済みだ。

Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

かくして、アクセルワークひとつで意外なまでの“エコカー”からポルシェの名に恥じない“スーパーサルーン”まで、まるで“ジキル博士とハイド氏”のごとく走りのキャラクターを大きく変化させるのが、このモデルの大きな特徴。

アウトバーン上ではアクセルペダルを軽く踏みくわえるだけでたちまちオーバー200km/hの世界にまで誘われるそんなこのモデルは、“日本のハイブリッド”とはまるでことなるキャラクターの持ち主というわけだ。

Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S
Porsche Panamera Turbo Exective|ポルシェ パナメーラ ターボ エクゼクティブ
Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

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ポルシェ パナメーラに試乗 (6)

走行中急速充電

興味深かったのは、センターコンソール上のスイッチ操作でモーター走行領域を拡大させる「Eパワー モード」を備えるいっぽうで、逆にエンジンが発する“余力”を利用して走行をおこないながら積極的な充電をおこなう「Eチャージー モード」も用意されている事。

高速クルージングの後に街中でEV走行をおこないたい場面が予想される場合など、このモードを用いれば前出“NEDC”モードで36kmというEV走行航続距離が終了した後でも、再度EV走行を“復活”させる事ができるという寸法。

実際、80~100km/hで流れる郊外路でそのモード試したところ、一度はゼロと表示されたバッテリー残容量の表示は、わずかに15分ほどで半分にまで回復する事になった。

実は、このモデルのプラグイン機構は急速充電には対応していない。

が、それは前述の機能によって“走行時急速充電”を可能とするとともに、闇雲にEV走行可能距離を伸ばすのではなく、「高速クルージングなど、エンジンを高い効率で使えるシーンでは、それを用いる事で動力性能や重量などを高い次元でバランスさせるのが得策」という、ポルシェの考え方に基づいたものであるわけだ。

Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド

ポルシェの弱点

実はこのS-Eハイブリッドならではの機能として、ナビゲーション システムに目的地設定をおこなった場合、勾配やコーナー半径、速度制限や交差点など数km先までのルート情報を先読みして、燃費向上のためにハイブリッドシステムを最適制御させる“インノドライブ”や、スマートフォンとの連携によるスタート前の空調準備や、手元でバッテリー充電状態の把握や充電タイマー予約などがおこなえる“カーコネクト”という機能も用意をされている。

ただし、残念な事に日本仕様車にはこれらはいずれも採用されないという。パナメーラのみならず、すべてのポルシェに数年前から用意をされている情報システム“PCM”が未だどのモデルにも用意をされない点とともに、テレマティクス システムの充実ぶりが周辺ライバルに見劣りする点は、昨今の日本仕様のポルシェ車の大きなウイークポイントになりつつある。

そうした“死角”は残るものの、あたらしくプラグインに対応したハイブリッド モデルが、その動力性能と環境性能を大きく引き上げたのを筆頭に、「走りの性能向上と燃費効率のアップ」を内容とする「インテリジェント パフォーマンス」というキャッチフレーズを文字通り実践させ、より“ポルシェの4ドア”らしいキャラクターを強めたのが、あたらしいパナメーラ シリーズと紹介できそうだ。

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Porsche Panamera S|ポルシェ パナメーラ S
ボディサイズ|全長5,015×全幅1,931×全高1,418 mm
ホイールベース|2,920 mm
トレッド 前/後|1,658 / 1,662 mm
トランク容量|445-1,263 リットル
重量|1,810 kg
エンジン|2,997 cc 90度V型6気筒 直噴DOHC ツインターボ
圧縮比|9.8:1
ボア×ストローク|96.0 × 69.0 mm
最高出力| 309kW(420ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|520Nm/1,750-5,000 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(PDK)
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|245/50R18 / 275/45R18
0-100km/h加速|5.1 秒
最高速度|287 km/h
燃費(NEDC値)|8.7 ℓ/100km
CO2排出量|204 g/km

Porsche Panamera Turbo Executive|ポルシェ パナメーラ ターボ エグゼクティブ
ボディサイズ|全長5,165×全幅1,931×全高1,425 mm
ホイールベース|3,070 mm
トレッド 前/後|1,656 / 1,646 mm
トランク容量|432-1,250 リットル
重量|2,070 kg
エンジン|4,806 cc 90度V型8気筒 直噴DOHC ツインターボ
圧縮比|10.5:1
ボア×ストローク|96.0 × 83.0 mm
最高出力| 382kW(520ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|700Nm/2,250-4,500 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(PDK)
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|255/45R19 / 285/40R19
0-100km/h加速|4.2 秒
最高速度|305 km/h
燃費(NEDC値)|10.3 ℓ/100km
CO2排出量|242 g/km

Porsche Panamera S E-Hybrid|ポルシェ パナメーラ S E-ハイブリッド
ボディサイズ|全長5,015×全幅1,931×全高1,418 mm
ホイールベース|2,920 mm
トレッド 前/後|1,658 / 1,662 mm
トランク容量|335-1,153 リットル
重量|2,095 kg
エンジン|2,995 cc 90度V型6気筒 直噴DOHC スーパーチャージャー
圧縮比|10.5:1
ボア×ストローク|84.5 × 89.0 mm
最高出力| 245kW(333ps)/ 5,500-6,500 rpm
最大トルク|440Nm/3,000-5,250 rpm
モーター最高出力|70kW(95ps)/2,200-2,600 rpm
モーター最大トルク|310Nm/0-1,700rpm
トランスミッション|8段オートマチック(ティプトロニックS)
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|245/50R18 / 275/45R18
0-100km/h加速|5.5 秒
最高速度|270 km/h(電気モーターのみの場合135km/h)
燃費(NEDC値)|3.1 ℓ/100km
CO2排出量|7.1 g/km

           
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