プロフェッショナルのための時計であり続けることは、ブランドのルールです|Bell & Ross
Bell & Ross|ベル&ロス
Bell & Ross クリエイティブ・ディレクター
ブルーノ・ベラミッシュ氏インタビュー(1)
BASELWORLD2019のBell & Rossブースは、再び鮮烈なイエローに染まりました。焦点となったのは、もちろんルノーF1®チームとのコラボレートモデルです。今回のインタビューはまず、ルノーF1®チームとのコラボレーションがスタートした経緯からうかがいました。
Text by TSUCHIDA TakashiTranslation by HASHIMOTO Yuko
お互いに求めるものが合致したということが大きい
――BASELWORLD 2019では、再びF1レースの世界観を表現しました。しかし、なぜルノーなのでしょう? 同じフランス国籍であること以外に、ルノーというブランドのどこにシンパシーを感じて、デザイナーとして何を表現したいと思っていますか?
Bruno ルノーF1®チームとのコラボレーションは、ルノー・チームのアートディレクターからコンタクトを受けて始まりました。ルノーがF1に戻ることを決めたとき、彼らはまずチームのアイデンティティを作ることに取り組み、自分たちが目指すイメージにふさわしいスポンサー選びから始めました。そして時計ブランドのスポンサーとして、ルノーF1®チームにふさわしいブランドとしてBell & Rossを挙げたそのアートディレクターは、私たちのところにやってきて、パートナーシップの話をもちかけてきたのです。
「F1はもちろん素晴らしいが、プロジェクトが大きすぎて、我々のような規模のブランドには無理だ」と答えると、「いやいや、両者にとって最適なバランスを見つけよう」ということで話が始まりました。
私たちにとっては、航空機産業だけでなく世界のさまざまな人々にブランドを知ってもらえるチャンスであり、F1はまったく新しい分野で、大いに興味がありました。
そこで彼らのためにコレクションを作り、彼らのイメージを伝える役割を担うということであればできるかもしれないと伝えました。
彼らが言うには「Bell & Rossほど重要な役割を演じることができるスポンサーはほかにない、なぜならBell & Rossは同じカラー、同じスピリットを有する特別な腕時計を作っている」、と。彼らはBell & Rossのやろうとしていることや業界におけるポジショニングを評価していました。そしてルノーはF1の表彰台を目指し、新たなスタートを切ろうとしていました。Bell & Rossにとっても、そんなルノーとともに、頂点を目指して挑戦する姿勢を打ち出すことはいいことだと考えています。今日このように至ったのは、彼らが同じフランスの会社だということもありますが、その前にお互いに求めるものが合致したということが大きいでしょう。
――では、ルノーF1®チームとのコラボレーションモデルについて、届けたいコンセプト、デザイン、ディテールを説明してください。
Bruno すべてのモデルは“F1とは何か”“F1ドライバーの腕に着けて使用されるとはどういうことか”を考えて作られています。まずルノーF1®チームと同じグラフィック、同じブラック&イエローを特徴とすること、そして機能は彼らのニーズを満たすべく、全モデルでクロノグラフとしています。
ケースは2種類、ラウンドとスクエアがあり、スクエアには機械の複雑さのレベルの違いで3種類のモデルがあります(汎用ムーブメント、自社製ムーブメント、トゥールビヨン)。また今年は、ヴィンテージシリーズに43㎜という新サイズのケースを導入しています。
F1ドライバーは実際、レース運転をするときには腕時計をしませんが、レース以外では、スポーティで実用本位の時計を愛用するものです。
――このシリーズではイエローがアクセントカラーになりますが、この色を普段使いの時計に落とし込むために、どういう工夫をしていますか?
Bruno イエローは、たしかに身に着けやすい色ではありません。ですから今回はインナーベゼルのタキメーターの箇所に差し色として使いました。色とは、すなわち機能です。今回はイエロー、ブラック、ホワイト、レッド、グリーン、オレンジを使用しましたが、メインカラーはブラックとイエローです。
Page02. 時計とファッションの関係について、どう捉えていますか?
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Bell & Ross クリエイティブ・ディレクター
ブルーノ・ベラミッシュ氏インタビュー(2)
時計とファッションの関係について、どう捉えていますか?
――Bell & Rossは航空計器デザインをベースに、スタイリッシュに仕上げており、ファッショニスタからも注目されています。ブルーノ氏は、時計とファッションの関係について、どう捉えていますか?
Bruno Bell & Rossは“プロフェッショナル・ニーズ”と“プロフェッショナル・ユース”からなるプロフェッショナルの領域から始まっています。プロフェッショナルのための時計であり続けることは、ブランドのルールです。
しかし現在、ユーザーの大半が腕時計に求めるのは、機能ではなくスタイルやデザインであることもよく理解しています。腕時計はファッション・アクセサリーでもあり、靴と同じように、着用する服とコーディネートされるものです。私たちのアプローチとしては、まず良質な腕時計、実用本位の腕時計をデザインすることを第一義としています。そしてユーザーは腕時計を自由に選び、自分たちのファッションに取り入れていくだけです。
――なるほど分かりました。ただ、昨年のホロブラックシリーズをはじめ、色彩を抑えたモデルは特に、PRADAのようなミニマルなスタイルとの親和性が高いように感じます。ブルーノ氏は、ファッションのトレンドと腕時計のデザインをどうリンクさせていますか?
Bruno ファッショントレンドは、言うまでもなくインスピレーションの源泉です。ファッションにはデザインがあり、創造性があります。デザイナーとしては建築やあらゆるプロダクトデザインに目を向けていますが、同様に、ファッションにも注目しています。
ファッションは実に多くのものを生み出します。その刺激はむしろ、双方向と言っていいかもしれません。私たちはファッションを注視しているし、ファッション側も腕時計の動向を注視しています。
インスピレーションはあらゆるところから得られるものです。たとえばミリタリー・ファッション。MA-1というフライトジャケットは、今ではファッション・アイテムのひとつですが、そのはじまりはプロフェッショナルのためのアイテムでした。
――昨年、A BATHING APEとのコラボレーションが形になりました。このプロジェクトを引き受けた理由は何でしょうか? 特定ブランドとのコラボレーション事例は珍しいように感じますが、今後も続きますか?
Bruno BAPEとのコラボレーションは、非常に素晴らしい経験でした。BAPEはクリエイティブなファッションブランドであり、Bell & Rossと同じようにミリタリーから着想を得てストリートファッションを展開しています。また小規模の家族的な会社で、私たちの経営哲学と完全に一致しており、最初は契約書なしで、話し合いだけでスタートしたくらいでした。
仕事の進め方、その哲学も同じだったので、コラボレーションは非常にやりやすかったと認識しています。もちろん結果は大成功でした。限られた量しか生産できなかったものの、あっという間に完売してしまいました。
じつは、この話がある前からBAPEのことは知っていました。初めて日本に来たとき、BAPEのストアを訪ねましたが、Tシャツがベルトコンベアで回っていて、とてもクリエイティブだなと感じたことを思い出します。空間デザイナーの片山正通氏は、非常に才能と知性にあふれた人物ですね。
――ブルーノさんご自身のことを読者に紹介したく、個人的なことをうかがいます。ブルーノさんが腕時計を好きになったきっかけ、そして腕時計をデザインするに至った経緯を教えてください。
Bruno かつて若いデザイナーだった私は、腕時計のほかにもファッション、スニーカー、クルマ、眼鏡といったワードローブ、すなわち自分を表現するもので、かつ製造するために技術が必要なアイテムに興味がありました。私のキャリアのスタートはSinnです。Sinnではデザイナーとしてではなく、コレクションの中での統一したイメージ、一貫性を持たせるために細部を調整する仕事をしていました(※編集部注:学生のときのインターン)。
はじめにMr. Sinnに「Sinnの腕時計をフランスで販売してもいいか」と尋ね、許可をもらいました。ですがSinnをフランスで売るためには、自分たちの力でブランドを再構築する必要があると考えていました。そこで “Bell & Ross by Sinn”というWネームコレクションの中に、私たちだけのフランス国内限定モデルを作りました。’97年にはCHANELと資本提携してパートナーになりましたが、彼らはSinnの生産ラインと、スイスのシャトランでの生産ラインの共通化を実施しました。
――ブルーノさんが時計作りのなかで手応えを感じる瞬間とはどういう時でしょうか? 最近はどのデザインワークのなかで、手応えを得ましたか? 具体的に教えてほしいです。
Bruno 私は完璧主義者であり、それゆえ自分の仕事に100%満足したことは一度もありません。ひとつの仕事が終わるたびに、もっと良くするためにできることがあるのではないかと思ってしまうんです。いつも、より良いものを求める姿勢は、日本人と同じですね。
新たなデザインを手掛けるときには必ず締め切りがあるものです。全体のバランス、サイズ、インデックスの雰囲気、そういうもののあるべき姿が見えたとき、そこで手を止め、生産に入らなくてはならないですからね。