良いデザインとは、タイムレスであり、説得力があるものなのです|Bell & Ross
Bell & Ross|ベル&ロス
新作「レーシングバード」に込めたメッセージ。
Bell & Ross クリエイティブ・ディレクター
ブルーノ・ベラミッシュ氏インタビュー(1)
2018年のベル&ロスの新作群のなかで、ひと際、輝いて見えた「レーシングバード」。ホワイトダイアルが爽やかで、青とオレンジの差し色が抜群に効いていた。この底抜けに陽気で、自信に満ちた雰囲気を感じて、私は20世紀半ばのアメリカのアヴィエーションシーンを想起したのだが、さて、ブルーノ・ベラミッシュ氏はこの時計を、どういう思いでデザインしたのか。バーゼルワールド2018の会場にて彼に、率直に話を聞いた。
Text by TSUCHIDA Takashi(OPENERS)
“プロのための計器”のために
――今年、レーシングバードという新たなコンセプトが示されました。このコンセプトが生まれた背景を教えてください。
Bruno ベル&ロスでは、2014年のB-ROCKETを皮切りに、創造領域におけるさまざまなビークルを生み出し、その計器を作り出してきました。
このチャレンジは、2016年のスーパーカー、2017年のレーシングカーと続き、今年、いよいよ飛行機「BR-BIRD」(BR-バード)を手掛けるに至りました。
機体の特徴は、印象的なシェイプにあります。翼が幅広く、Y字の尾翼を採用しました。また
ボディのホワイト塗装は、NASAが採用したエクスペリメンタル飛行機(※編集部注・教育目的もしくは個人の趣味として作られた機体)からインスピレーションを得たものです。
リフレクションカラー(反射する色)としてホワイト塗装が実際に導入された経緯があったのです。
――幅広の翼は低空飛行に耐えるためでしょうか?
Bruno ええ、具体的にはリノ・エアレースに参戦することを想定してデザインしているのですが、コンセプトモデルとして若干誇張してはいます。実機を製造するとしたら、これよりも10パーセント程度、幅を抑えたものになるでしょう。
――陸、海、空の3ジャンルからインスピレーションを得る手法は、多くのブランドが行なっていますが、ベル&ロスの独自性はどこにあるのでしょうか? また、それを示す具体的な箇所はどれですか?
Bruno はじめにお伝えしたいのが、こうした飛行機をデザインすること自体、ブランドのノウハウを詰め込んでいるのです。単純に新しい飛行機をデザインしました、というのではなく、他ブランドが想定している既存の飛行機とは異なる機体をクリエイトし、そこから時計のデザインへと落とし込んでいます。
世界観も違えば、その手法も異なります。
――ベル&ロスの原点、すなわち“プロのための計器”を追求する際に、その計器の母体である乗り物までデザインする必要があるということでしょうか?
Bruno そうです。デザイナーとして、ブランドの世界観を構築するためには、ときには映画の監督になることも必要です。私たちが創造しているのは、時計を通じたストーリーです。
あるいは、ディテールを紡いでいくなかで、新たなインスピレーションの素に辿り着くこともあり得ます。今回でしたら、パイロットのユニフォームです。
――そのユニフォームは、各部の素材まで指定してありましたね。
Bruno そう、素材まで。リアリティのひとつひとつがとても大事なのですから、もちろんやります。
Page02. つまるところ、機能主義です
Bell & Ross|ベル&ロス
新作「レーシングバード」に込めたメッセージ。
Bell & Ross クリエイティブ・ディレクター
ブルーノ・ベラミッシュ氏インタビュー(2)
つまるところ、機能主義です
――このレーシングバードから、私はトム・クルーズの主演作『トップガン』(1986年)のような、20世紀半ばの強いアメリカを想起しました。
Bruno アヴィエーションウオッチを手掛けていくうえで、あの国が牽引してきた世界観は非常にパワフルであり、見逃すわけにはいきません。
アポロ上陸作戦、NASA宇宙計画、そうした宇宙計画までも含めた広義な意味での“アヴィエーションワールド”は、我々のインスピレーションソースとしても大切です。
――文字盤を機体と同じくホワイトとしていますが、ミリタリーデザインが濃厚なベル&ロスのラインナップのなかでは非常に斬新ですね。
Bruno ミリタリーデザイン、アビエーションデザインは、私たちにとってコアな部分ですし、それはこれからも変わりません。
基本色としての黒、グレー、ブルー。そのほか、カッパーカラーも取り入れてきましたが、今回のホワイトはそれらを補完する意味合いがあります。
――ベル&ロスの時計は、一見、王道のミリタリーウオッチのデザインコードに見えて、しかしディテールをつぶさに観察すると違いが見えてきます。華奢でスタイリッシュなラグ、幅狭のベゼル、ドーム型なのに文字盤が見やすい風防。'50年代、'60年代のアンティークをただ単純にコピーしているのではなく、何もしていないように見せて、じつは細やかに仕事が入っています。だから同じ価格帯のブランドと見比べても、印象が大きく違ってくる。
Bruno 私自身、時計が好きなんです。過去のミリタリーウオッチも好きですし、その一方で、ウルベルクのような現代的なデザインも好きです。そしてディテールの話で言えば、小さなディテールを積み重ねていくと、大きな違いを生み出せるとも思っています。
――では改めて、ブランドの原点についてうかがいます。ブルーノさんにとってミリタリーウオッチのデザインコード、航空機器のデザインコードとは、どういうものですか? なぜ、この原点を突き詰めるのですか?
Bruno つまるところ、機能主義ですよね。必要とされるファンクションがあり、その機能が形を作る。そこに尽きます。
良いデザインとは、タイムレスであり、説得力があるものなのです。