想像世界の飛行体「BR-BIRD」設計理由、その開発背景についてのインタビュー|Bell & Ross
Bell & Ross|ベル&ロス
Bell & Ross ジェネラル・マネージャー
ファビアン・ドゥ・ノナンクール氏に聞く(1)
BASELWORLD2018において、Bell & Ross は飛行体BR-BIRDおよび新作「レーシングバード」シリーズを発表。これは2014年からスタートした、想像世界の乗り物を背景にしたクリエーション活動である。本稿ではBell & Ross ジェネラル・マネージャーのファビアン・ドゥ・ノナンクール氏に、シリーズ開発の背景をうかがった。
Text by TSUCHIDA Takashi
すべてのディテールに意味がある
――今年、発表されたBR-BIRDについてうかがいます。このプロジェクトは、そもそも2014年のB-ROCKETからはじまり、想像世界の乗り物の数々を生み出してきました。こうした取り組みをファビアンさんはどう感じていますか?
Fabian Bell & Ross はクリエーションを大事にしています。そのクリエイティビティを“試す”意味でも、モーターバイク、B-ROCKET、スーパーカーといったビークルそのもののデザイン開発をやってみたらどうだ? として、はじまりました。
――コクピットの計器からインスピレーションを得るとはいえ、時計をデザインするに当たり、その背景の乗り物にまで焦点を当て、クリエーションに取り組むブランドはほかにないと思います。独創性のあるデザインを創るうえでも意味深いですね。
Fabian 「レーシングバード」という時計は、その背景にある飛行体のイメージがなければ絶対に生まれてこないモデルです。こうしたプロセスをBell & Ross は重要視しています。
――でも具体的にはどこまでデザインを詰めていらっしゃるのですか? 今作では飛行機の機体があり、パイロットのユニフォームも具体化されていましたよね。
Fabian デザイナーのブルーノ・ベラミッシュは完璧主義者です。自分が納得しない限りデザインを完了させません。「すべてのディテールに意味がある」という姿勢で追求しているので。それはこの取り組みに限らず、今までデザインしてきた全モデルに対しても同姿勢です。つまりBR-BIRDについても、「飛ばないのものを作る気はない」と。
実機を作るとなるとまた別の話ですが、リアリティの面では「実際に飛ぶ」ことを前提としています。そのために外部から専門家を呼び、空力の検証をして、飛行体として理論的に正しいかどうかを詳細にチェックしています。
――陸・海・空からインスピレーションを得ているブランドは多数ありますが、Bell & Rossは「今あるもの」ではなくて、さらに新しいもの・この先のものをクリエーションしていると感じます。端的に言うならば、過去を振り返るのではなく、未来を創造していく意思の表れのようにも受け取れます。
Fabian そうですね。ただ、昔のものから何もインスピレーションを得ていないのか? と問われると、そうではなく。
ヴィンテージシリーズは1997年からリリースしていますが、1940年代・50年代に使用されていたモデルを、現代の技術で蘇らせたい、最新のムーブメントを搭載した時計を作りたい、という思いで誕生させました。
過去のエッセンスは取り入れつつも、現代に合うもの・現代にふさわしいものを作る、という気持ちで取り組んでいます。
――ところで「レーシングバード」の純白の白は、Bell & Rossに新しいカラーコードをもたらしのではないでしょうか?
Fabian ホワイトはBell & Rossにとっては珍しい色ですね。ただこの色にも、意味があります。BR-BIRDはアメリカの実験航空機をベースにしています。それらの飛行機は機内に冷却機能がなく、機体が非常に熱くなってしまうので、太陽光を反射させるために白で塗るのが常なんです。
――太陽光を跳ね返すという目的において、もっとも機能するのが白なんですね。
Fabian ええ。実際に、ほとんどのエアラインで機体色は白ですよね。以前、某エアラインが経費節減の意味で機体への塗装を止め、素材色のシルバーのままにしたところ、逆に冷却費用がかかりすぎてしまい、すぐに白に戻したという逸話もあるぐらい。やっぱり飛行機にとっては、白が大切なんです。
――差し色には、オレンジを使用していますね。
Fabian オレンジは、重要情報の識別色。ちなみにアビエーションにおいて、赤はトラブルを想起させる色なので、積極的には用いません。
――なるほど。では、キーカラーとして青も使われていますが、なぜ黒ではなく青なのでしょう? 青だからこそBell & Rossらしさが出ている気がします。
Fabian そうですね。スタイリッシュに見える「さじ加減」はあると思います。2018年はブルーのダイバーズもリリースしました。ブルーは大事な色だと今年は思っています。
Page02. Bell & Rossの基本姿勢をもう一度、説明してください
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Bell & Rossの基本姿勢をもう一度、説明してください
――バイク、特殊カー、飛行機と来たら、次は深海でしょうか? この企画は今後、どんな方向に進んでいくと考えていますか?
Fabian スペースシャトル、ロケット、潜水艦など、アイデアはいくつも用意しています。ぜひ楽しみに待っていてください(笑)。でも「お客さまをガッカリさせる」ことは絶対にしたくないので、本当に良いものができた時にだけ不定期に発表していく予定です。
万が一、来年、こうしたサプライズがなかったとしても、どうぞガッカリしないでください(笑)。
――了解しました(笑)。ところで時計業界が引き続き厳しい局面を迎えていると言われている昨今、Bell & Rossの基本姿勢をもう一度、説明してください。
Fabian 私の、今現在の感触としては業界は再び上向きになっているように感じています。スイス時計の輸出量は改善されてきています。サプライヤーからのパーツ供給についてのリードタイムが長くなっています。
――リードタイムとは、パーツを注文してから実際に納品されるまでの期間ということですね。その期間が長くなっているということは、パーツが手に入りにくくなっていることを示しているから、つまりは時計の生産規模が拡大傾向にあることが分かるわけですね?
Fabian その通りです。一方で、ここ数年で「Bell & Rossの基本姿勢」は変わりませんでした。Bell & Rossのイメージは常に一貫していて、
その点に揺らぎはありません。
――経済的に、厳しい局面では、ブランドのコンセプトを多少緩めてまでも売れスジに頼るのがよくあるパターンですが、Bell & RossではむしろBR-BIRDのようなチャレンジモデルを提案し、ブランドの深層を追求する行為を淡々と続けていました。そうした姿勢は、結果、ユーザーの信頼の獲得に結びつくものと分析しますが、ファビアンさんはどうお考えですか?
Fabian 同じことをブレずにやり続けることが、ブランドの強さです。その点において、Bell & Rossは非常に確立できていると思います。
トレンドフォローに終始せず、Bell & Ross独自の方向付けでクリエイティブを伸ばしています。
――このブランドは、フォロワーではないですね。
Fabian そうです。マーケティング資金があるビッグブランドでしたらばフォロワーにもなり得るんですけど。私たちみたいに小規模なブランドでは、トレンドを生み出す側にいなければ生き延びることはできません。
――そのアグレッシブな姿勢がBell & Rossのユーザーにはとても響く部分ではないでしょうか。
Fabian それは嬉しい限りです。