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2026年4月27日
世界のグルマンが注目する漁港と街が近い魚介天国・富山の特別な旅
TRAVEL|富山
昨年ニューヨークタイムズ紙が発表した「2025年に行くべき52カ所」に富山市が選出されたのはご存知だろうか。そんな世界からも注目されている富山県は、豊富な魚介に恵まれた土地柄を活かし、「寿司」ブランディングプロジェクトに取り組んでいる。
江戸から明治時代にかけて北前船で栄えた歴史を知り、未来を担う職人たちの人材育成の現場整備を伺い、気軽な夜のスナックでは寿司をつまみながら人情に触れ、そして、今がシーズンのホタルイカ漁にも密着してきた。
富山の魅力を存分に体感した模様をレポートする。
Text&Photographs by KOICHI eriko
唯一無二!富山湾鮨の洗礼を受ける
東京から北陸新幹線で約2時間。そろそろ降車準備でもするか、そんなタイミングで車窓の外に目をやると、左手には雪化粧の立山連峰、右手には日本海が迫る富山らしい風景に誰しも高揚感を覚えるはず。
期待に胸ふくらませながら、富山の寿司の魅力を紐解く旅がスタートした。
到着して早速、富山湾鮨を堪能した。県内45店舗ほどで提供している“富山湾鮨”は、その名の通り、富山湾産の旬の地魚を使用した寿司10貫と、富山県産のシャリ、富山らしい汁物で構成されたメニュー。
値段も2700〜5500円と決められているので、安心して利用できるのも旅行者には嬉しいポイントだ。
富山駅からほど近い「歩寿司本家」にお邪魔した。この日の10貫は、ガンドブリ、カワハギ、ホタルイカの昆布締め、ノドグロなど。冬の名残でさらりとした脂が乗ったブリや、漁が解禁したばかりのぷりぷりなホタルイカ、富山のソウルフードとも言える黒とろろ昆布の軍艦など、富山らしさ溢れる一期一会の寿司に心踊る時間を過ごした。
漁場と港が近く、その港は街と近い。そんな、富山ならではの地の利を活かした新鮮なネタに出会える悦びは、ここに来なければ味わえないと確信した。
歴史の趣きある岩瀬エリアで寿司の未来を託す学校が開校
次に向かった富山市街地から近い港町の岩瀬エリアは、かつて北前船の交易地として栄えたエリアで、明治時代から残る街並みを散策するだけでも興味深く、建築・歴史好きにはぜひお勧めしたい。
そんな歴史ある地にこの春開校したのが、寿司職人養成校「北陸すしアカデミー」。奇しくもこの日は開校式が執り行われており、地元の盛り上がりを感じさせた。
「東京すしアカデミー」の提携校とのことだが、富山湾の豊富で新鮮な魚介を扱いながら、近くの漁港でセリや仕入れを体験できるなど、富山ならではの贅沢な環境で学べるのが最大の特徴。
自分で好きな銘柄を冷蔵庫から取り出すセルフスタイルにわくわくが止まらない
今回楽しんだのは、15分間 1,500円(ミネラルウォーター付)のコース。おつまみセットの酒粕漬けホタルイカも必食の美味しさ
石組みの門をくぐると、木々に囲まれた能舞台の様なテラスが印象的な店舗が現れる
立山連峰の雪解け水が米や酒を育み、豊かな土壌が力強い野菜を作る。新鮮な魚介や山の幸を、とれたて、収穫したてで提供できるのも東京では叶わない富山の魅力だと教えてくれた。
開校式では富山県の新田知事も挨拶し「富山のすし文化を全国に、世界に発信する拠点」として大きな期待が感じられた。「寿司といえば、富山」のブランディングを後押しする未来の人材育成の土壌も整ったというわけだ。
桝田酒造店「沙石」で満寿泉100種の唎酒体験
寿司と切り離せないのが美味しい日本酒だが、ここ岩瀬には全国的に有名な「桝田酒造店」がある。桝田酒造店の代名詞「満寿泉」のラインナップをセルフで試飲できる「沙石(させき)」にも訪問した。
超一流の寿司店でも提供される満寿泉は、吟醸酒ブームの先駆者的存在。ここでは「沙石」でしか飲めない限定酒、シャンパーニュメゾンとのコラボ商品など、約100種の日本酒を唎酒できる。
廻船問屋だった宮城家の住宅を再生したという抜けの気持ち良い建築や、シンボルとして室内にそそり立つ杉の木も必見だ。
富山の銘酒をお土産にするなら「酒商 田尻本店」へ
「沙石」での興奮が冷めやらぬうちに、近くの酒屋でお土産を調達しておこう。「酒商 田尻本店」は目を見張るほどのセラーを持つ、富山の地酒に強いお店。満寿泉の品揃えはもちろん豊富で、富山各地のお酒、全国の銘酒に出会える。
日本酒にワインなど、圧巻の品ぞろえ。大きなセラーで選ぶ時間も思い出に
星付きレストランの系譜を汲むイタリアン「ピアット スズキ チンクエ」のシェフも認めた富山の豊かさ
桝田酒造「沙石」と同じ敷地にあるイタリアンレストラン「ピアット スズキ チンクエ」。鈴木 五郎オーナーシェフも、富山の食材に魅せられた一人だ。
ミシュランの星に幾度となく輝いた東京の名店「ピアット スズキ」で腕を磨いたシェフは、富山の魅力に惹かれ移住し、レストランをオープンさせた。
「ピアット スズキ」で培われた基本の技法を忠実に、富山の恵みを十二分に活かした料理へと昇華させ、連日県内外からのゲストで賑わう人気店だ。
立山連峰の雪解け水が米や酒を育み、豊かな土壌が力強い野菜を作る。新鮮な魚介や山の幸を、とれたて、収穫したてで提供できるのも東京では叶わない富山の魅力だと教えてくれた。
謙虚な人柄と誠実な料理でこの地に根付いた鈴木シェフ
夜の社交場スナック×寿司!「すし県 とやま」ならではのユニークなナイトツアー
この日お邪魔したスナックは、「bar雅」。ベルベットのソファにカウンター。薄暗い中回転するのは昭和感薫るカラフルなミラーボール。カウンターの中からスタッフの女性達が笑顔で迎えてくれる……。これぞ、スナック!
一度東京に出たママさんがUターンして富山に戻った理由や、地元のオススメ店の情報などを聞きながらグラスを傾け、寿司をつまみ、時にはゲラゲラと笑いながら、スナックならではの時間を楽しんだ。
スナックで飲みながら寿司をつまむというこれまでにはない組み合わせながらも、リラックスした雰囲気で富山の人情に触れ、寿司の美味しさも倍増した夜だった。
サ活も楽しみたいなら「ホテル グランミラージュ」でととのう旅を
お腹も満たされ気分も解れた後は、宿泊先のサウナで疲れを癒せば完璧だ。
この日の宿は魚津駅からほど近い「ホテル グランミラージュ」。上層階にある「スパ・バルナージュ」を目当てにこのホテルを選ぶゲストも多いと言う。
サ活の聖地といわれる「サウナしきじ」を営む家に生まれ、サウナ、温浴施設等のプロデュース・PRを手がける笹野美紀恵氏が監修。山と海の両方の絶景を楽しめるほか、現代美術家・舘鼻 則孝氏のアートもアクセントとなり、サウナ好きを唸らせるスパが併設されたホテルなのだ。
ととのう時間をホテルで過ごし、明日のメインイベントに備えることとした。
漁師の手によって紡がれる、伝統のホタルイカ漁を目の当たりに
早朝3時。この旅のメインイベントとも言うべき、ホタルイカ漁船の船上に筆者はいた。漁船の上では暖をとるための火がくべられ、漁師達は忙しく出航準備に追われている。
通常は観光船で漁の様子を間近で見られるが、今回は滑川漁港から特別に漁船に乗せてもらえる機会を得た。
出航してほどなく、最初の漁場へと到着。え、もう?と思ったのもそのはず、港から1~2kmで漁場に到着するのだ。
岸から1,000m超に急激に深くなる独特の地形、近くにそびえ立つ3,000m級の立山連峰。この急落差が生み出す環境のおかげで、日本海に生息する魚介類およそ800種類のうち約500種類が棲む富山湾は、「天然の生け簀」と呼ばれている。
イカ釣り漁船と言うと、暗い海に煌々と裸電球がぶら下がる船のイメージだったが、さすがにそこはLEDの白い灯り。だが、漁自体は想像よりもアナログで、漁師達が力を合わせ息を合わせながら取り組む、丁寧かつ根気のいる仕事であることに驚いた。
網を設置したポイントに到着すると船縁に漁師が一列に並び、同じスピードかつ手作業で、網を巻き上げていく。黙々と、粛々と、寒い海上で作業を続けると、赤く輝く紫檀色のホタルイカが見えてきた。手に持ったタモで丁寧にすくったホタルイカは、すぐさま保管のカゴへ。
この定置網は富山だけで行われている特有の伝統的漁法で、手間がかかる分、魚に傷が付きにくく、鮮度が非常に高い状態で水揚げできるのだ。美味しいものには理由があることを再確認する貴重な時間となった。
水橋漁港に水揚げされた後は、手早く選別作業が行われ、気づいた時には隣で入札が始まっていた。すべてはホタルイカの鮮度のために効率よく作業が進められていく。
入札場の近くのスペースでは、大きな水槽に入ったホタルイカが発光する様子を見学できる。
スーパーなどで見かけるホタルイカよりも明らかに大ぶりでふっくらとしている。照明を消して刺激を与えたら、たちまち光り始めたホタルイカ。まるでLEDのブルーライトの様に、神秘的な強く明るい光を放っていた。
漁師の店「水橋食堂 漁夫」で特別な朝食体験
さて、お待ちかねの獲れたての海の幸を楽しむ贅沢な朝食タイムだ。
漁業組合の組合長が営む、その名も「水橋食堂 漁夫」は、漁港の目の前にあり、鮮度抜群の海鮮の店として評判だ。
通常はランチ営業からしかやっていない同店だが、ホタルイカの選別作業からセリ見学、ホタルイカ発光体験も楽しめる朝食ツアーならば、早朝から利用できる。
しめくくりは「魚の駅 生地(いくじ)」で彩り豊かな春のちらし寿司
帰りの新幹線に乗り込む前に、ぜひお土産を調達したいところ。道の駅、ならぬ、魚の駅では、富山ならではの海産物を購入できる。
黒部市にある「魚の駅 生地(いくじ)」は、レストランと物販の2棟からなる施設で、海鮮炭火焼きレストラン、隣接する黒部漁港から獲れたての海鮮や干物などの加工品、オリジナルの地ビールやご当地調味料まで揃う、正に海産物ワンダーランドだ。
駅弁もいいが、この日はオリジナルのちらし寿司を頂いてから帰途につくことにした。「四重奏弁当」は春爛漫のちらし寿司で、お花畑の様な彩りの鮮やかさに思わず歓声があがる。
蟹漁師直売のほぐし蟹のパックを購入したので、昨日岩瀬で購入した日本酒と合わせて完璧なお土産となった。
富山県のほんの一部しか体験できない旅だったが、新幹線を降りて車で40分ほどの範囲だけで、こんなにも魅力が詰まったコンテンツが凝縮されていることに驚いた。圧巻の豊かさを持つ富山湾に抱かれた土地は、明治時代からの貿易の歴史が今の食文化に繋がり、そして、この土地に誇りを持って迎えてくれる人々との出会いにも繋がった。
「寿司といえば、富山」と言い切るその背景には、美味しさの根拠が溢れていた。
ホタルイカは梅雨前まで、富山湾の宝石と称されるシロエビはこれからがシーズンだ。そしてほどなく始まるノドグロの旬。有名な「ます寿し」は一年中楽しめるお土産の定番だし、季節の彩りを感じるちらし寿司を移動中に楽しむのもいい。さて、次の富山はいつ訪ねようか?


