連載|美しきBoutique city、アデレードへ Vol.3
LOUNGE / TRAVEL
2018年9月7日

連載|美しきBoutique city、アデレードへ Vol.3

伝統にとらわれない自由なワイン造り
オーストラリア最大のワインカントリーへ

フード&ビバレッジの世界で、ここ数年、存在感を増しているオーストラリア。去る6月19日にスペインのビルバオで発表された「世界のベストレストラン」でも、100位までに、オーストラリアからBRAEとATTICA、2軒のレストランがランクインしている。この国の美食の特徴は、個性と多様性だ。広大な大陸は、固有の食材にも恵まれており、そこに移民たちが異なる文化背景を持ち寄ることで、独創的な美食を創り出している。気候と土壌のバリエーションに恵まれていることから多種多様なワインを造ることができるのも魅力だ。世界屈指の良質なワインが多く輸出されており、数々の受賞歴を誇る世界的に有名な銘柄も誕生している。そんななか、ワインカントリーとして近年注目を集めているのが、アデレードを州都とする地中海性気候の南オーストラリア州だ。

Composition & Text by MAKIGUCHI June

VOL.3 FOOD & WINE

豊かなワイン文化が育まれているオーストラリア。国内で産出されるワインの、およそ70%が南オーストラリア州産だ。日照時間が長く、降水量も少ないうえ、昼夜の寒暖差が激しい。代表的なブドウ品種はシラーズで、フルボディの赤ワインに定評がある。オーストラリアワインといえばシラーズを思い浮かべる人が多いのもこのためだ。白なら、リースリングやシャルドネの人気が高い。フルーティで味わい豊か、それでいて凛々しさもあるワインも多く、バランスの良さが魅力だ。

d'Arenberg Winery, McLaren Vale, SA

©d'Arenberg

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オーストラリアワインの歴史は、200年ほどと決して長くはない。1788年、イギリスからやって来た初代総督アーサー・フィリップがシドニー到着時にブドウ樹を持ち込み、その後、“オーストラリアワインの父”と呼ばれるジェームズ・バズビーによりブドウ栽培の礎が築かれた。ヨーロッパからの移民たちは、新天地での馴染みのない気候に悩まされつつも、独自のワイン文化を育んできた。伝統にとらわれずワインを愛するという精神が、手軽で親しみやすいボックス入りのカスクワインや、保存しやすいスクリューキャップのワインなどの進化を生んでいると言えよう。かつては“ニューワールド・ワイン”として手軽な低価格ワインが主軸だった時期もあったが、今やワイン大国のイタリアやフランスにも劣らず高いクオリティを誇るプレミアムワインで美食家たちをも魅了している。

もちろん、ワインの生産が盛んとなれば、美食にも事欠かない。多くのワイナリーがセラードアでのテイスティングだけでなく、自社経営のレストランでペアリングを提供している。

世界に名を馳せる銘醸地バロッサ・バレー

そんな楽しみを存分に味わうために、真っ先に訪れたいのが、国内ワインの約60%という豊かな生産量を誇る銘醸地バロッサ・バレーだ。アデレードから車で60分程度の距離にあり、ここはオーストラリアでも最古のワイン生産地のひとつ。オーストラリアワインの聖地とも呼べる場所だ。オーストラリアワインの代表格「ジェイコブス・クリーク」はこの地で最初の商用ワイナリー。姉妹ブランド的存在で、1983年に設立されたプレミアムワインのブランド「セント・ヒューゴ」で、バロッサの伝説的ワインメーカー、ヒューゴ・グランプの輝かしい功績とワイン造りの精神を体感するのもいい。事前に予約を入れると、同じ畑で違う年に取れたシラーズを飲み比べという特別なテイスティングも可能だ。

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1849年設立の「ヤルンバ」は、6世代150年以上にもわたり続くオーストラリアで最も古い家族経営ワイナリーのひとつ。家族の結束とゆるぎない信念、深いクラフトマンシップへの敬意のもとに作られるワインにも定評があるが、世界で4件しかないという自社での樽作りでも有名。世界各国から独自に集めたワインの秘蔵コレクションやワイン貯蔵施設を改修したファンクションルームも、特別なガイドツアーなら参加できる可能性もある。

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ユニークなテイスティング経験をお望みなら1850年創業の「セッペルツフィールド・ワインズ」へ。ここには、“Taste Your Birth Year”というプログラムがあり、自分の生まれ年のワインを樽から直接グラスに注いでもらい飲むことができる(一人AU$80.00)。ワインは1878年から生産されており、それ以降のすべてのシングル・ヴィンテージが樽で残されている。まさに生きたワイン博物館なのだ。樽は地下ではなく、メインビルディング2階の「センテニアル・セラー」に置かれているため、歳を経るごとに凝縮された濃厚な味わいを増していく。とても特別な体験なので、ぜひ事前に予約してから出かけたい。また、併設されているレストラン「フィノ・アット・セッペルツフィールド」では新鮮な地元食材を使った料理が堪能できる。もちろん、ワインと合わせて楽しみたい。

Seppeltsfield Wines, SA

©Tourism Australia

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バロッサ・バレーには、このように個性的な約150ヶ所のワイナリーがある。毎年8月に開催される「バロッサ・グルメ・ウィークエンド」や奇数年に開かれる「バロッサ・ヴィンテージ・フェスティバル」などに参加するのも楽しそうだ。

伝統にとらわれない自由なワイン造り
オーストラリア最大のワインカントリーへ(2)

マクラーレン・ヴェイル、アデレード・ヒルズを巡る

アデレードの南に広がり、街の中心部から車で1時間ほどのフルリオ半島には、マクラーレン・ヴェイルがある。ブティック・ワイナリーで知られる地区で、1838年に最初のブドウが植えられてから、バロッサ・バレーとともにオーストラリアワインの歴史を紡いできた産地だ。

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©d'Arenberg

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ワイナリーは65軒、ブドウ栽培農家は約270軒にも及び、世界最古のブドウの木も栽培されている。小規模ワイナリーが多く、新品種が多く栽培されていて、個性豊かな味わいを発見できるエリアだ。その外観からも注目を集めているのが、ルービックキューブのような独創的な建物も人気の「ダーレンベルグ」。

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ブドウ畑に囲まれた丘に聳え立つ姿は一見の価値ありだ。南オーストリア州屈指の受賞歴を誇るヴェランダ・レストランからはブドウ畑が一望でき、館内では美味しい料理に舌鼓を打ちつつ独創的なインテリアやアートを堪能できる。

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州都から最も近いワイン産地と言えば、アデレード・ヒルズだ。車で東へわずか20分。
南オーストラリアで最も古いワイン産地のひとつ。最初にブドウの樹が植えられたのは1839年と、アデレードに人々が入植し始めたわずか3年後のことだ。

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1841年には初めてヴィンテージ・ワインが作られている。美しい丘陵地帯は眺めるだけでもリフレッシュでき、多くのワイナリーが、絶景の中でワインと食事を楽しめるようレストランを併設している。天気の良い日に、ちょっとそこまでランチにといった軽い気分で出かけても、存分に気持ちの良いワイナリー体験が可能だ。

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いっそ、いくつかの産地を何泊かしながら巡るのもいい。道中にあるリラクシングかつ個性的なアコモデーションやレストランをも同時に楽しめるからだ。日帰りできる距離ではあっても、ゆったりステイしながら巡るのがおすすめ。時間に追われないことも、オーストラリア体験の醍醐味のひとつなのだ。

州都中心部からほど近いアデレード・ヒルズからマクラーレン・ヴェイルへと足を延ばすのも一案だろう。マクラーレン・ヴェイルのあるフルリオ半島には、VOL.2でご紹介した野性のイルカやクジラに出会えるビクター・ハーバーやグラニット島があり、デイ・トリップではもったいない。

ビクター・ハーバーから車で20分ほどの港町グールワには、ラグジュアリーなブティックホテル「ジ・オーストララジアン・サーカ1858」がある。客室はわずか5室のみ。すべて趣が異なるが、館内すべてに女性オーナー2人の温かな人柄が伺える。インテリアには和箪笥や着物など日本のテイストがふんだんに取り入れられているが決して押しつけがましくなく、友人の家を訪れているような心安らいだ時間を過ごすことができる。

大きなバスタブがある部屋も用意されていて、日本人には有難い。インハウス・レストランではアジアにインスパイアされたモダンオーストラリア料理が週末のみ事前予約にて楽しめる。

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©The Australasian CIRCA 1858

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©The Australasian CIRCA 1858

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©The Australasian CIRCA 1858

ビクター・ハーバーからやはり車で30分ほど走ったところにあるミドルトンと言う町には、オーストラリアらしいラグジュアリーロッジ「ビーチ・ハット・ミドルトン」がある。12の個性的なコテージからなるアコモデーションだ。花が咲き乱れる中庭に面して建つそれぞれの小屋は、異なる色の外観を持ち、その様子はまるでファンタジー映画の一場面のようだ。各部屋すべてが違ったテーマで仕上げられているが、共通しているのは海辺のサマーハウスというリラックス感。サーファーたちが愛するビーチにも徒歩10分ほどで行くことができる。1泊と言わず、数日ステイしたくなる心地よさだ。

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ワイン産地巡りの拠点にしたいこの2軒のほかにも、ビクター・ハーバーから30分ほど車で走れば、ホースシューベイと呼ばれるビーチに面した地元で人気の「フライング・フィッシュ・カフェ」がある。伝統的なフィッシュ&チップスやフレッシュなシーフード料理も美味。ワイナリー巡りの途中で、立ち寄るのもお忘れなく。

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一般公開されている場所を効率よく訪れるために、クラシック・カーでエリア内を案内してくれる「バロッサ・ダイムラー・ツアーズ」や「ライフ・イズ・カベルネ」といった地元をよく知るガイド付きツアーへの参加もおすすめ。

また、特別なワイン・ツーリズムを求めるなら、「ウルティメット・ワイナリー・エクスペリエンス・オーストラリア」は必見。

全土から集まった22のワイナリーがメンバーとなり、それぞれ自慢のシグネチャー・プランを提供しワイン・ツーリズムを盛り上げている。

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©Barossa Daimler Tours

サイトでは、各ワイナリーの案内だけでなく、どこでどんな体験ができるかを検索し、お気に入りのプランを見つけたらネットで予約できる。ちなみに、「セッペルツフィールド・ワインズ」の“Taste Your Birth Year”もここからブッキング可能だ。

伝統にとらわれない自由なワイン造り
オーストラリア最大のワインカントリーへ (4)

自然を感じながら美味を楽しむのがオーストラリア流

VOL.2でご紹介したカンガルー島でも、美味しい食が楽しめる。カンガルー島には、世界最古のミツバチ保護区があり養蜂が有名。 1881年、イタリアからリグリア蜂が輸入された。現在はカンガルー島にのみ純種が残っているため、純種保護のため蜂蜜の島内への持ち込みは禁止されている。ぜひ、この機会にここだけの味を体験してみてはいかがだろう。

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また、野性のオリーブから絞ったフレッシュなオリーブや、チーズ、そして今世界的に流行しているジン、そしてワインも待っている。いずれも地元の素材をふんだんに取り入れたここだけの味だ。もちろん、ローカル食材を使ったレストランもあり、カンガルーなど野生動物が時折庭に姿を見せるというおまけがついてくるのも、オーストラリアならではの体験だ。

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最後に、動物好きにはたまらない、ちょっとした情報をひとつ。ワイナリーには、愛犬を放し飼いにしているところが多い。フレンドリーにゲストたちを迎えてくれる彼らは“ワイン・ドッグス”と呼ばれて愛されている。

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オーストラリアのワイン・ドッグたちは写真集がシリーズ化されすでにVOL.5が発刊されていることからも、人気のほどがうかがえる。本を片手に、気になるワイン・ドッグに会いに行くのも楽しそうだ。

カンガルー島以外の各ワイン産地へは、州都アデレードからも車で90分程度とアクセスが簡単、デイ・トリップが可能な点も、旅行者には嬉しい限りだ。

そして、特筆すべきは美食を数倍楽しませてくれるロケーション。青い空、紺碧の海、燦々と降り注ぐ陽光、青々と生い茂る緑、そして時折顔を見せる野性動物たち。世界トップクラスのワインと料理を、素晴らしい環境の中、オープンエアで楽しめる場所が多いのも、オーストラリアならではの美食体験だ。

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美食、ワイン、自然、文化―。絶景の中で美食を味わうことこそ、オーストラリア旅行の醍醐味と言えるのかもしれない。アデレード近郊には、旅人を飽きさせない魅力的なスポットで溢れている。アクセシブルな州都を拠点に、南オーストラリアで実り豊かな旅をぜひ。


オーストラリア政府観光局
http://www.australia.jp

南オーストラリア州政府観光局
http://tourism.sa.gov.au/


           
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