LOUNGE / MUSIC
2022年10月26日

人間とアンドロイドの共存をカルチャーの拠点「渋谷」から発信。渋谷慶一郎の新作MV 『BORDERLINE(ボーダーライン)』が公開|MUSIC

MUSIC|渋谷慶一郎

ボカロベースの楽曲がメインストリームになるとは誰が想像できただろうか……。そんな書き出しすら完全に過去のものとなっていることを鑑みても、デジタルテクノロジーが音楽に与える影響を無視してはいられない。2003年にヤマハが音声合成ソフト「VOCALOID(ボーカロイド)」を発表して来年で20年。中でも2007年にクリプトン・フューチャー・メディアが開発した「初音ミク」はバーチャルアイドルとしても世界的に知られている。

Text by SHINNO Kunihiko

渋谷の公共地下空間を使用した新たな文化プロジェクトの一環として制作

2022年10月4日 、音楽家・渋谷慶一郎の公式YouTubeにて公開された新作ミュージックビデオ『BORDERLINE(ボーダーライン)』は、作曲領域の拡張と同時に、急速に変化を遂げる人間社会の未来まで示唆する意欲的な作品だ。
先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる音楽家・渋谷慶一郎。彼は東京藝術大学作曲科卒業後、2002年に音楽レーベル ATAKを設立。2012年、パリ・シャトレ座にて初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を初演。2018年にはAIを搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』を発表。『Heavy Requiem』(2019年)、『Super Angels』(2019年)など、人間とテクノロジーの共存をテーマに活動する第一人者である。
今回、アタック・トーキョー、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント、エイベックス・エンタテインメントは、渋谷の公共地下空間を使用した新たな文化プロジェクトの一環として、音楽家・渋谷慶一郎に彼の地元である「渋谷」のボーダーライン=地下から新しい音楽とカルチャーを発信すべく楽曲の制作を依頼。渋谷慶一郎自身にとっても新たな試みとなる新作『BORDERLINE(ボーダーライン)』が完成した。
同曲のヴォーカルを務めたのは渋谷慶一郎がここ数年、自身のメインプロジェクトとして世界的に展開するアンドロイド・オペラ®︎より、今年3月にドバイ万博で世界初演した最新作『MIRROR(ミラー)』にて1200年の歴史を持つ仏教音楽・声明、そしてUAE現地オーケストラとの共演も果たしたアンドロイド「オルタ3」。そしてアジアから世界の音楽シーンを席巻する音楽レーベル、88rising所属のシンガーソングライター・Stephanie Poetri(ステファニー・ポエトリ)が参加。
オルタ3
楽曲の前半はオルタ3のソロ、後半はStephanieによるリードヴォーカルとオルタ3のデュオで構成され、人間とアンドロイドのかつてないハーモニーが実現している。
渋谷駅の地下で撮影されたMVでは、バレエダンサーやモデルとして世界的に活躍する飯島望未が、オルタ3、渋谷慶一郎と初共演し、振付家・ダンサーの小㞍健太のコレオグラフによるダンスを披露。無機と有機性を自在に往復する鋭利なダンスがオルタ3と共鳴し、身体性、運動性においても人間とアンドロイドの共存を実現している。

AIが作詞し、アンドロイドが歌う世界初のポップミュージック

さらに歌詞に関しても、東京大学・池上高志教授に協力を仰ぎ、「渋谷/地下/BORDERLINE」 など渋谷の街からイメージされる僅かなキーワードをもとにAIによる作詞が実現。生みだされた歌詞は圧倒的な終末感と断片的な物語性が同居する仕上がりとなり、「AIによる歌詞をアンドロイドが歌う」という今までにないリアリティが誕生した。AIによって作詞されたポップミュージックをアンドロイドと人間の歌手が歌うことは世界初となる(2022年9月28日時点での調べ)
<is no longer yours.is by doing what we love to do.(かつて愛した世界は、もうあなたのものではない。 ただ、好きなことをすればいい)>
人間と機械、終わりと始まり、有機性と無機性といった境界や差異が、もはや機能しない新しい時代を生きていることを示唆すると共に、それもすぐに次の段階に移行することを予言するような歌詞にも注目したい。このAI作詞家の名前は「Cypher(サイファー)」(=ゼロ、暗号という意味)。これも「AIの作詞家に名前をつけるとしたら何がいいと思う?」とAI自身に尋ねたところ、戻ってきた回答により命名されたものだ。今後もAIの進化とともに作詞やテクスト生成のコラボレーションを継続していくことが決定している。
AIといえば、今年8月、Jason M. Allen(ジェイソン・M・アレン)という合成メディアアーティストが、コロラド州の美術コンテストにAI画像生成ツール「Midjourney」というソフトを使用し生成した作品を出品し、デジタルアート部門で最優秀賞を受賞。この結果を受けて芸術の本質や意味について活発な議論を引き起こしたことが日本のテレビなどでも大きく報じられた。Jasonは「技術やその背後にいる人々を畏怖するのではなく、それが強力なツールであることを認識し、良い方向に利用することで私たち全員が前に進むことができるのです」と述べている。
人間に取って代わる脅威的存在ではなく、深く理解することで生まれる「共存」という概念。渋谷の街を舞台に描かれる『BORDERLINE(ボーダーライン)』は、その大きな一歩となる可能性に満ちた必見の作品といえるだろう。
BORDERLINE(ボーダーライン)
作曲|渋谷慶一郎
作詞|Cypher (AI)
ヴォーカル|アンドロイド・オルタ3、Stephanie Poetri (88rising)
映像出演|渋谷慶一郎、アンドロイド・オルタ3、飯島望未
オルタ3製作監修|石黒浩
オルタ3プログラミング|今井慎太郎
GPT-3 プログラミング|池上高志
コレオグラフィ|小㞍健太
URL|https://youtu.be/JR570WCzYGI
                      
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