Yellow Magic Orchestraアメリカ西海岸ツアー
Yellow Magic Orchestra LIVE in Los Angels & San Francisco
31年ぶりのYMOアメリカ西海岸ツアー現地レポート(1)
2011年のYellow Magic Orchestra (YMO)のアメリカ西海岸ツアー。なんとYMOがアメリカで演奏するのは、1980年以来31年ぶりだ。
31年経てば、国も土地も変わる、音楽もひとも変わる。それでも、YMOにとってアメリカ西海岸、なかんずくロサンゼルスは、彼らのはじめての海外公演の地。その感慨はひとしおだろう。
文・写真=吉村栄一
まるでYMOの再海外デビューのような気合いの入れ方
31年ぶりのアメリカ公演は昨年から企画されていた。詳細が決まったのは今年に入ってから。まず決定されたのがロサンゼルス公演で、これは音楽ファンの若者に人気の地元ラジオ局KCRWが主催するジャパン・ナイトのヘッドライナーになるというものだった。
「Big in Japan」と名づけられたこのイベントは、企画が決定した当初はアメリカで人気の日本のバンドと、日本の文化を紹介するというイベントに過ぎなかったが、途中3.11の大災害をはさんで、日本の復興を支援するという色彩が強くなっていった。
3.11という大きな出来事を経験したYMOも、だからどんどんこのイベント、そしてアメリカ西海岸ツアーに気合いを入れていった。このツアーに合わせて、主に海外の若い世代へのYMOの紹介を目的にした新編集ベスト盤『YMO』の制作(SONY : 旧譜とともにiTunesStoreをとおして全世界発売)や、昨年日本で刊行された鋤田正義氏撮影の写真集『YMO X SUKITA』(東京FM出版)のアメリカ版制作など、結成30余年を経ての、まるでYMOの再海外デビューといった様相すら呈してきた。
選曲は新編集盤『YMO』に準拠
3年前、YMOはマッシヴ・アタック主催のフェスティバルに招聘されるかたちでイギリス、スペイン公演をおこなっているが、この欧州公演がその直前の日本でのライブのセットをそのままもっていった、普段着、平熱的なYMOの海外公演だったのに対し、このアメリカ西海岸ツアーは、だから、いろいろな意味でYMOの気合いが入ることになった。
YMOが公演地であるロサンゼルスに到着したのは6月22日。翌日から3日間のリハーサルで2011年のYMOを完成させる。選曲については新編集盤『YMO』に準拠しながらも、事前にメンバー間でメールのやりとりで充分に練り上げてあったとのことだ。
ロサンゼルスからクルマで30分ほどのバーバンクにあるリハーサル・スタジオでの作業は、かなり順調だったようだ。2日目までにほぼかたちは定まり、さすがに長年の息の合ったコラボレーションで、ライブの完成形がどんどん見えていった。
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31年ぶりのYMOアメリカ西海岸ツアー現地レポート(2)
ロサンゼルス公演のシークレットゲスト登場!
また、リハーサル2日目にはうれしいハプニングもあった。YMOの結成と成功を支えた元アルファ・レコードの創業社長である村井邦彦氏のスタジオ訪問だ。現在、ロサンゼルス在住の村井氏の差し入れはおにぎり。
YMOとおにぎりといえば、細野晴臣がYMO結成をほかのメンバーにもちかけたときに、こたつに入っておにぎりをふるまったというエピソードが有名だ。YMOのメンバーたちももちろん覚えていて、差し入れのおにぎりをホテルに持ち帰り、ホテルの部屋に即席でこたつのセットをつくっておにぎりと記念撮影という遊びもさっそくおこなった。この2011年版こたつおにぎりYMOの記念写真は、その日のうちにtwitterなどネットで紹介されて古くからのファンの涙を呼ぶ。緊張のリハーサルの合間に、こういう遊びができることからも、この西海岸でのYMOがいかに気力を充実させていたかがわかるだろう。
全員が真顔になる緊張の時間
もちろん、リハーサルでは全員が真顔になる緊張の時間も多々あった。その最たる瞬間は3日目の午後だっただろう。指定の午後3時を前に、リハーサルスタジオ内の緊張がどんどん高まる。メンバーのみならずスタッフも慌ただしい。記録用のレコーダーやビデオカメラもすべて電源が落とされる。ロサンゼルス公演のシークレットゲスト、オノ・ヨーコさんの到着時間だ。
ヨーコさんは自曲「It's been very hard」での参加。YMOの演奏にヨーコさんのボイス・インプロビゼーションが乗る。真剣勝負のようなかたちでの15分間の初顔合わせのリハーサル。とはいっても、細野晴臣と、今回のゲストギタリストの小山田圭吾は近年、プラスティック・オノ・バンドの一員でこの曲も何度も演奏している。昨年にはサンフランシスコでレディ・ガガをゲストに同曲をやった。なので、とてもスムーズに緊張のリハーサルは終了した。
「さ、あとは本番か」。リハーサル終了後、屋外で一服しながら細野晴臣は呟いた。
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31年ぶりのYMOアメリカ西海岸ツアー現地レポート(3)
西海岸ツアーのオープニングにふさわしい曲!
その本番は、ものものしい。会場となるハリウッド・ボウルはまさに名門の会場。当日の夕方、最寄り駅から1万8千人を収容するこの名高いホールにつづく道はひとでいっぱいだった。警官やダフ屋もたくさん。客層は主に現地在住のアメリカ人と日本人。若い世代が多い。YMOはもちろん、久しぶりの再結成となるチボ・マットの演奏や、いまだにディー・ライトでの活躍が印象に強いテイ・トウワのDJを楽しみにしているひとも多かった。
まだまだ明るさの残る午後7時、いよいよ開演だ。チボ・マット、バッファロー・ドーター、テイ・トウワのDJ。砂漠気候のロサンゼルスだけに、昼の暑さが嘘のように冷たい空気がこの野外ホールを覆うが、ステージと客席は熱い。
日も暮れてステージの壁に映し出されるイメージ映像の色も鮮やかになってきたころ、ついにYMOの登場だ。
オープニングはいきなり「ファイヤークラッカー」。これまでのYMOのステージではライヴのトリで演奏されることが多かったが、しかしよく考えると同曲はYMOのファーストアルバムの冒頭曲でもある。このアメリカでも「コンピューター・ゲーム」と改題されて、YMOのファーストシングルとなり大ヒットを記録した。この西海岸ツアーのオープニングにこれほどふさわしい曲もないだろう。実際、客席も全開だ。そこここに早くも立ち上がって踊っているひとが見えた。
名曲、有名曲のオンパレード
そして、この日が命日となるマイケル・ジャクソンによるカヴァーが世に出たことでまたあらたな注目が集まっている「ビハインド・ザ・マスク」。観客はみなそのことを知っているだけに歓声がさらに高まる。
「この日はヒットパレードだよ」。リハのときに高橋幸宏がそう笑ったように、まさにYMOの名曲、有名曲がつぎつぎに演奏されていく。MCが一切ないのはYMOのライブの伝統で、この日もそうだったが、「体操」での坂本龍一のメガホンパフォーマンスはここロサンゼルスでも大受けだった。
30年ぶりの演奏となる「コズミック・サーフィン」、YMOとしての演奏はこちらも18年ぶりとなる「東風」で本編はあっという間の終了となる。初期の曲は、初期のアレンジに近いかたちで演奏されていたのがとても印象的だった。それは決して懐古的な印象ではなく、クラシック、スタンダード化したYMOの名曲に、YMO自身が敬意を表し、それら初期の名曲のもつ力こそがYMOをグローバルな存在に押し上げたのだということを彼ら自身があらためて胸に刻んでいるかのように思えた。
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31年ぶりのYMOアメリカ西海岸ツアー現地レポート(4)
YMOのあらたな伝説となったハリウッド・ボウル公演
アンコールの「ライディーン」をはさみ、場内が静まり返る。坂本龍一によるこの西海岸ツアーをとおしての唯一の肉声英語MC。
「あたたかくお迎えください。オノ・ヨーコさんです」
一転して場内は騒然だ。この日の朝にヨーコさんのtwitterにより、ゲスト参加は告知されていたが、知らなかったひともたくさんいたようだ。その狂騒と表現できるような熱の入った声援に、やはりアメリカでのヨーコさんの存在感、ステイタスは日本から日本人が見ているものとは別格なのだということがよくわかる。ヨーコさんによる東日本大震災犠牲者と復興の途にある日本への真摯なメッセージに場内はみな胸を打たれている。そして「It's been very hard」での迫力のボイスパフォーマンス。
ラスト曲は「ハロー・グッバイ」
大声援のなか、ヨーコさんが退場すると、YMOのいよいよラスト曲、ビートルズのカヴァー「ハロー・グッドバイ」だ。ここハリウッド・ボウルでの公演の成功で全米を震撼させたビートルズ、そしていまステージにいたヨーコさんとその亡き伴侶、ジョン・レノン。会場すべてのひとの胸にいろいろな思いがよぎっただろう。ビートルズの大ファンだった、ここロスアンジェルスの象徴のマイケル・ジャクソンの姿も脳裏に浮かぶ。
この日の出演者、開演前の出し物の歌舞伎や日本舞踊の踊り手たち、そしてもちろんヨーコさんもステージに登壇しての「ハロー・グッドバイ」の大合唱のもと、YMOのあらたな伝説となったハリウッド・ボウル公演は終了した。
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31年ぶりのYMOアメリカ西海岸ツアー現地レポート(5)
マニアックなのはYMOだけではなかった
ハリウッド・ボウルが終了すると、翌日はもうサンフランシスコでの公演だ。
近年とみに早起きとなった坂本龍一を除くYMOにとっては早朝ともいっていい午前9時、空港に集合したYMOはしかし元気だった。ほとんどぼやきのように「疲れた」「燃え尽きた」「きょうはダメだ」とそれぞれ口にするものの、表情は穏やかだ。
口とは裏腹にYMOのメンバーの気力が充実していることは、ロサンゼルス郊外の小さな地方空港の一軒だけのレストランで、メンバーそれぞれ、これぞアメリカンというボリュームある朝食をしっかりと平らげていたことでもよくわかった。ジョークもたくさん出る。
「きょうの選曲はマニアックだよ」。高橋幸宏がそっと教えてくれる。
マニアックなのはYMOだけではなかった。
真冬のような気温のサンフランシスコの中心部に位置するウォーフィールドという会場は、収容2000人程度のライブ・ハウス規模の小屋だが、西海岸でも一、二を争うようなマニアックな会場でもある。ほかの都市ではアリーナどろかスタジアム規模のライブを繰り広げている大物アーティストが、みなここには出演したがる。会場ロビーにはそんな過去の出演者のポスターがずらりとならぶ。デヴィッド・ボウイやビヨークも、ほかの会場の数分の1以下の収容人数のここでライブをおこなったことがわかる。ちなみにYMOの翌週にはイギー&ストゥージズやエコー&ザ・バニーメンがここに登場だそうだ。
気合の入り方はハリウッド・ボウルとは別物
そして、観客もマニアックだ。そここにYMOのTシャツを着たアメリカ人がいる。なんでも、全米からこの日のために多くのアメリカ人YMOファンがここに集結したそうだ。日本をふくめたこの夏のYMOの唯一の単独公演。観客の気合いの入り方はハリウッド・ボウルとはまったくの別物。
フロント・アクトのプレフューズ73が力のこもったエレクトロニックノイズの演奏を終えると、客席はすでに沸騰状態だ。YMOの演奏機材のセッティング時から「Welcome Back YMOoooooo!」「Hosono Saaaaaan!」「Sakamoto Professor!」「Yukihiro Saaan!」といった野太い声援が飛ぶ。女性ファンもそれなりにいたが、この日の観客席の主役はまちがいなくマニアックなオジサンたちだった!
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31年ぶりのYMOアメリカ西海岸ツアー現地レポート(6)
アメリカのマニア、おそるべし!
高橋幸宏の言葉どおり、この日のライヴではハリウッド・ボウルでのヒット曲集の合間にYMOでめったに演奏されない曲や、懐かしいスケッチ・ショウの曲などが織り込まれていく。
しかし、アメリカ人マニアたちは、ちゃんとそれに追随しているのみならず、あきらかに先走ってもいる。象徴的だったのが、客席中央にいたアメリカ人グループ。ライブがはじまると演奏の合間には「灰色の段階をやってくださ~い」と(もちろん)英語でリクエスト。マニアックなリクエストだなあ、でもYMOとしてはライブで演奏したことのない曲だから難しいのではないかなあと思っているとまさかの演奏だ。もちろん、リクエストに応えたのではなく、事前に準備されていたのだが、そのマニアックな気持ちのシンクロぶりに鳥肌が立ったのはたしかだ。
「ホソノサン、リクエストアリガトゴザマスタ!」。こんなカタコト日本語のお礼がまた楽しい。
こんな楽しく熱い空気は最後までつづいた。仕込みややらせ一切なしの客席の熱狂が、YMOの演奏もどんどんヒートアップさせ、「体操」ではステージの坂本龍一の「けいれんダンス」に合わせて場内でたくさんの観客が振り付けを真似して踊り、日本語歌詞の合唱という、日本のYMOのコンサートにおいてすら見られない光景も!
アンコールは「ライディーン」「CUE」「東風」。どれも熱狂的に迎えられたが、それでも「ライディーン」よりも「CUE」のほうが反応が大きいとは、アメリカのマニア、おそるべしだ。
10月にWOWOWで放映決定!
公演終了後の打ち上げでは、YMOのメンバーは口々に「きょうそんなによかった?」「自分たちではわからないな」「疲れきった!」と韜晦(とうかい)していたが、でもその表情にたしかな満足の印があったことは、あの場に居合わせたひとは誰もが気づいたにちがいない。2011年にあらたなYMOの伝説をつくり上げたという満足感もそこにはあっただろう。
この充実したYMOの西海岸ツアー、ハリウッド・ボウルは残念ながら会場の規約と現地組合の取り決めにより一切の記録が残せなかったが、サンフランシスコ公演は無事収録されて、10月にWOWOWで放映が決定している。そこでの客席の熱狂ぶりとYMOの熱演は、ぜひともご自分の目で確認してほしい。