MOVIE|45年の時を越え、日本で初の劇場公開が実現した『ベルトルッチの分身』
MOVIE|監督デビュー50周年を記念
45年の時を越え、日本で初の劇場公開が実現した『ベルトルッチの分身』
巨匠ベルナルド・ベルトルッチの監督生活50周年を記念し、彼のフィルモグラフィーのなかから、日本で唯一正式な劇場上映もソフト化もされず観ることのできなかった『ベルトルッチの分身』が45年の時を経て公開。初期の名作『殺し』『革命前夜』とともに3部作として、3月9日(土)からシアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開される。
Text by YANAKA Tomomi
初期の傑作『殺し』『革命前夜』とともに一挙公開
著名な詩人で文芸評論家のアッティリオ・ベルトルッチを父に持ち、自身も若き頃から詩人として、映画監督としておよそ50年間にわたり独自の世界観を映像に投影、『ラストタンゴ・イン・パリ』や『ラストエンペラー』でその名を映画史に刻み込んできたベルナルド・ベルトルッチ。そんな彼の初期の名作『ベルトルッチの分身』がついに日本上陸を果たす。
ドストエフスキーの『分身』を下敷きにしながら自身のカラーを投影し、ピエール・クレマンテ演じるジャコブが融通のきかないまじめな青年と凶暴で破壊的な殺人者というふたつの人格に引き裂かれていくさまを鮮烈に表現した『ベルトルッチの分身』。彼の創造の源を感じるとともに、自身初のオールカラー作品として、鮮やかな色彩が躍動した溢れんばかりの才気を感じさせる。
また、『ベルトルッチの分身』とともに若干21歳のときの監督のデビュー作『殺し』(1962年)と、自伝的な作品であり、ブルジョワ階級の青年のアイデンティティーの危機をみずみずしく描いた『革命前夜』(1964年)も同時上映される。
分身とともに過ごしていくうちに日に日に変わっていくジャコブ
大学で教鞭をとり、教授の娘のクララに恋をしている孤独な青年ジャコブ。彼はある夜、部屋にそっと忍び込み、ピアノを弾いている若い男をピストルで撃ち殺してしまう。何事もなかったかのようにクララの誕生日会に駆けつけるジャコブだが、あまりに奇抜な振る舞いで会場から追い出されてしまった。
その帰り道、ジャコブの前に現れたのは巨大な影となった自身の分身。その出来事以降、ジャコブとその分身は同じアパートの一室で起居をともにすることとなる。するとある日、ジャコブのもとに思いがけず届くクララからのラブレター。ジャコブは自分の身の回りの世話をすべてしてくれるペトルーシカを運転手に、クララと擬似ドライブに出かける。
クララはその日を境にますますジャコブに夢中になるが、ジャコブは彼女を殺してしまう。いままでどこか内気だったジャコブは分身とともに過ごしていくうちに日に日に変わっていく。そしてジャコブの殺人衝動も次第に肥大化していき──。
10年ぶりの新作『孤独な天使たち』の公開も今年4月に控えるなど、映画人生活半世紀を機にあらたな活動をスタートさせたベルトルッチ監督。若さならではのパワーと、いまの彼の世界をつくりだした源流を、45年前の初期の傑作から伺い知ることができる。