特集|豪華寝台特急で巡る南アフリカ~列車は夢を乗せて~
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2015年1月16日

特集|豪華寝台特急で巡る南アフリカ~列車は夢を乗せて~

特集|豪華寝台特急で巡る南アフリカ(1)

~列車は夢を乗せて~

「コスモクラーツトラベル」を営む村井和之さん。ハイエンドな旅行先、ホテルを扱う日本屈指のラグジュアリートラベルのエキスパートとして知られる村井さんが、今回はアフリカを代表する高級列車「ロボス・レイル」の創業25周年を祝うプレミアムトレインに乗車。南アフリカのダーバンからプレトリアまでの1泊2日の旅を、ロボス・レイル創業者のロハン氏の熱い想いとともにお届けします。

Text & Photographs by MURAI Kazuyuki

創業25周年を迎える夢いっぱいの「ロボス・レイル」

アフリカを代表する列車「ロボス・レイル」をご存知ですか? 南アフリカを起点とし、南アフリカ国内はもちろん、ビクトリアフォールズ、タンザニア、遠くはエジプトの首都「カイロ」まで縦断するラグジュアリー寝台列車、それが「ロボス・レイル」です。

今年で創業25周年。4半世紀を記念して開催されたプレミアムトレインに乗車するために、まずは始発駅がある南アフリカのダーバンへ。今回の旅はダーバンからプレトリアまでの1泊2日の特別運行。ロボス・レイル創業者であるロハン・ヴォス氏がみずからアテンドしてくれました。

ぼくとロハンとの出会いは、5年前までさかのぼります。友人の紹介で、ロンドンにセールスに来ていたロハンとお茶をすることに。これまで幾度も乗車の誘いを受けていたのですが、なかなかスケジュールが合わず、実現できずにいました。

しかし、ロボス・レイルの歴史を知れば知るほど、ロハンが元気なうちに、彼と一緒に、彼の夢の列車に乗り、彼の思い出話を聞かなくてはと、思い切って今回南アフリカまで出かけたわけです。

ロボス・レイル

ロボス・レイルは、まさにロハンの夢そのもの。自動車の販売やスペア部品の製造などの事業で成功を納め、大きな富を築いたロハンは、あるとき炭坑町にあった1台の蒸気機関車の存在を知ります。そしてその気動車を譲り受けたことがきっかけで、その後の彼の人生が激変することになるのです。

もともと自動車や列車などの輸送機器、エンジンといった機械が好きだったロハン。気動車を手にいれたときから、いにしえの豪華列車をこの地に復元したいと思い立ち、成功していた6つの会社や工場をすべて売却。その資金を、すべて豪華列車の復元のために投入しました。

ロボス・レイル

Rovos Rail(ロボス・レイル)

さらに、100年前の客車やサロン車、展望車などを世界各地のオークションで買い集め、綺麗に修復。近代設備を備えた客車へと見事に生まれ変わらせました。そして1988年、ようやく運行可能な豪華寝台列車が完成。そのクラシック列車こそが、彼の名前(Rohan Vos)から名付けられた「Rovos Rail(ロボス・レイル)」なのです。

列車完成後も、南アフリカ鉄道局との運行交渉、資金繰りなど、いまでも課題は山積みです。創業から赤字がつづき、黒字化したのは、20年後のこと。列車を復元しただけではなく、あきらめず事業をつづける強さには感銘を受けるほど。経営者に必要な「決断力」「説得力」「持続力」。そのすべてを持ち合わせているロハンは、スティーブ・ジョブスの経営力にも引けを取りません。アップルのみならず、ロボス・レイルからも学ぶことは多そうです。

特集|豪華寝台特急で巡る南アフリカ(2)

~列車は夢を乗せて~

いよいよダーバンからプレミアムトレインに乗車

ダーバン駅のロボス・レイル専用カウンターでチェックインを済ませると、専任のバトラーが列車へと案内してくれます。プラットホームには、緑色のクラシックトレインと、ロハンがぼくの乗車を待っていました。彼と再会のあいさつをして列車に乗り込み、バトラーに導かれるままに客室へと向かいます。アフリカにちなんだ動物や鳥の名前がつけられているのが素敵です。

100年前の車両なので、列車の軌間幅が現在の軌間幅とはちがって少々狭く、それに伴って車両内も現在のブルートレインよりも狭くなっています。

ロボス・レイル

ロボス・レイル

もちろん、車両のサスペンションもちがうので、振動や揺れを制御する点でも若干劣ります。でも、これこそが風情というもの。本物のクラシックトレインで列車旅行ができるなんて、世界中でもこのロボス・レイルくらいですよね。揺れをのぞけば、温水のシャワーや水洗トイレ、上質な料理、オーナーみずからが鍛え上げたバトラーたち。あらゆる面で、ロハンの情熱や想いが感じられるのです。

列車は、アフリカの都会、アフリカの大地を走り抜けます。次々に変わる車窓を眺めるだけでも楽しい。途中、貧しい地域も走りますが、線路沿いに暮らす人、線路の保守作業員、さまざまな人びとが、ロボス・レイルに向かって笑顔で手を振るのです。子どもたちは、走って列車を追いかけます。

展望車で手を振り返すぼくに、バトラーがこんな話を聞かせてくれました。「はっきり覚えてるんです。ぼくの町に、はじめてロボスレイルが来た日のことを。いつか、あの豪華列車に乗りたいと思いましたよ。そして、大人になったいま、今度はぼくがロボスレイルに乗って、手を振る子どもたちに応えている。ロボス・レイルはいまでも南アフリカの人びとの誇りなんです」

ロボス・レイルの車両には「PRIDE OF AFRICA」の文字が刻まれています。ロハンの夢だけではなく、アフリカの多くの人びとの想いを乗せて、列車は今日も走っているのです。

車窓景色

ロボス・レイルは、最短で2泊3日のコースから、28泊かけてアフリカ大陸を走り抜けるコースまでさまざま。途中、キンバリーのダイヤモンド鉱山を見学したり、専用の駅に立ち寄ってサファリをしたり。もちろん、ビクトリアフォールズを観光するコースもあります。ほかにもさまざまなアクティビティが用意され、いろいろな体験をしながらの旅なので、退屈知らず。想像以上に良いのが「車窓からの景色」。列車の旅は、大地に一筋に貫かれた線路を走ります。渓谷、穀物畑、サバンナなど、列車に乗らないと見られない景色が本当に素晴らしいのです。

特集|豪華寝台特急で巡る南アフリカ(3)

~列車は夢を乗せて~

TPOに合わせて列車の旅ならではの風情を楽しむ

列車の旅の楽しみのひとつが、食堂車での食事。朝食や昼食はカジュアルスタイル。ともに乗り合わせた客同士、おしゃべりが弾みます。しかし、夕食時は雰囲気ががらっと変わり、ドレスコードは「フォーマル」。ぼくもブラック・タイにドレスアップ。サービスのスタッフもお召替えして蝶ネクタイ姿に。もちろんほかの乗客もそれぞれ着飾ります。

夜の食堂車

夜の食堂車

こんな気分が上がるイベントは、日本にはなかなかない! 特に、男性の遊び心がさえない昨今の日本において、こういう場できちんとエスコートができれば、きっと女性のハートを虜にできるはず。

最上級の南アフリカ産ワインを楽しみながらの美食三昧は、ラウンジでの食後の一杯も格別。夜遅くまで、乗客同士の社交はつづきます。

いよいよ今回の旅の終着地点となる、ロボス・レイルの基幹駅、プレトリアへ。南アフリカ国鉄の貨物駅だったキャピタルパーク駅と支線を購入し、素晴らしいロボス・レイル専用の駅舎へと改装されたプレトリア駅。ここでの乗降光景は、まるで映画『カサブランカ』のワンシーンのようです。

世界にはさまざまな列車の旅があります。ぼくは、昨今の移動手段の高速化で失ってしまった「風情」を楽しむために、列車の旅を選ぶのだと思っています。どんなに豪華であってもしょせん列車のなか。限られたスペースで過ごさないとならないので、すべてが快適かと言えば、そうではありません。やはり、ホテルのベッドで寝たほうが、ぐっすり眠れることでしょう。

しかし、列車ならではの風情というのは、鉄道網の発達した日本やヨーロッパで育った人びとが感じる郷愁なのでしょうか。子どもからお年寄りまで、いまなお多くの人を虜にして止まないイメージと体験。それこそが、列車の旅の醍醐味なのだとぼくはおもいます。

プレトリア駅

           
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