「世界一の総合医療グループを目指す」 SBC相川佳之CEOが語る、NASDAQ上場の狙い。
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2024年12月9日

「世界一の総合医療グループを目指す」 SBC相川佳之CEOが語る、NASDAQ上場の狙い。

SBCメディカルグループホールディングス

2024年9月18日、SBCメディカルグループホールディングス(以下SBC)が米ナスダック市場に上場。日本企業11社めとなる株式上場は広く報じられた。ひょっとすると耳慣れないこの社名だが「湘南美容クリニック」に経営支援を行っている会社と聞けば、ご存知の方も多いのでは。しかし、事業主体がわかっても依然として疑問が湧く。“なぜ、今SBCがアメリカで上場?”。そんな素朴な問いに、代表の相川佳之CEO自らが答えてくれた。

Text by TSUZUMI Aoyama|Photography by TAKAYANAGI Ken

急速な事業拡大で業界トップに、 一方で自己資金での限界を感じた

「もともとクリニックの運営をするなかで、上場を目指したいという気持ちはありました」と相川CEOは話す。
シンガポールや中国、アメリカなどでは、医療法人が株式上場で得た資金でM&Aを積極的に行い、病院や機器メーカー、薬品メーカーを自社の傘下におく事例が珍しくない。しかし病院経営の非営利性を前提とする日本では、医療法人の株式上場は原則としてできない。
“医療を通じて人の心を前向きにさせることができる美容医療の可能性に魅力を感じて”、相川CEOが神奈川県・藤沢市で湘南美容クリニックを開院したのは2000年。すでに有名美容外科が何院もあるなか、相川CEOは自己資金で一歩一歩着実に歩みを進めてきた。
それまでの美容医療業界では一般的でなかった価格の透明化に取り組み、顧客視点でのサービス改善を積み重ね、積極的かつ戦略的なマーケティングを繰り返す。現在では美容医療業界でのトップシェアを実現した。しかも23年間無借金の優良経営というおまけつきだ。
「よい医療サービスを提供するための努力だけでなく、さまざまなM&Aを行ってグループを成長させてきました。2023年の7月には、ライバルとして常に注目していたリゼ、ゴリラクリニックを買収しましたが、自己資金でできるM&Aではもう限界が来ていることも実感しました」
この買収は相川CEOにとっては、一世一代の大勝負だったようだ。確かにひとつ間違えば湘南美容クリニックの経営権を失い、100億円以上の借金を抱えるリスクがあった。その当事者が「自己資金ではもう限界」と言うのだ。違うやり方を模索する必要があった。

日本で一番患者さんが来てくれる そんな医療グループになりたい

「10年くらい前からシンガポールや香港などの市場での株式公開、それにより資金を確保することは考えてはいたのですが、実は身近なところに答えがありました。それは私がずっと通っている経営セミナーでした。たまたまそこに通っていた仲間ふたりがともにNASDAQに上場していたんです。ふたりにいろいろと情報を聞き、アメリカでの上場に挑戦してみるのは可能性がありそうだということで、その後もアドバイスをいただきながらNASDAQで上場したというわけです」
そうまでして「成長」に相川CEOをかきたてるものはなにか。
「日本で一番患者さんが来てくれる医療グループになりたいという夢を追っていて、現在では美容医療のほか、婦人科や眼科、内科に皮膚科、小児科も運営しています。その先にあるグループの大きな目標は総合病院を持つことですが、いま日本ではベッド数の制限から新しい病院はほとんど建てられない。するとM&Aしかない。ところが古い病院でも土地、建物つきで買い取るには数百億円が必要になります。これは借り入れと自己資金だけではどうしても立ち行かない領域に入ってくるわけです」
ちなみに、いま日本でもっとも多くの患者数を抱えているのは日本赤十字だ。相川CEOははっきりと「2035年までに日赤をこえて一番になりたい」という。

医療業界にも星野リゾートのようなマネジメントが必要になる

増え続けている日本の医療費は年間47兆円。今後は国民健康保険制度を維持していくのが難しくなるのではないかと相川CEOは分析する。すると地方の病院から徐々に経営が行き詰まり、病院も医療従事者の雇用が喪失する。そこでSBCの強みである自由診療の医療を組み合わせて再建の手助けを行い、地方の医療も雇用も守っていきたいのだと青写真を描く。
「病院を買ってもらえないかと相談を受けることはたくさんあり、実際に東京の両国にある病院を再建した経験もあります。星野リゾートさんが地方の宿泊施設を再建しているように、僕は医療業界でそういう存在になれないかと思っているんです」
さらに、SBCではグループ全体で医学部を持つという目標を立てており、2023年にはM&Aで看護学部を持つ医療系大学・了德寺大学を傘下に収めると相川CEO自ら理事長に就任した。2024年4月にはSBC東京医療大学と名称を変更し、医療大学としての発展を目指す。理想とする医療グループの実現のために、教育から変えていきたいという理想を相川CEOは熱く語る。
湘南美容クリニックのイメージが強いSBCグループホールディングスだが、相川CEO自身の意識は美容よりも一般診療の拡大に向いているのだという。しかも2035年までの約10年で日本で一番を目指すというのだから驚く。NASDAQ上場後のネクストステップは?
「上場企業の社長になるのは私自身初めてです。株式上場はしたものの、投資家たちの反応から、彼らに対してまだわれわれのことを全然説明できていないのことを実感しました。IR活動に注力していくこと、そして今後クリニックをアメリカで展開していくことで、認知度を高めていかないといけません。上場企業としては1年生なので、これから勉強させていただくという心構えでいます」

アメリカでも美容医療の市場はもっと拡大する

参考にしているのはユニクロの海外進出の事例。NYやロンドンに鳴り物入りで出店したものの、けして最初から成功したわけではなかった。しかし諦めずに挑戦を繰り返すことでグローバル企業へと進化していった。SBCのアメリカ進出においても、そんなユニクロの、柳井正さんの挑戦心を見習って取り組んでいく意向だ。
アメリカ市場の競争の激しさは覚悟しているが、マーケットをリサーチするうちに日本のタトゥーアーティストが技術の高さで評価されていることを知った。美容医療においても、日本の高い技術はアピールポイントになるだろうと相川CEOは言う。
「アメリカもね、美容医療は金額がASK、なんです。行って聞いてみるまでわからない。相手によって金額を変えているんじゃないかと疑わしく感じますが、それが常識です。ただこれって結構面倒だし、もっと価格を透明にできればアメリカでも美容医療の市場はもっと拡大するのではないかと思っていて、ここに挑戦していきたいと考えています」
ウェルビーイングへの意識は日本でもアメリカでも高まっているなかで、より良く生きるための美容医療にはさらに注目が集まる可能性がある。日本でも特に男性の間でニーズが高まっていると相川さんは語る。SBCでの調査では、アンチエイジングのためにクリニックを利用する男性が、全体のなんと4割弱に達しているという。

突然の顔面神経麻痺、 悩みから解放される場所を

「特に目の下のたるみを解決したい男性が増えています。外見と内面の両者がバランスが取れていることの重要性は昔も今も変わっていないことだと思うんですね。外見が変わることで前向きになれたり自己概念が高まり自信に繋がる。僕は2年前に突然顔面神経麻痺になってから人前に出たくなくなるということを体験し、つくづく理解しました」
自分のコンプレックスというのは、他者から見たらちょっとしたことかもしれないが本人としては非常に重要なこと。その有無によって明らかに行動は変わるのだという。そして医療が人の人生に貢献できること。医療技術の進歩によりできることが増えていくことに日々希望を抱いている相川CEOは「医療が好きです」と言い切る。
整形外科の技術により膝軟骨の再生医療を受けて辞めていたテニスができるようになること、卵子凍結によって高齢の女性でも子どもを授かる可能性が増すこと。それらさまざまな医療を提供できる総合病院を運営したいのだと相川CEOは熱く語る。
そのためにはアメリカでのクリニック展開により知名度を高め、大型のIPOを繰り返してアメリカの投資家の投資対象として認知されていく必要がある。NASDAQ上場を足がかりに相川CEOはどのようにグループを成長させていくのか。
日本で一番患者が訪れる医療グループになることが目標という相川CEO。取材のなかで数回に渡り「世界一の医療グループに」と口にした。今後どこまで大きな存在になっていくのか。SBCの挑戦に注目だ。
問い合わせ先

SBCメディカルグループホールディングス
https://sbc-holdings.com/jp

                      
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