デビュー45周年を迎えたCharさんの今も気取らぬ姿を存分に聞かせてもらった!
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2021年9月15日

デビュー45周年を迎えたCharさんの今も気取らぬ姿を存分に聞かせてもらった!

45年前の衝撃は今もぼくらの胸に刻まれている。そして、その音は今も変わらず鳴り響いているのだ。日本中のギター小僧を熱狂させたCharさん。45周年を迎える胸の内、そして、45年を振り返ってもらった!

45th Anniversary! Char

photography, text KITAHARA Toru

45年前、おそらく日本中のロック少年たちはその姿に熱烈な憧れを抱いたに違いない。日本のロックシーンにこんな人が出てきたのか!? と。まさにロックを体現するかのような出立ち、サウンドに度肝を抜かれた。あれから月日は流れたが、Charさんは変わらない。漠然とした印象なのだけれど、初めてテレビで見たCharさんと目の前でお話をしていただいているCharさんにはそんなに差がない気がするのだ。もちろん、時間という流れの中で年齢を重ねていることはわかるのだけれど、それでも変わらない人だと思う。
変わらないままデビュー45周年、そして、ニューアルバム「Fret to Fret」も発売ということでインタビューを敢行!
「あっという間だったけれどね。デビューシングルを出して、45周年だけれど、プロとして音楽活動を始めてからだと50年になるかな。何が変わったかって、ずっとやっていることは一緒だからね。45年前も今も、同じ曲をプレイしているわけで、そういう意味では音楽は歳を取らないってことがすごいよね」
音楽は歳取らない! まさに音楽とともに歩んできた45年でもあったのだ。だからCharさんも歳をとった感じがしないのか? それでも45年前と今はどこか変わったのではないだろうか?
「昔は今より圧倒的に限られている機材の中で、アナログでやっていた。それが今はデジタルになって、というところは変わったよね。今じゃあ、楽器弾けなくても、デジタルで音楽を作れるんだから、音楽の環境は変わったよ。簡単に言えば、アナログのチャンネル数が最初は4チャンネル、それが8になり16になり、アナログの最後は32チャンネルまでになった。チャンネル数が少ないと一発録りするときにどう演奏するか、どう録るかにかかってくる。演奏はもちろんだけれど、エンジニアの技術にもかかってくる。エンジニアもプレイヤーもみんなアイデアを出して、まさに真剣勝負だった。デジタル機材で作る音楽がいっぱいある中でも、ぼくらは昔と変わらない。結局プレイヤーだからね、楽器を弾くしかないんだよ」
写真に置き換えてみるとデジタルでできることは広がった。レタッチといわれる後処理もできるようになった。技術的な面の広がりに対して、写真とどう向き合うか、という話にも似ている気がした。

プレイヤーが弾いて、その個性が音楽になる。

「残るものがデジタルのデータだろうが、アナログのテープだろうが、プレイヤーが弾くということは変わらない。それをどういうクオリティで表現するにかかってくる。想像力を持って、こういう音を出したい、というイマジネーションがないと後でどう処理しても良いものにはならないんだよ。特にバンドは複数の人間でやるから、それぞれの楽器の仕事が違う。その楽器をやっている人のそれぞれのイマジネーションがあって初めてできあがるものがある。それは45年前もニューアルバムもやっぱり変わらない。4人でスタジオ入って、“せいの”で演奏するだけなんだ。デジタルになってチェンネル数が無尽蔵だからマイク100本置けばいいかというとそんなことはない。それよりはエンジニアがどこにマイクを置くか、1本のマイクの位置で全然音が違ってくる。結局、頭でいい音が録れていれば、あとは何もしなくても良いっていうのかな。ただそこに行き着くまでが大変で、ドラムなんて時間がかかる、生音だからね。エンジニアはもう一人のミュージシャンで、マイクの置き方や調整次第なんだよ。実際ドラムは45年前と同じRobert Brill(ロバート・ブリル)で、変わらないんだ、細かいところとか(笑)」
音楽は人間が作るものなのだということを改めて感じる。そこには個性を大事することも必要なのだ。
「仮にAIにCharって音楽を作らせたとする。音楽から性格まで打ち込んでもどこまで行ってもそっくりってだけでそれ以上のものは出せないと思う。すごい音楽でも芸術でも何でも、立体的というか、後ろに何かが見えてきたり、聴こえてくる。聴いた人、見た人が自分なりの想像力を広げられるものが残っていくものだと思う。自分がピアノなり、ギター1本で作った音にドラムが入ったら、ベースが入ったら、キーボードが入ったら、って頭の中に想像した音楽が広がっていく。自分の中にある引き出しからあれが聴こえてくる、これが聴こえてくるっていうのを入れていく作業は音楽をやっていて面白いと思う瞬間なんだよ」
一人で一曲を作り上げることもあるということだが、それでもバンドでのレコーディングにこだわるのにも理由がある。
「一人で作っているのとは奥行きが違うというか、一人一人の人間のキャラクターが出てくる。絵とか写真は一人で完結するかもしれない。だけれど、バンドっていうのは一人じゃ完結しないから、面白いんだ。人間の日常から出てくる発想の違い、個人から出てくる発想の違い、その違いが幅になって、良い音楽になるんだ。それはサンプリングしたものを重ねるのとは訳が違う」
45年の間、ずっと第一線にいる理由がこうしたバンドへのこだわりや、丁寧な音作りなのだと伝わってくる。紆余曲折しながらも歩んできた45年の道のりは決してやさしいものではなかったはずだ。
「本人は周年って意識しているわけじゃないけれど、同じことやっているわけだから句読点がつかないのをつけてもらったという感じかな。立ち止まって振り返るタイミングでもある。45年前の俺のギターも良いけれど、今の俺のギターも良いぞ、ってね。意外と45年前の俺に勝てないぞ、勢いすごいな、とも感じるわけ。この曲良いな、とか思うのよ。音楽にもファッションと同じで流行がある。その時々の流行を真似したりする、以前は真似した曲、とかあるんだけれど、もう真似したい曲がないんだよね。だから、ちゃんとギターも練習していないと自分という存在を取り戻せなくなるんだ」
Charさんが練習を怠れないという言葉にただグッときた。やり続けることの難しさが実はこんな一言にあるのではないだろうか、と思う。45年、やり続ける、走り続ける姿がそこにあった。

LPという世界観で
ニューアルバムをつくった。

LPのカバーデザインができたときに取材に伺った。最終候補を見比べているCharさん。
若き日のCharさんのことも少し触れていただいた。
「70年代15、6歳になると戸越銀座から渋谷に出て、原宿になり、遊びを覚えて赤坂になり、ついにはロンドンになりパリになりLAになり出会いも増えた。あの無鉄砲さは若さだよね。怖いもの知らずというか。それが今では出会いが少なくなり、インスパイアされることが少なくなる。今回のアルバムって、ロックとかギターとかはこうじゃないといけないという肩の力みたいなものがなくなって、すごくコンパクトなものになっているのかもね。CDって70分なのだけれど、LPって片面23分くらいで両面50分弱、A面とB面の間に句読点もある。だからLP制作ってギュッと詰める感じがあるんだ。A面の最初の曲、最後の曲、B面の最初の曲、最後の曲を悩む。これは嬉しい悩み。50分って入れられない曲もあるけれど、CDはたくさん入れるから佳作も入れないといけなくなる。それでひとつひとつ丁寧に作れなくなることもある。今回はアルバムだから、アルバムジャケットを作る楽しみもあったね。遠くから見ることもあるから、ちゃんとこだわりたい。そのビジュアルを見たときに中身の音が聴こえてくる。45年経って、ここ(LP)に戻れたことが嬉しい。CDって小さくて、思い入れがない気がしない? LPはそこまでお金かける? ってデザインのアルバムも世の中にはたくさんある。とはいえ、富士山バックに白いスーツのファーストアルバム「Char」を超えられない気がする。日本一になる、だから富士山、スーツ持ってカメラマンとふたり、車で行ったのを思い出すね。レコーディングのことやその前にアルバム出すという話をもらって、シングルとは違う大変なものだという緊張感もあったしね。アルバム一枚でいろんな風景が思い出せるデビューアルバムで良かったな、と思うよ。1枚目は生涯聴ける一枚にしたいと思ったから、それだけの緊張感も達成感もある。いまだにベストはどれかと言われるとファーストアルバムと言えるんだ」
日本のロックギタリストの先駆者がいまだにファーストアルバムを超えられない、という言葉はまた尊い。想いの詰まった一枚だったのだ。そのアルバムに収録されている「Smoky」に当時のぼくらはロックを感じ、日本人離れした曲調、風貌、すべてが格好良いと思ったのも昨日のようだ。ニューアルバム「Fret to Fret」の一曲目は「Stylist」。ファッション誌「PLEASE」としても気になるところだ。

職業・ギタリスト。

「70年代の16歳から20歳の辛かったり、楽しかったりした時代の原宿があった。日本で最初にスタイリストになった高橋靖子(通称「ヤッコさん」)さんがいて、ヤッコさんは友だちの義理のお母さんのような存在だったんだ。海外からスタイリングという仕事を持ち込んだ人でもあった。その友だちもギタリストだったんだけれど、亡くなってしまって、それでなんとなく疎遠になっていたのを、ヤッコさんの最初のアシスタントだった中村のんさんが繋いでくれて、久しぶりに話せた。この10年くらいの間にヤッコさんと仕事もしたんだよね。それがゴルフメーカーというのも笑える話で、原宿のロック少年だったのとファッションの最先端だった人がゴルフの映像の現場で会うのがね、面白くて。とはいえ、45年前からスタイリストという職業の人が身近にいたことは大事で、この曲も最初から「Stylist」という曲にしようと思ったわけではなく、完成してうちにヤッコさんが見えてきて、スタイリストという仕事の人の曲にしようと思ったという感じ。企画じゃなくて、スタイリッシュ→スタイリスト→ヤッコさんとなって一気に詩もかけた」
この曲もまた、時間が書かせたものなのかもしれない。
「45年前には思いつかないけれど、45年以上前の景色があるんだ。青山、原宿あたりででかい袋を持った彼女がいてね。昔はもっともっと裏方だった。そんなスタイリストの曲」

デビュー45周年を迎えたCharさんの今も気取らぬ姿を存分に聞かせてもらった!

原宿という街におしゃれな人が集まってきたばかりの日本のファッションの黎明期だった頃にCharさんがそこにいたからこそできた曲だったのだ。
「ヤッコさんのスタイリストじゃないけれど、ギタリストって呼ばれるのはあの一枚目「Char」があるからだよね。ギタリストって職業なんてあってたまるか、って思うくらい(笑)。でも、嬉しいよね。小っ恥ずかしいけれど、自分からそう呼んでくれと言っているわけじゃないのに「ギタリストのCharさんですよね」と呼んでくれるのは嬉しいんだ。それも45年という年月が作ってくれたんだと思う」
職業、ギタリスト。45年もの間、ぼくらを釘付けにしてきた格好良いCharさんはちゃんとした大人なのにちゃんと少年のような茶目っ気を残している。そして不良の匂いも漂っている。格好良い大人とは結局「子ども」なのかもしれない。
アルバム『Fret to Fret』を発表!
1976年のデビューから45周年という節⽬を迎えたCharさんの 16年ぶりとなるニュー・アルバム『Fret to Fret』を9⽉29 ⽇(⽔)にリリース。 レコーディングには初期3作品と同じく佐藤準(k)、ロ バート・ブリル(d)が参加。Charさん⾃⾝も「デビューからの3作品に連なる4枚⽬」と語る注⽬の1枚に仕上がっている。 現在進⾏形の表現者であるCharさん、今が最も旬ではないだ ろうか。エレクトリック・ギターに出会ってから約半世紀にわたり、トップ・ランナーとして⾃⾝の表現を追求し続けてきた⾳楽家の最新の表現を存分に堪能できる一枚。
インタビューは「PLEASE 16」より。
                      
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