アートフェア東京2012|コレクター吉野誠一氏に聞く アートコレクターの時代
ART FAIR TOKYO 2012
kコレクター吉野誠一氏に聞く
アートコレクターの時代
3月30日より、今年7度目となるアートフェア東京が有楽町の東京国際フォーラムにて開催される。海外からもふくめ選りすぐられたギャラリーが一堂に会し、一度に多くの作品に触れることができる貴重な機会だ。なにより通常の美術展とちがうのは、ほとんどの作品がその場で購入できること。2月19日、アートフェアに先駆け三軒茶屋のカフェ「SUNDAY」では、古美術から現代アートまでこれまで100点以上の作品を購入してきたコレクター、吉野誠一氏がトークショーに登場。アートを買うこと、コレクションすることについて、自身の経験も交えて語った。
Photographs by SAITO SeiichiText by SUGIURA Shu(OPENERS)supan
アート界を左右する、コレクターという存在
いま、アートの世界は、コレクターの時代と言われているらしい。これまで美術館やビエンナーレなどの国際展がアート界の動向を左右してきたが、個人であるコレクターの影響力も無視できなくなってきているという。日本でも精神科医の高橋龍太郎氏や宮津大輔氏など、美術界で知らない者はいないコレクターがいる。吉野誠一氏も会社経営のかたわら、古美術から現代アートまで100点以上の作品を所有する若きコレクターだ。10年以上前から国内にとどまらず世界の美術館や国際展をまわり、作品を探しているという。トークショーの会場となった「SUNDAY」には、名和晃平によるピストルをかたどったガラス玉の作品、松江泰治の映像作品など10数点が飾られている。
「キュレーターが作品を見つけてきて美術館が購入しようとすると、やはり組織だから予算や手続きの問題で時間がかかったりしてしまいます。その点、個人のコレクターは小回りが利くので決断は早いですよね」
90年代まではアートを買う富裕層は、かならずしもアート自体に興味があるわけでなく、資産運用の色合いが強いケースが目立った。だが最近は目の肥えたアート好きのコレクターが増え、個人のセンスで作品をコレクションしている。台北當代藝術館主展場(MOCA Taipei)で開催された宮津大輔氏のコレクション展や、和歌山県立美術館での田中恒子氏のコレクション展など、日本人のコレクションで展覧会が開催されるケースも少なくない。吉野氏自身もメゾンエルメスや横浜市美術館に作品を貸し出した経験があるという。
また、近代・現代アートを扱うフランスの美術館ポンピドゥーセンターには、コレクターたちによるコミュニティ制度というものも存在する。これは、美術館側が作品を買うさい、コレクターから集めた会員費で作品を購入し展示するというものだ。吉野氏もポンピドゥーセンターのこの制度に参加しているという。ほかには、ロンドンの美術館、テートモダンなどにも同様の制度がある。
「僕なんかはまだコレクションの少ないコレクターですけど、海外の有名なコレクターの自宅に招かれると、よくカタログで見るような有名な絵があってびっくりしますね。ベニスのとあるコレクターの家には村上隆さんの大きな作品があったりして、その辺の公立美術館なんかよりもずっと充実したコレクションですよ。個人のセンスで選んでいるので、美術館が企画する展覧会とはまた違ったその人なりの統一感も面白いですよね。作品ひとつひとつというより、その人のコレクションセンス自体が価値になっているんです」
ヨーロッパではアートフェアが開催される時期に、自宅を一般開放してコレクションを見せるコレクターもいる。現在の日本ではそんな機会も習慣もないため、気軽に自分のコレクションを見てもらいたいという想いで吉野氏が昨年8月にオープンしたカフェが、じつはトークショー会場のSUNDAYなのだ。
世界に比べてもアート作品が比較的安価な日本では、海外では富裕層に独占されているアート市場も、もっと“民主化”できるのではないか。ブログやSNSの普及で個人の影響力が格段に増しているこの時代、アートの世界もその例外ではないはず。アートは見るだけでなく、買う時代になる?
アートフェア東京 2012|ART FAIR TOKYO 2012
3月30日(金)11:00-21:00
3月31日(土)11:00-20:00
4月1日(日)10:30-17:00
※入場は終了30分前まで
東京国際フォーラム 展示ホール
東京都千代田区丸の内3-5-1
Tel.03-5771-4520(アートフェア東京実行委員会)