松浦俊夫｜人間の内面をえぐり出し、頭かき乱される傑作『SHAME-シェイム-』

松浦俊夫｜from TOKYO MOON 3月4日オンエア！

人間の内面をえぐり出し、頭かき乱される傑作『SHAME-シェイム-』

日曜の夜、上質な音楽とともにゆったりと流れる自分だけの時間は、おとなたちの至福のとき。そんな時間をさらに豊かにするのが、DJ松浦俊夫によるラジオプログラム『TOKYO MOON』――。彼が世界中から選りすぐったすばらしい音楽や知的好奇心を刺激するおとなのためのトピックスを、毎週日曜日Inter FM 76.1MHzにて19時からオンエア。ここでは、毎週放送されたばかりのプログラムを振り返ります。今週は心地よい音楽とは裏腹に、誰もがもつ“性”について深く掘り下げた衝撃作、映画『SHAME-シェイム-』を紹介しました。

Text by MATSUURA Toshio

晴れやかな気分を音楽にのせて

Gregory Porter『Be Good』

今週は、先日の「東京マラソン2012」を無事走り終えることができた晴れやかな気持を音楽に込めました。ニューヨーク・ブルックリン出身のジャズシンガーの穏やかでソウルフルなヴォーカルは、待ち遠しい春の訪れを願うよう。

半世紀以上前に制作されたキューバ歌謡の情緒的な歌声をまとめた作品集第二弾、イタリアのジェノヴァ派のカンタウトーレ、ジーノ・パオーリの代表作のロマンティックなワルツなど、心地よい気分を届けられたのではないでしょうか。

Jose Antonio Mendez
『Escribe Solo Para Enamorados』

REVIEW｜TRACK LIST

01. Gregory Porter / Be Good (Motema Music)
02. The Dells / Close To You (Cadet)
03. José Antonio Méndez / Si Me Comprendieras (El Sur)
04. Gino Paoli / Senza fine (Ariston Music)
05. Harry Escott / Brandon (Masterworks)
06. Carey Mulligan / New York, New York Theme (Masterworks)
07. Charles Earland / Intergalactic Love Song (Mercury)

The Dells
『The Dells Sing DionneWarwick
Greatest Hits』

V.A.『Shame』

Charles Earland
『Odyssey』

自分に立ち向かう“勇気”をもつ人、限定

今週は注目のトピックとして、3月10日より公開される映画『SHAME-シェイム-』を紹介しました。監督の名はスティーヴ・マックイーン。あの名優と同姓同名。本作がまだ2作目だというから驚きです。普段決して語られることのない、誰もがもつ“性”について深く掘り下げ、画面を通して我われの前にぶつけてくる手法に戸惑います。心の内側が焼けていくような、ひりひりとした痛みを感じながら、起こりえない“非日常”のなかに自分が入り込んでしまいました。見る人によってちがうドラマになりえる快作――自分に立ち向かう“勇気”をもつ人のみ限定で鑑賞してほしい、大人のための映画です。

男は、仕事以外のすべての時間をセックスに注ぎ込んでいる――

アダルトサイトを閲覧し、ビデオを収集。行きずりの女性とプロの女性と、その場限りのセックスを重ねる。彼の名はブランドン。上司に期待される有能な社員だが、現代社会が生んだ病、セックス依存症を抱えている。それでもひとりで暮らす洒落たマンションで、毎日勤勉にセックスに集中していた時は、ある意味一貫性のある人生を送っていた。

そんな確立されたシングルライフの均衡を破ったのは、突然転がり込んできた妹・シシーの存在。人との心の繋がりをいっさい求めず、感情を排して生きてきたブランドンと、他者の愛を渇望し、激情の塊となって生きるシシー。対極にあるふたりは激しく衝突し、想いはすれ違い、それぞれの孤独をさらに色濃くさせる。

妹への抑制の効かないイラ立ちをぶつけるかのように、無意味な快感だけを追い求めるブランドンを見つづけるあなたは、皮膚感覚で得体のしれない不穏な空気を感じるだろう。それは、かつてこの兄と妹が属した家庭で、いったいなにがあったのか――そしてブランドンが、これほどまでにセックスを求める理由が何なのかが、語られないことにある。セックスでカモフラージュし、ブランドンがひた隠しにする本当の“シェイム”とはいったい……？

明かされない“シェイム”を“感じる”ことができたとき、あなたはほかでは決して得られない稀有な体験をすることになる。まったく別の世界の人間だと思っていた男の人生のすべてを、一瞬のうちに覗いてしまうだろう。しかもあなたは密かに共感さえしてしまうかもしれない。セックスの向こうにやがて浮かび上がる深遠なドラマへの共鳴――。本作の真の衝撃は、ここにある。

『SHAME-シェイム-』
2012年3月10日(土)　シネクイント、シネマスクエアとうきゅう他全国順次公開